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多様な人材を育てる育成システムを

多様な人材を育てる育成システムを

組織の中で生きるビジネスマンにとって、「役職」は非常に大きな意味を持ちます。ところが近年、このマネージャーというポジションに「就きたくない」という人が増えているといいます。そこに、どのような変化が起こっているのでしょうか?

人気を失いつつある「マネージャー」のポジション

マネージャー。多くの企業に共通する日本的な階層でいえば、課長クラスでしょう。まさに典型的な中間管理職です。過去の常識でいえば、管理職とは「出世街道」の入口を意味するものでした。

新卒で企業に就職し、先輩や上司、時には取引先からも鍛えられて経験を重ねていく。同期との競争を勝ち抜き、主任、係長とステップアップしてマネージャーの椅子を手にする。このポジションは、業務内容を熟知した上でスタッフの管理を行うディレクターであり、リーダーでもあります。その椅子に座るということは、これまでの実績を評価され、同時に将来を嘱望されている証です。組織で生きるビジネスマンであれば、誰もが目指す通過点であり、目標でもありました。

ですが近年、このマネージャーというポジションの価値が、下落しているといわれています。そのポジションに就きたいと考える人々が、減少しているというのです。
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マネージャーに対するビジネスマンのイメージ

少しまえのデータになりますが、2012年に行われたマネージャーに対する調査レポートがあります。これは「管理職の仕事とやりがいの実態」(リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所)というタイトルでまとめられ、その結果が公開されています。

このデータを見ると、現代のビジネスマンたちがマネージャーというポジションをどのようにとらえているか、さらにキャリアアップをどのように考えているかを垣間見ることができます。その内容を少し紹介しましょう。

まず、マネージャーになるまえ、そのポジションにどのようなイメージを抱いていたのか。この質問には多くの人が肯定的な回答を挙げています。ですが「マネージャーになりたいと思っていた」グループAと、「マネージャーになりたいとは思っていなかった」グループBとのあいだには、質問内容によって大きな差が見られました。注目すべきは、マネージャーになることが「自分の能力を生かすチャンス」である、と答えた人の割合です。グループAでは89.3%が肯定的であったのに対して、グループBでは45.9%にとどまっています。

管理職にはネガティブイメージもある

マネージャーに対するネガティブなイメージについても調査されていました。ここでもグループAとBに大きな差が表れましたが、その中で両者の差が顕著だったのは「自分で自分の自由にできる時間が減る不安」と「部下を管理する責任に対する不安」でした。このような不安は、着任前のマネージャーであれば多かれ少なかれ感じるものでしょう。ですが、グループAの中でこうした不安を感じた人は、ともに48%程度であったのに対して、グループBではともに70%を超えていました。

ここまでのデータを要約してみると、マネージャーになりたいと考える人は、それが「自分の能力を生かし、成長するチャンス」だと肯定的にとらえています。一方で、マネージャーになりたいと考えていない人は「自分の時間を奪われ、部下の管理に時間やエネルギーを割かねばならない」ことに否定的なイメージを持っていることがうかがえます。

では、実際にマネージャーとしての仕事をしてみて、どのようなことを感じたのでしょうか。ここでも、グループAとグループBとで明確な違いが表れています。例えば「自分自身の成長を実感する機会が増えた」と感じているのは、グループAでは68.1%に達するのに対し、グループBでは30.6%。「キャリアの見通しが明確になった」という点については、グループAでは59.8%なのに、グループBでは24.8%に過ぎません。

ゼネラリストか、スペシャリストか

このように、マネージャーに対してはそのポジションを肯定的に考えるかどうかで、大きく評価が変わってきます。そしてそれは、ゼネラリストとスペシャリスト、どちらを目指すのかによって変わってくるようにも思えます。

自分が持っている能力や技術をさらに磨き、高め、活かしていきたいと考える「スペシャリスト指向」の人々にとっては、部下の管理などは「避けて通りたい作業」に違いありません。そんなことをしている時間があるなら、最新の知識や情報を吸収し、自分の技術を高めたいと考えるのは自然なことでしょう。管理者としての能力を身に付けられるとしても、それはスペシャリストとしての能力に寄与するものではありません。それを思えば、「管理職になりたいとは思わない」という発想が出てくるのも当然といえます。

「人材の多様性」を確保するためには

これまで、日本の多くの企業で一般的だったキャリアアップへのルートは、あまりにも「型どおり」でした。ですが、近年では「専門職制度」を採り入れる企業も増え、自分自身のスキルをさらに深く磨き上げるという、スペシャリストが育っていくための環境も整いつつあります。

企業に限らず、組織や集団が発展していくためには、多様性が不可欠です。同じタイプの人間ばかりが集まっていればまとまりはありますが、そこには異質な刺激がありません。多様な人材が存在し、それぞれが刺激し合うことで発見が生まれ、それが発展へと続いていきます。それを思えば、多様な人材を育てるためには、その育成システムにもまた多様性が求められるということにもなります。ヘッドハンティングによって「異質な人材」を招き入れたとしても、その人材がその場所に根付くためには、それなりの環境が必要になるのです。

そんな環境は、既存の組織や人材育成システムの中では難しいことかもしれません。また、変革しようとしても、一朝一夕に変えることができないものでもあります。ですが、「多様な人材」を求めるのであれば、多様な人材が存在できる環境が必要であり、そうした人材を育てるしくみを整えることが不可欠でしょう。そこをクリアすることこそ、人材の問題を解決に導く第一歩になり得るのです。

■【調査レポート】管理職の仕事とやりがいの実態
http://www.recruit-ms.co.jp/research/report/121219_01.html

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