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労働時間と残業代の処理は大丈夫?

労働時間と残業代の処理は大丈夫?

いわゆる「ブラック企業」の代名詞ともいえる超過勤務。日常的に長時間勤務を強いることさえ違法であるというのに、「手当」などの名目で正当な残業代が支払われていないという話も耳にします。
労働時間の管理と残業代の支払いについて考えてみることにしましょう。

残業代を支払う根拠は

労働者が受け取る給料は、労働の対価です。予め決められた条件に基づいた労働をすることで、同じく決められた給料が得られることになります。その条件を超えて労働を提供したときは、「残業代」として正当な対価を得るのは当然のことです。ですが、それがしっかり守られている企業がどれほどあるでしょうか。

そもそも労働時間は、法律によって「法定労働時間」として決められています。それを超えて労働させた場合には、雇用者は割増賃金を残業代として支払わなくてはいけません。
法定労働時間は、基本的には「1週あたり40時間」、つまり1日8時間ということになりますが、これはあくまで基本です。1ヵ月単位で労働時間を定めたり、1年単位で計上したりする場合もありますし、フレックスなど、ワーキングスタイルによっても変わります。

また、俗に「サブロク協定」(36協定)と呼ばれている協定を労使間で結ぶと、この法定労働時間を超えて労働させたり、休日に勤務させたりすることが可能になります。ただし、この協定は労働基準監督署への届け出が必要であること、無制限の時間外労働が可能になるわけではないこと、協定を結んでいても時間外労働への残業代は支給しなければならないことなど、注意点もあります。

法定労働時間と所定労働時間

法定労働時間内であったとしても、残業代を支払わなくてはならないケースもあります。それは、就業規則や契約によって定めた条件を超えて労働させた場合です。「1日8時間勤務」といいながら、7.5時間であったり7時間であったり、すべての企業がきっちり8時間労働を就業規則で定めているわけではありません。また、「昼休み1時間」といっても、実は労働時間とされない「休憩時間」と、労働時間に含まれる「休息時間」が混在していたりします。

細かく見ていくと複雑な話になるので割愛しますが、会社が就業規則で定めた勤務時間は、法定労働時間に対して「所定労働時間」といいます。この所定労働時間をオーバーした分については、たとえそれが法定労働時間内であったとしても、残業代を支払わなくてはいけません。

ただし、法定・所定のいずれの労働時間を超えたのか、それによって残業代が変化します。法定労働時間を超えた場合は、25%増の割増賃金を支払うことになりますが、所定労働時間を超えた場合には割増分は不要で、給与を時給換算した額を支払えば良いとされています。もちろん、さらに残業が延びて法定労働時間を超えてしまったら、その分は割増賃金を支払わなくてはいけません。

こんなケースでは残業代の支払いは不要

ここでは例を挙げて、残業代を支払わなくてもいいケースについてお話ししましょう。

【事案1】

労働者Aは、ある飲食店で月給25万円で働いていた。だが、その内訳を定めた雇用契約書はなく、交わしたのは就職時の店主との「月給25万円」という口約束だけだった。
この状況は危険であるとコンサルタントから忠告され、店主は「週当たり所定労働時間44時間、基本給20万円、職務手当50,000円(残業代として支給)」という内容の雇用契約書を作成。Aと36協定を結び、届け出も済ませた。
数ヵ月後に退職したAは、その後、労働基準監督署に「勤務中の残業代が未払いだ」との申し出を行った。

【結果】

雇用契約書を作成しており、その中で残業代について明確に記載してあること、36協定の届け出があることなどから、労働基準監督署の調査の結果、残業代の未払いはないと認められた。

この例では事前に雇用契約書を作成していたため、未払いなしと認定されました。ですが契約書がなく、就職時の口約束だけであったならば、毎月の25万円には「残業代は含まれていない」という判断から、新たに残業代の支払いが必要になったと思われます。きちんとした書類を整えておいたために支払い不要となったケースです。

残業代を支払わなくてはならないケースとは
では逆に、残業代を支払わなくてはならないケースとはどのようなものでしょうか。代表的な事案をご紹介します。

【事案2】

A社では残業代を支給していない。採用時にはその旨を本人に伝え、雇用契約書にも明記してある。当事者間の合意があるので、たとえ請求されても支払う必要はないとの考えでいた。

【結果】

法律には、当事者間の合意によって法律に優先する取り決めができるもの(任意法規)と、できないもの(強行法規)がある。労働基準法は後者の「強行法規」にあたり、たとえ当事者間での合意があっても、法律を超える取り決めを設定することはできない。そのため、A社は残業代を支払う義務がある。

【事案3】

定時になると社員にタイムカードを打刻させて、見かけの労働時間をカットし、残業代を支払わないようにしていた。

【結果】

会社側の事情のみで無賃労働を強いているため、当然のように残業代の支払い義務はある。確信犯的であり、非常に悪質な例とされる。

そのほか「年俸制だから残業代は出さない」「名ばかりの管理職にして、残業代をカットする」など、実に多くの例があります。これは日本の企業の多くが、すでに慣習的に「残業代は払わない」という姿勢に傾いていることの表れかもしれません。ですが、これらの多くは明らかな違法行為であって、企業姿勢が問われるべき事案です。

残業代は正当な労働の対価です。それをカットしては社員のモチベーションは下がるばかりで、良い仕事につながるとはとても思えません。心当たりがあるなら、すぐにでも改善すべきことです。

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