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『働く力を君に』誰でも手にすることができる、非凡な「働く力」

『働く力を君に』誰でも手にすることができる、非凡な「働く力」

日本にセブンイレブンを導入した、セブン&アイ・ホールディングス前会長、鈴木敏文氏の著書「働く力を君に」(講談社/2016年1月20日発売)。著者自身の経験に加え、第一線で活躍する企業経営者やクリエイターのユニークな思考を紹介しながら、「働く力」の本質を解き明かしています。

あらゆる層に役立つ働き方のエッセンス

世の中には、実に多くのビジネス書があふれています。それは、耳慣れないカタカナ語の解説書であったり、権威ある大学の教授や研究者が提唱する論文であったり、海外で流行している新たな概念を紹介するものであったりします。
これらの書籍が提供してくれるノウハウは、ビジネスパーソンにとって有益なものです。ですが、新たな情報や概念ばかりを追いかけることが、決して正しいことだとは限りません。「新しいもの=良いもの」ではないのです。むしろ、先輩から後輩へと伝えられてきた「当たり前」の中にこそ、本質的な意味が隠されているかもしれません。
本書を一読すると、当たり前のことが伝える意味を実感できます。決して特別なことでもなく、目新しいことでもなく、誰でも今すぐに実践できるノウハウが、多くの人にプラスの効果を与えてくれるのです。
社会に出たばかりで右も左もわからずにいる若い世代だけでなく、経験を積み重ねたものの惰性で働き、仕事の意味を見失いつつあるミドル層や、ノウハウの継承・若手の教育に思い悩むシニア層など、あらゆる世代の人にとって役立つ「働く力」について、やさしい言葉で語られています。

誰もが身に付け、磨くことができる「働く力」とは?

では、鈴木氏が語る「働く力」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。結論から言えば、それはいたって「当たり前」なものです。

・あらゆることに疑問を投げかける
・自分なりの仮説を立てる
・ぶれることのない視点を持つ
・物事の本質を見抜く
・シンプルに思考する
・決断したら、迷わず行動する

これが、すべての立場、すべての年齢層の人々に共通する「働く力を引き出すための姿勢」なのだと著者は語っています。
特別な知識やテクニックが必要になることではありませんし、立場も年代も関係なくできることですから、今日からでも実践できます。「当たり前だけで、本当に働く力が身に付くのか?」と疑問に思う人もいるでしょうが、実際にやってみると、シンプルではあるけれどきちんとできるようになるのはたいへんかもしれません。ですが、効果は保証済みです。著者は、多くの企業家やクリエイターの言葉を引用しながら、こうした姿勢で仕事にあたることがいかに効果的かを教えてくれます。

「働く力」の実践が生んだ、大きな成果

その効果は、著者である鈴木敏文氏の実体験からも証明されています。鈴木氏は、大学卒業後、出版取次大手の東京出版販売株式会社(現・株式会社トーハン)に入社しましたが、この会社への就職は当初から志望していたものではなく、他社の試験に失敗してたどりついた職場でした。しかし、鈴木氏はいじけるのではなく、仕事に対して前向きに改革を進めます。
具体的には、鈴木氏は編集を任されていた広報誌の誌面改革に乗り出しました。まず、どんな内容にすれば読者が喜ぶかを考え、著名作家の書く「軽めの読み物を増やそう」と決断します。取次会社ですから、出版社を通して原稿の依頼することはできましたが、従来無料配布だった広報誌を一冊20円で販売するしかありませんでした。今から半世紀以上前(1960年前後)の20円は今とは違う価値ですが、読書家にとって、著名作家のオリジナル原稿が読めるという付加価値はとても大きなものだったでしょう。刷新された広報誌は人気を集め、それまで5,000部前後だった発行部数は、一気に13万部にまで伸びました。
つまり、自分たちの強みを知り、活かし、読者すなわちお客様の立場で考えて行動したことが、大きな成果につながったのです。これが、鈴木氏の提唱する「働く力」の効果です。
〈見出し〉
各界著名人が披露する仕事のスタイル

セブン&アイ・ホールディングスは、年に4回、株主向けの広報誌「四季報」を発行しています。この広報誌には、巻頭に鈴木敏文氏と、ゲストとして招かれた各界の著名人との対談が掲載されており、本書にもこの対談から得られた多くのエピソードが紹介されています。
ゲストの顔ぶれは、アートディレクターの佐藤可士和氏や、雑貨店「Francfranc」を創業した髙島郁夫氏、AKB48の総合プロデューサーである秋元康氏など、かなり多彩です。それぞれ活躍の場は違いますし、手掛ける仕事も違いますが、皆、自分の仕事に対する信念やスタイルを持っています。
例えば、佐藤可士和氏は、「素人の目線で考える」ことを語っています。佐藤氏が携帯電話のデザインを手掛けたとき、赤なら赤、黄色なら黄色と、全体を一色で統一したいと考えました。当時の携帯電話は、ゴム製のパーツはすべてグレーで、それが当たり前になっていましたが、コストが少々上がっても、赤一色のほうが、素人目にも格好良く見えます。実際に、佐藤氏がデザインした単色の携帯電話は、かつてないほどの人気商品となりました。
このような実例を用いて語られる「働く力」は、読む人を引き込む強い力があります。
なお、四季報のバックナンバーは、セブン&アイ・ホールディングスのWebサイトで見ることができます。

「当たり前のことを当たり前にやる」ことの大切さ

「IoT」や「ICT」の普及など、私たちをとりまく環境は常に動き続けています。そのスピードは、年々加速しており、仕事の進め方や働き方も、多様化しながら変化し続けています。半年前には目新しかったものが、すぐに一般化し、来月には陳腐化しているかもしれません。
ですが、世の中がどれほど目まぐるしく変化しようとも、仕事の本質は変わりません。物事の本質をつかみ、粛々と実践し続ける。その地道な作業を繰り返し、積み上げていくと、「あるとき爆発点に達し、非凡化する」と著者は語ります。つまり、困難を乗り越えて成果を出すのは、特殊能力や突き抜けた才能ではなく、「当たり前のことを当たり前にやる」ということの繰り返しだというのです。
人は、膨大な情報や目まぐるしく変わっていく環境に翻弄されながら、さまざまな問題に直面し、迷います。「仕方ない」と妥協することもありますし、「無理だ」とさじを投げてしまうこともあるでしょう。ですが、解決できない問題など、めったにありません。必ずどこかに出口があるはずです。
もしも、今のあなたが仕事に悩み、動きあぐねているのなら、ぜひ本書を開いてみてください。読み進めるにつれて、あなたの中に「働く力」がチャージされていくことでしょう。

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