ヘッドハンターお薦め本

『戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ』人事一筋の著者が語る「人間のプロ」とは

『戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ』人事一筋の著者が語る「人間のプロ」とは

今回の「ヘッドハンターお薦め本」は、「戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ」(八木洋介・金井壽宏/光文社新書/2012年5月17日発売)です。人事畑一筋に歩み続けてきた八木氏の持論と、それを読み解く金井氏の分析が噛み合い、人事がいかにあるべきかを提案してくれる一冊です。

ページを繰るたびに「うん!」とうなずける明快さ

本書は八木氏が自身の経験をベースに人事と組織を語り、各章の最後に金井氏が分析してまとめる、という構成を取っています。
金井氏が前書きの中で語っているように、八木氏はとても言語表現が豊かです。まさに「語り部」で、目の前で本人に語りかけられているように、言葉が頭に吸収されていきます。しかも、そのほとんどが堅苦しい理屈や机上の空論ではなく、みずからの経験から得られたものになります。それだけに、言葉ひとつにも体温があり、しかも「うん、そのとおりだ!」と読み手を納得させる力があります。

人事は人を扱うプロフェッショナルであるべし

八木氏は高校卒業後、受験に背を向けて海外を放浪。その後、一念発起して京都大学を卒業し、“真っ赤に焼けた鉄に男のロマン”を感じて日本鋼管(NKK)に入社。その後、GE(ゼネラル・エレクトリック)に移りましたが、ここまでのキャリアのほとんどを人事畑で過ごしています。2012年からはLIXILグループに移り、執行役副社長、人事総務・法務担当に就任しました。
このような経歴を持つ人事のプロが本書を通じて訴えかけるのは「人事は人間のプロであれ」ということです。
考えてみれば、人事とは文字どおり「人のこと」を扱うのが仕事であるはずです。そして人は工作機械やPCとは違い、共通のスペックを持っていません。職場では同じ業務を同じように行っているとしても、皆それぞれに異なるバックヤードを持っています。価値観も違いますから、仕事に対するモチベーションの源も、それぞれ異なるのです。
そうした多種多様の人々のやる気を引き出し、活性化させ、アウトプットにつなげていく。それが人事の役割だと、繰り返し語っています。

必要なのは、戦略性のマネジメント

組織というのは、その規模の大小は関係なく、個の存在が生物のように有機的につながり合った存在です。もちろん企業も同様で、さまざまな部署に属する多くの人が、それぞれの場所でそれぞれの業務にあたることで、企業全体を動かしています。
ですが、そこには戦略性が必要です。企業が勝ち残るためには、この戦略性が欠かせません。そしてその戦略に基づいて、すべての部署、すべての社員が動くことが必要です。
もちろん、人事も同様です。しかも「人のこと」を扱う人事としては、企業の戦略をすべてのスタッフに浸透させる役割も担っています。「うちの会社は何を考えているんだ」という声が出ないよう、戦略を理解させ、その上ですべてのスタッフが最高のパフォーマンスを発揮できるためにはどうするかを考え、手を打っていかねばなりません。
それが本書で、八木氏が語っている戦略性のマネジメントなのです。
八木氏は、従来の人事のあり方を「継続性のマネジメント」と表現し、批判を加えています。

「今までこのやり方でうまくいってきたのだから、それで行こう」。
この発想は、安定した右肩上がりの状況の中でなら、問題なく機能したでしょう。ですが現在は、そんな状況にありません。終身雇用も年功序列も、今や崩壊に直面しています。
だからこそ「戦略人事」が必要なのだと八木氏は語ります。

「人」は未知数の伸びしろを持つ

人事という分野に対して八木氏がここまで深い情熱と考察を持っているのは、自身の経験によるものでしょう。そしてその根底にあるのは、「人」というリソースが持つ、計り知れないほどのポテンシャルです。
例えば、工場の生産能力を1ラインあたり2倍にするというのは、非常にたいへんなことです。車のエンジン出力を、基本設計を変えずに50%アップするというのも簡単なことではありません。
ですが人は、何らかのスイッチが入ってしまえば、そのパフォーマンスが2倍にも3倍にもなります。こうした実例を見てきたからこそ、人間の能力への信頼と期待が生まれ、それを引き出すことの重要さに確信が持てるのでしょう。
さらに、八木氏はリーダーの育成についても、GEの例を引き合いに出して、その戦略性の重要さを説いています。

「優れたリーダーとは、突然変異で現れる」。
誰かに育てられて生まれるわけではなく、たまたま現れる。当然、その人数も限られている。だから、本気になって育成する。
とても逆説的な表現なのですが、この先を読み進めていくと、その意味するところが明確に理解できます。

「自分の軸」を持つことの大切さ

積極的に人に関わり、人を動かし、それによって経営に貢献する。まさに人事の王道ですが、その具体的な方策については、あえてここでは触れずにおきましょう。本書を開けば、八木氏が経験と思考から生み出したさまざまな手法が、惜しげもなく並べられています。
その中のひとつ、本書の中ではリーダー育成のための手法として紹介されていますが、「自分の軸を持つ」ということについて少しだけ触れておきましょう。

どのような環境、どのような状況にあっても、ぶれることのない自分の軸。それはその人にとって「これだけは譲れない」という価値観であり、哲学です。
ぶれることのない自分の軸を見つけ、持つことができれば、それは自分の拠り所になります。思い悩み、弱っている人たちに対しても、揺るぎない元気を与えることができるでしょう。ネットで拾える情報や知識ではない「人の力」で、人を助けることができるのです。それは「人のこと」を扱う人事にとって欠くことのできない、本質的な能力なのかもしれません。

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人事部が抑えておくべきワーク・ライフ・バランス導入時の3つの注意点

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