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インセンティブ制度とは?設計方法や導入事例、メリット・デメリットについて徹底解説

インセンティブ制度とは?設計方法や導入事例、メリット・デメリットについて徹底解説

インセンティブは“業績が良い社員へのボーナス”と捉えている人は多いのではないでしょうか。しかし、実際の「インセンティブ」とは、金銭的な報酬に留まりません。本記事ではインセンティブの種類や導入時に気になるメリット・デメリット、設計方法、導入事例をご紹介します。

インセンティブ制度とは?

「インセンティブ制度」とは、従業員の働くモチベーションを上げ、さらにそれを維持するためのシステムです。そもそも「インセンティブ」は、“やる気を引き出す外部からの刺激”を意味します。“福利厚生や給与とは別に、企業が従業員に与えるご褒美”と考えると分かりやすいでしょう。

5種類のインセンティブ制度と活用事例

インセンティブというと金銭的なものを連想しがちですが、「物質的、人的、評価的、理念的、自己実現的」の5つにわけることができます。ここでは5つのインセンティブ制度と企業事例について紹介します。

物質的インセンティブと活用事例(お金・モノ)

物質的インセンティブとは、特別手当・ボーナスの上乗せなどの「お金」と、旅行・ギフトカード・カタログギフト・特別休暇などの「モノ」を報酬とします。物質的な欲求は、ほぼすべての人間にあるものなので比較的与えやすい報酬ですが、効果が持続しにくい傾向があります。

また、近年社員の「やる気」を報奨によって引き出すことを目的に作られた「インセンティブポイント」を利用した制度に注目が集まっており、社員のモチベーションアップに繋がっています。

【企業事例】 「誰かが仕事を見てくれている」
四半期ごとにThanksカードを従業員同士が贈り合い感謝を伝え合う文化があった会社が新たに取り入れたのは、より気軽でリアルタイムに称賛し合あうことができ、さらにインセンティブポイントとして一定額の金額を贈り合える仕組みです。四半期ではなくリアルタイムになったことで、誰かが自分の仕事を見てくれていると感じる社員が増え、インセンティブポイントももらえることから、より社員のモチベーションが上がりました。

人的インセンティブと活用事例(職場の人間関係)

人的インセンティブとは、一緒に働く人に対する心理状況を報酬とします。慕う上司からの奨励や、異動希望の出しやすさなど、人間関係や働く環境そのものが報酬といえるでしょう。尊敬できる上司や同僚と働く、雰囲気の良いチームに参加することによるモチベーションアップが期待できます。

例えば結果を出した、新しいアイディアを提案した、チームメンバーを助けた等、会社のために動いた社員を誉め、ともに喜び、成果を共有する方法があります。常に褒める、喜びを共有することにより社員のモチベーションが上がり誰かのために働きたい、頑張りたいと感じられることが人的インセンティブの効果です。

【企業事例】 「社員の定着率アップ」
社員の離職率が40%の企業では、これまで数字的目標を達成できた人のみ称賛され、数値化できない業務を行っている人や、目標には届かずとも功績を残した人にはスポットライトが当たりませんでした。しかし、数字的目標だけにとらわれず様々な業務において会社に貢献した際は称賛、チーム全体で喜びを分かち合う文化を少しずつ作り上げた結果、離職率が10%以下に減りました。

評価的インセンティブと活用事例(評価・昇進)

評価的インセンティブとは、承認欲求を満たすことが報酬となります。たとえば、上司や同僚からの称讃、社内表彰、MVPの選出、昇進・昇格などです。称讃や表彰によるモチベーションアップは一時的なものなので、昇進・昇格のほうが効果的な評価的インセンティブといえます。

一般的に評価的インセンティブを活用する際に行われるのは、「表彰」、「成果に見合った評価」になります。称賛や評価は、社員がより会社や上司に認められている、頼られているといったことを実感することが可能なため、モチベーションアップにつながります。

【企業事例】「数字にこだわらない表彰制度」
前例と同じく様々な形で会社に貢献した社員を表彰した結果、普段数値化できない業務を行っている人にもスポットを当てることができました。これにより、数字にとらわれない表彰のため様々な業務の社員が「いつか自分も成果を出して表彰されたい!」と社員のモチベーションアップに繋がりました。

理念的インセンティブと活用事例(企業理念・価値観)

理念的インセンティブとは、働きがいや、やりがいを報酬とします。共感できる企業理念や価値観、経営者が掲げる使命などを提示することで、企業や仕事そのものに価値を感じ、精力的に業務に取り組んでもらえるようになります。

特に自分の働きは社会や人々にどのように貢献しているのか、ということを社員が客観視するきっかけにもなるため、企業理念をより理解することで社員のモチベーションアップに繋がります。

【企業事例】 「ありがとうの見える化」
「小さなことでも感動・感心する心」を企業理念としている企業が導入しているのは、「ありがとうの見える化」です。感謝や思いやりをお客様だけでなく、社員同士でも伝え合うことを大切にした結果、企業理念が今まで以上に浸透し現場レベルで体現できるようになりました。

自己実現的インセンティブと活用事例(夢・使命感)

自己実現的インセンティブとは、従業員の夢・目標・キャリア形成のサポートが報酬となります。希望するプロジェクトや海外研修への参加などが効果的です。従業員のポジティブな目標や仕事を与えることで、従業員のモチベーションが保ちやすいインセンティブといえます。

例えば社員が業務を通じて叶えたい夢を実現させるため、やりがいを感じる業務を担当してもらう、キャリア形成に必要な研修が受けられる(費用は会社負担)と言った最終的に達成感を感じることができれば社員のモチベーションアップに繋がります。

【企業事例】(社員の夢を応援し優秀人材を育成)
海外で働きたい、国内の海外関連業務に携わりたいという社員の声を聴き、会社負担で海外研修を取り入れた育成プログラムを実施しました。当初は社員の夢やキャリアを応援する目的でしたが、帰国前から帰国後にかけて海外研修フォローを徹底して行った結果、現在ではなかなか採用が難しい優秀人材を自社で育てることに成功しています。

インセンティブ制度のメリット・デメリット

インセンティブ制度を導入する最大のメリットは従業員のモチベーションアップです。一方、導入に失敗すると業績悪化につながるリスクもあり、トラブルが発生しないように制度を構築をすることが重要です。ここではインセンティブ制度のメリット・デメリットについて解説します。

インセンティブ制度のメリット

■メリット①従業員のモチベーションが上がる
インセンティブ制度最大のメリットは、インセンティブの目的である「従業員のモチベーションアップ」です。人間は何事も目標があることで、モチベーションが上がるものです。成果次第で目に見える報酬があることが分かっていれば、精力的に業務に取り組む従業員は増えます。

長期間業務に取り組むなかで、高いモチベーションを従業員自身が保ち続けるのは難しいとされていますが、従業員のやる気を引き出すインセンティブ制度は、企業の成長に影響を与えるシステムといえるでしょう。

■メリット②成果・目標が明確になる
インセンティブ制度を導入すると、目標となる基準を設けることになります。どのような成果を上げれば良いのか、何を目標に業務に取り組めば良いか、これらが明確になることで、社内の活性化や企業の業績アップが期待できます。

達成すべき目標があれば、従業員それぞれが目標に向かって試行錯誤を重ねるようになります。新しいアイディアやツールの採用や、効率的な業務方法への転換にもつながるでしょう。企業側が成果や目標達成に向けてプレッシャーをかけなくても、従業員自らが目標に向かって努力できることで、企業と従業員間の関係を良好に保つ効果も期待できます。

■メリット③従業員間の健全な競争が生まれる
成果を出せばインセンティブが与えられることで、高いモチベーションを持って働く従業員が増え、自然と従業員間で競争が生まれます。競争意識は誰もが持っているものです。単なる数字の取り合い成果ではなく、仲間と切磋琢磨する健全な競争が生まれれば、業績アップはもちろん企業の成長にもつながります。インセンティブ制度は、従業員同士がお互いに刺激し合い、高め合う風土を作るきっかけとなるでしょう。

■メリット④自社にコミットする優秀な人材を採用できる
成果や目標が明確になることで、求人応募者の間でも達成すべき基準について認識が統一されます。そのため、インセンティブ制度を積極的にアピールすることで、設定されたインセンティブに魅力を感じる応募者を集めやすく、優秀な人材を採用しやすくなり採用活動においてもいい結果を残しやすくなるでしょう。さまざまなインセンティブ制度を採用すれば、それだけで理想の人材・優秀な人材へのアピールになることが期待できます。

■メリット⑤評価・給与の公平性が担保される
インセンティブ制度は、従業員の評価や給与の公平性を担保する効果もあります。企業が従業員を評価し、支払う給与を決めるときは、年次や役職が大きく影響します。入社歴が浅い従業員や役職のない従業員が成果を上げても本人に還元されず、モチベーションの低下を招いている企業は多くあります。

実績が評価されなければ、従業員のキャリアプランの形成にも大きな影響を与えるため、優秀な人材が退職してしまう可能性もあります。従業員全員に同じ基準が適用されるインセンティブ制度では、成果を出した従業員は等しく評価されるため、モチベーションの向上が期待できます。

インセンティブ制度のデメリット

■デメリット①協力体制が構築されず個人プレイになりがち
インセンティブ制度は健全な競争を生みますが、インセンティブが発生する基準によっては、従業員同士の協力体制が弱まるリスクがあります。インセンティブ制度では、個人の成果に対して報酬が与えられます。よって、個人プレイに走る従業員が出る可能性があります。

インセンティブ制度を採用するときは、従業員同士の過剰なライバル意識やチームワークの乱れ、人間関係の悪化を招かないよう評価基準や目標設定に注意が必要です。

■デメリット②長期的な視点が持ちにくい
設定する目標によっては、従業員が短期的な成果に固執し、長期的な視点が持ちにくくなるため、企業として長期的な戦略が実行しづらくなる可能性があります。インセンティブ制度を導入する際は、企業側の長期的なビジョンを従業員にも持ってもらう工夫が必要となります。インセンティブ制度とは別に、長期的な視点を持たせる制度や施策を検討しましょう。

■デメリット③安定志向の従業員が入社しにくくなる
インセンティブ制度によって収入が大きく変わる場合、安定を求める従業員にはマイナスの要素となってしまいます。とくに、金銭的な報酬を与えるインセンティブ制度では、給与が安定せず、住宅ローンの借入や、子どもの教育資金の準備が計画的に行えません。

家庭を持っている従業員や安定志向の従業員にも理想の人材・優秀な人材は多くいるため、インセンティブ制度をネガティブに捉えられないよう評価基準や目標設定に配慮しなければなりません。

■デメリット④収入格差・評価基準に対する不満がたまりやすい
インセンティブ制度は、評価基準の設定の難しさが最大の難点です。成果が出やすい業務の担当者はインセンティブを得やすい一方、目に見える成果を出しにくい業務の担当者はインセンティブを得にくくなってしまいます。

公平にインセンティブが得られる機会がないと、金銭的な報酬による収入格差や制度の評価基準に対する不満がたまりやすく、離職につながる可能性もあります。そのため、インセンティブ制度では、すべての従業員が公平に評価を受け、インセンティブを得られる機会があることが重要です。

■デメリット⑤会社にノウハウが共有・蓄積されにくい
インセンティブ制度が過剰なライバル意識を生んでしまった場合、成果を出したい従業員たちが自身の持っているノウハウを周囲に共有しない可能性があります。結果、組織にも成果を上げるノウハウが蓄積されなくなります。インセンティブ制度では、組織として成果を上げる意識も持たすことが必要なのです。健全な競争を生みつつも、いかに従業員間の協力体制を作るかがカギといえるでしょう。

インセンティブ制度の設計方法と事例

ここまでインセンティブ制度の種類や、メリット・デメリットについて解説をしてきました。ここからは自社にインセンティブ制度を導入する際、どのように設計していけばいいのか事例を挙げながら解説します。

インセンティブ制度の設計方法

インセンティブ制度を設計する際は5つステップを踏む必要があります。

① 導入目的を明確にする
目的を明確にすることで積極的に活用する環境を作ることが可能です。

② 従業員のニーズをヒアリング
社員が求めるインセンティブはどのような形か、何に魅力を感じるか、どのようなことを評価されるとモチベーションが上がるのかを徹底的にヒアリングします。

③ より具体的なインセンティブ制度の決定
導入目的や、社員のニーズにずれが出ないようしっかりとシュミレーションして制度の骨組みを作り、詳細を決定します。

④ 社員への周知徹底
インセンティブ制度が出来上がっても、利用されなければ意味がありません。まずはインセンティブ制度の目的、メリットなどをしっかりと社員へ伝えましょう。

⑤ 定点観測
運用する中で生まれる矛盾、社員の声などを参考に定期的に制度の見直しを行い、状況に応じて制度の内容を見直すことにより長期的に運用可能な制度が出来上がります。

また運用するにあたり4つの注意点があります。
① 全社員、全職種を対象にする
② 成果に加えプロセスや貢献度合いも評価する
③ 達成が難しい条件、基準は設定しない
④ トータル・リワードを意識する
※トータル・リワードとは、金銭的インセンティブと非金銭的インセンティブを組み合わせ、社員のモチベーションや業績向上を促すマネジメント体系をいいます。

インセンティブ制度 設計事例 株式会社メルカリ

2017年株式会社メルカリは感謝や賞賛を言葉とともにボーナスとしてリアルタイムで伝えあえるピアボーナス制度「メルチップ」を導入しました。毎週全社員に400ポイント付与され、感謝や賞賛を贈る言葉と一緒にポイントを贈ることが可能です。このポイントは1ポイント1円の価値があり、受け取ったポイントは毎月給与に上乗せして現金で受け取ることができます。

では、実際に5つのステップに沿ってどのようにインセンティブ制度を設計したかご紹介します。

【株式会社メルカリの設計事例】
① 導入目的を明確にする
社員の声をベースに「拠点を超えてもっと気軽に、リアルタイムに称賛し合える会社になろう」という目的を設定しています。

② 従業員のニーズをヒアリング
四半期ごとにThanksカードを贈り合い感謝を伝え合う機会はありましたが、リアルタイムで全社員が称賛したメンバーを知りたいという声が上がり、この声が導入目的へとつながります。

③ より具体的なインセンティブ制度の決定
我が事感をもってもらえるようネーミングを工夫。また、メルチップを多くもらった人だけが表彰されるのではなく、多く贈った人も表彰される仕組みを作りました。

④ 社員への周知徹底
マネージャー陣と丁寧にコミュニケーションをとりながら導入目的を伝え、マネージャーがインフルエンサーとしてしっかりとメンバーへ周知を行いました。

⑤ 定点観測
導入1か月後に社内アンケートを実施した結果、満足度87%、メルチップの消化率も期待上に高く、引き続き社内アンケートを実施し検証を続けています。

参考:株式会社メルカリ 贈りあえるピアボーナス(成果給)制度『mertip(メルチップ)』を導入しました

まとめ

インセンティブ制度を導入する際、どの方法が社員のモチベーションを高め、自社にマッチした制度になるのかをしっかりと考え、制度と社員が求めているものの間に乖離がない制度設計が重要です。インセンティブ制度の設計に正解はありません。そのため5種類のインセンティブ制度をうまく組み合わせ、企業にとっても社員にとっても負担なく長期的に継続できる設計をすることで、社員のモチベーション維持につながると言えます。

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