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インテグリティとは?意味と重要性を理解して推進するコンプライアンス経営

インテグリティとは?意味と重要性を理解して推進するコンプライアンス経営

今、経営者や組織のマネジメント層にもっとも重要な資質といわれているのが「インテグリティ」です。さらに、インテグリティを持った従業員を育てれば、企業そのものの価値を高めることにもつながります。

本記事では、現代のビジネスシーンでインテグリティが重視される理由や、インテグリティがある人・ない人の特徴、インテグリティを高める方法について解説します。

自社の競争優位性を確保するためには、インテグリティな組織づくりが必要不可欠です。事業拡大や生産性の向上、人材育成に悩みを抱える企業の方はぜひご確認ください。

インテグリティとは?

インテグリティとは、「誠実」を意味する言葉です。主に企業経営やマネジメントにおける概念として存在します。英語では”integrity”と表記され、「誠実」のほか、「正直」「高潔」「真摯」「清廉」などの意味も持っています。

欧米企業における経営方針や従業員の価値観として使われたことが発端となり、経営やマネジメント全般でも一般的な用語となりました。日本でも、とくに組織のマネジメント層に求められる資質として重視されるようになっています。

ただし、何をもって「誠実であるか」を示す明確な定義はありません。そこで、「マネジメントの父」と称される経営学者ピーター・ドラッカー氏や、世界的ベストセラー作家でもある心理学者・精神科医ヘンリー・クラウド氏による解釈が参考になります。

インテグリティとは

ドラッカーの考えるインテグリティ

ピーター・ドラッカー氏は、著書『現代の経営』の中でインテグリティの重要性についての主張を繰り返しています。

具体的には、「経営者の決定的な資質は、知識や才能ではく“真摯さ”である」「経営者に真摯さが欠けていれば組織は腐敗する」「従業員は組織や経営者のほとんどの不完全さを許すが、真摯さの欠如だけは許さない」といった内容です。

ただし、ドラッガー氏もインテグリティはあくまでも概念であり、完全に定義することは困難だとしています。そのため、インテグリティが欠如している人の事例を提示することで、逆説的にインテグリティを認知できるよう説明がなされています。

【インテグリティが欠如している人の例】

  • 上から目線で、人を蔑む冷笑家
  • 人の強みではなく、弱みにばかりフォーカスする人
  • “何”が正しいかより、“誰”が正しいかを重視する人
  • 優秀な部下を恐れる上司
  • 自身の仕事に高い目標や基準を定めない人

ヘンリー・クラウド氏によるインテグリティの定義

ヘンリー・クラウド氏は、著書『リーダーの人間力 人徳を備えるための6つの資質』の中で、インテグリティを備えた人の定義を行っています。

【インテグリティがある人になるための資質】

  • 信頼を確立する能力(誠実な態度や行動ができる)
  • 現実と向き合う能力(自分の過ちを認められる、他人に責任転嫁しない)
  • 成果をあげる能力(個人・チームのパフォーマンスをあげられる)
  • 逆境を受けとめ、処理する能力(問題を解決できる)
  • 成長・発展を求める能力(さらなる成長・発展を目指せる)
  • 自己を超える能力(成長し続ける意識を持ち、人生の意味を見つけられる)

6つの資質が上手く機能すれば、才能を発揮でき、成果をあげられるとする一方で、何かが欠ければ仕事の成果や人間関係にマイナスな影響を及ぼすといいます。なお、すべての資質は繋がっており、いずれかの資質を成長させれば、すべてプラスの影響を与え合うとも述べています。

企業にインテグリティが求められる背景

インテグリティとは
経営やマネジメントにおいて、インテグリティが求められるようになった背景には、社会的なコンプライアンス意識の高まりがあげられます。

テクノロジーの進化や価値観の多様化により、社会的な課題は増加傾向にあり、世界的に人権や環境保護への配慮が企業に求められるようになりました。日本では、終身雇用制の崩壊とともに成果主義の評価制度が定着したことで、成果のための不正や不祥事も増加。度重なるスキャンダルが発覚するたびに、企業活動におけるコンプライアンスの重要性が高まりました。

近年のコンプライアンスには、法令遵守だけでなく、社会規範や社会倫理を守ることも含まれます。コンプライアンスの遵守は、つまりインテグリティ(誠実)な経営やマネジメントに直結するのです。

社内にインテグリティを浸透させることで、従業員1人ひとりの誠実な対応や商品・サービスの開発・提供につながります。インテグリティがある健全な組織は、顧客・社会から間違いなく評価されるものです。企業のさらなる成長にインテグリティは欠かせない要素であるといえるでしょう。

インテグリティとコンプライアンス経営との関係

不正や不祥事といったインテグリティが欠如した問題が頻発したことで、企業は対策や防止策を考える必要性に迫られ、結果的にコンプライアンス経営という考えが生まれました。インテグリティを優先し、社会的責任の遂行と企業倫理の遵守を目標としたコンプライアンス経営は、インテグリティ・マネジメントと呼ばれます。

ただし、インテグリティ=コンプライアンスというわけではありません。インテグリティとコンプライアンスの間には、微妙なニュアンスの違いが存在します。

インテグリティとコンプライアンスの違い

インテグリティは、個人や組織が定める規範で、誠実で真摯な行動を心がける自律的な規制を意味します。対して、コンプライアンスは法令や社会規範、社会倫理、就業規則など社会や組織における共通規範で、コンプライアンスに違反しない行動を心がける、他律的な規制を意味します。

コンプライアンスは外部から強制されるものなので、個人であっても組織であっても受動的なものになりがちです。しかし、個々人がインテグリティを備えれば、上辺だけのコンプライアンス遵守ではなく、本質的に誠実で健全な経営・マネジメントが実現されます。

インテグリティな従業員とインテグリティな組織があってこそ、コンプライアンス遵守が目指せるといえるでしょう。

インテグリティのある人の特徴

インテグリティとは
インテグリティは明確に定義できないものの、ドラッカー氏やヘンリー・クラウド氏の主張を踏まえ、下記のような人は「インテグリティがある」と判断できます。

・利他主義である

自分の利益よりも他者の利益を優先する考えを持っている人は、インテグリティのある人といえるでしょう。

利他主義の人は、自身の目標達成は上司・同僚・顧客の存在があってこそと理解しています。相手の立場に立ち、真心をもった対応ができなければ、誠実な人間とはいえません。常に相手にとってより良い結果をもたらすために、自分に何ができるかを考えられる人はインテグリティが高いといえるのです。

・正義感が強い

強い正義感もインテグリティのある人が持つ特徴です。モラルやマナー、倫理観や道徳観を重んじる人は、自社・顧客のためにならない行動や不正・コンプライアンス違反に強い拒否感を抱きます。

正しいことを成し遂げようという強い意志があれば、自分自身だけでなく、他人や会社に対しても正しくないことを指摘することができます。不正や不祥事が起こらないよう目を光らせる人が在籍することで、健全な組織運営も実現するでしょう。

インテグリティがない人の特徴

インテグリティとは
ドラッガー氏があげたインテグリティが欠如している人以外にも下記のような人は、インテグリティがないと判断できます。

・利己主義な人

利己主義な人は、たとえ知識が豊富で能力が高くても、自分さえ良ければいいという考えを持っています。他人や社会一般のことは考慮に入らないため、他者を蹴落としたり他者への配慮ができなかったりと、誠実さや真摯さに欠ける傾向があります。

・他者に無関心すぎる人

他者に対して無関心であれば、同僚や顧客が何を求めているのか理解できません。上司であれば、部下を自分が育てようという責任感にも欠けてしまいます。他者の尊厳も意図せず軽んじてしまうこともあるでしょう。

・人を見て態度を変える人

相手によって態度を変え、他者を不公平に扱う人は、立場や肩書にこだわります。そのため、自分が認めない相手の意見は受け入れず、立場や肩書が上の人の意見はたとえ間違いがあったとしても認めてしまいます。

【職種別】企業で求められるインテグリティ

インテグリティとは
具体的に求められるインテグリティは、組織内の役割によって変わってきます。ここからは、経営者・人事・管理職・一般従業員の4つに分けて、持つべきインテグリティをみていきましょう。

経営者

経営者は、インテグリティを持つ組織づくりの要です。経営者がインテグリティのある言動をすれば、自ずと社内の人間や取引先の人間もインテグリティのある振る舞いを意識するようになります。

具体的には、「法律・条例、社会規範を遵守する姿勢を徹底する」「公益性・社会貢献性を重視する」「社会的な責任を果たすことを優先して考える」などがあげられます。経営者のインテグリティが低いと、組織と関係者全般のインテグリティも下がってしまうので注意が必要です。

人事

人事のインテグリティは、従業員のインテグリティも左右します。インテグリティがある人事部であれば、組織全体の健全性が保たれるものです。

具体的には、相手の立場や役職に関わらず、「公平性・公正性に基づいた対応」「過度な成果主義の抑制」が重要です。人事部門のインテグリティが低いと、管理職が主観的な人事評価を行ったり、インテグリティが高い人材を獲得できなかったり、機密情報や個人情報が漏洩してしまったり、健全な企業経営を脅かす様々なリスクが生じてしまいます。

管理職

管理職の持つべきインテグリティは、従業員のお手本となる振る舞いが求められます。いくら経営者や人事部門がインテグリティを重視していても、各現場の管理職にインテグリティが備わっていなければ、適切にマネジメントできません。

具体的には、「真面目で誠実な姿勢を保つ」「公平なコミュニケーションを心がける」「丁寧な情報共有を行う」「部下の能力を活かせる機会を作る」などの対応が必要となります。組織の戦略を実行できるよう、部下に寄り添いつつ、チームや部署をリードすることが重要です。

従業員

従業員も組織の一員としてインテグリティに則った行動が求められます。組織の大半は一般従業員なので、各々が保身に走ると組織のインテグリティは高まりません。

具体的な行動には、「個人の利益のために行動しない」「部署やチームの連携を大切にする」「問題が発生したら率直に報告する」などがあげられます。組織全体の信頼性と同僚との協調性を意識することがポイントです。

社内のインテグリティを高める方法

インテグリティとは
それでは、社内のインテグリティを高めるにはどうすればよいのでしょうか。

・社内研修・社内説明会の実施
・リーダー育成・マネジメント論の確立
・評価制度の改善

ここでは代表的な3つの方法について紹介します。

社内研修・社内説明会の実施

社内研修・社内説明会を実施して、インテグリティを重視していることを社内に周知し、全社員にインテグリティに則った行動を促しましょう。

組織としてインテグリティを高める意識があることを個々人が理解しているだけで、公平性や協調性、真面目な姿勢を標準化することができます。インテグリティを浸透させることは容易ではないため、まずはインテグリティの必要性や持つべき心構え、企業としての本気度、具体的な行動を共有することから始めましょう。

リーダー育成・マネジメント論の確立

組織全体のインテグリティの推進においては、従業員をマネジメントする立場にある経営者・人事部門・管理職におけるインテグリティの徹底が重要です。

リーダーポジションの人材が高いインテグリティを持つことで、従業員が目指すべき姿を明確に示すことができます。そのため、まずはマネジメント側の意識改革に取り組むようにしましょう。マネジメント側のインテグリティが低いままだと、社内にインテグリティが浸透しないだけでなく、従業員からの反感を買いかねません。

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評価制度の改善

インテグリティを重視してこなかった企業であれば、従来の評価制度では、インテグリティを持つ従業員を適切に評価できません。そのため、組織のインテグリティを高めるためには、評価制度の改善が重要です。

インテグリティが重視されるようになった要因の1つに、成果主義による弊害があげられることは先に説明しました。成果主義のマイナス面を考慮し、成果を出せば評価するという単純な指標ではなく、インテグリティを意識した評価指標を設けてみましょう。

たとえば、評価基準に「コンプライアンスの遵守度」「自社・顧客・社会に対しての貢献度」「業務における自律性」「チーム内での協調性」などを加えます。日常的にインテグリティを意識できることがポイントです。

企業におけるインテグリティの事例

インテグリティとは
最後は、インテグリティを社内に浸透させた企業事例について紹介します。

伊藤忠商事株式会社

大手総合商社である伊藤忠商事は、株式会社インテグレックス社・産経新聞社・KPMGファイナンシャル社の協賛によって2002年~2015年まで開催され、インテグリティを企業が意識する礎ともなった「誠実な企業賞」を2013年に優秀賞、2015年には最優秀賞を獲得しています。

このとき評価された取り組みの例は下記のとおりです。

・従業員1人ひとりが社会的課題の解決への貢献を目標としている
・アニュアルレポートで積極的な情報開示を行っている
・先見性・誠実・多様性・情熱・挑戦という質問を投げかけ、従業員が自らの行動を日常的に確認できている

花王株式会社

日本を代表する日用品メーカーの花王では、持続的に成長し、グローバルな存在である企業となるため、誠実で清廉な事業活動に重きを置いています。

具体的には、下記のような取り組みを行っています。

・ESG活動の基礎として「正道を歩む」ことを掲げる
・冊子「花王サステナビリティ」で、誠実な事業活動を報告する
・コンプライアンス遵守のため監査役監査・業務監査を全社で定期的に実施する
・従業員に対してコンプライアンス意識の浸透状況を定期的に確認する

AGC株式会社

世界的ガラスメーカーのAGCは、グループビジョンや採用基準にインテグリティを取り入れています。

具体的には、下記のような内容です。

・透明・公正な関係を築くこと・お客様の満足と信頼を得るために責任を全うすることを企業理念に定める
・求める人材として、インテグリティを持った人材を「他者から学び、誠実な行動により、信頼してもらえる人財」と定義する

東レ株式会社

化学繊維メーカーの東レは、2015年に「誠実な企業」賞(KEY FIRM OF INTEGRITY AWARD)の優秀賞を受賞しています。

具体的には、下記のような取り組みが評価されました。

・地球環境問題や資源・エネルギー問題への解決策の提供に努めている
・自社の強みを活かして、新素材を開発・提供している

GE(General Electric)

トーマス・エジソンが設立したGE(ゼネラル・エレクトリック)は企業活動の基盤としてインテグリティを置いています。GEにおいては、インテグリティが従業員に求める最上位の行動指針です。

具体的には、下記のような取り組みを行っています。

・インテグリティに違反する行為を行った従業員には厳しい処分が下される
・リーダーにはインテグリティな文化を醸成する責任を課す
・自分の今日の仕事が明日の新聞に掲載されることを想定して業務を進める考え方を持つ

インテグリティを促進することで企業価値は向上する!

本記事では、現代の企業に必須の要素となったインテグリティについて詳しく解説しました。インテグリティは、誠実さや真摯さという意味を持ち、組織に属する全従業員が持つべきものです。インテグリティを高めることによって実現する健全な組織経営は、取引先や顧客、社会からの信頼を集め、企業そのものの価値を向上させます。

一方で、組織にインテグリティを浸透させることは一朝一夕では実現しません。まずは、組織としてインテグリティを重視することを掲げ、マネジメント層の意識改革や全社への周知が必要です。その後、インテグリティを組織のカルチャーとして社内に根付かせるため、評価制度の改善に取り組みましょう。

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