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【事業主向け】育児休業給付金とは?必要な手続き・書類・給付条件まとめ

【事業主向け】育児休業給付金とは?必要な手続き・書類・給付条件まとめ

要件を満たした労働者に給付される「育児休業給付金」を受けとれれば、子どもが生まれた労働者の家計の負担を大きく軽減することができます。この育児休業給付金の申請は、事業主側が行うのが通常のため、経営者や人事担当者はぜひ詳細を把握しておきたいところです。

本記事では、育児休業給付金制度の概要と、受給要件や必要な手続きについてまとめました。

育児休業給付金とは?

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育児休業給付金とは、雇用保険に加入している労働者が受け取れる給付金で、育児休業給付制度の1つです。

原則として、労働者が1歳未満の子どもの育児休業を取得した場合に、一定の要件を満たせば給付を受けられます。受けとった育児休業給付金は非課税で、子どもが生まれて育休をとるにあたって、収入が減る家庭を経済的に支える制度です。

現在、すべての事業所は、条件を満たした労働者に対して育児休業を取得させる義務を負っています。育休は、1年以上継続して雇用しており、育休後に職場復帰すること・復帰後1年以上働く可能性がある場合に取得できます。

育児休業給付金の支給条件

育児休業給付金を受け取るためには、育休に入る前と育休中において、下記の支給条件を満たしている必要があります

  • 雇用保険の被保険者であること
  • 休業前の2年間で、賃金支払基礎日数11日以上の月が12ヶ月以上ある
  • 育休中の就業日数は月10日または80時間以下であること
  • (会社から賃金が出る場合)育休中の賃金が休業前の80%未満であること

有期契約の労働者も育児休業給付金の給付対象です。ただし、その場合、下記の要件を満たす必要があります。

  • 育休を取得できること
  • 育休前に1年以上継続されて雇用されていること
  • 子どもが1歳6ヶ月になるまで雇用が継続されること

育児休業給付金の支給額

育児休業給付金の支給額は、育休を取得する期間によって変動する可能性があります。また、会社から育休中に賃金が出る場合、受け取れる支給額が変わる可能性があります。

  • 会社から支払われる賃金が休業前の13%以下の場合、休業開始から180日以内は育休開始時の賃金の67%
  • 会社から支払われる賃金が休業前の30%以下の場合、休業開始から180日経過後は育休開始時の賃金の50%を支給
  • 会社から支払われる賃金が、休業開始から180日以内13%超80%未満または、休業開始から180日経過後30%超80%未満の場合、休業前賃金の80%相当額と会社から支払われる賃金の差額を支給

具体的な計算方法や数字については、以降で詳しく解説します。

育児休業給付金の計算方法

計算方法
育児休業給付金は、1ヶ月ごとの支給単位期間を元に計算を行います。支給金額は支給時期によって異なるので注意してください。

休業開始から180日以内(6ヶ月以内)の計算方法

休業開始から180日以内(6ヶ月以内)の場合は、下記の通りに計算します。

支給額 = 休業開始時賃金日額×支給日数(一般的には30日)×67%(0.67)

休業開始から180日目以降(6ヶ月以降)の計算方法

休業開始から180日目以降(6ヶ月以降)の場合は、下記の通りに計算します。

支給額 = 休業開始時賃金日額×支給日数(一般的には30日)×50%(0.5)

休業開始時賃金日額の計算方法

休業開始時賃金日額は、事業主がハローワークに提出する「休業開始時賃金月額証明書(票)」に基づき、下記の通り計算します。

賃金日額=育休開始前(女性の場合、産休開始前)6ヶ月の賃金÷180日(6ヶ月)

育児休業給付金の計算例

計算式だけ見ると少し複雑に感じます。実際に具体的な数字を入れた計算例を見ていきましょう。

休業開始時賃金日額12,000円(月額360,000円)、支給日数30日、事業主の支払賃金額なし(賃金月額の13%以下)の場合の計算式は下記になります。

12,000円×30日×67%=214,200円

同じ条件で休業開始から181日目以降の計算式は下記になります。

12,000円×30日×50%=180,000円

数字を当てはめてみると、計算方法のイメージが容易になりますね。

育児休業給付金の給付期間は延長も可能

育児休業給付金の期間
待機児童が問題になっている地域も多く、保育園に入園させられないというケースもあります。そのような場合、育児休業を延長、育児休業給付金の給付期間も延長することができます。

要件を満たせば最大2歳まで給付期間を延長できる

育児休業給付金は、育休が延長できる1歳6ヶ月または2歳まで給付期間を延長できます。給付期間の延長は下記を満たす場合に可能になります。

<1歳6ヶ月まで延長できるケース>

  • 1歳の誕生日に入所できるよう認可保育所に申し込んでいるにもかかわらず、預け先が見つからない
  • 保育を予定していた配偶者が、死亡・怪我・離婚・別居などの理由で養育が困難である

<2歳まで延長できるケース>

  • 1歳6ヶ月になる日に、受給している従業員または配偶者が育休中である
  • ①または②に当てはまる

①認可保育所に申し込んでいるにもかかわらず、預け先が見つからない
②保育を予定していた配偶者が、死亡・怪我・離婚・別居などの理由で養育が困難である

延長する場合は、保育園に入園できなかったことがわかる書類や母子手帳、保育を予定していた配偶者の健康状態がわかる診断書など、育休の延長が必要であると判断するための確認書類を提出しなければなりません。

「パパ・ママ育休プラス制度」を利用した延長

パパ・ママ育休プラス制度とは、要件を満たせば、子どもの年齢が1歳から1歳2ヶ月まで育休期間を延長できる制度。一般的に、育休は夫婦のどちらか一方のみが取得する、とくに母親が取得するケースが大半です。パパ・ママ育休プラス制度は、夫婦それぞれが育休を取得するための優遇措置として制度化されました。

パパ・ママ育休プラス制度を利用して育休期間が延びても、育児休業給付金を受け取れます。育休・育児休業給付金の給付期間を延長できるのは下記を満たす場合です。

  • 配偶者が、子どもが1歳になる前に育休を取得していること
  • 育休を取得する本人の育休開始予定日が、子どもの1歳の誕生日以前であること
  • 育休を取得する本人の育休開始予定日が、配偶者の育休初日以降であること

延長された期間中に給付される育児休業給付金は、第1章「育児休業給付金の支給額」でお伝えしたものと同様で、下記の通りです。

  • 休業開始から180日以内は休業前の賃金の67%を支給
  • 休業開始から180日経過後は休業前の賃金の50%を支給

育児休業給付金の申請手続き

育児休業給付金の申請
それでは、育児休業給付金の申請手続きについて確認しましょう。育児休業給付金は、条件を満たした労働者は給付を受ける義務があり、適切に手続きを行わないと労働者とトラブルになることもあります。

申請手続きは原則「事業主」が行う

育児休業給付金の申請は、基本的には事業主側が申請する必要があります。これは事業主側のほうが、スムーズに手続きが進むためです。

子どもの出産を知らされたら、育休の取得や育児休業給付金の申請の流れについて労働者側と確認し、手続きを進めましょう。育児休業の申出の期限は、原則休業開始予定日の1カ月前まで、出産が早まった場合は休業開始予定日の1週間前までです。

申請時に必要な書類

<事業主側が用意する書類>

  • (初回のみ)育児休業給付金支給申請書
  • 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
  • 育児休業給付受給資格確認票
  • 賃金台帳/労働者名簿/タイムカードなど賃金額や就業状況を証明できる書類

<被保険者に用意してもらう書類>

  • 育児休業給付受給資格確認票
  • (初回のみ)育児休業給付金支給申請書
  • 払渡希望金融機関指定届
  • (初回のみ)母子手帳など育児の事実を証明できる書類

申請手続きの流れ

①事業主側が労働者から育休の申し出を受ける
②ハローワークに育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書の交付を申請
③書類が届いたら、労働者が育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書を記入
④労働者は必要書類を事業主側に提出
⑤ハローワークが指定する支給申請期間の支給申請日までに、必要な書類をすべてまとめてハローワークに提出

提出先は、事業主の所在地管轄のハローワークです。育児休業給付受給資格確認票と育児休業給付金支給申請書は、ハローワークのWebサイトで電子申請することもできます。育休を延長する場合は、別途手続きが必要です。

2ヶ月ごとに申請書を提出する

育児休業給付金は、2ヶ月に1回申請し、2ヶ月に1回まとめて支給されます。よって、育児休業給付金を受け取るためには、2ヶ月ごとに所在地管轄のハローワークで追加申請をしなければなりません。

手続きに必要な書類は下記の通りで、初回よりも少なくなります。育児休業給付支給申請書は、初回の手続き後にハローワークから交付されます。

<必要書類>

  • 育児休業給付支給申請書
  • 賃金台帳/労働者名簿/タイムカードなど賃金額や就業状況を証明できる書類

2022年10月から育児休業給付制度が改正される!

育児休業給付金の改正
2020年の育休取得率は、女性が83%である一方、男性は7.48%と極端に低い結果でした。一定条件を満たした労働者であれば育休を取得する義務があるにもかかわらず、取得が進まない原因には、取得しづらい職場環境があるといえます。そこで、育休取得の促進のため、2022年10月から育児休業給付制度が改正されます。

育児休業の分割取得が可能に

1歳未満の子について、原則2回まで分割して育児休業給付金を受け取ることができます。これにより、夫婦交代で育休を取得しながら、育児ができるようになります。育児休業を延長しなければならない場合は、1歳~1歳6ヶ月と1歳6ヶ月~2歳の間にそれぞれ1回ずつ給付金を受け取れます。

産後パパ育休が創設

2022年10月に出生時育児休業制度、通称「産後パパ育休」が創設されます。この産後パパ育休は、出生後8週間以内に4週間までの産休を、従来の育休とは別に取得できます。配偶者が専業主婦(夫)である・産休中であるという場合も産後パパ育休を取得することができます。ただし、 産後休業を取得した労働者は、産後パパ育休を取得できません。

<支給要件>

  • 休業前の2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あること
  • 育休中の就業日数は月10日以下

<支給額>

  • 休業前の賃金×支給日数×67%
  • ※支給日数は、育児休業給付の支給率67%の上限日数180日に含まれる

育児休業給付金の給付に関してよくある質問

育児休業給付金のよくある質問
育児休業給付金支給の対象者や申請手続きについて、よくある質問をまとめました。ここまでの内容で疑問がある場合は、解決できるかもしれません。

退職が決まっている場合は給付を受けられるのか?

退職が決まっている場合、育児休業給付金は受け取れません。育児休業給付金の支給は、育休を取得後の職場復帰を前提としています。育休に入る前から退職が予定されている労働者は、給付対象外となります。

ただし、支給資格が確認された後に退職が決まった場合は、退職日を含む支給の1つ前の支給まで給付金を受け取ることができます。また、途中で退職が決まっても、それまで受け取った給付金を返金する必要はありません。

受給中の社会保険料の支払いはどうなるのか?

育児休業給付金を受給中、健康保険料・厚生年金の支払いは労働者負担・事業主負担ともに免除されます。賞与に関しても免除の対象となります。

免除を受けるためには、事業主が年金事務所または健康保険組合に「健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者申出書」を提出します。 免除期間は、育休が始まる日を含む月から、育休が終了する日を含む月までです。

養子の場合でも給付対象になるのか?

育児休業給付金は、実子でなくとも給付の対象となります。そのため、養子を引き取って育てる場合も、育児休業と育児休業給付金支給の対象です。

また、特別養子縁組を成立させるために監護期間として試験的に子どもを養育している場合も給付対象とされています。詳細は所轄のハローワークまたは労働基準局に問い合わせてみましょう。

受給中の第2子を妊娠したら第1子の受給は継続されるのか?

第1子の養育のために育休を取得、給付金を受給している場合、第2子の産休開始日前日に第1子の受給は終了します。これは、第2子の産休開始日前日に、第1子の育休自体が終了されるためです。産前休業を取得しない場合は、出産日に第1子の育休自体が終了となります。

第1子養育のための育児休業給付金は、基本的に再支給されません。ただし、1歳になる前日までに配偶者が怪我・死亡・離婚などで養育できなくなったり、保育所に入れなかったりと特別な理由がある場合は、再支給の対象になることがあります。

申請後どのくらいで給付されるのか?

申請が受理されてから、1週間ほどで指定の口座に入金されます。支給日は、申請後に送付される「育児休業給付金支給決定通知書」に記載されています。受給者に発送されますが、事業所に届く場合もあります。通知書が届かない場合は、ハローワークに確認してください。ただし、ハローワークや労働局で振込日自体を確認することはできません。

事業主向けの支援制度「両立支援等助成金」

育児休業給付金の助成金
育児休業給付金は、子どもが生まれた労働者向けの支援制度ですが、子育てをする労働者を支える企業に対しては「両立支援等助成金」が支給されています。両立支援等助成金は、労働者が仕事と家庭生活を両立できる職場作りを行っている企業に対する支援制度です。

受給要件など詳細は、厚生労働省サイトをご確認ください。

出生時両立支援コース

出生時両立支援等コースでは、男性労働者が育児休業を取得しやすい職場環境づくりに取り組み、男性労働者が子どもの出生から8週間以内に連続5日以上の育児休業を取得した企業に対して助成金が支給されます。

第一種・第二種があり、それぞれ受給要件が設けられています。第二種は、第一種の支給を受けている企業のなかで、男性労働者の育児取得率が30%以上上昇した場合に支給されます。一事業所あたり、第一種の要件を満たすと20万円が、第二種の要件を満たすと20~60万円支給されます。第二種では男性労働者の育児取得率が30%以上上昇するまでの期間が、早いほど多く支給されます。

育児休業支援コース

育児休暇支援コースでは、円滑な育児休暇の取得と職場復帰のための取り組みを行った事業主に対して助成金が支給されます。働きながら子どもを養育する労働者の仕事と家庭の両立を支援し、労働者の雇用を安定させることを目的としています。

一事業所あたり、労働者が育休を取得することで28.5万円と職場復帰時に28.5万円の計57万円が支給されます。生産要件を満たしている場合は増額されます。

女性活躍加速化コース

女性活躍加速化コースでは、女性活躍推進法に基づく取り組みを行った中小企業に対して助成金が支給されます。助成金を受給するためには、現状の課題を分析、取り組み目標と数値目標を立てた行動計画を策定し、その目標を達成しなければなりません。単に女性の採用人数の管理職を増やすだけでは給付されない点に注意が必要です。

一事業所あたり、取り組み目標を達成することで28.5万円、数値目標まで達成することで28.5万円、女性管理職の比率が基準値を超えると47.5万円が支給されます。生産要件を満たしている場合は増額されます。

育児休業給付金の制度・申請について押さえておこう!

育児のイメージ
今回は、育児休業給付金について詳しく解説しました。育児休業給付金は育休を取得できる労働者であれば、給付を受けられる可能性が高いものの、申請しなければ受け取ることができません。労働者が仕事と家庭を両立できるよう、企業として積極的に申請をサポートしましょう。

これからの時代、労働者が育休を取りやすいほうが、制度面での優遇があったり優秀な労働者が集まりやすくなったりと企業にとってプラスに働きます。持続可能な会社経営を行うためには、男女問わず育休が取得しやすい職場づくりに取り組むことが重要になってくるといえるでしょう。

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