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株式会社オプト 鉢嶺登

FINANCIAL JAPAN

社長として私は面接されました

上田 今回はインターネット広告代理店オプトの鉢嶺登社長に登場していただきました。鉢嶺社長とは一〇年ほど前からビジネス上の交流があったのですが、当時から「会社を伸ばす社長」と思いました。素晴らしい会社を作り上げられた。

鉢嶺 そう言っていただけるのはうれしいです(笑)。

上田 ネット企業というと「人間のにおい」のしない会社もある。鉢嶺社長は社員と向き合う、人間を見すえるマネジメントをします。その人活術がユニークなので、読者の皆さんにご紹介したいと考えました。

鉢嶺 会社のマネジメントは本当にむずかしく、責任の重い営みです。社員は人生の一部を会社に委ねるわけですから。私は、社員のご家族に何度も面接されているんですよ。

上田 社長が面接される?

鉢嶺 オプトは一九九四年に創業し、初めの一年間は私だけでした。二年目に現在CFO(最高財務責任者)の小林(小林正樹取締役)が、「森ビル」を退職して合流してくれました。彼は一人っ子でお父さまが転職を不安に思われた。当時、私は無給でしたし、当駄ですよね(笑)。

上田 それで、面接を受けた。

鉢嶺 はい。彼は無給で入社することになったのですが、一年たっても給料が払えない状況だったら、地元に戻って就職するという約束で彼の入社を認めていただいた。また、創業三年目で社員七人のときに新卒採用をしました。そのときも内定者のお父さまが「うちの娘が騙されたのか」と不安に思われて、長野から飛んで来られた。それで、私の考えと期待を何時間も話して、納得していただきました。

上田 このエピソードに、真剣に社員と向き合う鉢嶺社長の考えが表れているのではないかな。創業直後に新卒採用という例は珍しい。

鉢嶺 そうですね。このチャレンジは成功したと思います。新卒社員は予想以上の戦力になってくれましたから。夢や希望に満ち溢れて入社するので、モチベーションが非常に高い。「会社とはこんなもの」という既成概念にとらわれていないから、新しい組織を作る上で自由に発想し、力を発揮しました。

プラス思考の人を採用したい

上田 なるほど。今も社長業の中で、採用は重視していますか。

鉢嶺 今はとても数が多いので、中途採用の選考は役員にお願いしていますが、新卒採用は今年も私が中心になって行います。座談会など、いろいろなコミュニケーションを図りながら採用します。最近の学生は賢くて、知識武装するので(笑)。長い時間をかけて話し合います。

上田 どこを見るのでしょうか。

鉢嶺 むずかしいので、悩んでいます。ある人を「絶対入社させたい」と言う役員が一人いれば、他の役員が「不採用」としても採用にします。振り返ると、そうやって採用が決まった人のなかに、入社後に活躍した人がたくさんいるんです。

上田 なぜそういう形になるんでしょうね。

鉢嶺 わかりませんが、ビジネスの結果は能力だけで生まれません。その人の持つ考えで、変わる例があると思うのです。「仕事ができる人」と「プラス思考の人」が同じ評価だったら「プラス思考の人」を採用するルールがある。

上田 ここまで深く考えていると、人材活用は上手そうだなあ。

鉢嶺 いや、いっぱい失敗しているんです。先ほどの話と矛盾するかもしれませんが、私は人として信用できるかどうかを第一印象で判断します。その人の内面から出るものがあるじゃないですか。第一印象で「ちょっと怪しいな」という人や会社は、何か問題のある例が多い。オプトが小さいときにビジネスの上で騙されたことが何回かある。いずれもカンが働いて「おかしいな」と思ったのに、進めてしまった話です。

上田 人間は変わる可能性を持つ。ただ、かなりの確率でカンによって先行きを判断できる。

鉢嶺 そう思います。過去の失敗に懲りて、採用でも事業の決断でも「カン」を大切にしています。そして、人間関係の根底に信用が必要と思っています。大事を託する場合には、「一生この人と付き合えるか」というところまで判断します。

上田 お話をうかがうと、リーダーとして、ぐいぐい引っ張るタイプではなさそうだ。

鉢嶺 ところが、尊敬している戦国武将は、独裁者タイプの織田信長なんです。そのビジョンや、決断力にあこがれる。

上田 へえ。鉢嶺社長のソフトな物腰からは想像できないですよ。

鉢嶺 あこがれと現実は違います(笑)。自分は信長とまったく違ってみんなに助けてもらうタイプですね。

上田 鉢嶺社長は「チーム」を重視する経営をしますね。昔通の会社は社長が就任するCEO(最高経営責任者)を別の人が務めている。

鉢嶺 CEOの海老根(海老根智仁代表取締役)のほうが私よりマネジメントカが高いですから。

なぜ創業直後から経営チーム作りを目指したか

上田 そんなことはないでしょう(笑)。ここまで自分を謙虚に、そして冷静に見る創業社長はいないですよ。カリスマ的な人が多いですから。チーム経営は以前から考えていたのですか。

鉢嶺 そうですね。創業直後に、アメリカのべンチャーキャピタル(VC)の行動を分析したリポートを読んでヒントを得ました。アメリカのVCが投資をするときに、評価をする優先順位のトップは経営チームだそうです。そしてVCの役割の一つは経営陣を組織することにある。一方、日本のVCは経営者よりも企画とか、技術とかを重視しますよね。

上田 なるほど。起業家はゼロから物事を生む才能に溢れた人が多いけれど、生まれた種を育てるのは苦手な人もいます。

鉢嶺 そうそう。個人ではなく、組織化するのが、会社を大きくする上では非常に重要です。

上田 理屈はわかってるんですが、できる人は少ないですよ。鉢嶺社長はそれに成功した。

鉢嶺 いや、人に恵まれただけ。ラッキーでした。

上田 その運を引き入れたのは鉢嶺社長自身ではないでしょうか。

社長業で「ビジョン」作りに特化する

上田 その経営チームで、鉢嶺社長はどのような役割を担うのですか。社長「CVO」に今年就任しましたね。CVO (Chief Visionary Officer)とは見かけない言葉です。

鉢嶺 これはアメリカのいくつかの会社にあった肩書ですが、日本にはあまりないですね。その役割は、事業開発と社風を醸成することの責任者。「ビジョン」を作って、浸透させることです。

上田 なぜ就任したのですか。

鉢嶺 一般的に会社は三〇年が寿命と言われますよね。その中で何十年も続く会社を見ると、よい社風の醸成と常に変わり続けるという二つの特長がある。『ビジョナリーカンパニー』(日経BP出版センター)という経営書にその法則がまとまっていて、印象に残ったのです。この二つを仕事にしてもいいと考えました。

上田 オプトは急成長しています。創業の思いや、ビジョンを伝えるのは、やはりむずかしいですか。

鉢嶺 そのむずかしさを毎日感じていますね。オプトは二〇〇五年の一年間で社員が約一二〇人から約二四〇人になり、今年末には約三七〇人になる予定です。そうなると、オプトの理念や行動規範、社是や哲学が組織の隅々まで行き渡っているかが心配になる。物事の判断が、さまざまな観点で行われる可能性がある。

上田 なるほど。CVOには「ビジョンの普及者」という意味を込めているのですね。そのビジョンの根幹には、何があるのですか。

鉢嶺 企業哲学の根本に「一人ひとりが社長」。そこから「自立+尊敬=協調」という人間関係のコンセプト。そして「先義後利」「新しい価値の創造」「チャレンジ(変革しつづける)」「楽天主義(プラス思考)」「社員の幸せこそ重要」という五つの基本埋念を作りました。その中では「自立」が根本です。

上田 なぜそれを柱にしたのですか?

鉢嶺 終身雇用と退職金、年金などで、会社や国が個人を守った時代がありました。それは今では崩壊している。会社に入ったら一生安泰ということはない。だったら、若いときから一人ひとりが自立しようと会社で呼びかけています。極端に言えばオプトにいなくても、どこでも仕事ができる人が集まってほしい。そんな思いで理念を作りました。

上田 ユニークな仕事観ですね。

鉢嶺 「ビジョンに共感するから」「働くメンバーが魅力的だから」。そんな埋由で同じフィールドに、自立したプロフェッショナルが今、たまたま集まっているという会社を作りたい。会社が言うことだけやるとか、サラリーをもらうために窓際にしがみつくとか。こんな姿は、会社にも個人にも何もメリットがない。

自立社貝を生むために示すビジョンとは?

上田 南部さん(南部靖之パソナグループ代表)と私は、パソナで「この指とまれ」とぃうキャッチフレーズを作った。好きなことをやりたい人が集まる、チームごとの経営を目指したんです。「やりたい人」が集まる組織は強いですよ。鉢嶺社長はどんなビジョンを、現場に落とし込んでいるのでしょうか。

鉢嶺 「この指とまれ」に似ていますよ。例えぱ、オプトが今年打ち出した採用のキャッチフレーズは「聞く、考える、主張する、走る、走りとおす」です。「素直に聞く耳を常に持とう。他人の意見ではなく、自分の頭で答えを常に考えよう。その上で、自分を主張しよう。言うだけでなくて、実行しよう、やり遂げよう」。こうなりたいと思う人材を求めると。そういう意欲を持つ人がスキルをオプトで磨いたら、どこでだって自立して生きていけるはずです。

上田 いいなあ、そのキャッチフレーズ。意欲的な人材が集まりますよ。

鉢嶺 社内では「言い訳をしてはいけない」と訴えています。「言い訳したら『自分は仕事ができません』と宣言したとみなす」とまで言っている。常に変化して新しい価値を創造するには、既成概念を壊さねばならない。口先で物事は壊れない。

上田 普通にやったら無理ですよね。

鉢嶺 そうです。だったら「今はできない」ことを前提に「どうやったらできるか」か考えないと。「できない言い訳」を並べたら、何もできませんから。

上田 なるほど。

鉢嶺 「会議で否定をしたら、代案を出す義務がある」という社内ルールもある。どんな組織でも「こういうリスク、ああいうリスクがある」と、とりあえず言う人がいる。自分が逃げられる状況を作る(笑)。

上田 あるある(笑)。特に大企業ではね。否定は簡単ですから。

鉢嶺 チャレンジすることは、座視するときの何倍もパワーが必要です。否定は誰にでもできるし、ずるい行為でもある。だから、否定もさせないようにしている。

上田 オプトが、どのような人事評価をするのかも知りたいですね。

鉢嶺 社員それぞれが目標を設定する。それが達成できたか、半期ごとに点数がつく。客観性を保つために必要なのは数字です。ただ、会社の行動規範に照らした評価も半分は入れています。プロセス、言い換えると努力を重視する評価ですね。また、スタンドプレーよりも、チームで達成することの評価も高くしています。一人で仕事はできませんから。「同僚やチームの上司、そしてお客さまへの感謝が仕事で常になければいけない」と考えています。

なによりも信頼が必要「一生この人と付き合えるか」と判断までした上で物事を委ねます

上田 こうした考えはどうして生まれたんでしょうか。これまでの苦労も、うかがいたいですね。

鉢嶺 起業を意識したのは中学生ぐらい。戦国武将に関心があって、世の中に影響を与えたいという希望がありました。教師、政治家か事業家の三つにあこがれた。

海外旅行で得た起業への決意

上田 高校生のときからビジネスのパートナーを探したそうですね。

鉢嶺 「チャレシジ精神」のありそうな人に声をかけていました。そうした中で、創業のときに私以外に四人のメンバーが出資とサポートをしてくれました。このうち三人が今の当社の役員で、一人は自分で起業しました。

上田 「森ビル」という大企業に入ったのはなぜですか。

鉢嶺 三年間は社会勉強とビジネスの種集めと思って、就職しました。しかし、見つからずに焦ったのです。「失敗」を怖れた面もあった。悩んでいたら、背中を押してもらうような気付きがあったのです。

上田 どんなことですか。

鉢嶺 気分転換をかねてエジプトを旅行したのです。二つの気付きがあった。向こうはナイル川で多くの人が洗濯しているような、貧しい国です。失礼な言い方ですが、職業選択の自由どころか、明日の暮らしもままならない人がいる。私の悩みなど小さいし、若いから失敗も取り返せると踏ん切りがついた。
そして、日本人であることにも、幸せを感じた。両親や祖父母の世代の日本人が頑張ったおかげで経済が繁栄した。私がエジプトに遊びにいける豊かさは、私の努力で作られたものではなかった。先人のおかげでした。このまま大企業にいて「一生安泰だ」とやっていると、日本の未来は本当にまずいと思ったのです。

上田 実は、私にも同じ経験があるんですよ。私は香港とべトナムを二〇代半ばの頃に旅したんです。生きるか死ぬかという次元にいる人を見ると、自分の位置を考えますよね。気持ちも強くなるし、優しくなることもできる。その後のべンチャー経営で役立った。

鉢嶺 それと似ていますよ。とにかく大企業を飛び出し、チャレンジする。その行動に社会的な意義があると思った。非常にすっきりとして、起業に踏み出せだのです。もう迷いはありませんでした。

上田 一番初めの「FAX開拓君」というファックスサービスは私たちも利用させていただきました。当時、ファックスに広告や街の案内など、さまざまな情報が盛り込まれていて、とても便利でしたから。

鉢嶺 「ダイレクトマーケティング」(営業支援活動)の分野で起業を試みました。しかし、チラシ、新聞・雑誌などの既存メディアへの広告や媒体を扱う会社は既にあっだ。誰もやってないものを探したときに、ファックスに目をつけた。

フォーカスの繰り返しが勝利を生む

上田 当時のファックスは通信手段にすぎませんでしたね。

鉢嶺 ファックスを情報伝達のメディアにしようと思ったんです。新しい価値を提供しないと、起業する意味がないと考えました。それなりに売れたのですが、創業五年目までに三億円台までしか伸びなかった。逆に言うと、どんなに頑張っても売上高一〇億円が限界と思えた。そんなときに、ネット広告を考えました。

上田 転機はなんだったのですか。

鉢嶺 九七年にあるクライアントの販売促進プランのコンぺがあった。われわれがファックス、別の会社がインターネットの提案をした。私たちの負けです。勝った相手の販促活動を見たところ、何万人もサービスに応募する結果になりました。ファックスでも同じぐらいの応募数は獲得できましたが、返信と情報の分析に数万通のファックスの管理をしなければならない。手間が大変ですよね。インフラとしてインターネットは未成熟でしたが、このときにネット広告にシフトすることを決断したんです。

上田 かなり、大きな決断だったでしょう。

鉢嶺 そうですね。「ネットだ」と言いましたが、現場の社員はどうしても売り上げの出るファックスを売る。当時はようやくネット広告がアメリカで誕生したような状況でしたから、先行きもわからなかった。それで「一切ファックスを売ってはダメ」という宣言をして、無理やり全員をネットにシフトさせました。

上田 九七年ごろは、景気はどん底でしたね。

鉢嶺 その一年は本当に、資金繰りが厳しかった。方針転換しても成果はなかなか出ない。二〇〇〇年から、「アドプラン」というネット広告の効果が測定できるヅールを開発して、それを使ったネット広告を行う代理店に特化しました。年間二億~三億円の売上高だったのが、〇一年にいきなり一三億円になって今まで一気に増えたんです。

上田 躍進はなぜでしょうか。

鉢嶺 ネット広告事業に、とにかくフォーカスした。資金も人材もすべてそこだけ。それ以外は一切技資せず、売るべき商品やお客さまの業種もフォーカスしました。「弱者の戦略」の一点突破です。とにかく集中して局地戦の勝利を積み上げる。ベンチャーはこうした動きをしないと、大企業に勝つことはできません。

人活術の基本は「信頼」

上田 とすると、鉢嶺社長の今の関心事はなんですか。

鉢嶺 内と外のテーマをまとめると、社内では社風を作り、伝えることです。社内新聞、社員専用ブログ、私からのメール、誕生日カード、パーティなどの、コミュニケーションで浸透させたいと努力しています。

上田 けれども、社員がこれだけ増えると不可能ではないですか。

鉢嶺 社員一人ひとりとじっくり話したいのですが、もう不可能です。リーダークラスの約四〇人との意見交換を心がけています。月一回ミーティングをしますが、足りないですね。今度コーポレートアカデミー(企業内大学)として社員教育を行う「オプトアカデミー」を作るのも、そういう問題意識があるからです。

上田 いろいろ行っているのに、少ないと考えているなんて。ほかの社長に聞かせたい(笑)。では外への課題とはなんですか。

鉢嶺 ネット広告のマーケットはしばらく成長します。オプトはトップグループに残りました。勝ち残れるにしても、マーケット全体の伸びは鈍化する。だから、次の事業の柱を見つけないと。

上田 見つかりましたか。

鉢嶺 いや、いろいろ布石は打っていますが、これでいけるという分野はまだですね。

上田 考え方が本当にバランスが取れていますね。有能な経営者はいつも発展途上にいる。鉢嶺社長は会うごとに変化して、経営者としての深みやスケールが増している。

鉢嶺 二〇代の「やんちゃな」社長のイメージが残っているのかな(笑)。まだまだ変わりたいと思います。

上田 深い思索と、それに基づく行動があるから結果が出る。お世辞ではなくて、オプトのいい評判を私の周りでもよく聞きます。営業マンの誠実さや提案力が素晴らしいと。ネット企業には「人間力」がいまひとつのところが多いから、オプトの素晴らしさは目立ちますよ。理由の一端が見えたようです。

鉢嶺 ありがとうございます。社員と会社に評価をいただくのは、私にとって一番うれしいことです。

上田 オプトの成長を楽しみにしています。では最後に一言。鉢嶺社長の人活の秘訣は何ですか。

鉢嶺 「信頼」でしょうか。人を信頼すること、されること。お客さま、株主、そして社内関係でもそれが基 本です。それを確かにすることで、会社の強さが生まれてくる。そう考えて「ビジョン」を訴えています。