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企業規模と業界によって異なる中途採用の実態

企業規模と業界によって異なる中途採用の実態

多くの企業にとって、中途採用は人事の重要な業務の柱です。ですが、回復傾向にあるとはいえ、今も不安定な景気動向から、採用にあたってはどうしても慎重にならざるを得ません。そんな中途採用の実態をより詳細に調査したレポートが、リクルートワークス研究所から発表されました。

相変わらず続いている採用難という状況

リクルートワークス研究所は、株式会社リクルートホールディングスの研究機関であり、人と組織、働き方に関するさまざまな調査・研究・提言を行っています。本サイトでもこれまで何度か取り上げてきましたが、今回は2016年6月に公開された「中途採用実態調査(2015年度実績)」を見てみることにしましょう。
まず、全体的な傾向については「企業の採用難は相変わらず続いている」という印象です。
即戦力となる中途採用の人材は、企業にとっては有用な存在です。短期間で成果を上げることができれば、高いコストを払ってでも、結果的にはプラスとなります。ですが、優秀な人材はやはり採用が難しく、「ほしい人材を確保できなかった」「そもそも、人材を集めにくい」という状況が、ここ数年続いています。
そうしたこともあってか、大規模な企業では中途採用実績が前年よりも増えている一方、中小の企業では逆に減少しているという二極化の傾向も見られました。
また、採用対象を経験者に絞るのか、あるいは未経験者にまで広げるのかという点については、業界によって大きく分かれているようです。例えば、建設業界では経験者だけでなく、未経験者にまで採用の網を広げています。この業界での中途採用となると、さまざまな資格が求められることが多いのですが、それ以上に採用難の傾向が強く、未経験者にも対象を広げているという事情がうかがえます。

企業規模による二極化が進んでいる

今回の実態調査では、全体的な実績は前年とほぼ同様となりました。
回答を得られた3,030社において、2015年度の1社あたりの中途採用人数は平均1.29人。前年度が1.28人でしたから、横ばいの状態です。
ですが、その内容を企業規模ごとに切り分けてみると、ある傾向が見えてきます。

■企業規模(社員数)による中途採用人数、及び増減率
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社員数300人以上の企業では、中途採用を大きく増やしているのに対し、300人未満の企業では逆に減少しています。つまり、全体的に採用難という状況の中でも、企業規模別に見ると明暗がはっきりと分かれ、二極化の傾向が表れているのです。
業種によっても、採用率の増減は表れています。

■業種による中途採用人数、及び増減率(一部抜粋)
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業種ごとにかなりの差がありますが、これは各業界の事情が背景にあるためです。卸売業や製造業では、2015年からの円高の影響による業績の低迷があります。医療・福祉は、常に一定の採用需要はあるものの、有資格者などの採用がなかなか進んでいません。一方で、運輸業や小売業は、中途採用が大きく伸びています。
医療・福祉も、運輸業や小売業も、人手不足という事情は同じでしょう。では、なぜこうした違いが表れるのでしょうか。それは「未経験者を対象とするかどうか」という違いによるものです。

業界によって違う未経験者比率

2015年度の中途採用実績のうち、未経験者の比率は全体の39.8%。企業規模別に見ると、中小企業では比率が大きく、規模が大きくなるほどその比率が下がる傾向が表れました。
中途採用の目的は、多くの場合、即戦力となる人材の確保です。ですが、少子化によって相変わらずの「売り手市場」が続いている新卒の状況から、その不足を中途採用で補うという発想が、当然のように出てきました。
そのため、新卒採用がままならない業界や企業では、未経験者の中途採用を増やす傾向にあるようです。
小売業などはその好例ですが、建設業や不動産業、サービス業などにおいても中途採用の未経験者比率は高く、特に建設業では58.5%にまで上っています。
これらの業種では、まず深刻な人手不足があり、採用後の教育を自社で行うことを前提に中途採用を行っていることがうかがえます。
人手不足といえば医療・福祉業界も同様のはずですが、こちらの未経験者比率は26.2%です。金融・保険業界の27.6%と並んで、他の業種と比較すると低水準になっています。これは、実際の業務を行う際に、資格や実務経験が必要であり、未経験者にはきびしいという事情のためでしょう。

まだまだ続く採用難時代をどう乗り切るか

このように、全般的な傾向としては前年度とほとんど変わらないながらも、企業規模による採用状況の二極化や、業界による中途採用比率の差など、さまざまな特色が見られます。こうした傾向は、この先も続くことでしょう。
人材の確保は、すべての企業にとって重要な問題です。ですが、日本の人口ピラミッドを見れば、新卒人材はこの先10年ほどは減少を続けていくことが明らかですし、中途採用も含め、優れた人材を採用することはますます難しくなっていきます。
新規事業の開拓や新分野への参入など、新たなアクションを起こすためには、やはり優れたスタッフが必要になります。そうしたアクションを起こせるかどうかが、企業の将来を左右することにもつながります。
企業にとって「採用」は非常に重要で、大きな課題のひとつです。どのような人材をいつ採用し、どこに配置するのか。そして、どのように育て、活かしていくのか。社内環境の整備も含めて、広く長い目でとらえ、行動することが肝要でしょう。

■「中途採用実態調査(2015年度実績)」(リクルートワークス研究所)
http://www.works-i.com/pdf/160630_midcareer.pdf

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