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「パーパス経営」はなぜ注目される?パーパスの意味とMVVの違いや企業事例を紹介

「パーパス経営」はなぜ注目される?パーパスの意味とMVVの違いや企業事例を紹介

経営理念に置き換えて自社のパーパスを掲げる企業が増えています。なぜ今、パーパスが注目を集めているのでしょうか。

本記事では、パーパスの定義から、MVVや従来の経営理念との違い、パーパス経営が社会や組織・従業員にもたらすメリットまで解説します。参考として、パーパスを採用している事例についても紹介します。

パーパス(purpose)とは?

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ビジネスシーンのパーパス(purpose)は、企業の「社会的意義」「存在価値」を意味します。自社が「何のために存在するのか」「なぜ事業を営むのか」という問いへの回答であり、自社が存在する原点・企業活動の指針となるものです。

経営理念との違い

パーパスは、従来の経営理念と置き換えて使用されることが増えています。

経営理念とは、パーパスと同じく事業を営むうえでの基礎であり、経営の方針を決める価値観や考え方です。一般的には、経営者や創業者の意思や大切にしているものが明文化されています。経営理念は社会の変化にマッチしなくなった場合や経営者が交代した場合に変更されることがあります。

一方で、パーパスは企業の存在価値を示すものです。企業が存在することで社会に提供される価値を示すことから、基本的に変更されることはありません。パーパスのほうが経営理念よりも社会との繋がりが強く、時代・ニーズによって変化しない、より不変的なものであるといえるでしょう。

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)との違い

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パーパスと併せてよく使われるのが、MVV「ミッション」「ビジョン」「バリュー」です。

M(ミッション:使命):パーパスを実現するために何をするのか?
V(ビジョン:理念):企業としてどこを目指すのか?
V(バリュー:行動指針):何を大切にしてどのように実現するのか?

パーパスとMVVは、図のとおり密接な関係にあります。最終的な目的であるパーパスを実現するために、いつまでにどのような状態を目指し、どう行動するのか。パーパスを前提に、MVVが構築されているといえるでしょう。とくにパーパスとミッションは近しい概念で、パーパスが企業が存在する意義であるのに対し、ミッションはパーパスを実現するために行う行動を指します。

企業理念とビジョンの違い

企業理念とは、企業の在り方の基礎となる価値観を指します。MVVの3つを合わせたものが企業理念であり、ビジョンは企業理念の一部といえます。企業理念は5~10年単位で使用するものなので大きく変わることはありませんが、ビジョンは企業規模やフェーズ、その場の状況によって変わり得るものです。

ビジョンは企業が目指すべき具体的な将来像といえます。ビジョンを具体的に示すことで企業理念も明確化され、従業員や求職者、その他のステークホルダーへの訴求や取り組みがしやすくなります。

ただし、企業によっては、企業理念とビジョンを使い分けているケースが見られます。この場合、ビジョンは企業理念をもとに、企業が成し遂げたいことを意味します。

クレドとバリューの違い

パーパス・MVVと併せて、「クレド」を作成することがあります。クレドとは「信条」「約束」「志」などを意味するラテン語で、従業員が日常的に意識する行動指針を指します。パーパスやMVVをわかりやすいよう具体的な行動に落とし込んだものです。

バリューが組織内に共通する価値観や行動基準であるのに対して、クレドは個々の従業員の行動指針なので、両者は性質が異なります。

パーパス経営とは?

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パーパス経営は、自社の存在意義をどう発揮し、どう社会に貢献するのかというパーパスを軸に事業を運営することを指します。パーパスを経営に落とし込み、社内に浸透させるためには大規模な投資が必要なわけでなく、人への変化を促すという点がポイントです。

パーパス経営は、2018年にアメリカの世界有数の資産運用会社ブラックロック社の会長兼CEOラリー・フィンク氏が経営者に送った「パーパスという意識」という年次書簡が始まりといわれています。その後、パーパス経営は世界に広がり、2021年ごろから日本でも注目を集めるようになりました。

パーパスブランディングとは?

パーパスブランディングは、自社のパーパスを社会に広め、自社や製品への共感や信頼獲得を促すことで、企業のブランド構築を行う手法です。

従来のブランディングでは見込み顧客に対する自社の価値やベネフィットをアピールすることによる、利益の拡大が目的でした。一方で、パーパスブランディングでは、認知の拡大と自社の存在意義を高めることを目的としています。そのため、パーパスブランディングは必ずしも利益に直結するものではありません。

パーパス経営やパーパスブランディングが注目されている理由

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近年、パーパス経営が生まれ、注目され始めた背景には、企業を取り巻く環境の変化があります。

予測困難な時代が訪れている

昨今、企業はVUCA時代と呼ばれる、変動的で不確実、複雑かつ曖昧である環境下にあります。これまで成功につながっていたビジネスモデルが通用しなくなり、将来の見通しが立てにくくなっています。

日常的に起こるビジネス環境の大きく急激な変化に適応するため、企業には経営戦略や組織改革が求められます。このとき、組織全体で価値観や目指すべきゴールへの認識が統一されていなければ、意思決定の速度が落ちたり誤った判断を下してしまう可能性があります。予測が困難な時代において、意思決定をスムーズに行えるよう社内外にパーパスを浸透させることが必要となっているのです。

世界でサスティナブル経営が広がっている

環境問題や貧困、戦争など世界が抱える問題の深刻化を防ぐために、サスティナブル(=持続可能な)開発目標「SDGs」が世界目標となっています。2030年までに達成すべき17の目標のなかには、企業が主体となって達成を目指すものも含まれています。

そのため、今後企業が評価されるためには、サスティナブルな経営を行うことが求められます。サスティナブル経営を実現するためには、自社が社会へどのような価値を提供するのか存在意義を明確にして、自社の社会的意義、つまりパーパスを見直す必要があるのです。

投資家による企業の評価基準が変わった

企業にSDGsの目標達成やサスティナブル経営が求められていることから、投資家による企業の評価基準も変わってきています。近年は、環境・社会・ガバナンスにおける課題の解決への取り組みであるESGを評価し、課題への継続的な取り組みを促進する「ESG投資」が主流となってきました。

投資家視点でも企業への社会的意義や社会貢献を求めていることから、パーパスの設定が重要になっているのです。

DXが浸透してきている

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、AIやIoT、ビッグデータなどのデジタル技術によって新たなビジネスモデルの創出と、業務フローの改善、組織・企業風土の変革を実現させ、市場における競合優位性を確立することを指します。DX推進では、自社のあり方や社会にもたらす価値を根本的に再考しなければなりません。

DXを進めるためには、新たな自社の存在意義や目指すべき姿を明確にする必要があることから、パーパスの必要性が上がっているといえます。

パーパス経営・パーパスブランディングのメリット

パーパス経営やパーパスブランディングが注目を集めていることからわかるように、パーパスを軸に据えた企業の取り組みには多くのメリットがあります。ここからは、パーパスを策定し、経営・ブランディングに活かすことのメリットをお伝えします。

意思決定のスピード・質の向上

先述のとおり、パーパスを掲げることにより、従業員はもちろんステークホルダー全体が共通の認識を持てるようになるため、意思決定のスピードがあがります。また、自社への理解が深まった状態なので、自社にとってより良い選択ができるようになり、意思決定の質も上がります。より良い意思決定ができれば、ビジネスモデルの改革から、商品・サービスの改善、業務フローの改善、組織の再編まで企業の成長を加速させることが可能です。

ステークホルダーからの支持の獲得

パーパスを策定し、ステークホルダーに共有することで、ステークホルダーからの共感や信頼を得られるため、企業活動への支持を獲得しやすくなります。また、パーパスに沿った一貫性のある経営を実践することで、信頼・共感の高まりを期待できるでしょう。ステークホルダーからの支持が集まれば、社内外からのサポートを受けやすく、安定した経営を行うことが可能になります。

市場における競争力の強化

パーパスを明確にすることにより、社内に共通認識が生まれ、その共通認識は社員の目的意識を育てます。目的意識がしっかりあることで、社員はどのように目的を実現するのかを考えるようになり、イノベーション創出に効果があります。イノベーションが促進されれば、他社にはない新たな価値を生み出し、強い競争力を獲得できます。自社ならではの独自性と発信する社会的意義がマッチしたパーパスを社内に浸透させることができれば、他社に大きなアドバンテージをつけることができるでしょう。

従業員のロイヤリティ・自律性の促進

パーパスは従業員にとって、その企業で働く意義となります。パーパスが存在するだけでも、社員のなかで企業や商品・サービスに対する愛着・忠誠である「ロイヤリティ」を高めることができるのです。

また、自社や商品サービスへのロイヤリティが高まれば、自分の仕事に誇りを持てるようになり、自ら企業のために行動するという自律性も生まれます。ロイヤリティと自律性が促進されれば、業務効率や生産性の向上にもつながってくるでしょう。

持続可能な経営の実現

パーパスには社会的意義というニュアンスが含まれており、パーパスを明示することで曖昧になりがちな社会貢献の活動内容や取り組みをイメージしやすくなります。

また、先述のとおり、企業にはSDGsの達成に向けたサスティナブルな経営が求められています。サスティナブルな経営が実現できれば、投資家を含めたステークホルダーからの支持の獲得や長期的な企業の成長が期待されます。パーパスを実現するために、世界や社会が抱える問題の解決につながる取り組みを行うことで、サスティナブルな経営の実現につながるのです。

パーパス経営の会社事例4選

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最後は、パーパス経営を行っている企業の取り組みをみてみましょう。国内外問わず、社会的な影響が大きい世界的な企業ほど、具体的な取り組みを公表しています。

ソニーグループ

ソニーグループは、2019年に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを発表しました。世界で約11万人いるソニーグループの社員が同じ方向を向いて価値を生み出すために、共通の認識を持つことを目的としています。このパーパスを実現するために、「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」という4つのバリューも併せて策定されました。実際に、従業員の8割以上がこのパーパスをポジティブに捉えており、パーパスの活用に成功しているといえるでしょう。

富士通株式会社

2020年に富士通のパーパスは、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」に刷新されました。パーパスの背景となる世界認識や提供する価値、変革、育成する能力という一続きのストーリーとして理解できるようになっているのが特徴です。グループ全体で「One Fujitsu」を実現することを目的に策定され、現在このパーパスを実現するためにすべての企業活動が行われています。パーパスの実現のため、パーパスを起点にしたときの成長を評価対象に含めた新しい評価制度も導入しました。

アディダス

アディダスのパーパスは「スポーツを通して、私たちには人々の人生を変える力があります」です。アディダスは20年以上前からサスティナビリティを経営理念に据えており、「人」「地球」の側面から人の人生を変えるために、ダイバーシティやエクイテイ&インクルージョン、サスティナビリティの実現に取り組んでいます。取り組みの1つとしてリサイクル素材や再生可能な素材、天然素材といった持続可能な素材で商品を生産しています。とくに、プラスチック削減に注力していて、バージンポリエステルを廃止し、海洋プラスチックごみを再利用したシューズの生産を行っています。

ネスレ

ネスレでは、「ネスレは、食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」というパーパスを掲げています。ネスレは、本業である食を通じて社会問題の解決への貢献を目指しており、人々・健康への貢献、未来のすべての人々の生活の質の向上、地球環境・資源の保護・再生といったサスティナブルな考え方がパーパスにも盛り込まれています。また、ネスレ日本では長期的な目標として「個人と家族」「コミュニティ」「地域」といった3つの分野で、社会問題の解決に取り組んでいます。

これからの時代はパーパス経営が成長のカギとなる!

本記事は、経営・ブランディングにおいて注目されている「パーパス」について詳しく解説しました。企業を取り巻く環境や価値観が急激に変化している昨今、企業の存在価値を示すパーパスの策定が求められるようになっています。

パーパスを軸に事業を運営するパーパス経営では、認知の拡大や自社の存在意義の確立により、事業の成長や競争優位性の獲得、人材確保、持続可能な経営の実現といった効果が期待できます。パーパスを策定、正しく活用し、企業価値の向上や長期的な事業成長につなげていきましょう。

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