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レピュテーションリスクとは?経営強化・リスク回避のための対策と事例を紹介

レピュテーションリスクとは?経営強化・リスク回避のための対策と事例を紹介

テクノロジーの発展により、現代の企業はこれまでになかった経営リスク「レピュテーションリスク」に直面しています。

本記事では、レピュテーションリスクがどのようなものなのか、その意味や発生する原因・被害について詳しく解説します。実際に経営に大きな悪影響を与えたレピュテーションの過去の事例やリスクを回避するための対策についてもみていきましょう。

企業の経営層や管理職であれば、レピュテーションリスクの知識は必ず確認しておきたいところです。

レピュテーションリスクとは?

レピュテーションリスクとは、自社に関するネガティブな評判の拡大により、企業の価値や信用を低下させてしまうリスクのことです。

インターネットやSNSでは、悪い評判や問題はすぐに拡散され、ネット上に残り続けます。レピュテーションリスクが発生すると、健全な経営に大きなダメージを与え、企業そのものの存続にも関わるほど、企業の評判やブランドに甚大な損害をもたらす可能性があります。

レピュテーションリスクとは

Reputation Riskの意味

“Reputation”とは、英語で「評判」「名声」「評価」「信用」という意味を持ちます。”Risk”は、日本語と同様に「危険(性)」や「恐れ」を意味します。つまり、レピュテーションリスクは、「企業の評判や信用に影響を及ぼす危険」と捉えられます。

レピュテーションリスクが注目される背景

レピュテーションリスクが注目されるようになった背景には、近年の急速な情報社会の発展が挙げられます。

現在、誰もがスマートフォンやタブレット、パソコンを使用し、インターネットやSNSを通して容易に情報を収集・発信できます。知名度のない会社や個人が日の目を見るチャンスが生まれた一方で、ネガティブな評判も瞬く間に拡散されるようになりました。

インターネットで流布された情報は、拡散を止めることも、完全に削除することもできません。企業は社会から信頼されてこそ経営を続けることができます。しかし、インターネットで悪評が社会全体に広がってしまうと、その信頼を取り戻せなくなる可能性があります。

実際に、企業の経営に大きなダメージを与える事案が頻発したことで、レピュテーションリスクへの危機感が高まるようになりました。

レピュテーションリスクがもたらす4つの悪影響

レピュテーションリスクがもたらす4つの悪影響
レピュテーションリスクによって企業の価値や信用が落ちれば、下記のような悪影響が生じます。

・収益の低下
・企業イメージの低下
・信頼回復にかかるコスト増大
・人材採用の難航化

1つずつ詳細をみていきましょう。

収益の低下

インターネットやSNSに投稿された悪い評判は、ネット上に残り続けます。企業名や商品を検索すれば、過去の記事や投稿であってもヒットします。今はネットでの口コミを確認してから商品やサービスを購入する人が多いため、ネットでの評判が悪ければ顧客離れが進み、収益低下につながってしまいます。

企業イメージの低下

インターネット上の評判は、収益はもちろん、企業イメージの低下も招きます。企業イメージは企業の価値そのものといっても過言ではありません。企業イメージが低下することで、新規顧客はもちろん、既存顧客からの信頼も失ってしまいます。

信頼回復にかかるコスト増大

一度失った商品・サービスや企業への信頼回復は容易ではありません。短期的に信頼を回復することは不可能なので、中長期的な時間的コストがかかることは覚悟しなければなりません。また、損害賠償や弁護士費用などの事態を収束させるための資金、広告宣伝費など金銭的コストもかかります。

人材採用の難航化

新卒採用と中途採用、どちらも例外なく、企業分析や企業情報の収集にはインターネットが使われます。ネット上には商品やサービスの口コミだけでなく、過去・現在に働いている従業員の声も投稿されています。長時間労働やハラスメント、不公正な経営方針についてのリアルな声があれば、当然優秀な人材からは敬遠されてしまうでしょう。

レピュテーションの評価に影響を及ぼす7つの要因

レピュテーションの評価に影響を及ぼす7つの要因
アメリカの企業の評判に関する大手リサーチ会社であるReputation Institute(RI社)によると、下記の7つの要因がステークホルダーの認識に影響を与えるとしています。

■製品・サービス
評価基準:顧客ニーズを満たす、経済的価値・クオリティが高い製品・サービスを適正価格で提供されているか

■イノベーション
評価基準:革新的な企業として新製品・サービスを素早く市場に提供しているか、市場の変化に対応できているか

■職場
評価基準:従業員の健康・幸福への関心が高く、公平な機会の提供・処遇が行われているか

■ガバナンス
評価基準:オープンで透明性のある経営体制で、公平かつ倫理的なビジネスが行われているか

■市民としての行動
評価基準:地域社会の一員として環境・社会に良い影響を与えているか

■リーダシップ
評価基準:魅力的かつ優れたリーダー・管理者が在籍しており、将来に向けた明確なビジョンがあるか

■財務実績
評価基準:高い収益性と将来の成長性があるか

この7点において成果を上げられればステークホルダーからの厚い信頼を獲得できます。一方で、企業の評価に悪影響を与える事象が発生し、評価基準を達成できなければ、ステークホルダーの信頼喪失につながります。

つまり、企業の評価に悪影響を与え得る事象によって、レピュテーションリスクは顕在化することになります。

具体的にどのような事象がレピュテーションリスクにつながるのかは次項で解説します。

参考:Airmic「Defining and managing reputation risk – A framework for risk managers – – Guide 2015」

レピュテーションリスクが顕在化する原因

レピュテーションリスクが顕在化する原因
企業の評価に悪影響を与える事象は、「内部環境に起因する事象」と「外部環境に起因する事象」に大別されます。

【内部環境に起因する事象】
・商品やサービスの品質低下
・内部告発
・不祥事・コンプライアンス違反
・行政処分・行政指導

【外部環境に起因する事象】
・競合の業績悪化
・風評被害

上記のような事象が発生すると、レピュテーションリスクが顕著化し、企業に大きな損害をもたらす可能性があります。

【内部環境に起因する事象】

内部環境に起因する事象とは、社内や従業員によって引き起こされるものです。

商品やサービスの品質低下

商品やサービスの品質低下によるクレーム・リコールの発生、低レビューの増加は、レピュテーションリスクを招く代表的な事象です。

「広告で掲載されている表示と実際の商品が全く違った」といった悪い情報は、SNSでは瞬間的に広まります。悪質なものであれば、他ユーザーが同様の投稿を行ったり、共感した消費者が商品や会社へのネガティブ意見を発信したりすることも。炎上が大きくなれば、企業が謝罪に追い込まれたり、商品の回収を余儀なくされたりすることもあります。

たとえSNS上での炎上が起きなくても、品質が低下すれば当然顧客は離れます。時間と共に、売上や企業イメージの低下を招くでしょう。

内部告発

内部告発は、企業内部の劣悪な労働環境や不正・改ざん、ハラスメントなど企業内部の大きな問題について、上司や会社を通さず、法律事務所や報道機関、自治体の窓口、事業者団体の共通窓口などの外部の第三者に通報することを指します。近年は、SNS上で世間に対して告発を行うケースも増えてきました。

企業内部の人間が外部に問題を明るみにすることは、社会に対して大きなインパクトを与えます。告発された内容によっては、企業イメージの低下だけでは収まらず、株価や人材採用など広く悪影響が出るリスクがあります。

不祥事・コンプライアンス違反

不祥事やコンプライアンス違反が明るみになることでも、レピュテーションリスクが顕在化します。コンプライアンスとは、法令や社会規範を遵守することです。

下記のような事象はすべて不祥事やコンプライアンス違反に該当します。

・情報漏洩
・独占禁止法違反・下請法違反
・労働法違反
・著作権・肖像権の侵害
・脱税・横領
・各種ハラスメント
・役員や従業員による不適切な発言・SNS発信
・役員や従業員による違法行為
・食中毒・ずさんな衛生管理
・不正会計・不正請求
・インサイダー取引
・マネーロンダリング など

コンプライアンスには、法律・条例だけでなく、社会常識やモラルまで広く含まれます。

不祥事やコンプライアンス違反は、たった1人が起こしたものであっても、企業全体の責任が問われます。規模が大きくなれば、対象者を処分しても、消費者離れや関係企業との取引停止、事業所の閉鎖など企業イメージが地に落ちることもあるでしょう。

行政指導・行政処分

不祥事やコンプライアンス違反は、監督官庁からの行政指導・行政処分につながりかねません。

行政指導とは、行政機関がある特定の人や事業者などに対して、協力を求めて助言・指導・勧告・警告などを行うことです。行政指導は、あくまでも行政からの「お願い」で、強制力はありません。

行政処分は、行政機関が法律に基づいて対象個人・法人の権利を制限するものです。つまり行政からの「命令」であり、強制力を持って悪質な行為を罰するために発せられます。

行政指導でも行政処分でも、企業が利益のためには法令や社会規範に反してもよいスタンスであるイメージが付いてしまいます。

さらに、行政指導や行政処分を受けた記録は残ります。将来的な顧客の獲得や新規の取引にも長く影響を及ぼすでしょう。

【外部環境に起因する事象】

外部環境に起因する事象は、競合企業や顧客、消費者によって引き起こされるものです。

競合のトラブル・業績悪化

自社の経営が順調であっても、同業他社が不祥事・コンプライアンス違反を起こしたり、業績が悪化したりすると、同じ業界の他企業にも飛び火することは珍しくありません。業界全体の風土や経営スタンスが問われることで、自社の経営を脅かす事態になるリスクがあるのです。

また、関係企業であれば自社にも調査が入ったり、憶測で悪い噂が広がったりして、売上や企業イメージ低下も招くことがあります。

風評被害

風評被害によって、レピュテーションリスクの顕在化につながることがあります。

デマ情報が出回り、世間に誤解されることで企業イメージが下がる可能性は十分にあります。ライバル企業によって、悪意のある情報が意図的に拡散されることもあるでしょう。

事実ではない情報・根拠のない悪評でも、インターネットやSNS上で拡散されれば、レピュテーションリスクにつながるのです。

大きな影響を及ぼしたレピュテーションリスク事例

大きな影響を及ぼしたレピュテーションリスク事例
レピュテーションリスクによる、損失はどこの会社でも起き得るものです。ここからは、実際にレピュテーションリスクが顕在化し、経営に大きなダメージを与えた事例を紹介します。

自社での経営体質や経営方針の見直し、潜在リスクの摘み取りなどの参考にしてください。

事例1.バイトテロによって事業停止・破産

2013年8月に、大手宅配ピザチェーンのフランチャイズ店に勤務していたアルバイト店員が、不適切な写真をSNS上に投稿。投稿された写真は、厨房のシンクに座ったり、冷蔵庫に入ったりと、衛生管理や食品に対する信用を地に落とすものでした。いわゆる「バイトテロ」です。

投稿は、SNS上で大炎上し、クレームが殺到。企業側は謝罪したものの最終的に運営会社は破産に追い込まれました。

事例2.情報漏洩によって140億円以上の損失が発生

2011年世界的大手電機メーカーで、不正アクセスによって7700万件の個人情報が流出しました。氏名や住所、生年月日といった個人を特定できる情報のほか、クレジットカード番号も漏えいした可能性があり、多くのユーザーの混乱を招きました。

この不正アクセスは、同社に対して約140億円の損害を与えたといわれています。

事例3.新入社員の過労死によって企業に有罪判決

2016年、大手広告代理店で新入社員が過労死(自死)した問題が発覚。100時間を超える時間外労働やパワハラなどを苦にしたものだとされ、同社の悪質な労働環境が明らかになりました。亡くなった社員のSNSには、連日の長時間労働やパワハラの実態が書き込まれており、ネット上では大炎上、各社報道機関も大きく取り上げました。

悪質な労働環境に対しては、労働基準監督署の捜査が入り、労災に認定。2017年には、同社に対して、違法残業を防止する措置を怠ったとして、罰金50万円の有罪判決が出ています。

事例4.女性を揶揄する広告がSNSで炎上

2018年大手飲料メーカーが、女性に人気の商品の広告として、女性あるあるをネタにしたイラストをSNSに投稿しました。しかし、女性をカテゴライズしたうえで、イジる・嘲笑するような切り口であったため、ネット掲示板やSNSで多くの批判が集まりました。

同社は投稿を即削除・謝罪しましたが、その謝罪文が定型文をそのまま貼り付けたような文章で、さらに炎上が過熱。女性が支持層となっている主力商品のブランドイメージを毀損した形となりました。

事例5.不正会計で375億円の損失が発生

2016年大手フィルムメーカーの海外子会社で、不正会計が発覚。同企業では、6年間にわたって不適切な会計処理が常態化しており、最終的に375億円もの損失が発生しました。

不正に対する内部告発を子会社上層部が隠ぺいしようとしたことまで明るみに。この不正会計処理によって、子会社の会長ら役員6名が退任に追い込まれました。

事例6.同企業名の不祥事の風評被害で問い合わせが殺到

2019年、テレビのドキュメンタリーで、タオル縫製工場の技能実習生の劣悪な労働環境が取り上げられました。問題の企業の名前は伏せられたものの、放送後にインターネット上では特定しようとする動きが起こり、結果的にまったく関係のない企業について特定情報が拡散されました。

誤った情報が拡散された企業は、インターネット上で炎上。誹謗中傷や犯罪予告を受けたうえ、取引先との契約に実害が生じることとなりました。

事例7.不祥事が続いて度重なる国からの指導

某大手航空会社は、1年以内に事業改善命令を2回受けた初めての航空会社となりました。2018年と2019年にパイロットの飲酒問題によって行政処分にあたる事業改善命令を受領。事業改善命令を受けながらも、度重なるパイロットの飲酒が発生したことについて、国土交通省航空局から、「危機感が薄い」として厳しい警告が出されました。

なお、2023年には、同社の航空機整備を行うグループ会社が適切に整備を行わず、行政指導にあたる業務改善勧告を受けています。

レピュテーションリスクへの対策

レピュテーションリスクへの対策
レピュテーションリスクが顕在化すると、企業に大きな損害を与え、最悪の場合は倒産にまで追い込まれる可能性があります。レピュテーションリスクへの対策として下記が挙げられます。

・社員教育の徹底
・上層部の意識改革
・レピュテーションマネジメントの徹底
・インターネット上の情報の監視の強化

最後は、健全な企業運営を保てるよう、レピュテーションリスクの対策について確認しましょう。

社員教育の徹底

レピュテーションリスクを下げるためには、コンプライアンス研修を実施し、従業員の意識改善・行動改革を促すことが重要です。具体的にどのような行為が企業の評判に影響を与えるのか、会社や関係企業にどのような影響を与えるのか、理解を促して問題を発生させないマインドを育てましょう。

とくに、近年はSNSでの不適切な発言や動画の発信が発端となった炎上騒動が頻発しています。ネットリテラシーの教育にも取り組みましょう。

上層部の意識改革

企業の体質は上層部の思考が大きく影響します。経営層や管理職のコンプライアンス意識がアップデートされていないと自浄作用が働かず、不祥事や不正が起こりやすい企業体質になってしまいます。そのため、まずは上層部が高いコンプライアンス意識を持つことが重要です。

とくに労働環境は現場の一般社員による改革が難しく、上層部や管理者のコンプライアンス意識が低いことで長時間労働やハラスメントが横行したり、不正行為を招いたりとさまざまな問題に発展します。

上層部の意識が変われば、レピュテーションリスクを大きく低減させることが可能です。

レピュテーションマネジメントの徹底

レピュテーションマネジメントとは、企業の評価を落とさないよう対策したり、企業の評判に悪影響を与える事象が発生した際の信頼回復に取り組んだりすることを指します。

企業の評判に問題がないときに、その評判を維持・向上させるための取り組みを「攻めのレピュテーションマネジメント」と呼びます。平常時から、健全な経営を行う姿勢を社内外に周知する活動を行いましょう。

レピュテーションリスクが顕在化してしまったときに、失った信頼を取り戻すための取り組みは「守りのレピュテーションマネジメント」です。企業の評価に悪影響を与える事象が発生したときは、適切な対応を速やかに講じて、損害を最小限に抑える必要があります。近年は、守りのレピュテーションマネジメントの失敗により、被害が拡大する事案も多々あるため、非常時の会社側の対応について社内でルール化しておくようにしましょう。

インターネット上の情報の監視の強化

インターネットやSNSでは、毎日のように新しい情報が発信されています。ステークホルダーのレピュテーションの評価に影響を及ぼす要因について、どのような意見や情報が出回っているのか、日ごろからネット上の情報を監視しておくことで、レピュテーションリスクを低減することが可能です。

インターネット上の悪い評判が拡散されてしまう前に、問題の改善や法的な措置を講じられれば、被害を抑えられる可能性があります。できれば専門の対応するチームを設置しておくとよいでしょう。

まとめ

レピュテーションリスク記事のまとめ
今回は、経営にネガティブな影響を与えるレピュテーションリスクについて詳しくお伝えしました。インターネットが普及した現代社会では、レピュテーションリスクが高まっており、実際に多額の損害が出たり、倒産してしまった企業が多く存在します。

一度下がってしまった企業の評価の回復は時間もお金もかかるものです。企業の評価に悪影響を与える事象が発生する前に、すぐにでもレピュテーションリスクへの対策に取り組みましょう。

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