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「高度プロフェッショナル制度」について人事担当者が押さえておくべき3つのポイント

「高度プロフェッショナル制度」について人事担当者が押さえておくべき3つのポイント

高度プロフェッショナル制度が施行されれば、高度な専門知識を必要とする業種に従事する一部の労働者に対して残業時間の上限規制が廃止され、残業代の支給もなくなります。現状では一部の労働者のみが適用対象とされる予定ですが、今後の政府の動向によっては、さらに対象者が増えるかもしれません。こちらの記事では、現時点での高度プロフェッショナル制度の対象となる業種と対象者、施行されることで起きるであろう効果や問題点について紹介します。

高度プロフェッショナル制度は、時間に縛られた働き方を廃止し、成果による評価を望む労働者の需要に応えて設けられたものです。本制度は、廃案とならなければ、労働基準法の改正により平成31年4月より施行される見込みとなっています。

近付く施行日に対し、ここで一度、本制度の対象となる人物と予想される効果と問題点、海外ではどのような制度が導入されているかを見てみましょう。

1.現時点での対象者は高度な専門職で年収1,075万円以上

対象となる業務は法令で定められるものではなく、厚労省からの省令によって決定されますが、現時点で本制度の対象となることが想定されている業種は以下の通りです。

*金融商品開発業務
*金融商品の自己売買業務
*企業や市場における調査・分析業務
*事業コンサルティング業務
*研究開発業務

法案では、これら対象業務に加えて、国内労働者の平均年収額の3倍相当額を給与として受け取っている労働者が対象であるとし、具体的な額は厚労省が発する省令によって決めるというものです。

国税庁が行った調査によると、男女を含めた平成28年度における給与所得者の平均年収は422万円という結果が出ており、これを基準として考えると、年収1,266万円の人が対象者ということになります。しかし、2018年3月現在では、年収1,075万円を上回る人が対象者に想定されているようです。また、今後この具体的な数値は法案や省令によって上下する可能性は十分にあるでしょう。

参考元:国税庁 平成28年分民間給与実態統計調査結果についてhttps://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2017/minkan/index.htm

2.企業の生産性向上・労働者の給与低下が予想される

本制度が施行された場合、従来の多くの企業における就労時間による給与計算形態が廃止され、業務の成果による評価(給与査定)がベーシックとなり、結果的に企業の生産性向上とコスト削減が望めるでしょう。

企業によっては、従業員の残業が日常茶飯事で、毎月の残業代に頭を抱えているという場合も多いのではないでしょうか。しかし、対象となる条件の従事者に対し本制度が適用される場合、残業時間の上限規制がなくなり、残業代など元の給与に付加される手当の支払いが不要となります。

これにより、従事者の多くは「残業時間を含めた時間内で業務を行う」という思考から、「業務を可能な限り早く終わらせる」という思考にシフトし、結果的に業務に対するモチベーションと生産性の向上、残業代などにかかる人件費のコストダウンが図れると予想されます。しかし、この制度によって懸念されている問題が、労働者にとって「長時間労働は減らずに給与だけ減る」という事態です。

本制度は現在、「高度な専門職で年収1,075万円以上の所得がある場合」に限定されていますが、今後の政府の動向によっては該当する業務の増加や該当所得年収の引き下げなどが行われ、一般労働者に対しても影響を及ぼすものとなる可能性はあります。

例えば、人手不足によって少数の社員が慢性的な残業を行っているという企業では、残業が発生している原因は単に社員が怠けているのではなく、個人(社員)で捌ける物量の業務キャパシティをオーバーしているからではないでしょうか。このような従事者に対し本制度が施行されれば、労働時間は減らずに残業代カットによって給与だけ減るという事態が起きかねません。

本制度がいわゆる「残業代ゼロ制度」などと比喩されている原因はここにあり、企業によっては、労働者に対しサービス残業を促す形となってしまうのではないでしょうか。このように本制度が労働者にとっての負担増強材料とならないために、制度適用時には本人の同意や規定された日数の休日付与などが条件に組み込まれています。

3.海外にも「高度プロフェッショナル制度」に似た制度がある

海外に目を向けてみると、「高度プロフェッショナル制度」に似た制度を導入している国はいくつか存在します。

アメリカの法律では、労働時間が週40時間以上となった場合、割増賃金を残業代として労働者に支払う義務が発生しますが、企業における運営職・管理職・専門職の従事者に対しては残業代を支払わなくてもよいとされています。また、イギリスでは一週間あたりの就労時間は48時間までとされており、時間外労働の割増賃金は企業によって異なるようですが、企業における管理職や教会職員などは労働時間の規制対象外とされています。

日本における高度プロフェッショナル制度の導入により、国内の企業に勤める従事者は「いかに効率良く業務をこなすか」に注力することとなるでしょう。また、労働者にとっては「時間」ではなく「成果」で評価(給与)が上がる可能性があるので、業務に対するモチベーションの向上が期待できます。これらは企業にとって有益であり、業務の効率化と人件費などのコスト削減が期待できますが、同時に長時間労働などが発生しないための配慮も求められまます。

本制度によって企業側と労働者側がそれぞれ働きやすい環境を実現するには、どちらかが一方的ではなく、労使双方の制度に対する理解と現状の労務環境を見直す必要があるのではないでしょうか。

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