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OJT研修とは?明快に解説!効果的に実践するための研修の進め方や成功事例

OJT研修とは?明快に解説!効果的に実践するための研修の進め方や成功事例

新人社員・若手社員の教育方法として、OJT研修を取り入れている企業は多いものです。一方で、OJT研修を取り入れているにも関わらず、人材が育たないと悩みを抱えている企業もあります。

本記事ではOJT研修の目的やその他の研修制度との違い、OJT研修を導入した企業の成功事例をご紹介します。

OJT研修 とは?

OJT研修とは、業務に必要な知識・スキル・態度などを身に付けるために職場内で実施される教育手法のことを指します。英語で“On The Job Training”を略称したもので、体験学習、職場内教育、企業内教育という意味があります。

OJT研修は一般的に日常業務のなかで行われ、トレーナー(指導担当者)が現場の上司や先輩、トレーニー(指導対象者)が新人社員や若手社員で行われるケースがよく見られます。また場合によりトレーナー(指導担当者)に関しては、教育専門の担当者が配置されることもあります。

2021年厚生労働省「能力開発基本調査」によると、計画的なOJT研修を正社員に対して実施した事業所は59.1%、正社員以外に実施した事業所は25.2%という結果が出ています。

参考:厚生労働省 令和3年度「能力開発基本調査」

OJT研修の目的と重要性

OJT研修が持つ目的と重要性にはどのようなものがあるのでしょうか。目的、重要性についてそれぞれ解説します。

OJT研修の目的

OJT研修の目的は、トレーナー(指導担当者)がトレーニー(指導対象者)一人一人に教育を行うことで、業務の理解を促し、即戦力となる従業員を育てることが最大の目的です。

OJT研修の重要性

OJT研修では、業務の指導からフィードバックまでが一つのセットになっています。そのため、トレーナーとトレーニーがコミュニケーションをとる機会が多く、業務の習得のスピードが速まるだけでなく、トレーニーのモチベーションアップや職場への定着を図るという重要な役割を持っています。

OJTとその他の研修制度との違い

OJT研修の導入や改善を検討するにあたっては、OJT研修とその他の研修制度との違いを把握し、適切な研修を取り入れる必要があります。ここでは、OJT研修とOff-JT、エルダー制度、メンター制を比較します。

OJT研修とその他研修の違い

OJTとOFF-JTの違い

OFF-JTとは“Off The Job Training”の略称で、職場外で行われる教育手法のことを指します。一般的に、日常業務からは一時的に離れて行います。トレーナーはセミナー講師や社内の研修担当者、トレーニーは新人社員から管理職まで。

OFF-JTは、形式知化できる業務に向いており、スキルアップや新たな知識の習得を目指せる研修です。各ポジションや目的ごとに実施できるため、階層別の教育で用いられます。一方、状況に応じて対応が必要だったり、経験値が重視されたりする業務には向かないといわれています。

OJT研修とエルダー制度の違い

エルダー制度とは、上司による指導ではなく、年の近い先輩社員がエルダー(教育係)として新人社員・若手社員1人ひとりに付いて指導を行う制度です。エルダーは、新人社員・若手社員に対して業務の指導はもちろん、業務にまつわる悩みの相談に広く応じます。

OJT研修は、学ぶべき事柄について計画的なプログラムに沿って習得を目指しますが、エルダー制度では新人社員・若手社員それぞれの理解や能力に合せて助言を行います。

OJT研修とメンター制度の違い

メンター制度とは、メンター(先輩社員)が、メンティー(新人社員・若手社員)の職場における悩みを解消し、精神面のサポートをする制度です。エルダー制度と似ていますが、メンター制度では精神的な悩みや人間関係、キャリアデザインなどに重点が置かれます。

OJJT研修では、特に業務の経験値を必要としたり、多様な状況に対して判断をしたりと、仕事に直結する内容が指導されます。OJT研修とメンター制度には、業務に対する直接的な関係の有無や、精神的なサポートに対する重要度が異なります。

OJT研修のメリット

OJT研修が広く用いられている理由は、トレーナー・トレーニー・企業それぞれにメリットがあるためです。ここからは、OJT研修のメリットをご紹介します。

トレーナー側のメリット:トレーナーが成長する
OJT研修では、上司や先輩社員が新人社員・若手社員を指導します。人に教えることによって、トレーナー側も業務の理解度をあげることができます。

また、人材育成では、現状と課題の把握や、スケジュール管理、マネジメントスキル、コミュニケーションスキルなどさまざまなスキルを必要とします。OJT研修は、上司や先輩社員がビジネスパーソンとして成長するチャンスでもあるのです。

トレーニー側のメリット①:分からないことをすぐに聞ける
OJT研修では、新人社員・若手社員それぞれにトレーナーが付くため、日常業務のなかで発生した疑問をその場ですぐに質問することができます。トレーニーは、新しい環境で不安な中で、発生した疑問を誰に聞くべきなのか分からないことも多々あります。相談できる先輩社員が決まっているという状態は、新人社員・若手社員の心理的安全性を確保することができます。

トレーニー側のメリット②:即戦力として実務にコミットメントできる
実務を通して必要な知識やスキルを学ぶことから、研修後に即戦力として実務にコミットメントすることが可能です。先輩社員の仕事ぶりを間近で見ながら、実際に自分が現場に出ることで、現場感覚を養えます。加えて、責任感を持って仕事に取り組むという精神的な成長も見込めます。

企業側のメリット①:人事の業務コストを削減
社内で教育を行うということで、外部セミナーや講師を利用する必要がなく、教育にかかる時間的・金銭的コストを抑えられます。

企業側のメリット②:効率的/効果的に教育できる
実務の実践的な教育ができるため効率的・効果的な指導を行うことができます。

企業側のメリット③:コミュニケーションの活性化
新人社員・若手社員は新たな環境に入り、不安な状態です。OJT研修を行うことで既存社員と新人社員・若手社員の間にコミュニケーションが生まれ、組織全体で働きやすい環境を作ることができます。

OJT研修が抱えている課題

OJT研修にはどのような課題があるのでしょうか。ここでは5つの課題について解説します。

課題① トレーニーが業務の全体像を把握しにくい

課題② トレーナーに丸投げ・放置されることがある

課題③ トレーナー側のスキルに大きく左右される

課題④ トレーナー本来の業務が遅延・停滞しやすい

課題⑤ OJT研修の準備に手間と時間がかかる

 

課題① トレーニーが業務の全体像を把握しにくい
OJT研修は、日常業務を通してスキルや知識を身に付けていくため、目の前のことについては学びやすい特徴があります。一方で、日常業務からは見えにくい大きなプロジェクトや組織の全体像、中長期的な目標については把握しにくい欠点があります。

企業はこのOJT研修の特徴を把握して、トレーニーが企業の全体像を体得する場を別途設けるようにしましょう。

課題② トレーナーに丸投げ・放置されることがある
OJT研修は広く普及している教育手法ということで、導入さえすれば人材育成ができると勘違いされているケースがあります。そのような企業では、OJT研修がトレーナーに丸投げされ、トレーナーは「教育担当が何を目的に実務を教えていいか分からない」という状況に陥っています。

企業側は、OJT研修を導入するだけでは人材は育たないことを理解し、トレーナーに対し事前にOJT研修の目的をしっかりと伝えるようにしましょう。

課題③ トレーナー側のスキルに大きく左右される
OJT研修は教育プログラムに沿って実施されますが、教育の質はトレーナーのスキルに大きく左右されます。トレーナーは、人材育成に特化したスキルを持っているわけではないので、指導する能力は個々で異なります。

また、性格的に指導者として向いていない場合もあり、トレーニーに必要な知識やスキルが身に付かなかったり、トレーニーが不安や不信感を抱いて離職につながったりするリスクも考えられます。

企業側はトレーナーを選任する際、OJT研修の目的を理解しトレーニーとコミュニケーションをとりながら業務を教えることができるか見極める必要があります。また、トレーナーのスキルが足りない場合は、事前に必要な知識についてレクチャーを行いましょう。

課題④ トレーナー本来の業務が遅延・停滞しやすい
企業側がトレーナーの業務量を把握していなければ、トレーナーが「トレーニーの指導が忙しく、自分の業務に手が回らない」という状況に陥ります。

また、「自身の実務が多く教えている余裕がない」と、トレーニーが放置されたり、必要な知識やスキルを習得できなかったりするケースもあります。そうなると、OJT研修の研修期間が終わっても、新人社員・若手社員は十分に実務ができる状態にないことが容易に想像できます。

OJT研修を導入する際は、トレーナーの業務量について企業側が調節する、またはトレーナー自身が調節できる仕組みを作るようにしましょう。

課題⑤ OJT研修の準備に手間と時間がかかる
OFF-JTは、あらかじめ作成した教育プログラムに沿って行われます。一方、OJT研修では、現場で学べる内容について教育していくため、教育プログラムは各現場で作成されます。トレーナーは、自身の通常業務とは別に、トレーニーに対して何を・いつ・どう指導するのか計画を立てなければなりません。

あらかじめトレーナーには手間と時間がかかることを理解してもらい、企業側としてもサポートできる体制を整えておくことが大切です。

OJT研修の適切なやり方とポイント

OJT研修を適切に進めるための手順とポイントをみていきましょう。OJT研修の進め方として指導法のポイントをShow→Tell→Do→Checkという4段階に分けて紹介します。
OJT研修のやり方
Stepに進む前に:事前準備
事前準備は基本のステップには含まれませんが、OJT研修を正しく実施するためには欠かせない要素です。事前準備では、OJT研修の目標を設定し、教育プログラムの作成や、トレーナーの教育、目標のすり合わせを行います。

Step1:Show(実際の業務を見せる)
OJT研修は、トレーナーが実際の業務を見せるところから始まります。ここで注意が必要なのが、言葉で詳細に説明してしまわないことです。最初のステップなので、トレーニーが業務の全体像を把握することを目標にしましょう。

【ポイント!】
・動画や資料で研修内容を残す
一度で理解することは難しいため、基本的な業務のお手本は動画や資料に残し、後で見返して繰り返し復習できるようにしておくのがポイントです。

Step2: Tell(業務の内容を説明する)
業務について具体的なイメージを持ってもらえたところで、言葉を使って業務内容を説明します。業務の手順はもちろん、どのような目的で行う業務なのか、プロジェクト内でどのような段階なのかを詳しく説明します。

【ポイント!】
・トレーナーの一方通行は避ける
トレーナーが一方的に説明するのではなく、トレーニーの理解を確認しながら進めることがポイントです。基本的な内容については、事前に準備していた動画や資料を使い、トレーニーの理解度を高めつつ、トレーナーの負担を減らすことができます。

Step3:Do(実際にやらせる)
トレーニーが業務を理解できたら、実際に業務をやらせてみましょう。この時まずはトレーニー1人でやらせ、トレーナーは見守りましょう。

【ポイント!】
・トレーナーは干渉しない
トレーナーは干渉せず、トレーニー1人でやらせることがポイントです。トレーニーが業務を行うなかで、たとえ問題点や失敗があっても、トレーナーは基本的に口を出さず、最後まで見守ってください。失敗やミスをすることにトレーニーが不安を感じ、萎縮してしまわないように注意が必要です。
ただし、業務中に明らかな問題や失敗が起こった際は状況に応じて業務を止め、適宜対応しましょう。

Step4:Check(改善点を指導する)
トレーニーが業務を最後まで完了させたら、問題点や改善点を指摘しましょう。その後、トレーナーからのフィードバックを基に、次回の目標を立てます。また、できたことをポジティブに伝え、しっかりと褒めることも大切です。できた・できなかっただけでなく、どこがどうできなかったのか、何が良かったのか具体的なフィードバックをしてください。

【ポイント!】
・トレーニーから感想をもらう
トレーナーがフィードバックをする際、トレーニーからも感想をもらうようにしましょう。実際に業務を行ってどう感じたかや難しいと感じた部分はあったか、どこが上手くできたと感じたか等実際にトレーニーが感じた部分を引き出すことがポイントです。感想を共有してもらうことでより次の目標を立てやすくなります。

・レポートや報告書を提出してもらう
コミュニケーションとは別に、レポートや報告書を提出してもらうことで過去との比較や今後の研修の進め方を決めやすくなります。

OJT研修を効果的に実践するための成功事例

現在様々な企業でOJT研修が導入されています。ここではOJT研修を効果的に実践し、成功している企業事例をご紹介します。

企業事例① トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車では、「モノづくりは人づくり」という理念のもと創業当時から人材育成を大切にしています。

【成功しているポイント】

・現場での実践トレーニングを重視

・個人の成長を長期的にサポート

・OJT研修の改善を継続的に行うPDCAサイクルを導入

 

・ 現場での実践トレーニングを重視
トヨタ自動車で特に重視しているのは現場での実践トレーニングです。実践研修では、業務に必要なスキルや知識を身につけるだけでなく、トヨタ自動車が「人材育成の理念、基本的な考え方」の中で触れている「誰かのために、自ら考え、行動し続ける」のマインドを習得することもできます。

・個人の成長を長期的にサポート
「職場先輩制度」という制度があり、配属3年目までは担当の先輩社員(指導職以上)がつき、面倒を見てくれるというものです。個人の成長を長期的にサポートできる体制が整えられています。

・OJT研修の改善を継続的に行うPDCAサイクルを取り入れている
研修を行う中で、実施後に研修内容や指導方法についてトレーニーからフィードバックをもらい、改善点がある場合はすぐに研修に反映させるようにしています。常に最新で効果的な研修の準備が整えられています。

以上のようにトヨタ自動車では、3つのポイントが上手く絡み合いOJT研修を受けた従業員からも高い評価を得ています。

参考:トヨタの環境 Welfare&Workplace

企業事例② 大和ハウス工業

大和ハウス工業では、企業理念の「事業を通じて人を育てること」に基づき、人が人を育てる風土を形成していくための人材育成制度を整えています。

【成功しているポイント】

・2週間に1度の1on1ミーティングの実施

・研修参加者を対象にアンケートの実施

・ラウンド・サポーター制度の導入

 

・2週間に1度の1on1ミーティングの実施
正式赴任後、入社1~3年目の若手社員は約2年間という期間の間に、2週に1度の頻度でOJTエルダーと1on1ミーティングを行います。間隔をあけずにミーティングをすることで相互理解を促すだけでなく、若手社員が困っていること、疑問に思っていることなどをすぐに解決できるといったメリットがあります。

※OJTエルダーとは?
大和ハウス工業では「OJTエルダー制度」という独自の制度を設けています。OJTエルダー制度とは、OJTエルダーに任命された社員は、新人社員の状況を把握しながら、部門内外の先輩社員と連携を取り、自らが中心となって「職場での指導・育成」を推進する制度です。

・研修参加者を対象にアンケートの実施
大和ハウス工業では人材育成マネジメントの一環として、研修参加者を対象にアンケート調査を実施しています。その結果を参考に教育研修の効果や改善点を把握し、PDCAサイクルを通じた教育研修の向上を常に目指しており、最適な教育研修を実施しています。

・ラウンド・サポーター制度の導入
ラウンド・サポーター制度とは、新人社員への指導教育の徹底と、OJTエルダー制度の円滑な運用を目的とし、大和ハウス工業の人材育成センターのスタッフが、巡回員(ラウンド・サポーター)として、各事業所を訪問する制度です。巡回員は新人社員やOJTエルダーと面談を行い、状況に応じ支援をするため研修が一方通行になるということを防ぐことができています。

以上のように大和ハウス工業では研修対象者だけでなく、指導・教育を行う従業員に対してもサポートをしているため、人材育成マネジメントに力を注いでいるのがわかります。

参考:人材育成制度

まとめ

本記事ではOJT研修の目的やその他の研修制度との違い、OJT研修を導入した企業の成功事例をご紹介しました。より自社に合ったOJT研修を導入することで、即戦力の早期育成や従業員同士のコミュニケーションの活性化、トレーナーの成長といったメリットが生まれます。すでにOJT研修を導入している場合、どのくらいの効果が出ているのか、問題点はないか、改めて目を向けてみてはいかがでしょうか。

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