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『21世紀のキャリア論』変化の時代を生き残るためのキャリア論

『21世紀のキャリア論』変化の時代を生き残るためのキャリア論

今回の書籍は「21世紀のキャリア論―想定外変化と専門性細分化深化の時代のキャリア」(東洋経済新報社/2012年4月13日発売)です。エンジニアリング一筋のキャリアを重ねながら、一気にコンサルティングの世界にシフトした著者・高橋俊介氏。その経験と思考から導いた独自のキャリア論を、噛みごたえのある文調で語ります。

これまでのキャリア観は、もう通用しない

どのような分野であれ、個人のキャリア形成は、おおよそ自分の立てた予定に基づいて進められます。
例えば、10代のころに自分の将来設計をしたとしましょう。将来、どんな自分になりたいかをイメージしたら、そこにたどり着くためにどんなルートを取ればいいかを考えます。
大学はどこの何学部がいいのか。どこの企業に就職してどのようなスキルを身に付けるか。必要な資格は何か。その企業に何年勤めて、その後どの業界に転職をして…。10代でここまで詳細なキャリアプランを立てるケースはまれかもしれませんが、ある程度のビジョンを持っていないと、理想の自分を実現することはできません。
そのため、従来のキャリア観では、まるで旅行の日程表のように、時間軸に沿って「どこで何をするか」を明確にしておき、それを忠実になぞっていこうとするのが主流だったのです
ですが、そうしたキャリア観はすでに20世紀のものであり、これからは通用しないと著者は警鐘を鳴らしています。これからの時代は、今まで以上に大きな変化が頻繁に訪れます。そのため、キャリア形成についても、従来の考え方が通用しなくなるというのです。
なぜ、そのようなことが起こるのでしょうか?

キャリアの架け橋を押し流す変化の洪水

インターネット、さらにはIoT(Internet of Things)の普及によって、私たちの生活は大きく変化してきました。この動きは今後ますます加速していくだけでなく、仕事そのものにも大きな変化をもたらすでしょう。
2014年、オックスフォード大学の准教授は、発表した論文の中で「今後、多くの職業がコンピューターに取って代わられる」ということを示しました。この論文は、世界的に大きな衝撃とともに伝えられましたので、多くの方がご存じでしょう。果たして、この論文どおりの未来がやってくるのかはわかりませんが、ネットとIoTの普及が、仕事そのものを人の手から奪っていくことは間違いないでしょう。
一方で、新たな仕事が生まれる可能性が高いということも知っておくべきです。インターネットとその周辺にある関連技術は、日々進化し続けています。その技術を使った新たなサービスが次々と登場し、市場に受け入れられ、それとともに新たな仕事が生まれています。消えていく一方で生まれる「仕事」もある、というわけです。
このような激しい変化が当然のように起こるこれからの時代に、既存のキャリア形成の概念は通用しません。自分が「なりたい」と思っていた仕事が、10年後にはなくなっているかもしれませんし、自分が「ほしい」と考えていたスキルが、それを身に付けたころには役に立たなくなっているかもしれません。変化の洪水が、キャリアの架け橋を押し流してしまうのです。

これまでに得た能力を活かし、想定外の変化に対応する

本書の著者である高橋俊介氏は、東京大学で航空科学を学び、卒業後は日本国有鉄道(当時)に就職。飛行機から鉄道の分野へ進み、さらに米国プリンストン大学工学部に留学。ここまでエンジニアリングの世界にどっぷり浸ってきましたが、プリンストンを修了後にマッキンゼー・アンド・カンパニーに就職。企業経営コンサルタントという、まったく畑違いの業界に転身しています。この経歴そのものが、本書で語られるキャリア論に大きく作用しているようにも思えます。
その著者がキャリア形成の上で重要視しているのが、一貫して語られる「想定外変化」であり「キャリア自律」です。
経済が右肩上がりで、将来が予測でき、しかもある程度管理できたこれまでの時代であれば、予定どおりにキャリアを重ねるスタイルも通用してきました。ですが、変化の多いこれからの時代、そのやり方は通用しません。それよりも、想定していたキャリア形成の道筋で起こる想定外の変化を受け止め、今後の自分に有効に活かしていくことが重要であり、それが自分らしさを失うことなく生き残る方法だというのです。

これまでの勝ちパターンが通用しない、変化の時代

本書は、著者が当時所属していた慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)研究所の「キャリア・リソース・ラボラトリー」と、リクルートワークス研究所との共同研究による「21世紀のキャリアを考える研究会」での研究結果がベースになっています。そこでは、大手企業の人事担当者も参加して定期的な議論が行われ、6,000人規模のアンケート調査、100人以上の個別インタビューが実施されました。そうしたリアルな情報を詳細に分析、反映したものだけに、本書の提言には重みがあります。
もちろん従来のような、予定を消化しながらキャリアを積み上げていくやり方が、まったく無駄だとはいえません。ですが、あらゆる変化に過去の経験を活かしつつ対応していくことは、激しい変化が続く時代に不可欠な能力でしょう。予定された道筋、マニュアルどおりの対応しかできなければ、想定外のトラブルやアクシデントに対処することは難しいからです。
今後の10年、20年のあいだに、人間の仕事はコンピューターとロボット、インターネットと人工知能によって、ますます機械化・自動化されていくでしょう。常に新たなアイデアや技術が生み出され、製品やサービスとなって市場に投入されていきます。
そのような未来では、これまでのキャリア観は通用しません。そのときこそ、本書に綿密に語られる新時代のキャリア観が、大きな力を発揮することになるでしょう。

高橋俊介 – 今後の日本企業に必要なのは、個人の「キャリア自律」と組織の支援

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