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エンパワーメントとは?意味・使い方・メリット・デメリットをまとめて紹介

エンパワーメントとは?意味・使い方・メリット・デメリットをまとめて紹介

エンパワーメントは、人材の採用や育成において近年注目を集めている概念です。世界的企業のなかには、すでに導入し、事業の成功につながっているケースも見られます。変化が激しく、優秀な人材確保が難しくなっている現代において、エンパワーメントを取り入れることで課題の解決や企業の成長につながるかもしれません。

本記事では、ビジネスシーンにおけるエンパワーメントの使い方や分野別の使い方、取り入れるメリット・デメリットを解説します。最後にはエンパワーメントを取り入れた企業事例も紹介していますので、ぜひご一読ください。

エンパワーメントとは?

エンパワーメントとは、組織に属する各個人の持つ能力を最大限に引き出すことを指します。わかりやすく表現すると、「秘められた力(潜在能力)の開花」と言い換えることができます。

ただし、エンパワーメントは複数の分野で使用される言葉で、シチュエーションによって意味が変わることがあります。まずは、エンパワーメントという用語について丁寧に確認しておきましょう。

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empowermentの意味

エンパワーメントは、英語では“empowerment”と表記し、直訳すると「権限付与」「権限委譲」という意味を持ちます。英語のempowerは、「力を与える」「権限を持たせる」という意味の動詞のempowerから生まれました。

管理者が持つべき権限を部下に与えることで、自発的な業務遂行が促進されて、結果的に部下の持つ能力を最大限に引き出し、組織のパフォーマンス向上に繋げるという概念です。元来は、先住民運動や市民運動などのシーンで使用されていましたが、現在では社会福祉・教育・ビジネスなど広く使用されています。

社会福祉におけるエンパワーメントの使い方

医療・看護・介護を含む社会福祉領域におけるエンパワーメントは、障がいを持つ人や患者が自分の意思で、積極的にプロセスに参加する概念を意味します。

社会福祉では、サービスを受ける側がどうしても受け身になりやすく、自分のことはできるだけ自分でしたいという気持ちがあっても、サービスを提供している側に遠慮して言い出しにくい実情があります。

そのなかで、サービスを受ける側を主体としたプロセスを構成するのが、社会福祉におけるエンパワーメントです。障がい者や患者自身でできることを奪わず、積極的な参加を促すことで、できることを増やし、自信を与えることができます。

教育分野におけるエンパワーメントの使い方

教育分野におけるエンパワーメントは、子どもの知識欲や個々の持つ能力を刺激して、子どもの主体性や潜在的な能力を伸ばす概念を意味します。

子どもはそれぞれ個性があり、能力も様々です。しかし、実際の教育現場では、教師や親が学力・運動能力・コミュニケーション力など能力を比較し、一方的に教えるのが一般的。

そこで、学びに対する興味関心や生徒児童同士の共同作業・教職員や地域の人とのコミュニケーションを通じた学びの経験を得ることが重視されるようになっています。エンパワーメントを実施することで、学びの主体性や当事者性を持たせることで、自分で課題と向き合い、自分で行動できるスキルや自信を持たせることができます。

ビジネスシーンにおけるエンパワーメントの使い方

ビジネスにおけるエンパワーメントは、従業員に権限を付与することで自律的な行動を促進させ、潜在的な能力開発を目的とした概念を意味します。

ビジネスでは、エンパワーメントを重視したエンパワーメント経営も始まっています。社員それぞれの自立性や能力を高め、迅速な意思決定や多様なニーズへの臨機応変な対応などを可能にすることで、企業全体の組織力の向上が期待できます。

エンパワーメントの歴史

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エンパワーメントは中世の時代において、公的な権威・法律的な権限を与えるという意味で使用されていました。

社会学的に用いられるようになったのは、1960年代の黒人差別に対する公民権運動あたりからといわれています。その後、1980年代の女性解放運動もあり、エンパワーメントという言葉は、立場の弱い人々の存在意義を認める社会変革を表す概念として広まっていきました。

2010年には、国連や国連婦人開発基金などが共同で、女性のエンパワーメント原則(Women’s Empowerment Principles=WEPs)を作成。これはジェンダー平等と女性のエンパワーメントを経営の核に位置づけた7つの原則から成り立っています。つまり、社会福祉・教育・ビジネスで広く使われるなか、現在でも社会的な地位の向上を目指す言葉として用いられているのです。

引用:女性のエンパワーメント原則(WEPs)【男女共同参画局】

エンパワーメントが注目されている理由

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少子高齢化によって日本は、人材不足が深刻化しています。さらに、現代社会は将来の予測が困難なVUCA時代に入っており、たとえ優秀な人でも1人で急激な変化に対応することはできないといわれています。さらに、そこで重要になるのが、柔軟な対応ができる人材の確保です。

スピーディーな経営判断や中途人材の早期戦力化ができないと、世の中の変化に合わせた事業を運営することができません。人手不足、かつ変化の激しいVUCA時代に成長を続けるための組織を築くためには、エンパワーメントによって個々の自律性を高め、組織力が必要不可欠になってきているのです。

エンパワーメントが組織に及ぼすメリット

 
エンパワーメントを重視し、従業員の自律性が高まることで具体的には下記のようなメリットが生まれます。

  • 生産性の向上
  • モチベーションの向上
  • 責任感の醸成
  • 次世代リーダーの育成

1つずつみていきましょう。

生産性の向上

従業員1人ひとりが裁量・権限を持つことで、各々が意思決定を下せるため業務スピードが上がります。逐一上司の許可を得る必要がないため、管理者側の業務量も軽減されます。先述のとおり、世界はVUCA時代に突入しており、従来の意思決定のスピードでは時代についていけないという危機感が生じています。エンパワーメントを進めることで、迅速な意思決定を可能にし、組織全体の生産性の向上が期待できるのです。

モチベーションの向上

裁量や権限を与えられた従業員は、課題の発見・解決や目標達成を、自分自身の力で目指すことになります。そのなかで、成功させたい、成功させなければならないというモチベーションの向上が見込まれます。どうすれば自分が良いパフォーマンスを発揮できるのか考え、成功体験を積み重ねることができれば、やりがいや働きがい、達成感、仕事への自信にもつながるでしょう。

責任感の醸成

一般的に、管理職以外の従業員は、指示を受けたとおりに仕事を進めれば、たとえ結果が出なくても責任は問われません。しかし、エンパワーメントで権限を持つことになれば、自分が下した決定に責任が生じることになります。結果的に、仕事に対する責任感が増し、当事者意識を持って業務に取り組める人材が育ちます。

次世代リーダーの育成

普段から自分の責任で意思決定を行うことで、どのような戦略で目標を達成するのかを常に考えることになります。単に自分自身の能力が養われるだけでなく、周囲の人材が持つ能力を活かすマネジメント能力も身につきます。人材不足の現代、とくに不足しやすいのが次世代のリーダーです。組織を率いたときに、必要な能力を磨く機会が多く、次世代リーダーの育成にもつながるといえるでしょう。

エンパワーメントが組織に及ぼすデメリットと対策

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エンパワーメントの概念を取り入れた組織運営では、数々のメリットがあるものの、一部デメリットを生むこともあります。

  • 個人の行動が組織の方向性とズレが生じることがある
  • 権限委譲する従業員を見極める必要がある

エンパワーメントのマイナス要素を最小限に抑えるための対策を一緒にみていきましょう。

個人の行動が組織の方向性とズレが生じることがある

エンパワーメントでは、従業員1人ひとりが自分の意思で決断を下します。これはメリットでもあり、デメリットでもあります。個人が決定した行動が組織の方向性とズレている場合、企業の価値観や目標達成と合わなくなる可能性があります。

個人と企業の方向性を一致させるためには、従業員にある程度の裁量を与えつつ、意思決定できる範囲を明確に定め、重要な決定では上司への相談を求める必要があります。企業としての方針やまとまりを維持できるよう従業員へのルールの周知が必要です。

権限委譲する従業員を見極める必要がある

人には向き不向きがあり、自分の権限で判断・行動するのが得意な人ばかりではありません。なかには、依頼された仕事を正確にこなすことでパフォーマンスが最大限発揮される人もいることから、権限委譲をする従業員を見極める必要があります。大きな権限や責任をプレッシャーに感じ、メンタル不調に陥ってしまう人もいるので管理者の部下への理解やマネジメント能力が重要です。

権限委譲する従業員は、個々の能力・性質・キャパシティを把握したうえで、本人の意思も確認しつつ選定するようにしましょう。権限を与えたあとも、定期的に面談をしたり、判断基準の確認をしたりと、問題がある場合は立ち止まって対策を講じながら進めることがポイントです。

エンパワーメントを高める2種類のアプローチ

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組織的にエンパワーメントを高めるためには、構造的アプローチと心理的アプローチの2つの方法があります。特徴を確認し、状況に合わせて活用するものを選びましょう。

構造的アプローチ

構造的アプローチは、組織の構造上権限を持っている人が、権限を持たない人に権限を委譲するものです。具体的には、経営陣や管理者が現場メンバーに権限を委譲し、現場メンバーの自律性の向上と組織力の向上を目指します。権限の委譲がはっきりわかるため、エンパワーメントを高めやすいといえます。

心理的アプローチ

心理的アプローチは、従業員の自己効力感を高めるよう促す方法です。やる気・興味・自信などの本人の内から湧き出る心理を動機として、モチベーションを管理するため、構造的アプローチのように誰から誰に権限を与えるというものではありません。本人の心の在り方を変え、従業員が自分は目標達成を実現できる能力があることを信じられる状態になるよう誘導します。

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エンパワーメントを高めるためのポイント

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ここからは、エンパワーメントを上手に組織に浸透させ、組織力を高めるためのポイントを4つ解説します。

  • 情報共有の徹底
  • 失敗を成長機会と捉える環境整備
  • 意思決定のフォロー体制の構築
  • 挑戦を支援する組織風土の醸成

エンパワーメントは導入して終わりというわけではなく、人事や管理者が環境を整えることが重要です。

情報共有の徹底

先述のとおり、従業員に権限を与える場合、組織の方向性とズレないように対策する必要があります。そこで、意思決定の後押しになる情報やナレッジの共有を行って、適切な権限行使を促すことが重要です。優秀な人材であっても、情報不足があったり判断基準が不明瞭だったりすれば、権限を委譲されても適切な意思決定が行えません。

とくに、これまで経営層や管理者の権限が強かった組織では、情報が共有されず、従業員の不満や組織への不信感を招きやすくなります。従業員の離職につながるリスクもあるため、情報共有の徹底と、従業員からの相談を受けやすい体制作りを意識しましょう。

失敗を成長機会と捉える環境整備

失敗しても許容する環境がなければ、従業員は権限だけ与えられても怖くて自分で判断できません。従業員の成長のためには、失敗を成長の機会と捉える環境の整備が重要です。

とくに権限を与える側は、情報共有を徹底し、現場メンバーが挑戦・失敗することをオープンに受け入れる意識が求められます。意思決定や行動の結果、たとえ失敗に至っても許容されるという心理的安全性の確保を目指しましょう。

意思決定のフォロー体制の構築

従業員の意思決定には失敗が付き物です。失敗を最小限に抑えるためには、人事や管理者のフォロー体制が必須といえます。完全に従業員に任せるのではなく、企業の方向性とズレがないか、意思決定に必要な情報は揃っているかを確認するようにしましょう。

とくに新入社員は不安も大きく、フォローの有無でメンタルの状態が大きく変わります。一方的な指摘や教育ではなく、本人が適切な意思決定できるような気づきや発見を促す取り組みが求められます。

挑戦を支援する組織風土の醸成

エンパワーメントを浸透させるためには、個人の自律性の向上が求められます。しかし、ここまで解説したとおり、個人だけの努力では、適切な意思決定ができなかったり失敗を恐れて権限移譲が滞ったりして、組織力の向上につながりません。そこで、権限を与える側・受け取る側の両方がお互いに自身の役割を果たせるような組織風土の醸成が必要です。組織単位でのエンパワーメントの積極的な促進がカギとなります。

エンパワーメントの活用事例3選

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最後は、実際にエンパワーメントを活用して組織力を高めた企業を3社みてみましょう。

  • ザ・リッツ・カールトン
  • Google
  • スターバックス コーヒー

具体例を確認することで、自社での導入のイメージが付きやすくなるはずです。

ザ・リッツ・カールトン

世界的な巨大ホテルチェーンのマリオットの傘下、ザ・リッツ・カールトンでは、構造的アプローチでエンパワーメントを取り入れました。ザ・リッツ・カールトンにおいては、さまざまな権限が従業員に与えられていますが、とくに特徴的なのが1日約22万円までのサービス提供に関する権限です。例えば、記念日に宿泊したお客様に対してバースデーケーキやプレゼントを用意したり、お客様の忘れ物を従業員個人の権限で配送したりすることができます。

Google

従業員への福利厚生が充実していることが重要なGoogle社でも、構造的アプローチによってエンパワーメントを導入しています。Googleは世界的にも優秀な人材が集まることもあり、積極的に権限を委譲するスタンスを取っています。注目したいのは、単に権限を与えるだけでなく、企業と従業員の意思決定や今後の方向性が一致するよう、経営陣が自ら全社員に情報を共有し、質疑応答に対応、意見交換まで行っている点です。

スターバックス コーヒー

スターバックスコーヒーでは、接客に関するマニュアルをあえて提示せず、従業員が自分で顧客目線のサービスを提供できるよう、心理的アプローチでエンパワーメントを取り入れています。マニュアルを用意しないことで、従業員が自ら考え、行動できる環境を作り出し、結果として質の高いサービスの提供を実現しているのです。従業員はユーザーニーズをヒアリングしたり、同僚と情報共有したりと、マニュアルがなくても自律性を高めることができています。

エンパワーメントは組織全体で進める必要がある

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本記事では、人材不足やVUCA時代に対応できる人材育成で注目されているエンパワーメントについて解説しました。ビジネスにおけるエンパワーメントでは、従業員に裁量や権限を与えることで、生産性を向上させたり次世代リーダーを育成したりと、組織力を高める効果が期待できます。ただし、安易に現場メンバーに力を付与しても、適切に行使できるとは限りません。

人事や管理者側が心理的安全性の高い環境やフォロー体制、挑戦できる組織風土の構築を行わなければ、エンパワーメントのメリットは享受できないものです。すでにエンパワーメントを取り入れ、成功している企業事例も参考にしながら、自社での活用を検討してみましょう。

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