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『人を動かす』ひたすら人間を見続けた、観察者の名著

『人を動かす』ひたすら人間を見続けた、観察者の名著

「人を動かす」(文庫版/デール・カーネギー/創元社/2016年1月26日発売)は、原著の初版発行から80年以上が経っていながら、今も世界各国で多くの人々の心に響き、より良い人間関係構築の一助となっています。今回は、歴史的名著の一端をご紹介しましょう。

多くのビジネスパーソンに支持された一冊

もはや説明不要…という感もある一冊。世界中の政治家や企業家、さらにスポーツマンやミュージシャンなど、日本でも本書を愛読書に挙げる人は多くいます。それほどまでに支持される本でありながら、内容はいたって平易です。
一般に「ビジネス書」あるいは「啓発本」とカテゴライズされることが多いようですが、実際には「コミュニケーションの指南書」という形容のほうが近いかもしれません。ですから、ビジネスシーンはもちろんのこと、プライベートでの人間関係の構築や改善には最適の一冊となるでしょう。
世界中のビジネスパーソンに支持されたのは、まさにビジネスはコミュニケーションそのものだからであり、新人教育の一環として本書を読ませる企業も多いようです。

遍歴を重ねる中で培っていった観察眼

これほどのベストセラーを書き上げた著者デール・カーネギーですが、その前半生は、随分波乱に満ちていたようです。本書の「訳者あとがき」によれば、学生時代のカーネギーは自分にコンプレックスを持っており、それを克服するために大学で弁論術を研究しました。ところが卒業後は、ひとつの職業に収まることができず、教師、セールスマン、食肉会社の社員、行商人…さらには地方回りの劇団員やトラックのセールスマンなど、さまざまな職業を転々とします。どの職業も長続きはしませんでしたが、結局自分に向いているのは、大学時代に研究した弁論術だと気付き、YMCAの弁論術講座の講師に収まります。
ここに至って、これまでの経験がすべて実を結ぶことになりました。多くの職業を渡り歩き、さまざまな状況や立場でタイプの異なる多くの人々と接していくうちに、コミュニケーションを円滑に進める多くの方法を会得していたのです。

身近な実例でコミュニケーションのポイントを解説

本書は、いたってシンプルに構成されています。「聞き手に回る」「心からほめる」「顔をつぶさない」といった、コミュニケーションに重要なポイントごとに関連する実例が並べられています。
そこに登場する人々は、古今東西の政治家や軍人、宗教家、学者であったり、あるいは実業家や作家、犯罪者、普通の母親であったりします。それにカーネギー自身の解説が加わる、という構成です。
読んでみて感じる本書の美点はたくさんありますが、特に優れているのは実例の豊富さでしょう。現代の日本人の感覚からすると、時代的・文化的にピンと来ないものもありますが、「そうそう、こんな経験、私にもあるな」と感じるような身近なものばかりです。
1981年の改訂の際には、カーネギー協会によって新しい実例が集められ、選別の上で追加されました。誰しも納得できる内容で、人間の心理を丁寧に探り、他者とのより良い関係をどのように構築すればいいか、地に足のついた言葉で教え諭してくれます。

誰にとっても必要なエッセンス

繰り返しになりますが、本書はビジネス書ではなく、コミュニケーションの指南書です。現代社会で生きている私たちには、他者とのコミュニケーションを避けることはできません。苦手であろうと嫌いであろうと、そこから逃げ出すことはできないのです。
ですが、コミュニケーションを上手に使えるようになればどうでしょう?見ず知らずの人とも、すぐに仲良くなれるかもしれませんし、あなたを嫌っている相手と笑顔で握手ができるかもしれません。
人と接することが楽しくなれば笑顔も生まれるでしょうし、笑顔があるところには幸福もやってきます。コミュニケーション能力を高めることは、あなた自身とあなたの周囲に幸福を広げることでもあるのです。
ところが、コミュニケーション能力を高める方法は、学校で教えてくれません。カーネギーが本書の執筆に至った理由も、まさにそこにありました。本書には、誰にとっても必要で、誰も教えてはくれなかったコミュニケーションの本質が、ぎっしりと詰まっているのです。

新しい人生を指し示す、著者からのメッセージ

時代を越えて読まれ続ける本には、時代に左右されない普遍的な価値があるものです。ましてや世界的なベストセラーとなれば、国境や民族性を超越したすばらしさがあります。
ですが、本書は決して肩肘張って読むものではありません。論文や学術書とは違いますし、何より語り口が軽快です。時系列での記述ではありませんから、どこから読んでも構いません。電車の中で、適当にページを開いても不都合はないのです。
ただ、ひとつだけ理解しておくべきことがあります。これは、本書の中のカーネギー自身の言葉を引用しましょう。

“本書の原則は、それが心の底から出る場合に限って効果を上げる。小手先の社交術を説いているのではない。新しい人生のあり方を述べているのである。”

本書の邦題を見て「上から目線」と感じる人もいるかもしれませんが、それは「そのために、まずあなたが変わりなさい」という、著者からのメッセージのようにも思えます。

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