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VUCA(ブーカ)とは?予測不能の時代の企業に必要な変革・人材マネジメント

VUCA(ブーカ)とは?予測不能の時代の企業に必要な変革・人材マネジメント

ビジネスシーンにおいて、「VUCA」という言葉を聞く機会が増えたのではないでしょうか。テクノロジーの発展や自然災害、直近では新型コロナウイルス感染症の流行や不安定な国際情勢により、企業が置かれている状況は刻々と変化しています。

では、このVUCA時代において、企業はどのように対処し、生き残れば良いのでしょうか。今回は、VUCAの概要と、これからの時代に企業が生き残るために必要な変革・人材マネジメントについて詳しく解説します。

「VUCA(ブーカ)」とは?

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「VUCA(ブーカ)」とは、世界規模の不安要素Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字をとった造語です。予想できない事象が次々と起こり、これまでの常識が通用しなくなる状況を指します。

もともとは、冷戦が明け、戦略の方向性が定まらない時代にアメリカで生まれた軍事用語でした。現在、気候変動や災害、パンデミック、国際紛争など、世界の社会情勢・経済は変化が激しく、不確実なものとなっています。そこで、近年、ビジネスシーンでも「VUCA」が使用されるようになりました。

VUCA時代には何が起こる?

現代の企業には、予測不能な「VUCA」の時代への適応が求められています。それでは、VUCA時代においては、企業にどのような変化や影響があるのでしょうか。ここからは、不安要素ごとに、どのような変化が起こっているのかみていきましょう。

Volatility(変動性)

変動性は、価値観の変容やテクノロジーの発展、それに伴う社会システムの再生成や改革による社会のさまざまな変化を指します。テクノロジーの発展とグローバル化が激しい昨今では、短期間で市場や顧客のニーズが大きく変動することもあります。

代表的な例として、インターネットや携帯電話の登場が挙げられます。インターネットの登場以来約30年という短期間で、一気に技術は進歩し、スマートフォンやSNS、Webサービスが普及。ビジネスにおいても、企業・サービスの宣伝はデジタル広告へ、データの保存は紙から記録メディアやクラウドストレージへ、対面での会議からオンライン会議へ、さまざまなシーンでデジタル技術が欠かせないものとなりました。

Uncertainty(不確実性)

不確実性は、将来起こり得る事象や企業を取り巻く環境、得られる情報が、不完全であるまたは確実ではないことを指します。広くは気候変動や国際関係、政治について、ビジネスシーンでいえば雇用システム・人事評価制度などの雇用環境の大規模な変化を意味します。

たとえば、東日本大震災や新型コロナウイルス感染症パンデミックの発生、ロシアによるウクライナ侵略は、日本や世界の常識を大きく変えました。また、ビジネスでは、終身雇用制や年功序列、メンバーシップ型雇用、長時間労働・サービス残業など、常識とされてきた日本的な雇用・働き方は崩壊。ジョブ型雇用や成果主義を重視した人事評価制度、働き方改革の考え方が浸透し、未来を予測することが困難になりました。

Complexity(複雑性)

複雑性とは、さまざまな地球規模の不安要素が複雑に絡み合い、問題の解決が難しくなることを指します。問題解決に当たっては、世界中の価値観や文化、常識に配慮しなければなりません。

ビジネスでのグローバル化は進んでおり、異なる国籍や文化、法律、習慣、常識を持つ従業員や顧客、取引先と接するシーンが増えました。日本人としかビジネスをしてこなかった日本の企業の多くは、これまでにない課題やトラブルに直面する可能性があります。

Ambiguity(曖昧性)

曖昧性とは、ここまで紹介した変動性・不確実性・複雑性といった不安要素が絡み合って、過去の経験や成功例から最適解が見つかりにくい状況を指します。課題を解決したと思っても、新たな課題が露呈する事象が繰り返されることになります。

世界的な大手企業であっても、事業を一部売却せざるを得なくなったり、巨額の損失を出してしまったりと、再現性のあるビジネスモデルや仕組み化が困難になっています。

VUCA時代の「企業」に求められる6つの変革

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不確実で先が見えないVUCA時代では、サステナビリティ経営の実現が必要であるといわれています。サステナビリティ経営とは、「環境」「社会」「経済」の観点において、持続可能な状態を保つ経営を指します。VUCA時代に適応し、このサステナビリティ経営を実現するために、どのような変革が必要なのかみていきましょう。

日本型雇用・人材マネジメントからの脱却

従来の日本型雇用や人材マネジメントの場合、VUCA時代には適用できないといわれています。そのため、日本型雇用・人材マネジメントからの脱却は必須です。

VUCA時代のビジネスシーンでは、多様な働き方や価値観を持つ人たちが一緒に働くことになるため、従業員が多様性を認め合い、適材適所に配置されなければ、スムーズに業務を進めることができません。しかし、日本の従来の終身雇用制度や年功序列の人事評価制度では、多様な人材を的確なポジションに配置し、公平かつ公正に評価することができません。

また、企業が短期的に変化し続ける社会に適用するためには、従業員1人ひとりが市場や顧客のニーズを敏感に感じ取り、業務や商材に落とし込める人材でなければなりません。一方、従来の日本企業では、トップダウンで一部の上層部しか判断を下せず、従業員の多くは受け身的な働き方をしていることから、日本型の企業は社会の変化についていけないことが予想されます。

VUCA時代、企業に求められる変革の中核は、人材戦略の見直しといえるでしょう。

アジャイルな組織づくり

VUCA時代では、企業はスピード感のあるアジャイルな組織でなければなりません。

アジャイルとは、「俊敏な」「素早い」という意味の単語です。ソフトウェア開発において、開発にかかる期間を短縮できる手法「アジャイル開発」として、使用されてきました。他方で、ビジネスにおいては、状況に応じて柔軟に対応できる組織を構成し、経営を行う「アジャイル経営」が注目されています。

日本企業の多くは、PDCAサイクルのうち、計画(P)を入念に行ってきました。しかし、変動が激しく不確実なVUCA時代では、企業は社会や経済の変化に応じて、スピーディーな情報収集と戦略の構成、意思決定を進めなければなりません。十分に検討して計画を立てている時間はないのです。これからの企業には、素早い方針転換や軌道修正が求められています。

デジタルトランスフォーメーションの推進

刻々と状況が変化し、複雑になっている社会でビジネスを成功させるためには、デジタルトランスフォーメーションの推進も欠かせません。

デジタルトランスフォーメーション、通称「DX」の推進は、国も積極的に推し進めている取り組みです。DXとは、IT技術を用いて、人の生活やビジネスをより便利に、快適なものに変革させる概念を指します。単なるデジタル化ではなく、「人の生活をより良い方向に変化させる」という意味が含まれる点が重要です。

2018年に経済産業省による定義では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としています。また、経済産業省では、デジタル化はVUCA時代における日本企業の経営競争力強化にも有効である見解を示しています。

企業は、AIやIoTツールなどIT技術を活用して、業務を効率化し、予測できない社会の変化に機敏に対応しなければなりません。

イノベーションの創出

市場や顧客のニーズが常に変化を続けるVUCA時代では、商品やサービスのライフサイクルや技術寿命は短期化しています。そこで、イノベーションの創出が事業を運営・成長させるポイントとなってきます。

イノベーションを起こせない企業は、市場や顧客が求める商品・サービスを提供することはできません。イノベーション創出のためには、試行錯誤ができる心理的安全性が高い職場づくり、成果を重視した人事評価制度への改定など、社内の制度や環境の整備が必須といえるでしょう。

ダイバーシティの推進

ダイバーシティ(多様性)の推進は、企業が複雑化している社会に適応するために必要不可欠です。

企業の規模を問わず、個人や集団のなかに存在する違いを活かし、それぞれが能力を発揮する機会を提供することで、組織を変革・強化する動きが活発化しています。これを、ダイバーシティ・マネジメントやダイバーシティ経営と呼びます。ちなみに、ダイバーシティは、性別・年齢・国籍・人種・価値観・障害の有無・宗教・キャリア・働き方といったさまざまな多様性を含みます。

多様な人材が自分の能力を活かせる環境があれば、先述したイノベーションが生まれやすくなり、新たな価値の創造につながります。また、自由な発想や働き方ができ、従業員同士がお互いを認め合える環境は、生産性の向上や経営競争力強化にも通じています。

複雑で不確実な時代でも、ダイバーシティを推進することで、企業が成長するための好循環を生み出すことができるといえるでしょう。

ステークホルダーとの対話・協働の深化

企業が変革する際には、自社の利害関係者(ステークホルダー)と、十分に経営戦略について対話し、協働できなければなりません。

経営競争力の源は、従業員です。そして、先述の通り、VUCA時代の変革には人材戦略が欠かせません。このことから、「人材」が今後の経営戦略の中心に位置づけられるといえます。VUCA時代に合わせて組織を変革する場合、ステークホルダーにこのことを理解してもらう必要があります。

理解を促す際は、経営層が人材戦略を見える化すること、建設的な対話を図ることが重要です。現在、社会的に転職や独立が肯定的になり、雇用の流動化が起きています。優秀な人材を確保し続けるためには、企業も選ばれる存在でなければなりません。短期的な視点ではなく、長期的に人材の獲得・育成に投資をして、企業価値を高める戦略を示しましょう。

リスクマネジメントの強化

何が起こるかわからない世界では、常に起こり得るリスクに対する備えが重要になってきます。

従来のリスクマネジメントでは、事前に対策をすれば、基本的なリスクの発現を抑えられると考えられていました。しかし、テクノロジーの発展や多様性の広がりによって、これまでなら考えられないようなリスクが起こる現状があります。よって、VUCA時代においては、リスクを防止するのではなく、リスクを管理するという考え方が必要です。

とくに、日本は自然災害のリスクが高く、台風や地震の被害が毎年のように発生しています。気候変動により、100年に1度とされる自然災害が頻発していると感じている人も多いのではないでしょうか。また、新型コロナウイルス感染症の流行のように、予期できないリスクも存在します。

企業が事前にすべてを把握し、対策することは不可能に近いため、トラブルや緊急事態が発生したあとに、どう対処するのか事業継続計画を策定しておくことが重要です。

VUCA時代のリーダーに求められる7つの要素

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VUCA時代における人材戦略では、「リーダー」に求められる役割が従来とは異なる部分があります。

これまでのリーダーといえば、メンバーに一方的に命令し、支配するポジションにありました。しかし、いくら優秀な人材であっても、膨大な情報が溢れ、不確実で予測ができない事象やリスクが起こり得るVUCA時代に、1人で組織を支配することは困難です。

  • 明確なビジョンの設定
  • エンゲージメントの強化
  • エンパワーメントの導入
  • 情報収集と多面的な考察・判断
  • データドリブンな意思決定
  • 部下のモチベーション管理
  • 迅速な決断力と行動力の発揮

ここでは、上記のようなVUCA時代にマネジメント側が身に付ける必要がある代表的なスキルや、マネジメント時の要素を解説します。

明確なビジョンの設定

VUCA時代では、常に変化する社会に適応しなければなりません。しかし、組織内で進むべき方向が定まっていなければ、足並みを揃えることができず、効率的な業務の遂行や目標の達成が困難になります。そこで、VUCA時代のリーダーには、明確なビジョンを設定し、メンバーに浸透させることが求められます。

ビジョンの設定では、将来的に影響がありそうな情報を収集し、起こり得る複数の未来を想定、それぞれに対する適応策を検討することが重要です。ステークホルダーと協力し、自社が目指すべき理想の未来の実現には何が必要なのかについても検討しておきましょう。

エンゲージメントの強化

従業員エンゲージメントが高い組織では、企業やリーダーと従業員の間に信頼関係が構築されており、従業員は仕事に対してポジティブな心理状態にあります。VUCA時代では、すべての情報をリーダー1人で収集し、変化に対応、メンバーに発信することは困難です。そこで、リーダーには、エンゲージメントが高く、積極的に必要な情報収集や業務の遂行に当たれる自律した従業員を育てることが求められます。

エンゲージメントの強化には、従業員が仕事に対してやりがいや成長、達成感を感じられるよう、企業・リーダーが支援することが重要です。

エンパワーメントの導入

先述の通り、情報が溢れ、常に変化する社会を、リーダー1人で把握することは困難です。そこで、リーダーは、エンパワーメントを導入し、協力して業務を遂行できるメンバーを育てる必要があります。

エンパワーメントとは、「権限移譲」などと訳され、現場において業務や意思決定の権限を付与することを意味します。メンバーに裁量を与えることで、自発性・主体性を促し、エンゲージメントの強化にもつながります。

ただし、権限をどこまでメンバーに移すのかは、慎重に検討する必要があります。リーダーは、メンバーのスキルや経験、性格、キャリアデザインなどをしっかり把握したうえで、裁量の範囲や大小を個々に合わせて決めなければなりません。

情報収集と多面的な考察・判断

複雑化している社会では、問題が顕在化していないケースもよくあります。問題の解決を講じるためにも、市場・顧客のニーズを知るためにも、広く情報を集め多面的な考察・判断ができなければなりません。

とくにリーダーは、さまざまな情報のなかから、自社の現在や未来の予測に役立つ情報を、
ソースと併せて見極める必要があります。また、状況は常に変化をするため、情報の更新と未来の予測の修正を重ねることも重要です。

データドリブンな意思決定

不確実な社会だからこそ、データを元に戦略を考えたり、意思決定を下したりすることが重要です。データに基づいて判断することを、「データドリブン」と呼びます。

たとえば、人事評価において、リーダーの主観的な感想で評価をすると、公平性・公正性を保てず、評価に納得できない従業員が出てきます。すると、従業員のエンゲージメントやモチベーションが下がってしまい、生産性の低下や離職につながる恐れがあります。一方、客観的なデータを参考に評価がなされれば、不公平感なく、従業員が納得できる人事評価制度となります。

現在、データの記録と分析に特化したツールやサービスが数多く提供されているため、意思決定をする際には、データを参考に、客観的に行うようにしましょう。ただし、なかには人の感性や人柄など数値化できない定性要素もあるため、リーダーは各メンバーをしっかり観察し、最後には総合的な判断を行うことが重要です。

部下のモチベーション管理

メンバーのモチベーションは、業務の効率性や組織全体の生産性に大きくかかわってきます。VUCA時代のリーダーには、一方的に支配するのではなく、部下の話に積極的に耳を傾け、寄り添い、ときに支援する姿勢が欠かせません。このようなリーダーを、サーバントリーダーと呼びます。部下と信頼関係を構築しやすく、モチベーションだけでなく、組織全体の士気の向上が期待できます。

部下のモチベーション管理をする際は、従業員1人ひとりを「個」として向き合う、パーソナライズの視点が重要です。多様な人材が集まる組織では、従業員の働き方や経歴、キャリアパスが異なるため、必要な教育・育成や磨きたいスキル、担当したい業務、モチベーションを上げる方法もそれぞれです。個々に合わせたマネジメントを行いましょう。

迅速な決断力と行動力の発揮

ここまでの話からもわかるように、状況に応じた意思決定ができなければ、社会の変化についていくことができません。そのため、リーダーには、迅速な判断力・行動力が求められるといえます。

VUCA時代においては、前例のない状況に直面することも考えられます。その際に、右往左往するのではなく、迅速に最適解と思われる方向性を示し、実行に移せるリーダーが必要です。意思決定や決断、実行まで、そう時間をかけてはいられません。今把握している情報を活用して、起こるかもしれない未来を複数想定する、それと同時に、起こり得るリスクについても想定し、自分とメンバーがそれぞれどう対応すべきなのか迅速に判断しなければなりません。

もちろんすべてリーダー1人が対応できない部分もあります。日ごろからメンバーとの信頼関係を深めて部下のエンゲージメントやモチベーションを向上させたり、エンパワーメントを導入して部下が自分の判断で動ける範囲を広げたりしておくことも重要です。

VUCA時代の従業員に求められる8つのスキル

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続いては、VUCA時代の従業員に求められるスキルについて紹介します。従業員に求められるスキルは、マネジメント側が育てるべきスキルとも言い換えることができます。

  • 積極的な情報収集力と分析力
  • 迅速な意思決定力
  • 柔軟でロジカルな思考力
  • 臨機応変な対応力
  • 創造的な問題解決力
  • 多様性の受容力
  • 汎用的なポータブルスキル
  • 実践的なコミュニケーション力

積極的な情報収集力と分析力

情報収集力と分析力は、VUCA時代の社会人に共通して必要なスキルだといえるでしょう。情報社会のVUCA時代では、従業員側にも、自分や企業の現在・未来にかかわる情報を積極的に収集する姿勢が重要です。さらに、真偽やソースがわからない情報から、本当に必要な情報を見極め、うまく活用する方法を検討する力も求められます。

何か大きなプロジェクトがあるタイミングに慌てて情報収集するのではなく、日常的に情報収集を行い、習慣化しておくことが重要です。また、1つの情報に関して「なぜか?」という問いを立て続け、対象の事象が発生した経緯や目的、含まれる要素、顕在化していない側面などを明らかにすることで、分析力を鍛えることができます。

迅速な意思決定力

変化し続ける社会において、従業員にもリーダーと同様に迅速な意思決定力が求められています。市場・顧客のニーズや社会のトレンドは刻々と変化を続けており、リーダー1人で判断できないところまできています。不確かな状況下で決断を迫られることもあるなかで、企業としてビジネスチャンスを逃さないためには、従業員も必要に応じて迅速に動けなければなりません。

また、リーダーの権限移譲が求められていることからもわかるように、部下に与えられる裁量権が大きくなる傾向があります。企業としても、従業員1人ひとりが、自律して動ける環境づくりに注力することが重要といえます。

柔軟でロジカルな思考力

集めた情報を整理し、仕事に活かすためには、柔軟かつロジカルな思考力が求められます。意思決定力と論理的思考力はかかわりが深く、迅速に物事の判断を下すためには、論理的思考力がカギとなってきます。

VUCA時代では、不確かで曖昧な情報が多く、物事をロジカルに考えることができず、意思決定が難しくなっています。しかし、論理的思考力があれば、現在得ている情報から、より高精度な仮説を導き出し、目標達成に向けて必要なプロセスを考えることができます。また、異なる場所で集めた情報を整理したり、共通点や相違点を見つけ出したりすることもできるでしょう。情報を再構築するという面でも、ロジカルな思考力が必要といえます。

臨機応変な対応力

社会が変化し続けるVUCA時代では、現状を把握し、臨機応変に対応できる力が重要です。過去の経験や成功例が通用しないことが往々にして起こり得る現代、トラブルや想定外のできごとが発生した際に、迅速に状況を把握し、自らの判断で対処する必要があります。逐一リーダーに伺いを立てていれば、業務効率の低下は免れません。

一方、従業員の判断が、結果的に間違っていたというケースも起こり得ます。このとき、企業や管理側がその対応を責めれば、従業員はエンゲージメントが下がるだけでなく、萎縮して今後自らの判断で動けなくなってしまいます。これは企業にとってもマイナスです。従業員が恐れず挑戦できる環境づくり、失敗を振り返れる仕組みづくりに配慮しましょう。

創造的な問題解決力

不確実なVUCA時代では、明確な答えが出にくい傾向があります。そのときに重要となるのが、前例のない課題や事象に対してより良い解決策を提案する力、創造的な問題解決力です。これは論理的思考力とは反対に、デザイン思考と呼ばれることもあります。

テクノロジーの発展はすさまじく、20年後には半数の職業がAI・ロボットに取って代わられるといわれています。そのなかで、コンピューターでは代替できないのが、「創造的」な部分です。定量的には表せない、人間の経験や感性に基づく、創造的なアイデアは、新しいサービスや画期的な改革を生み出すことができます。企業としても、前例のないアイデア・解決策を受け入れる体制が求められています。

多様性の受容力

さまざまな人材が一緒に働くにあたっては、多様性の受容力がないと、従業員同士で摩擦が起きてしまいます。多様な人材がいる組織であれば、お互いを尊重し、目標の達成に向けて、それぞれの違いを活用する意識が欠かせません。

そもそも、経歴や価値観、文化が異なるメンバーが集まれば、居心地が悪く感じるものです。従業員は、異なる考え方をしていることを前提に、積極的にコミュニケーションをとり、相手を理解する姿勢が重要だといえるでしょう。

汎用的なポータブルスキル

ポータブルスキルとは、働く業界や職種、環境が変わっても活かすことができる「持ち運びが可能な能力」と定義されるスキルです。VUCA時代においては、汎用性の高いスキルを身に付けてもらうことで、部署や業務、ポジションを変えても成果を出せる人材を育てることができます。

ポータブルスキルは、「専門的な技術・知識」「仕事への取り組み方」「人とのかかわり方」と大きく3種類に分類されます。専門的な技術・知識が含まれていることからわかるように、業務を行ううえで基盤となるスキルといえます。

ただし、ポータブルスキルを身に付けた人材は、市場価値が高く、会社を変えても活躍することができます。現在の企業への従業員満足度やエンゲージメントが低い場合、転職される可能性も大いにあるため、企業は心理的安全性の確保や公平・公正な人事評価制度の策定など職場環境の整備に取り組むことが重要です。

実践的なコミュニケーション力

多様な人材がお互いに尊重し合うためには、コミュニケーション力も欠かせません。一方、自分の主張もしっかり伝える必要があることから、アサーティブコミュニケーションを実現できる実践的なコミュニケーション力が求められます。

アサーティブコミュニケーションとは、お互いが自己主張をしつつも、相手の意見を受け入れながら会話を進めるコミュニケーション方法です。相手を尊重しながらコミュニケーションが取れれば、気持ちよく話ができるため、自然と社内コミュニケーションが増え、結果的にイノベーションの創出や生産性の向上が期待できます。風通しの良い職場は、働きやすく優秀な人材も集まりやすくなります。

企業としては、コミュニケーション研修を導入したり、コミュニケーション力を評価対象に入れたりと、意識的にコミュニケーション力の向上を図る必要があります。

VUCA時代の人材マネジメントに取り入れたい育成方法

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最後は、VUCA時代を生き抜くための中核といえる「人材」を育成する方法を確認しておきましょう。いずれも、リーダーと従業員の双方に有効な手段です。

レジリエンス研修

レジリエンスとは、「精神的回復力」と訳され、ストレスと上手く付き合いながら、困難を乗り越える心の強さのことを指します。2013年の世界経済フォーラム「ダボス会議」では、「レジリエンスが高い国のほうが、国際競争力が高い」という調査結果が発表されました。企業も同様に、従業員のレジリエンスが高いほうが、経営競争力が高まるとされています。

レジリエンス研修では、自分の感情をコントロールしたり、逆境下でも柔軟に対応したりと、失敗や困難を成長に変えるための力を磨きます。

パーソナライズ学習

先述の通り、多様な人材が集まる組織においては、個々に合わせたマネジメントを行うことが重要です。そのため、現在では、学習者のレベルや好み、現在持っているスキル・経験、キャリアパス、働き方に合わせられる、研修のパーソナライズ化のニーズが高まっています。

パーソナライズ学習を導入するときは、従業員自身が学習すべきスキルや知識を設定し、自身の能力開発計画を策定するのがおすすめです。eラーニングを使えば、個々のニーズに合わせた研修を受けることができます。企業は、強化するスキル・知識の選定をサポートしたり、フィードバックを受ける機会を作ったりと、モチベーションの維持にも努めましょう。

キャリア開発

キャリア開発は、職務や能力、スキルを中長期的に計画する考え方です。従来の企業では、一律で能力開発を行ってきましたが、求められるスキル・知識が多様化している現在では、個人の適性を活かした能力開発が主流となっています。

キャリア開発では、従業員の適性や従業員自身が希望するスキルに関して、実地で経験を積めるよう、研修・人材配置をしてサポートします。ここでもパーソナライズ視点が重要で、従業員1人ひとりのキャリアデザインに合わせてキャリアパスを立て、キャリアアップを目指すことになります。

まとめ

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VUCAとは、流動的で不確実、そして複雑かつ曖昧な社会のことを指します。未来を予測することが難しくなっており、企業は積極的に適応する取り組みを行わなければ、生き残ることができない時代となっています。

VUCA時代においては、人材マネジメントが経営戦略の中心となってきます。人材マネジメントも従来のものとは大きく異なり、パーソナライズ視点で進める必要があります。変化し続ける時代に柔軟に対応できる人材を育成することが、日本企業が直面している目下の課題といえるでしょう。

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