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人材ポートフォリオとは?目的、作り方、事例、4象限を用いたタイプ分類まで解説

人材ポートフォリオとは?目的、作り方、事例、4象限を用いたタイプ分類まで解説

近年、人的資本経営への注目が高まり、企業の成長や競争力強化において「人材ポートフォリオ」の重要性が急速に拡大しています。多様なスキルや価値観を持つ人材を戦略的に管理・活用することで、組織全体のパフォーマンスや企業価値の向上が期待できるのです。

本記事では、人材ポートフォリオの基本的な意味や作り方、活用事例までを分かりやすく解説し、経営者や人事担当者が今後の組織強化に役立てられる実践的なポイントを紹介します。

人材ポートフォリオとは?

人材ポートフォリオとは、企業に属する人材を「スキル」「経験」「役割」「潜在能力」など複数の軸で整理し、経営戦略に沿って最適な配置や育成を行うための管理手法です。

「ポートフォリオ」とは、金融分野で資産を分散して保有することでリスクをコントロールし、安定した成果を得るための考え方です。これを人材管理に応用したのが「人材ポートフォリオ」で、企業の人的資本を多角的に捉え、戦略的に活用することを目的としています。

人材ポートフォリオの活用によって、従来の「年齢や社歴のみで人材を管理する」方法から脱却し、スキルや多様性、将来的な伸びしろなどを重視した動的な人材マネジメント戦略へとシフトできます。その結果、経営戦略と人的資本管理が連動し、企業競争力の強化や持続的成長を実現できるのです。

このように人材ポートフォリオは、企業が人材の持つ多様な価値を最大限に引き出し、経営目標達成のための強力な武器となる概念と言えるでしょう。

人材ポートフォリオが重要とされる3つの背景

近年、人材ポートフォリオの重要性が急速に高まっています。その背景には、人的資本経営への注目、情報開示の義務化、そしてビジネス環境の急激な変化という3つの大きな流れが関係しています。これらは、経営層や人事担当者が組織の未来を考えるうえで、必ず押さえておきたいポイントです。

【1】人的資本経営への注目の高まり

人的資本経営とは、企業が「人材=資本」と捉え、従業員それぞれの価値を最大限に活かしながら、中長期的な企業価値の持続的向上につなげる経営スタイルの1つです。

特に経営者や役員、戦略人事の立場では、この考え方を重要視している傾向が顕著です。

経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」では、人的資本を企業の価値創造の源泉と位置づけ、従来の固定的な人材管理から脱却し、個々の能力を伸ばしながら組織全体を強化することの重要性が強調されました。また、企業が持続的な競争優位を確立するためには、「必要な人材を、必要なタイミングで、最適なポジションに配置する」ことが不可欠となります。

この流れの中で、人材ポートフォリオは単なる人材一覧表や評価表とは異なり、企業の目指す方向性や戦略目標に対し、“どのような人材が”、“どのポジションに”、“どれだけいるべきか”を可視化し、組織づくりの「設計図」として機能します。

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重要となる“動的”な人材ポートフォリオとは

人的資本経営において特に重視されるのが「動的」な人材ポートフォリオです。前述した「人材版伊藤レポート」は2022年5月に「人材版伊藤レポート2.0」として更新され、人材戦略に求められる要素として「動的な人材ポートフォリオ」について提唱しています。

これは、従業員のスキルや経験を単に棚卸しして現状を把握するだけではなく、時間とともにスキルが向上したり、役割が変化したりすることを前提に、ポートフォリオ自体を柔軟にアップデートしていくことを意味します。

こうした“動的”な管理によって、企業は変化する経営環境や事業戦略に迅速かつ柔軟に対応できる体制を構築する必要があるのです。結果として、人材の能力開発やキャリア形成が促進され、組織全体のパフォーマンスが向上しやすくなるメリットも享受できます。

参照:【経済産業省】人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0),令和4年5月

【2】人的資本情報の開示が義務化

2023年3月期以降、日本企業は有価証券報告書において人的資本に関する情報開示が義務付けられました。これは、国際標準化機構(ISO)が定めた「ISO 30414」に準拠した動きであり、世界的にも人的資本の透明性と説明責任が強く求められる時代となっています。

この制度化で、企業は「どのような人材がいるのか」「どのように育成しているのか」「多様性は確保されているか」など、定量的・定性的な情報を外部に示す必要が出てきました。そのため、従来の属人的な人材管理や曖昧な評価では不十分となり、体系的に人材情報を整理・活用できる人材ポートフォリオの構築が不可欠となっています。

例えば、ダイバーシティの推進状況や、スキルアップ支援の実績、定着率や人材の流動性などをポートフォリオとして整理することで、投資家や社会に対して「人的資本を戦略的に活用している企業」であることをアピールできます。結果として、企業価値の向上やブランド力の強化につながり、持続的な成長を実現しやすくなるのです。

【3】ビジネス環境の変化

現代は「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)」の時代に突入し、ビジネス環境がかつてないほど急激に変化しています。転職や副業の一般化、働き方の多様化、グローバル化の進展などにより、企業のタレントマネジメントは従来以上に複雑になっています。

このような状況では、単に人材を年齢や経験だけで管理するのではなく、多様なスキルや価値観、業務スタイルを持つ人材を、組織のニーズや市場動向に合わせて柔軟に配置することが求められます。例えば、急速にデジタル化が進む業界ではITスキルやデータ分析能力を持つ人材の確保が急務となり、ポートフォリオ管理によって不足分を特定し、採用戦略や育成計画に反映することができます。

また、従業員が自己実現やキャリアアップを求めて流動化する現代では、企業は人材ポートフォリオを活用して個々の成長機会を設計し、定着率向上やモチベーションアップに繋げることの重要性が増しています。こうした動的かつ戦略的な人材管理によって、組織は不確実な時代を乗り越え、持続的な競争力を発揮できるのです。

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人材ポートフォリオを作成する目的

人材ポートフォリオを作成する目的は、企業が持続的に成長し、変化の激しい市場環境で競争力を高めるために、組織全体の人的資本を戦略的に把握・活用することが大きな狙いです。本章では、代表的な4つの目的について、それぞれ具体的に解説します。

適材適所の人材配置

人材ポートフォリオを作成する最大の目的の一つは、「適材適所」の人材配置を実現することです。従業員一人ひとりのスキル、経験、適性、価値観などを多角的に可視化することで、各ポジションに最も相応しい人材を配置できるようになります。

例えば、デジタル化が進む部門にはITスキルやデータ分析力のある人材を、営業の最前線にはコミュニケーション力や交渉力に優れた人材を配置する、といった具体的なマッチングがしやすくなります。これにより、組織全体のパフォーマンス向上や、社員のモチベーションアップにもつながります。

また、部署間での人材の偏りやスキルギャップを早期に発見できるため、社内異動や研修、採用活動を的確に行う指針にもなります。結果として、企業は変化に強い柔軟な組織を作ることができるのです。

組織構成や人件費の過不足を把握

人材ポートフォリオは、組織構成や人件費の適正化にも大きな効果を発揮します。組織全体の人員構成や役割分担を一覧化することで、どの部門に人員が過剰なのか、逆に不足しているのかを一目で把握できるようになります。

例えば、ある部門に管理職が偏っていたり、現場スタッフが不足していたりする場合、ポートフォリオを通じてそのアンバランスが可視化されます。これにより、人員の再配置や新規採用・アウトソーシングの必要性を早期に判断できます。

さらに、人件費の適正配分もポイントです。人材の配置だけでなく、各ポジションや役割に対する報酬のバランスも確認できるため、コストの削減になり、最終的には経営資源の最適化につなげることができます。これは経営効率の向上や、持続的な成長戦略に欠かせない要素です。

従業員のキャリア支援

人材ポートフォリオを活用することで、従業員一人ひとりのキャリア支援を体系的に行うことが可能になります。個々のスキルや経験、将来の希望や適性を把握し、最適なキャリアパスを設計する材料として活用できます。

例えば、ある従業員が新しい分野にチャレンジしたい場合、その人材のスキルセットや成長のポテンシャルをポートフォリオで確認し、必要な研修受講や人事異動、プロジェクト参画の機会を提供できます。これによって、従業員は自身の成長を実感しやすくなり、エンゲージメント(組織への愛着・貢献意欲)も高まります。

また、組織全体でのタレントマネジメントが進み、優秀な人材の流出防止や、社内の多様なキャリア形成支援にもつながります。従業員の満足度や定着率向上という観点からも、ポートフォリオの活用は大きな意義を持ちます。

人的リソースに基づいた経営戦略の策定

経営戦略や事業方針を立てる際に、人的リソースの現状やポテンシャルを正確に把握することは極めて重要です。人材ポートフォリオを通じて、どの分野に強みがあり、どこに課題や不足があるのかを明確にできます。

例えば、新規事業へ進出する際には、その分野に必要なスキルや経験を持つ人材が社内にどれだけいるのかをポートフォリオで確認し、必要に応じて採用や育成計画を立てます。逆に、既存事業の見直しや縮小を検討する場合も、関連する人材の再配置やリスキリング(再教育)の判断材料となります。

つまり、経営判断や事業戦略の意思決定時に「ヒト」という資源を最大限に活かすための根拠データが得られるのが、人材ポートフォリオの大きな強みです。これにより、企業は変化に迅速に対応し、持続的な成長を実現できる体制を築くことができます。

人材タイプの分類方法 【3パターン】

人材ポートフォリオを作成するに当たって、自社に必要な人材のタイプを明確に定義し、分類しておくと良いでしょう。本章では、4象限マトリクスを用いて3パターンの人材タイプの分類方法をお伝えします。

《個人・組織》 × 《創造・運用》 の2軸

まず1つ目は、《個人・組織》と《創造・運用》の2軸で分類する方法です。人材は「マネジメント人材」「オペレーション人材」「クリエイティブ人材」「エキスパート人材」の4つに分類できます。


  • マネジメント人材:人材管理・教育など経営や組織運営に携わり、幹部候補となる人材
  • オペレーション人材:既存の枠組みのなかで、日常業務を安定的かつ確実に遂行する人材
  • クリエイティブ人材:創造性や専門性、感性を発揮する人材
  • エキスパート人材:ハイレベルで熟練した専門性を発揮する人材

《個人・組織》と《創造・運用》 の2軸で人材タイプを分類した4象限マトリクスの図

いずれも組織の目標達成や業績アップには欠かせない人材です。しかし、必要とされる人数や評価の方向性、採用基準、向いている雇用形態、育成方法などは企業によって異なります。もちろん、業界や企業規模、事業内容によっても変わってきます。

《人材優位性》 × 《人材特異性》 の2軸

次に2つ目は、《人材優位性》と《人材特異性》の2軸で分類する方法です。人材は「コミットメント型」「市場型」「協働型」「服従型」の4つに分類できます。


  • コミットメント型:長期雇用を前提に新卒・若い人材を組織内部で育成する人材
  • 市場型:中途採用を代表とする組織外部(労働市場)からの獲得が向いている人材
  • 協働型:必要な時に専門家など外部と提携してスキルや知識を頼ることになる人材
  • 服従型:代行サービスを代表とするアウトソースの活用が向いている人材

《人材優位性》と《人材特異性》の2軸で人材タイプを分類した4象限マトリクスの図

これは人材ポートフォリオの中でも「人的資源アーキテクチャ」と呼ばれる理論です。

《人材優位性》は組織におけるポジションの重要性を指します。外注できない業務に携わるポジションであれば、人材優位性は高く、代替可能なポジションであれば人的優位性は低くなります。

一方、《人材特異性》は人材の希少性を指し、労働市場における採用のしやすさです。人材価値が高ければ、それだけ希少性も高く、採用しにくいことを意味します。

《定型・非定型》 × 《専門性》 の2軸

次に《定型・非定型》と《専門性》の2軸で分ける方法があります。人材は「日常業務のうちノンコア業務を担当する人材」「日常業務のうちコア業務を担当する人材」「単発的な業務を補助的な立場で担当する人材」「専門性を活かせる業務を中心に担当する人材」に分けられます。


  • 日常業務のうちノンコア業務を担当する人材
  • 日常業務のうちコア業務を担当する人材
  • 単発的な業務を補助的な立場で担当する人材
  • 専門性を活かせる業務を中心に担当する人材

《定型・非定型》と《専門性》 の2軸で人材タイプを分類した4象限マトリクスの図

最初に紹介した、《個人・組織》《創造・運用》の2軸の分類に似ていますが、ここでは日常的に業務があるのか単発的に業務があるのかが重視されています。

人材ポートフォリオの作り方

人材タイプの分類が分かったところで、続いては人材ポートフォリオの作り方を見ていきます。人材ポートフォリオの作成は、単なる人材リストの作成ではなく、戦略的人材マネジメントの基盤づくりであると心得ましょう。本章では、企業の経営戦略に沿った最適な人材活用を実現するための、具体的なステップを分かりやすく解説します。

■STEP1■ マネジメント方針を明確にする

人材ポートフォリオを作成する最初のステップは、自社の人事マネジメント方針を明確にすることです。

人事マネジメントとは、経営目標の達成を目的に、人材を効率的に活用するための仕組みや手法を指します。企業の経営目標や事業戦略は各社で異なるため、それぞれにマッチした独自のマネジメント方針を設定する必要があります。

まず、自社の進みたい方向性や将来像を明確にし、その実現に向けてどのような人材が求められるのかを洗い出します。例えば、新規事業の立ち上げを重視する企業であれば、イノベーション力やプロジェクト推進力のある人材が必要です。一方で、安定した事業運営を目指す場合は、専門性やオペレーション力が重要となります。

このように、経営の方向性に合った人材戦略を立てるためにも、まずは現状の分析が重要です。現状の組織構成や人材のスキル、年齢構成、役割分担などを整理し、経営課題や人的課題を可視化しましょう。例えば、「次世代リーダーが不足している」「DX人材が足りない」といった具体的な課題を抽出します。

次に、経営目標や企業戦略と照らし合わせ、どのような人材をどのくらい確保すべきか、どの能力を強化すべきかなど、施策の軸を決めます。ここで重要なのは、組織が一枚岩となって同じ目標に向かうためには、経営戦略と人事マネジメントの方向性がしっかり連動している必要があるという点です。

このプロセスを怠ると、人材配置がバラバラになり、せっかくの人材ポートフォリオは存在するだけになってしまいます。自社の経営戦略に合致したマネジメント方針を土台に、次のステップへ進みましょう。

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■STEP2■ 人材タイプ分類を従業員と照らし合わせる

人材ポートフォリオ作成の第2のステップは、自社に必要な人材タイプを定義し、それぞれのタイプに既存社員がどのように当てはまるかを客観的に分類することです。人材タイプの分類は前章でお伝えした3パターンの分類方法が挙げられます。

まず、経営戦略やマネジメント方針に基づき、どのような人材タイプが自社に不可欠かを洗い出しましょう。例えば、R&D部門では創造力や専門性が高い人材、営業部門ではコミュニケーション能力に長けた人材、といった具合です。

次に、従業員をこれらの人材タイプごとに分類します。このタイミングで最も大切なのは、主観的な印象や経験だけで判断しないことです。客観的なデータに基づく適正検査やアセスメントツールを活用して、スキルや適性を正確に把握しましょう。例えば、能力テスト、性格診断、360度評価などの手法が有効です。

分類結果は、シートやグラフとして可視化することで、組織内の人材分布を明確にできます。これにより、どのタイプの人材が多いのか、逆に不足しているのかが一目で分かります。従業員自身にもフィードバックを行うことで、自己理解やキャリア形成にも役立てることができます。

このように、人材タイプの明確な分類は、次ステップのギャップ分析や人材戦略の策定において重要な基盤となります。

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■STEP3■ 理想と現実のギャップを把握する

次のステップは、人材分布における理想と現実のギャップを把握することです。前のステップで分類した従業員の“実際の分布”と、経営方針やマネジメントの方向性から導き出した“理想の人材構成”と比較します。

まず、「理想上は各タイプの人材が何人必要か」を部門や職種ごとに設定します。例えば、製造業ならオペレーターが多く必要で、開発部門ではイノベーターや専門職が重視されるでしょう。管理職の比率や若手・ベテランのバランスも、企業の成長ステージや事業戦略によって異なります。

次に、現実の人材分布と比較して、「どのタイプが過剰か、不足か」を整理します。すると、管理職が多すぎて現場が手薄になっている、あるいは専門職が不足して新規事業に取り組めない、といった具体的な課題が見えてきます。

また、企業全体だけでなく、部門ごと・職種ごとに細かく分析することで、より精度の高いギャップ分析が可能です。こうした可視化により、どこに重点的な人材配置や補強が必要かという点が明確になります。

理想と現実の差を把握できれば、次のステップで打つべき具体的な対策も明確になります。

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■STEP4■ 人材課題の解決策を検討する

最後のステップは、理想の人材構成に近づくための具体的な解決策を検討・実行することです。ギャップが明らかになったら、どの手段で人材の偏りや不足を解消するかを考えます。

主な手段は「採用」「育成」「配置転換」「退出・解雇」の4つです。

採用

新卒や中途の正社員採用だけでなく、アルバイトや契約社員、派遣社員など多様な雇用形態を活用します。不足分野には専門人材のヘッドハンティングや副業人材の活用も有効です。

育成

従業員の能力開発のため、研修やOJT、リスキリングの推進が重要です。また、目標管理制度や評価制度の見直しによる成長支援も含まれます。

配置転換

社内異動やプロジェクト稼働、出向などを通じて、従業員の適性や新しい力を引き出します。今まで活躍しきれていなかった人材に新たな役割を与えることで、モチベーションやパフォーマンス向上につながる場合もあります。また、現ポジションで本来の能力を発揮できていない従業員でも、新しい部署や役割に異動することで、思わぬ活躍を見せることが多くあります。

退職・解雇

どうしても組織の方向性と合わない場合、早期退職募集や役職定年制度を検討します。ただし、解雇については日本法上厳格な制限があるため、慎重な対応が求められます。まずは、既存の従業員を適材適所へ配置転換を検討することが現実的です。

また、全ての手段は企業の経営戦略やマネジメント方針と連動させることが大切です。人材課題の解決は一度きりの施策ではなく、定期的に人材ポートフォリオを見直し、組織の変化や成長に合わせて柔軟に対応していくことが重要です。

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人材ポートフォリオの運用におけるポイント

ここからは人材ポートフォリオの作成および運用におけるポイントを確認していきます。

企業規模にかかわらず作成による成果は得られる

人材ポートフォリオは、従業員を多く抱える大企業向けの手法だと勘違いされることが多々あります。しかし、人的資源が限られる中小企業も、人的課題の解決には人材ポートフォリオの作成が効果的です。

人材ポートフォリオを作成すれば、予算や人的資本が限られる中小企業でも、適切な人員配置や採用が可能になり、業績の向上や経営目標の達成につながります。これ以上、採用やアウトソーシングをするのは難しいという場合でも、実は既存の従業員の教育や異動で解決できるかもしれません。

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作成にはコスト・労力がかかることを前提とする

人材ポートフォリオの作成には、時間的・金銭的コストと大きな労力がかかることを理解し、進めましょう。

組織の分析では、適正検査やヒアリングの実施、従業員への共有・同意の獲得など、通常業務の時間を削らなければならず、全社的な協力が欠かせません。また、一度に分類できる人材のタイプはそう多くないため、多角的な分析も必要となります。

さらに、人材ポートフォリオは一度作成したら終わりではなく、“動的”に管理しなければビジネス環境や社会的ニーズ、人的課題解決によるタイプ構成比の変化に対応できません。コストや労力がかかっても、変化に応じて人材ポートフォリオを最適化し、都度課題に取り組むことが重要なのです。

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個人の特性・能力は客観的な指標を用いて把握する

先述のとおり、従業員の適性は客観的な指標を用いることが重要であり、科学的に分類することで人材ポートフォリオを正しく活かせます。

客観的な指標とは、数値化できる定量的なデータを指します。数値化できない定性データや評価は、人事評価者やポートフォリオ作成者、経営者などの主観が入りやすく、見る人によっても評価が変わる可能性があります。そこで、人材ポートフォリオの作成においては、定量データを主に用いて人材を分類しましょう。

数字をみれば、分析される側の従業員からの理解も得やすくなります。誰が見ても分析結果の受け取り方は変わらないので、教育や研修、人事評価制度の策定にも用いることができます。もちろん、人事評価制度の一部には定性的な評価を含めても構いませんが、組織の構成や人材の分類を分析するときは、客観的な定量データを用いることが望ましいです。

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同時にパフォーマンスマネジメントを実施する

人材ポートフォリオを作成するにあたっては、並行してパフォーマンスマネジメントを行いましょう。パフォーマンスマネジメントとは、従業員1人ひとりの個性に応じてモチベーションを引き出しつつ、行動の変化につながるフィードバックを行うことで、パフォーマンスアップを目指すマネジメント手法です。

人材ポートフォリオ作成のための分析では、従業員の特性や能力などの適性を細かく、正確に把握できます。このデータを利用すれば、従業員全員がそれぞれ成果を出せるマネジメントが可能となります。

また、人的課題の解決に向けて採用や教育、人員配置を行っても、実際に適性を発揮して成果を出してもらうためには、追加の教育や管理者の支援が欠かせません。長期的な視点を持って、組織・従業員の分析から実際に成果につながるサポートまでを仕組み化することが重要です。

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タイプ分類によって従業員の優劣を付けない

人材ポートフォリオによる従業員のタイプ分類においてよくある失敗が、タイプごとに優劣をつけることです。

人材ポートフォリオの作成は、組織の人材構成や従業員個人の適性を把握するための手法であり、従業員を順位付けしたり、一部の従業員を優遇したりするためのものではありません。繰り返しになりますが、人材ポートフォリオの活用は、社内の人的資本について課題や理想との乖離を可視化することで、効果的な採用活動や人員配置、人材育成、人事評価など中長期的な人事マネジメントを目指すためのものです。

どの従業員も必要だからこそ雇われ、働いています。ここで従業員に優劣を付けてしまえば、パフォーマンスまで下がりかねません。特定の従業員を優遇しないようフラットな視点を持つよう配慮しましょう。

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雇用形態を問わず全従業員を対象にする

分析する従業員は、雇用形態を問わず、全員を対象にすることが重要です。正規雇用者だけ、管理者だけなど対象者を絞り込んでしまうと、データが足りず現状を正しく把握できません。結果的に、課題の原因を見誤り、課題解決に向けた施策も意味がなくなるばかりか、マイナス効果を生む危険も考えられます。

全従業員を対象にすれば、雇用形態を問わず適材適所に人員を配置できるだけでなく、必要であれば非正規雇用者を活用したり正規雇用で雇用し直したりとより幅広い対策を講じることができます。外部人材を活用している場合も含め、対象外の人材が出ないことが成功の鍵です。

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従業員自身が希望するキャリアパスを考慮する

従業員の適性や管理側の意向と合わないことを理由に、本人が望むキャリアパスを勝手に描き換えたり、無視したりするのはNGです。

人材ポートフォリオは、単に企業側の都合の良い問題解決手段ではなく、個々の人材にフォーカスすることで、パフォーマンスアップを図るためのものです。いうなれば、人材ポートフォリオの主人公は、従業員1人ひとりということになります。

本人の希望とは異なる異動や担当業務の変更は、モチベーションが低下するだけでなく、離職の原因になりかねません。また、頻繁な人材の入れ替わりは、採用コストも教育コストもかかるうえ、業務の熟練度も上がらないため、組織的なパフォーマンスアップは難しくなります。従業員の適性と希望の両方を考慮して、キャリア実現のサポートを行いましょう。

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人材ポートフォリオの活用事例

本章では、人材ポートフォリオがさまざまな場面でどのように活用されているのか、具体的な活用方法を紹介します。

人員配置

人材ポートフォリオの代表的な活用方法は、「人員配置」における最適化です。各従業員のスキルや経験、適性、キャリア志向などを多角的に可視化しておくことで、部署やプロジェクトごとに最も適した人材を柔軟に配置できるようになります。これにより、個人と組織のパフォーマンスが最大化されるだけでなく、業務の属人化や人材のミスマッチも防ぐことが可能です。

プロジェクトアサイン

事業推進の現場においては、プロジェクトごとに最適なメンバーを選抜することが成功の鍵を握ります。人材ポートフォリオを活用することで、必要なスキルや経験、リーダーシップ、チームバランスなどを総合的に考慮したプロジェクトチームの編成が可能になります。従来の「人脈や勘」に頼るプロジェクトアサインから脱却し、データドリブンで戦略的な人材活用を進めるための基盤として貢献しています。

採用計画

採用計画の策定においても、人材ポートフォリオは非常に有効です。現有戦力のスキル・経験・タイプを可視化することで、「どの分野に、どのような人材が不足しているのか」「今後採用すべき人材のスキルは何か」を定量的に把握できます。場当たり的な採用から脱却し、戦略的かつ計画的な採用活動の実現につなげることができます。

人材育成/教育計画

人材育成や教育計画にも、人材ポートフォリオは大きな役割を果たします。従業員一人ひとりのスキルや経験、キャリア志向をもとに育成プランを設計することで、個別最適化された成長支援が実現します。画一的な育成から脱却し、従業員の能力やキャリア志向に合わせた「攻めの人材育成」が可能になります。

定着促進

人材の定着促進にも、人材ポートフォリオは有効なツールです。従業員のスキルや適性、キャリア志向を正しく把握し、本人に合った配置や育成機会を提供することで、エンゲージメントやロイヤリティの向上、離職防止につながります。企業の持続的成長に不可欠な人的資本の維持、さらには強化に直結する考え方です。

組織の多様化

ダイバーシティ推進や組織の多様化にも、人材ポートフォリオは強力な武器となります。性別、国籍、年齢、キャリア、スキルなど多様なバックグラウンドを持つ人材を可視化し、バランスよく組織に組み込むことで、イノベーションや新たな価値創出を生み出します。多様性を意識した人材ポートフォリオ活用は、変化の時代において新たな成長エンジンとなるでしょう。

人材ポートフォリオで組織の強化を!

本記事では、人材ポートフォリオの意味や作り方、そして活用事例まで詳しく解説しました。人材ポートフォリオを作成・活用することで、経営戦略と連動した最適な人事マネジメントが実現できるだけでなく、従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンス向上や企業価値の向上も期待できます。

ただし、人材ポートフォリオは作成して終わりではなく、継続的な見直しや従業員個々のキャリア支援、能力開発といった“動的”な運用が不可欠です。今回ご紹介したフレームワークや注意点を参考に、自社に合った人材ポートフォリオを構築し、より効果的な人事マネジメントや組織強化を進めていきましょう。

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