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長時間労働は解消できるか

長時間労働は解消できるか

残業時間は労働基準法で明確に制限されており、それを超えることは原則として違法です。しかし、こうした明確な法制度があるにもかかわらず、多くの企業で従業員に違法な長時間労働を強いる傾向があります。いつまでも長時間労働はなくなる気配がありませんが、その解決の道はどこにあるのでしょうか?

多くの業界で常態化している長時間労働

2015年12月、大手広告代理店「電通」の新入社員が長時間労働の末に自殺し、数ヵ月後には労災認定されました。そして、電通の本社・支社への強制捜査が行われ、自殺した社員の上司と、法人としての電通が書類送検されました。報道によると、故人の自殺直前の残業時間は月100時間に達していたということですが、実際はそれ以上であった可能性もあります。
第3次安倍内閣でも「働き方改革」を政権の重要課題と位置付けていますから、大手企業ではこれまで以上に、社員の就労環境には気を配っているようです。
実際、長時間労働を抑制する方向に動いているのは、現実的には大手企業まででしょう。中小企業では、なかなか実行できない部分もあります。さすがに月間残業時間が100時間以上ということは極めてまれだと思われますが、法定外の長時間労働を強いる傾向は、まだまだ根強く残っているように見受けられます。

長時間労働を安易に受け入れてしまう労働者の意識

長時間労働で問題になるのは、体力的や精神的な問題ばかりではありません。長時間労働を強いている職場の中には、正規の残業賃金が支払われていないことが多い可能性にも留意しなくてはならないでしょう。
ITの普及や少子化・人口減による市場の縮小傾向、グローバル経済の加速による相対的な競争力の低下。その他さまざまな理由によって、現在あらゆる産業において企業間の競争が激化しています。その中で利益をつかみ、勝ち残っていくためには、たいへんな企業努力が求められます。
その直接の原動力となるのは、日々の業務を動かしていく人の力です。結果、一人の人間が多くの業務をこなし、長時間の勤務を余儀なくされるという状況に陥ってしまっているのです。
規定の勤務時間以上に業務を行えば、当然、残業賃金が支給されることになります。ですが、それは企業にとっては避けたいコストなのです。そこで、正規の残業賃金を支払わずに済むように、さまざまな手法を用いる企業は少なくないようです。
労働者を就業時間以上に働かせておいて追加賃金を支払わないのは許されないことなのに、それを是とする風潮は根強く残っています。企業側の問題であるのはもちろんですが、助長する要素として、長時間労働を安易に受け入れてしまう労働者側の意識にも問題がありそうです。

24時間、戦い続けることがカッコいいという価値観

以前から「日本人は働き過ぎ」といわれてきました。海外の労働者と比較して、日本人の長時間労働を問題視する声は常にあります。一方で、昭和の成長を支えた「社員は会社のため、同僚のために尽くすもの」という日本的な価値観が、使用者側だけでなく労働者側にも根強いのは現実です。こうした価値観がベースにあると、時間外労働に対しても「ここでもう少し踏ん張れば、会社の業績も上向く」「同僚もがんばっているのだから」という、ある種の自己犠牲的な発想が生まれてくるのかもしれません。
ほかにも「常に働き続ける俺カッコいい」という価値観も問題です。
これは、バブル時代を象徴する感覚で、当時のCMでは「24時間戦えますか」というフレーズが当然のことのように放送されていました。実際、当時花形だった広告代理店の営業マンは、「打ち合わせは26時スタートで!」と、局の担当者とテレビ放送が終わる時間に打ち合わせをしていたようです。このような働き方がカッコいいとされた時代だったのです。
若いころにバブルの洗礼を受けた世代には、今もこうした感覚を持ち続けている人が少なくありません。その感覚自体は否定するには及びませんが、それを他人にも強制すると電通のような悲劇を生むことにもつながりかねません。

問題の解決には、労働者側の意識の変革も必要

契約した就業時間内をしっかりと働き、必要以上の成果を出す。繁忙期を除いて残業はしない。仕事の時間と同程度に自分の時間を大切にし、家族と過ごしたり、趣味を楽しんだりする余裕を持つ。このような労働環境は、おそらく多くの人々が理想とするものではないでしょうか。ですが、現在の日本で、こうした働き方を実現できている人が、どれだけいるのかはわかりません。日本の企業全体から見れば、ごく一部に過ぎないでしょう。
誰もが願っているであろう労働環境を実現できないのには、多くの理由があります。低迷する経済状況、業界内での競争の激化、人手不足。これらの要素が積み重なって、一人あたりの作業量の負荷や求められる成果が増大し、それが長時間労働につながっているということは否定できません。ですから、業務の効率を高め、無駄な時間を排除し、短時間で成果を上げられるしくみを作っていくことは、組織として必要な努力です。また、長時間労働を容認する労働者側の意識を変えることも、この問題を解決するために必要なのかもしれません。この2つが両輪として機能してこそ、長時間労働の問題が解決へと動き出すように思われます。

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