私の30代
株式会社クラウドワークス
吉田 浩一郎氏

SPECIAL INTERVIEW #01
株式会社クラウドワークス

代表取締役社長 兼 CEO
吉田 浩一郎

よしだ こういちろう/東京学芸大学卒業後、パイオニア、リードエグジビション ジャパンを経て、株式会社ドリコム 執行役員として東証マザーズ上場を経験後に独立。2011年11月に株式会社クラウドワークスを創業。「個のためのインフラになる」をミッション、「世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる」をビジョンとし、日本最大のクラウドソーシング「クラウドワークス」をはじめとした企業と個人をつなぐオンライン人材マッチングプラットフォームを開発・運営。

『私の30代』の第1回は、創業からたった3年でクラウドワークス社を上場させ、現在もなお、代表として絶え間ない成長と事業の多角化を遂げている吉田浩一郎氏をお招きしました。40代経営者のトップランナーの一人である吉田氏は30代をどのように過ごし、現在のキャリアを築いてきたのか、経営者になるために重要なことは何かを語っていただきました。

クラウドワークスは今がいちばん面白い

-現職における吉田社長の重要な役割や仕事の面白みについてお聞かせ下さい。

クラウドワークスは、創業してから今がいちばん面白い時期だと感じています。事業が着実に立ち上がり、新規事業においても高い再現性を見せています。経営幹部や組織も含め、会社経営に不可欠な要素が揃いつつあり、まるでオーケストラの楽器が揃ってきたような状態です。私の役割としては、力点を人に置いている中で、企業成長のスケールはしばしば「300・3000・30000」という表現をされますが、現在約450名の組織を3000名規模に拡大していくためにどのような戦略を立てていくかを考えることになります。

創業当初は、1回目の起業を含め7年が経っており、最後のチャンスとして、何とか人の役に立たないといけないという心持ちでした。そのため、当時は面白いと思えるような余裕もなかったので、今はなおさら、成長のための戦略を立て実行することが面白いと感じています。

「10年続ける」を実践した30代

-30代において、今のキャリアを築く上で特に影響を受けたこと、転機になったことは何でしょうか?

私は学生時代、演劇をやっていたのですが、当時一緒に活動していたのが売れる前のゴスペラーズのメンバーであり、照明のアルバイトでピンスポットを当てていたのが大人計画の宮藤官九郎さん、阿部サダヲさんでした。私は道半ばでやめて社会人になったのですが、それから10年後に彼らは大成功していました。

ひとつのことを10年続けて成功した方たちを見て、当時営業マンだった私は、自分にとって10年続けたいことは何かという問いに直面し、それが経営・マネジメントであると確信しました。

しかし私は、営業成績は良かったのですが、典型的なプレイヤーであり、マネジメントができない人間でした。上司からはっきりと「マネジメントに向いていない」と言われ、部下全員から退職を直訴されることもありました。ただ、ゴスペラーズや大人計画の方々は、向いている・向いていないなんてことを考えてやっていたのだろうかと思い、向いていなくとも自分がやりたいと思える経営を10年続けようと決心しました。

経営を志したのが29歳のときで、クラウドワークスが上場したのが39歳のときですから、私にとっての30代は、ひとつのことを続けると決めて走り続けた10年だったなと思います。
私や演劇で出会った方々含めてですが、10年という区切りはひとつのことを成し遂げるために目安として必要な期間なのだと思います。

「太陽戦法」で自分が変わり周りも変わった

-エキスパート人材からマネジメント人材への転換はとても難しいことと思いますが、経営者として上場するまでに至ったのは何かご自身の変化があったのでしょうか。

弁護士ドットコムの元榮太一郎さんとの出会いが大きなきっかけになったと思います。ドリコムでの上場経験を買っていただき、現弁護士ドットコムの元榮太一郎さんに社外取締役として迎えられました。

元榮さんは、北風と太陽で言うところの太陽のような人物で、週1回の業務委託の方にも丁寧にお礼を言い、自らに文句を言ってくる人にも感謝の意を示す人でした。そして、そんな元榮さんのもとにはいつも人が集まっていました。それを見て、ベンチャーはいきなりひとつに結束するものではないので、関わってくれるだけで感謝すべきだと気付きました。自分にはその姿勢が足りなかったのではないかと反省し、クラウドワークスを創業する際には明確にやり方を変え、それを「太陽戦法」と名付けました。

この「太陽戦法」とは、礼を尽くすこと。本人の希望を尊重すること。すると、自然とチームが形成されていきました。元榮さんから学んだこのアプローチは、私自身の非常に大きな変化となりました。

元榮さんとの出会いを通じて、自分の心のありようで周りの対応も変わることを経験し、自分が学び、変化すれば運も味方し、周囲も協力的になることを学びました。

-本当に様々なことをされてきた30代だったかと思いますが、逆にもっとやっておけばよかったことはありますか?

強いて言えば、もう少し趣味を持っておけばよかったかもしれません。20代の頃はサーフィンや登山、スノーボードなどの趣味を楽しんでいましたが、29歳で経営を目指す際に全ての趣味を断念しました。ゴスペラーズが喉をいたわるために年に1回しかお酒を飲まないと言っていて、じゃあ私が経営者を目指すなら、仕事だけに徹しなければいけないと考えたためです。その結果、30代は趣味のない人生を過ごしました。ただ、そうすることで会食での話題がなくなってしまいました(笑)。

どうしてもやりたい、向いていなくても諦められない何かがあるか

-経営者になるために重要なことは何だと思われますか?

私は、演劇においては向いていないと諦めましたが、経営においてはどんなに自分が向いていなくても諦めたくありませんでした。その諦めきれない何かがあるかどうかが、重要なポイントだと考えています。自分がどうしても経営をやりたいかどうか問われたときに、晴れやかにYESと答えられるか。私がまさにそうですが、どうしてもやりたければ人は学ぶのです。

ビジネスモデルの考案、0→1や1→10のスケーリング、組織の構築など、経営者には多岐にわたるスキルが求められます。全てに向いている人はいないと思います。したがって、私が重要だと思うのは、まずは挑戦してみて、経営者に向いていなくても、諦められない何かがあるかどうか、それを見極めること。それがなければ、自分は経営者という役割ではなかったということかもしれません。

-つまり、経営者に向いている人、向いていない人という概念はないということでしょうか?

私は経営者の類型にあまり意味がないと思っています。経営というものは市場や社会環境によってそのやり方が全く異なるため、どういう人が経営者に向いているかというのは一概には言えないからです。経営に対する理解が深まるにつれ、他の人のやり方が参考になりにくくなりました。ソフトバンクの孫さんや楽天の三木谷さん、サイバーエージェントの藤田さんについても、凄すぎるということもあるのですが、全く参考にできないと感じることもあります。やはり、自分は自分のやり方で進むしかないというのが私の現在の考えです。

私の経営スタイルは学び続けること、変化し続けることですが、一方でオーナー社長は自分のやり方が最も正しいと信じることもありますよね。例えば、クラウドワークスの3つのValueのひとつである「Be Agile※1」においては、私が仮説を立てたとしても、そのフィードバックは社員やユーザーから求めています。さらに、これらのValue自体も、元々私が持っていた価値観ではなく、優秀なマネージャーを分析して生まれたものです。

このようなスタイルは、他のオーナー社長からは「オーナー社長らしくない」とよく言われます。要するに、多様な経営者がいて、様々なやり方が存在するということです。私自身がその証明であると感じています。

※1)Be Agile
1. 前提条件を排して考える
2. 事実を集め「まず、すぐ」仮説を試す
3. 試した結果を観察、振り返り 仮説と結果の差分から学び、さらに新しい仮説を立てる
CW Culture|CROWDWORKS

個のためのインフラになる

-クラウドワークスは今後どのようになっていきますか?

クラウドワークスは2021年よりミッションを「個のためのインフラになる」に変更しました。これからの時代では今までと異なり、個人の視点から見た社会の最適化が進むでしょう。
例えば、弊社にはTikTokerとして給与を上回る収入を得ている社員や、サッカーのコーチとして収入を得ながら働いている社員がいます。これは、個人が先に変わっていて、社会の枠組みがそれに追い付いていないことを示しています。そのため、我々は個人のための新しいインフラを構築したいと考えています。

この目標の具体的な数値として、流通取引総額2兆円を掲げています。これを達成することで、報酬を届けるインターネットの就業インフラとして、日本最大規模になることを目指しています。これに向けての第一歩として、売上高 300億円をはじめとした事業目標である「YOSHIDA300」があり、これを達成した後は、売上高1000億円、従業員規模3000名を目指していく計画です。

-最後にクラウドワークスに興味がある、働きたいと思う方へメッセージをお願いします。

弊社では本当に多くの社員がキャリアアップを実現しています。新卒2年目でマネージャー、8年目で執行役員となり、SaaS事業を前年比200%成長に導いた社員や、弊社サービスでクラウドワーカーをしていた方が契約社員として入社し、人事マネージャーになった事例などがあります。

その他にも、客室乗務員から弊社でITスキルを高め、現在はアドビで働いている方や、IT未経験から弊社で新規事業立ち上げを行ない、現在はLayerXでSaaSの営業マネージャーになっている方などがいます。

弊社は従業員の意志を尊重し、挑戦できる環境を提供しています。そして、会社の成長環境の面でも挑戦できる場は広がっています。挑戦してスキルアップして、弊社内で活躍してくれるもよし、キャリアアップして社会の中で活躍してくれるもよし、と考えています。

働く場所としても「個のためのインフラ」でありたいですね。

記:原田 雅志 フォト:長田 慶