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IT・Web業界で進む「マネジメント不要論」

IT・Web業界で進む「マネジメント不要論」

現場でプレイヤーとして動くメンバーと、彼らを統括・管理するマネージャー。この関係は、たとえ職種や業種が違っても、当然のように存在し続けてきました。ですが近年、特にITやWeb業界において「マネジメント不要論」が聞こえてくるようになりました。究極の組織に、旧来型のマネージャーはいらない…。そこで語られる理想の組織像とは?

IT・Web業界の「リーン・スタートアップ」

IT・Web業界の突出した特徴はスピードです。今までにないサービスをどこよりも早く市場に投入することができれば、市場での主導権を握ることができるのです。ですから、検討・意思決定・行動など、すべてにおいてスピードが求められ、最速を目指すのがこの業界でのセオリーです。そのため、「リーン・スタートアップ型」の手法を採ることが自然と多くなります。

リーン・スタートアップという言葉は、直訳すると「贅肉のない起業」。つまり、徹底的に無駄をそぎ落としてビジネスをスタートし、展開していくという手法を指します。これだけ見れば「無駄を排除するのは当然だろう」と感じるのですが、この言葉を生み出し、本に記したエリック・リースによれば、その無駄とは次の3点です。

【起業を失敗させ得る3つの無駄】
1.・スタート時の優れた計画
2. しっかりと練られた戦略
3. 市場の動向に注目すること

ビジネス上、どれも有意義で不可欠なものに見えますが、近年のIT・Web業界周辺では、これらの要素は「無駄」とされ、それゆえマネジメントも不要という考え方が広がりつつあるというのです。これはいったい、どういうことでしょうか?

明日のことは明日、自分たちで決めればいい

前項で挙げた「3つの無駄」は、多くのビジネスでは無駄どころか不可欠な要素でしょう。ですがIT・Web業界は、とにかく変化が早く、スピードこそが命です。ですから、市場調査を行い、優れた計画を立てて戦略を練ったとしても、一年後、半年後には、それがすでに陳腐化している可能性があります。つまり、いくら事前に準備をしても、それらが無駄に終わることが多いのです。

無駄に終わる可能性が高いならば、それこそ準備するだけ無駄です。それなら、まずはプロトタイプでもいいので「売り物」を作って提供し、使用感などの評価をフィードバックとして顧客からもらい、それをどのように製品に反映させるかを考えていきます。あるいは、そこから戦略を組み替えていくというアクションもあるでしょう。つまり「今日、製品をリリースして、明日、顧客の反応をいただく。その先のことは、それから考える」というわけです。

決して場当たり的なのではありません。予断を廃してリアルな反応をつかみ、それに基づいてスピーディに行動する。それがこの業界で生き残る方策で、そこでは従来型のマネジメント手法は通用しないのです。

優秀な個人の能力を信頼し、スピードを持って動く

IT・Web業界の中には、すでに「マネジメント不要」を公言している企業もあります。確かにスピードが重視される環境では、調査や検討を経て戦略が出来上がるのを待っていては、ライバルに先んじることはできないでしょう。それよりも、今この瞬間に現場が判断し、行動できる自律性こそが求められるはずです。もちろん、失敗することはあるでしょう。ですが、周到に準備を重ねても、やはり失敗することはあります。ならば、余計な手間と手順を省いたほうが良いというわけです。

こうした環境では、もはやマネージャーは不要になります。というよりも、マネジメントが不要になる程度に自律的に動ける人材でないと戦力にならないということになります。この点について、LINE元代表取締役社長の森川亮氏は、以下のような趣旨の発言をしています。

「相談し合うと中途半端なものになったりするので、会議や情報共有をなくすやり方をとっている。マネジメントが必要な方は、辞めていただく」。
このやり方は、すべての企業、すべてのケースにあてはまるわけではありません。ですが、個人の能力を信頼し、そのスピードを強烈なまでに重視する姿勢が見て取れます。

どのような人材が求められるのか

では、このような環境の中で必要な人材像とは、どのようなものでしょうか。
マネジメントがなくても自律的に、しかもとてつもないスピードで動き、単独でもプロダクトを突き進めていける能力と情熱を持つ人材…。これはもう、スーパーマンの領域です。

実際、私たちヘッドハンターの元にはIT・Web業界からのリクエストも多数届いていますが、その採用ニーズのレベルは高く、これまでの求人市場・転職市場の物差しではカバーしきれない領域に達しているといってもいいでしょう。
もちろん、スーパーマンは何人もいるわけではありません。ですが、それに近い人材は、常に求められています。

例えばエンジニアにしても、単に専門技能に優れるだけでは十分ではなく、ビジネス感覚や経営的な目線が求められます。自分で手を動かせる一方、人材を育てて組織を作る能力も必要とされます。もちろん、目的へと突き進むパッションも欠かせません。そして、20代の若い世代のヘッドハンティングが多いのも、この業界の特徴です。

何よりスピードが重視されるIT・Web業界は、意思決定と行動をいかにスピードアップするかが大きな課題です。そのような場面では、従来のような「マネージャーとプレイヤー」という棲み分けは存在しません。すべてのプレイヤーが自分自身をマネジメントし、自律的な判断の下に動いていくことになります。他者のコントロールを必要とせず、自律的にスピーディに動ける人材をどう確保するか。それはこの業界において、今後も重要な課題であり続けることでしょう。

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