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始まったストレスチェック制度 職場のメンタルヘルスケアの重要性

始まったストレスチェック制度 職場のメンタルヘルスケアの重要性

心の不調である「メンタルヘルス不調」は、この10年ほどのあいだにかなり認知度が高まりました。そしてその患者数が増加傾向にあることも、すでに広く知られています。そのため、心の健康を保つためのメンタルケアの重要性が、ますます高まっています。

立ち遅れてきた日本のメンタルケア

鬱(うつ)をはじめ、メンタルヘルス不調にはさまざまな種類があります。そしてそれらの不調の多くは、ストレスが原因となっています。そうしたことから、とかくストレスを受けやすい仕事中のメンタルケアが重要視されるようになってきました。

振り返ってみると、日本の企業では「心の健康管理」というものが、ほとんど顧みられることがありませんでした。多すぎる仕事量や人間関係などによるストレスでメンタルが弱ってしまうと、「弱い人間」「ダメな奴」などと決めつけられることもありました。定期的な健康診断で体の異常はチェックしていても、社員の心の不調を早期に見つけ、適切なケアを行うという企業がどれほどあったでしょう。こうした傾向は、とかく精神論に傾きがちな文化を持つ、日本ならではのものかもしれません。

ですが、近年になってメンタルケアの重要性が世の中に浸透してきました。それとともに「職場での心の健康をどう保つか」という点に注目が集まってきたのは、良い傾向でしょう。メンタルヘルス不調は、本人にとって大きな苦しみであり、企業にとっても人的損失です。それをいかに防ぐかということは、経営的課題でもあるはずです。

始まったストレスチェック制度

こうした流れの中、2015年12月1日に「ストレスチェック制度」(厚生労働省)が施行されました。この制度は、職場でのメンタルヘルス不調の発生を防ぎ、より健康的な就労環境を実現するためのものです。事業者は労働者に対して年1回のストレスチェックを実施し、その結果「ストレスが過剰に高い」と見られる者に対しては、医師の面接指導を行うことなどが、基本的に義務付けられています。

この制度によって企業は、第1回目のストレスチェックを2016年11月30日までに実施することとなりました。すでにテストを済ませた企業もあるかと思いますが、一方で「何をどうすればいいのかわからない」と、右往左往する企業もあるかもしれません(従業員50人未満の事業場については、当分のあいだ努力義務です)。

ストレスチェック制度に対して企業はどう対応するのか

労働者の心の健康を守るために定められたこの制度は、これまで社員のメンタルヘルスに目が向いていなかった企業にとっては、非常に難しい課題でしょう。先にお話しした「精神論に傾きがちな文化」に浸って存続してきた企業であれば、戸惑うこともあるかもしれません。

もちろん、そうした企業側の不安や困惑を和らげ、疑問に答えるために、行政も手厚い対応をしています。厚生労働省のオフィシャルサイトでは、多くの資料や解説書、テンプレート、想定される例を挙げてのQ&Aなどを用意して、万全のサポート体制を用意しています。また、制度の施行とともに、ストレスチェックの実施を受託する業者も数多く登場していますから、そうした業者に依頼するというのも有効な選択肢です。

そもそもストレスチェック自体、単なるアンケートではありません。事前の準備が必要ですし、受検から集計まで、すべての流れを法令に沿って行う必要があります。さらに、ストレスの判定には専門家の判断が不可欠ですし、高ストレス者や面談希望者が現れた場合、どうすればいいのかということにもなってしまいます。

ストレスチェック制度は2015年に施行されたばかりです。ですから労働法規に詳しく、産業医などの専門家とのパイプの太い外部受託業者に実施を依頼するのは、現時点ではとても現実的な判断でしょう。
ですが「専門の業者に任せてあるから」と安心していると、やがて足をすくわれることにもなりかねません。

メンタルケアは企業にとって有益なもの

戦国武将・武田信玄がとった策として、「人は城、人は石垣、人は堀」で始まる言葉が伝えられています。そこには現代の経営哲学に通じる広い意味を見ることができそうですが、字義どおりに解釈するなら、やはり「人材活用の妙を表したもの」ということになるでしょう。

人は城であり、石垣であり、堀でもあります。すべて城を守り、ひいては領地を守るための力となります。ですがその使いどころを誤ってしまったり、本人に合わない環境に配置したりすれば、その人は本領を発揮してくれません。そして、その人がのびのびと活躍できる状況を維持するためには、やはり「心の健康」という要素は、避けて通ることのできないものです。

心と体の両方が健康であってこそ、人は本来の力を発揮できるものです。それを考えれば、社員の体のみならず、心の健康にも目を向け、彼らのストレスを可能な限り減らしていくことは、「人的資産の活用」につながります。仕事の能率はもちろん、職場のモチベーションを高めることにもなるでしょう。ストレスから解放されることで、新たなアイディアやチャレンジが生まれる素地も作られるかもしれません。

「職場のメンタルヘルスケア問題」の解決は、確かに一筋縄ではいかない課題でしょう。できることなら触れたくない話題かもしれません。ですがそこから一歩踏み出し、より健康的なメンタルヘルス環境を作ることができれば、人材活用という面で大きなアドバンテージを得ることもできるでしょう。ストレスチェック制度が施行された今、多くの企業がそうした岐路に立たされているようにも思えます。

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