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組織デザインとは?求められる要素やフレームワーク「7S分析」を解説

組織デザインとは?求められる要素やフレームワーク「7S分析」を解説

合理的かつ効率的な組織を構築し、長く成長を続けるためには、従業員の能力を活かせる環境づくりが重要となります。そこで採用されているのが「組織デザイン」です。
本記事では、組織デザインと実施時に重要な要素に加え、組織を再構築するときに参考となる基本の組織形態や事例3選を解説します。

組織デザインの基礎知識

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まずは、組織デザインがどのような概念なのか、なぜ重視されているのかという基本的なところから確認しておきましょう。組織の再構築を考えるうえで違いを把握しておきたい単語についても触れています。

組織デザインとは?

組織デザインとは、従業員が個々の能力を発揮できる体制を構築し、その体制を最大限に生かせる組織を構築することを指します。

組織を構成する要素のうち、切り離して考えられない最も重要な要素が「人」という存在です。人、つまり従業員が適材適所に配置され、能力が十分に発揮できる環境があるうえで、それを生かす体制づくりができていれば、組織として最大限のパフォーマンスを発揮することができるのです。

組織デザインと似た単語の違い

組織デザインと似た単語として「組織開発」や「組織改革」があります。よく目にする単語ですが、それぞれ異なる概念なので違いを把握しておきましょう。

「組織開発」とは、組織内の従業員の内面や従業員同士の関係性、組織の風土など目に見えない問題に働きかけ、組織を活性化させるための取り組みです。組織の抱える課題を究明し、個々の従業員が当事者意識を持って解決を図ることで組織の健全化を目指します。組織デザインは「組織の構造」に、組織開発は「組織内の人間関係」に着目して組織を良くしようとするアプローチなので、似て非なる言葉であることがわかります。

また、「組織改革」とは、事業の成長に向けて、組織の風土や体制など従来の組織の在り方を根本的に変えることを指します。組織デザインはパフォーマンスを最大化できる組織を再構成することであり、組織改革と言い換えることができます。組織デザインは、組織改革の一部であり、組織改革を実現するための要素といえるでしょう。

組織デザインの重要性

近年、働き方や価値観などが多様化しており、企業を取り巻く環境が急速に変化し、不確実で複雑かつ曖昧な状態にある将来の予測が困難なVUCA時代に突入しているといわれています。従来の常識を覆す変化が次々と起こることから、たとえ優秀な人材であっても個々人が変化を掴んで企業の成長につなげることは不可能に近いといえます。

そのなかで、組織のパフォーマンスを上げるためには、組織に属する1人ひとりが持っている強みや能力、価値観を活かして、組織が一体となって取り組む必要があります。今後、企業が成長するためには、組織デザインの実施が鍵になるといえるのです。

組織デザインの実施において求められる3つの要素

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組織デザインは組織改革の一部であることはお伝えしました。最終的に組織改革を実現するためには、下記の3つの要素も考える必要があります。

  • リーダーシップ
  • 戦略
  • 文化

これらの要素をバランスよく設計することで、より良い組織デザインの構築につなげることができます。

リーダーシップ

戦略実現に向けて必要な業務は、メンバーの能力に合った人事配置を行ったうえで分業する必要があります。しかし、優秀なリーダーでなければ部下1人ひとりの適性や秘めた能力を見定め、適正な業務を振り分けることができません。よって、組織には部下の能力を引き出し、チームをまとめられる「リーダーシップを持った人材の存在」が欠かせないのです。

さらに、企業には部門・部署・課など細分化された小さな組織が複数存在しています。それぞれの小さな組織にチームを導けるリーダーがいなければ、与えられた目標を実現することができず、たとえ優れた戦略や企業文化があっても意味を成しません。

目標達成に向けた人材配置と部下の能力開発ができる優秀なリーダーの存在は、組織改革成功の要といえるでしょう。

戦略

どのような業界においても似た商品・サービスを提供する企業が複数存在するものです。そのなかで競合優位性を発揮するためには、自社ならではのビジョンを実現するための「経営戦略の明確化」が重要になってきます。

戦略が不明瞭であれば、目標を達成するために、どこのチームの誰がどのような業務をどれだけの期間で遂行しなければならないかも不明瞭になってしまいます。この場合、優秀なリーダーであっても、人材を適材適所に配置し、必要な業務を割り振ることは困難です。

一方で、明確な経営戦略があれば、リーダーはもちろん従業員全体が同じベクトルを向いて業務に取り組むことができ、個人に求める具体的な行動も設定できます。経営戦略は、組織のパフォーマンスを向上させ、組織改革を成功させるための軸として機能するといえます。

文化

企業に求められるものが変化している現代においては、「企業文化の改善」も重要です。企業文化は自社らしさを形作る要素であり、企業の価値や魅力に大きな影響を与えます。戦略が従業員のベクトルを合わせる要素であるように、企業文化は従業員の共通認識を合わせる要素だといえるでしょう。

しかし、この企業文化の改善は、他の要素と比較しても変えることが難しいといわれています。多くの企業で勤続年数が長い人間が経営層や管理職に付いており、古い体制や保守派側の意見のほうが通りやすいことから、組織改革を阻害する力が強く働きます。他方で、現行の企業文化が必ずしも悪いとは限らないため、現状の分析を行い、客観的に見て改善が必要であるかを判断する必要があります。

古い考え方や文化に捕らわれず、時代に合った企業文化を定着させることが、組織改革の成功に不可欠だといえるでしょう。

代表的な3つの組織デザイン

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組織を再構築する場合、基本の組織形態が参考になります。

  • 事業部制組織
  • 機能別組織
  • マトリクス組織

ここからは、それぞれの特徴をみていきましょう。

事業部制組織

「事業部制組織」とは、事業ごとに組織を分ける組織形態です。複数の事業を展開する日本の大企業でよく採用されており、下記のように細分化されます。

  • 製品別事業部組織:商品・サービスごとに事業部を編成する
  • 地域別事業部組織:事業活動を行う地域ごとに事業部を編成する
  • 顧客別事業部組織:顧客の特性ごとに事業部を編成する

事業単位で経営ができる組織構造なので、マネジメントや意思決定を円滑に行える点がメリット。3つの事業部制組織のなかでは、製品別事業部組織が最も一般的な形で、幅広い分野の製品・サービスを扱う大企業では統制を取りやすい組織形態といえます。ただし、事業部ごとに人材・設備・機能が重複することから経営効率が落ちやすい傾向があります。

そこで、近年では事業部制組織の発展形といえる「カンパニー制/カンパニー型組織」という組織形態が多く導入されています。事業ごとに組織を分ける点は従来の事業部制組織を引き継いでいますが、カンパニー制では事業ごとの組織を一企業(カンパニー)のように扱う点が特徴です。経営判断を事業部単体で行うことができるため、独立性・自律性が高く、従来の事業部制組織よりも最適かつスピード感のある意思決定と業務遂行が可能となります。

機能別組織

機能別組織は、経営するうえで必要な機能ごとに組織を分ける組織形態です。たとえば、総務部・営業部・人事部・製造部など、部署単位で組織が構成されます。特定分野の事業を営むことが多い中小企業で広く採用されています。

機能ごとに業務を分担することになるため、知識やノウハウが蓄積されやすく生産性が向上する、専門性を高めやすく人材育成がしやすいといったメリットがあります。業務内容に重複がないため経営効率が良い一方で、部署間の連携が取りづらく、経営層の調整役としての責任が大きくなります。

マトリクス組織

マトリクス組織は、事業部制組織と機能別組織をミックスさせた組織形態を指します。各事業部と各機能別部門が縦軸・横軸として存在しており、従業員たちは事業部と部門に同時に所属、上司は2人いるという網の目のような組織構造となります。複雑な構造となるため、採用例はそう多くありません。

マトリクス組織は、下記のように細分化されます。

  • バランス型:各プロジェクトメンバーから責任者を選出する。部門ごとのリーダーは別に存在する
  • ストロング型:プロジェクトのマネジメントに特化した専門的なプロジェクトマネージャーを配置し、独立した部門を新設する
  • ウィーク型:ウィーク型はプロジェクトの責任者をあえて配置せず、各メンバーが自らの責任で業務を遂行する

指揮命令系統が複数存在していることから、状況に合わせて従業員を柔軟に動かすことができます。また1人ひとりの業務の幅が広いため、生産性の向上も見込まれます。一方で、事業部・部門のトップのパワーバランスが難しく、各従業員のプレッシャーも大きくなる傾向があります。

組織デザインのフレームワーク「7S分析」のポイント

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組織デザインのため自社の現状を洗い出すためには、「7S分析」が有効です。7Sとは、アメリカの大手コンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した組織を7つの要素に分けて分析し、多面的に課題を洗い出すフレームワークです。

「7S」から自社を分析して課題を見つける

組織デザインを成功させるためには、自社の現状を把握しなければなりません。そこで、自社の7Sを分析し、課題を洗い出すことから始めましょう。

7つの要素は企業の構造や仕組みといったハード面と、従業員に関するソフト面に分類できます。

【ハードの3S】

  • 戦略(Strategy)
  • 組織構造(Structure)
  • システム・制度(System)

【ソフトの4S】

  • 共通の価値観(Shared Value)
  • 人材(Staff)
  • スキル(Skill)
  • 社風・経営スタイル(Style)

全ての要素をバランスよく調整し、正常に機能させることが目標となります。ただし、ハードの3Sとソフトの4Sでは改善にかかる時間と難易度が異なり、調整のバランスが難しいことに注意が必要です。

【短期】ハードの3Sの改善を目指す

企業の構造や仕組みにかかわるハードの3Sは、明確な計画や方向性があれば短期的に改善が可能な要素です。

戦略(Strategy)

戦略とは、事業の方向性や目標達成のための具体的な取り組みを指します。他のハードの要素である組織構造やシステム・制度は、この戦略をもとに決定するため、組織改革の軸となる重要な要素です。経営において優先順位の高い課題や自社の強み、経営資源の配分など戦略面を分析します。

組織構造(Structure)

組織構造とは、組織図で表される組織仕組み、形態を指します。具体的には、各部門の地位や役職の職務権限、指揮命令系統のほか、上司と部下の関係性、コミュニケーションの量なども含まれます。戦略にマッチしている構造であるかを分析するのがポイントです。

システム・制度(System)

システム・制度とは、情報システムや社内制度など、円滑な事業運営のための仕組みを指します。具体的には、人事評価・労務管理・目標管理・採用基準・給与体系・業務マニュアルなどが含まれます。システム・制度に問題があると、従業員のモチベーションや健康維持が困難となり、離職率の増加や生産性の低下を招くため、公正公平や透明性を分析する必要があります。

【長期】ソフトの4Sの改善を目指す

人。つまり従業員にかかわるソフトの4Sは、企業が方針を示したからといって短期間の改善が見込めません。しかし、最初にお伝えしたとおり、組織と人は切り離せない存在であり、人がいなければ組織は成り立たず、目指すビジョンも実現しません。

共通の価値観(Shared Value)

共通の価値観は企業理念や共通認識を指します。経営層と一般の従業員における価値観の乖離があると、組織として一体感のある運営ができません。経営層の価値観や意思を組織全体に浸透させることが重要となります。

人材(Staff)

人材は、従業員そのもの、並びに採用活動・教育・人材管理を指します。業務に必要な能力を持つ人材を確保し、モチベーションを維持できなければ、組織が最大限のパフォーマンスを発揮することはできません。戦略を実現できる能力を備えた人材の数や育成方法、組織に対する不満や満足度などを分析し、従業員が働きやすい環境の整備が求められます。

スキル(Skill)

スキルは、組織として持っているスキルやノウハウ、自社の強み(コアコンピタンス)を指します。具体的には、営業力・技術力・マーケティング力のほか、従業員個人が持つスキル・経験・資格などが含まれます。他社と比較したときに抜きんでているスキルがあることで、競合優位性を獲得しやすくなります。

社風・経営スタイル(Style)

社風・経営スタイルは、自社ならではの経営方針や風土、企業としての特徴を指します。明文化されているシステム・制度とは異なり、社内で自然発生し、定着している暗黙のルールや習慣、企業としての気質、代々受け継がれている価値観などが含まれます。人材のエンゲージメントや離職率に大きく影響を与えるため、理想とする組織像と乖離がないかを確認する必要があります。

ハードとソフトの両面から改善することが重要

一般的に、ハードの3Sは短期間での改善が見込めることから、課題解決に向けて着手しやすい傾向があります。一方で、ソフトの3Sは、長期的な取り組みが必要となるため、問題が放置されることが多々あります。なかには、ハード面を変えれば課題が解決され、組織改革が実現すると思い込んでいるというケースも見受けられます。

しかし、組織の仕組みや枠組みを変えただけでは、組織の大部分を構成する従業員は大きく変わりません。経営層が考える理想と現実の差が広がり、それに気が付かないまま経営を続ければ、組織の崩壊もあり得ます。

ハード面・ソフト面どちらから手を加えるのかという改善の優先順位は各企業の状況にもより、さまざまな意見がありますが、共通して“ハード面のみに注力しない”ことが重要です。7Sの中核は、戦略や組織構造、システム、集まる人材の中心となる「共通の認識」であることから、むしろソフト面に注力すべきという考え方もあります。

いずれにしても、ハードとソフトの両面の改善にバランス良く取り組まなければならないことに留意しておきましょう。

組織デザインを導入した企業3選

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最後は組織デザインを導入し、組織改革を図った企業を3社ご紹介します。それぞれ時代や事業の変化に合わせて組織を変えることで、成長を続けている企業です。

楽天株式会社

楽天株式会社は、2016年4月からカンパニー制を導入しています。60以上あったビジネスユニットを13のカンパニーに集約。さらに、それまでは各事業部組織に所属していた人材をカンパニーに配置し、サービスの開発・提供の迅速化・品質の向上と、顧客満足度の最大化に乗り出しました。

さらに、2018年には、4つあった金融系のカンパニーを1つにまとめ、サービス間における連携の強化やシナジーの最大化、パートナー戦略の推進を図っています。各事業を取り巻く環境の変化に対して柔軟に対応できるよう、適宜組織の最適化を行っていることがわかるでしょう。

パナソニックHD株式会社(松下電器産業株式会社)

パナソニックHD株式会社は、松下電器産業株式会社の時代に国内でいち早く事業部制を導入した企業です。1933年の創業者である松下幸之助氏が取り入れ、70年以上に渡って事業部制組織で企業を発展させてきました。

しかし、テクノロジーの進化や消費者の価値観の変化により、国内の家電業界が構造不況に見舞われたことで、2001年に事業部制を廃止、機能別組織を導入しています。これにより一時は業績がV字回復を果たしました。しかし、機能別組織になったことで技術部と営業部が分離し市場ニーズを掴み切れなかったこともあり、業績は再び低迷し、赤字計上に。そこで、2013年に再び事業部制組織(カンパニー制)を導入し、ここでも業績をV字回復させました。

長い歴史のなかで、2度の大きな危機を経験したパナソニックは、組織改革で乗り切って聞いたといえるでしょう。2022年には10年ぶりの組織改革を行い、持株会社制に移行しています。

トヨタ自動車株式会社

世界のトヨタ自動車株式会社は、2016年にカンパニー制と地域別事業部組織のマトリクス組織に移行することを発表しました。縦軸として車のタイプごとに4つ・技術分野ごとに3つの計7つのカンパニーを、横軸として各カンパニーを横断するように地域別のビジネスユニットを編成しました。

トヨタは、世界最大級の自動車メーカーであり、グローバル展開をしていますが、このマトリクス組織の導入によって、ローカル市場の動向を掴みやすく、地域ごとのニーズを反映した経営が可能になりました。さらに、重複機能を減らしたことで、経営資源の無駄が削減され、活用しやすくなっています。

企業の成長には時代に合わせた組織の見直しが必須!

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本記事では、急激な変化を続ける現代の企業に欠かせない組織デザインについて詳しく解説しました。その時々の価値観やニーズに合わせた経営を行うためには、定期的に組織デザインを見直したいところです。柔軟に組織を変えることで、優秀な人材をより有効に活用し、環境の変化に対応することができるようになります。

成長を続けている大企業をみても、状況に応じた組織改革を行っています。現状の課題解決や今後の成長に向けた取り組みを模索している企業は、組織デザインを含めた組織改革を検討してみてはいかがでしょうか。

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