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株式会社ディー・エヌ・エー 南場智子

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「社員のすごさ」を強調する社長

上田 「私たちの大きな夢とてんでバラバラの個性で、DeNAが生まれる前とその後では、きっと違う時代になる」--。手元にDeNAの会社案内がありますが、南場さんはこんなメッセージを載せています。社員と会社の可能性を、ここまで信じる社長は珍しい。人活術を聞くのが楽しみです。

南場 よろしくお願いします。その言葉を私は信じているんです。私たちの会社には、素晴らしい人材が集まっていて、その力が合わされば「地球を動かすこと」さえ可能と思っています。

上田 ものすごいことを、さらりと言いますね(笑)。しかし、携帯サイト「モバゲータウン」の利用者が約780万人となるなどの急成長をみると、DeNAは本当に地球を動かしてしまうかもしれません。ところで、南場社長は起業のときから、社員をもりたてるマネジメントをしていたのですか。

南場 起業したときには、会社を自分の子どものように思っていましたが、その2年ほど後で考えを変えたのです。社員は自分の人生を彩るために仕事と会社を選ぶわけで、「南場の会社」に入るわけではありません。そのことに気づくと、自分を強く出すことをやめました。社員の働きやすい場、みんなが力を出せる器づくりをするのが私の役割と思ったのです。

上田 DeNAを知る人の誰もが、「会社に一体感がある」と印象を述べます。南場さんの「器作り」の成果が出ているのでしょう。

南場 当社は創業直後に赤字が続いたのに、社員があまり辞めませんでした。そうした一体感のためかもしれません。そのころ、たまに社員が辞めると、自分に悪いところがあったのではないかと自問して、わたちは落ち込んだのです。そして辞めた人にも、複雑な感情を持ってしまいました。

上田 私も人が辞めてしまったときに、同じ経験があります。今でもそうですか。

南場 今はそれぞれの生き方を尊重できて、辞めた人とも冷静につきあえます。ウチの会社は一度辞めた人が、もう一度働く「出戻り」も多いんですよ。私も、いい社員には「ぜひ戻ってきてください」と言っています。

上田 それは素晴らしい。ほかの会社を見た後に、また入りたくなる会社は、人を引き付ける「何か」を持つのでしょう。

コンサルティングと起業の大きな違い

上田 南場さんは一流コンサルティング企業であるマッキンゼーの日本法人の幹部から転じて、DeNAを創業しました。なぜ、それまで積み重ねた経歴から、変化もリスクも大きな起業に踏み出したのでしょうか。

南場 「魔がさした」というか、やっちゃったなという感じです。コンサルタントの仕事はプランを作っておしまいですが、私は自分の作ったプランを実行してチャリンとお金になるまで、付き合い倒したいと思いました。大変な経験でしたが、後悔はありません。

上田 けれども、創業しばらくはなかなか収益が改善しなかったそうですね。

南場 ネットオークションからサービスを始めたのですが、先行企業に追い付くのが難しかったし、黒字化がずっと課題になっていました。03年度にようやく黒字を確保できたのですが、そのときは本当にうれしかったです。赤字が続いた当時は、どんよりと思い感じが常に胸にありましたから。

上田 起業でも、新規ビジネスの立ち上げでも、経営者は夢が先行しがちになります。私もロマン先行の経営者だったので、反省を何度もしています。「リアリズム8割、ロマン2割」なんですよね。

南場 そう思います。創業当時の私は利益に甘かったのです。「世の中に付加価値を提供できるか」を重視し、利益はあとからついてくると思っていました。ところが実際は違うんです。経営者は利益を出して、世の中に初めてメッセージを示せる。経営することで、利益の大切さが心に染みました。

上田 コンサルタントとしての経験は、もちろん起業に役立ったのですよね。

南場 マッキンゼーでは論理的に問題解決の方法を考えることを、徹底的に鍛えられました。それは、とてもためになっています。しかし、起業前に練ったいろんな戦略や計画は、全部変わってしまいました。コンサルタントとして偉そうなことを言ってごめんなさい、という感じです(笑)。企業は戦略を考えることも大切ですが、実行することがより重要でした。

上田 それでは、当初の予想から変わらなかったことは、何なのでしょうか。

南場 今考えてみると、人に対する考えだけが一貫しています。「働く人の質は妥協したくない」という点だけ。起業から今まで、人の質は高いままですね。それぐらいです。ビジネスモデルも、私のマネジメントも変わりました。

上田 南場さんの楽しそうなマネジメントは、当初考えたものとは、まったく違うのですか。

南場 ええ。起業前はDeNAを統率のとれた会社にするつもりでした。そこはボスの命令の下でビシッとまとまる会社でした。今のDeNAは統率が強くないし、私も自分のマネジメント方法を「アウト・オブ・統率」と言っています(笑)。
統率すると、その統率する人の枠を社員が越えられなくなります。会社全体でみると、社長である私の枠を超えられなくなる。私が引っ張るより、社員のみんなが力を発揮できる組織の器を作ろうとしています。

上田 明るく、楽しそうな雰囲気が、南場さんを取り巻いています。これも当初は違ったのですか。

南場 周りの人に聞くと、マッキンゼー時代と起業直後の私は、厳しい雰囲気だったようです。納得できないことを理詰めで反論し、「頑張るぞ」という態度を社員に示していた。マッキンゼーではスキを見せてはいけないと「賢そうなふり」もしていました。けれども、トップが厳しい態度を取ると人が委縮し、組織の器が小さくなります。それがわかって、やめました。今では「地」の性格が出ていますが、そのほうが楽です(笑)。

小さな成功が人を変えていく

上田 それでは、そうした器をどのように作り上げているのかを知りたいですね。DeNAが働く人にとって魅力的であるのは、どの点にあると考えますか。

南場 ウチの会社で、私についてきているなんて人は誰もいません。仕事が面白いから、そして仕事を通じて自分が変われるから、働くのでしょう。

上田 会社の急成長の裏には、働く人それぞれの成長もあるはずです。社員の皆さんが伸びるときは、どのような場合でしょうか。

南場 そうですね……。自分を持って一歩を踏み出せたとき、人は飛躍して高いステージに行くことができるようです。「調子にのっている」と、危うく思えるくらいバリバリやっている人が、一番いい仕事をしていますね。

上田 自信を持たせるどんな工夫をしているのでしょう。

南場 成長には「失敗の経験が大切」と言われます。しかし、負けた経験ばかりでは委縮してリスクもとれず、その報酬である成功も獲得できなくなるでしょう。私は小さな成功体験を積み重ねることが一番いいと思います。

上田 「小さな成功体験」ですか。それを得るために、どんなことをしているのでしょうか。

南場 社員が自分の能力でできる、ぎりぎりの仕事をやってもらいます。若手に成功体験を与えられるよう、社内のマネジャーにもお願いしています。小さな成功の繰り返しが、社員を変え、DeNAを成長させました。たとえば「モバゲータウン」などは最初、簡単なサービスから始まったのですが、日々のオペレーション(運用)の部分でユーザーの満足度を少しずつ高めました。

上田 最先端のITベンチャーなのに、とても地道な経営です。しかし、能力ぎりぎりの仕事をすると失敗もあるのではないですか。

南場 もちろんリスクはあります。成功すればその人にも会社にもプラスになるし、失敗してもその人には経験が残る。会社を傾けるリスクは取りませんが、私はチャンスがたくさんある組織にしたい。成果を出せば、より大きな仕事ができる会社にしています。同じレベルの仕事を続ければ、リスクは少ないですが、会社も働く人も伸びません。

上田 各事業グループの「エース」を、別の部署に配置換えして、わざと変化を起こすユニークな人事を行っているそうですね。

南場 その試みもチャンスを作り出すために行っています。私は完成したものを見ると新しいものを作りたくなる、変わった性格なんです(笑)。「エース」が移った先の部署も、移ってしまった部署も、総じていい成果を出しています。

上田 売上高が100億円を超え、大企業といってもいい規模になりましたが、そうした挑戦は今後も続けますか。

南場 そのつもりです。新しいことをしよう、非常識を大切にしようと言っています。挙動不審とか、変な雰囲気は困りますが(笑)。発送の点で常識外の新しいことを提案することによって、社会に新たな価値を提供できると思うのです。

いろんなタイプの人が集う会社がいい

上田 チャンスを与えること、小さな成功を重ねることは、確かに人を成長させるでしょう。ほかに、人材育成で工夫していることはありますか。

南場 うーん。人を成長させる方法がわかったら、人間としても、経営者としても、完成していそうです(笑)。「育てる」というよりも、今持っているものを活かし、伸ばしてほしい。いろんなタイプの個性を持つ人がいて、みんなが得意なこと、好きなことをしながら、利益を出せる。そんな会社にしたいし、なりつつあるようです。

上田 多様さのある組織でありたいと思っているわけですね。

南場 いろいろな能力がないと事業会社は回りません。かつて勤めていたマッキンゼーは、プロのコンサルタントが「問題解決のための答えを探す」という仕事を行う会社。同じ種類の人が同じことをする、こうした会社も「あり」ですが、事業会社は考えが多様なほうがいいと思います。

上田 南場さんは仕事を他人に任せる方でしょうね。

南場 そうですね。起業したあとは「一人ですべてはできない」とあきらめ、私はあらゆる仕事を委ねました。いろんな力を持つ人が、気持ちをひとつにして、その合わせた力を外に向けると、全員の力の足し算以上に、力が何倍にもなります。こうした素晴らしい経験を、この会社で続けています。

上田 人事でも、採用でも、どんな基準で人を選ぶのでしょうか。

南場 難しい質問ですね。試行錯誤をしていますが、「極める力」、つまり結果を出す力を見ようとしています。採用の場合には、遊びでも、いやナンパでも(笑)。極めたことを聞いています。

上田 学歴は、そうした場合に見ないですか。

南場 もちろんピカピカの学歴や経験を持った人を採用したくなりますよ。けれども、そういった人たちが、いい成績とってほめてもらうことを喜びにする人だったら、ビジネスでは自分も周りも苦労することになるでしょう。

上田 ビジネスは正解がない世界に投げ込まれ、選択したことから正解のようなものを作り上げる営みですからね。

南場 そんな世界では、正解だけを求める人は、いずれ大きな失敗をすると思います。上司にほめてもらうことに喜びを見つける人なら、結局、その上司を超えられない。何かを成し遂げ、結果を出すことに喜びを持つ「極められる」人だったら、仕事を成し遂げた上で、自分の能力を高めることができるでしょう。

上田 社員の組織上の評価をどのようにやっているのかも、教えてください。

南場 言葉にすると簡単ですが、目標を設定させ、プロセスをみます。ただ、管理職と普通の社員は違います。事業部長クラスは結果重視で、下に行くほど努力や成長などを評価します。ビジネスに運もある。けれども「そういうのもひっくるめて、結果で評価します。マネジャークラスはみんな優れた人であることはわかっていますからね」と言っています。

今だから言える人に関する失敗

上田 この対談では、人活の失敗談も聞いています。

南場 失敗は山ほどありますね。今でも後悔しているのは創業のときに、人に対してガツガツした態度をとったことです。

上田 「ガツガツ」とは何ですか。

南場 「いい人を採りたい」と人にハングリーになっていたんです。株主の企業が社員を出向させてくれたのに、その人をDeNAに転職させ迷惑をかけました。悔んでいますね。

上田 DeNAで働きたいというのなら、それは仕方がないのではないですか。

南場 私もそう弁解してしまったのです。「ウチに来てくれ」と言葉では言っていませんが、態度では伝えていました。謝ればよかったのに、「その人がDeNAで働きたいと言ってくれた」と、私は弁解したんです。

上田 ゆとりがないと、心が貧しくなるのでしょう。ただ、それほど、自分を責める必要はないと思うのですが……。

南場 実は、私も同じ状態になったんです。DeNAを辞めて起業をした人に、その人の同僚や部下がついていったことがあります。そのとき、一言「ごめん、南場さん。やっちゃったよ」と謝ってくれれば、その人と今でもいい付き合いができ、応援することもできたと思います。ただ、自分も同じことしたよなと振り返ると、その人のことは責められないですね。

球形の組織で一人ひとりが代表者に

上田 このエピソードを聞くと、南場さんは決断力、実行力以外にも、繊細さを兼ね備えているとわかります。DeNAの強さは、そうした心配りの上で、働きやすい器を作ったことにあるのでしょう。それでは、DeNAのDNA、つまり組織の根底に置きたい考えは何ですか。

南場 「誇り」でしょうか。ビジネスで世の中に新しいものを提供し、私たちが会社をよい方向に変えていく。そのためにいい仕事を行う。誇りが行動を変え、またその結果、誇りが強まると思います。こうした考えを会社の根底に埋め込みたいです。

上田 実現しつうありますか。

南場 どうでしょう。ただ、社外の方から、「DeNAの社員は会社を背負っているような話し方をする」なんて、言われます。これは私の望んだ姿ですね。

上田 社員それぞれが誇りを持ち、会社の主人公である、というわけですね。

南場 普通の組織は外から見るとピラミッド形の組織になります。トップがいて、マネジャー、社員と、階層を作っています。ウチの会社は「球の組織」であってほしい。無数の代表者がいて、それが一つにまとまる姿です。見る方向でも、置かれた状況でも、その表面が変わる。球であるならば、誰もがDeNAの顔になる。社会やお客さまに向き合った時、その局面で「私がDeNAを代表する」と誇りを持ってほしい。

上田 「球の組織」とは、面白い例えだ。社長ばかりが目立つベンチャーが多いなかで、全員が主人公という会社は少ないように思えます。全員の参加がDeNAの強みなのでしょう。

南場 若い世代のほうが、インターネットや携帯への感性は私より優れています。そしてこの会社では、私が「代われ」と言われても、同じことはできない高い能力を持つ社員がたくさんいます。だとしたら、この人たちが働きやすい場を作ることがこの会社での私の役割です。誰が言ったかではなく、「何を言ったか」で物事を決める会社です。私の意見も多くの意見のひとつにすぎないんです。

「面白さ」軸に次の飛躍を狙う

上田 それでは、今後の経営課題とは何でしょうか。

南場 今振り返ると、私の視野が狭かったと反省しています。起業直後から「戦力よりも実行だ」と思って走り続け、それは正しかったと思います。04年頃にはDeNAは実行力の優れた組織に成長しました。ただ、そのとき「戦略作り」という経営者の大切な仕事に力を入れるべきだったのではないかと思います。それができていればもっと成長できたでしょう。私も変わり、成長しなければいけません。本当のことを言うと、外国が苦手なんです。それも視野の狭かった一因かもしれません。性格も直さなければなりませんね。

上田 そんなことないでしょう(笑)。マッキンゼーという多国籍企業で働いたのですから。

南場 実は、成田空港を想像しただけで疲れてしまう。家で天丼を食べるのが好きな純日本人です(笑)。これが、世界に目を向けられなかった理由かもしれません。

上田 そんなことはありません。私も海外でビジネスをした経験が長いのですが、ふわふわした根なし草の国際人より、自分の国や文化への愛着やこだわりのある人がいい仕事をしています。しっかりした核がなければ、外国の人との交渉も、誇りを持った自己主張もできないはずですから。ベストセラーになった「国家の品格」の主張もそうでしたね。

南場 そう言っていただくのはうれしいです。各国で展開をするとは限りませんが、次の飛躍のためにも、世界や時代の流れに目を向けた経営をしたい。

上田 南場さんが、経営者としてより高い段階に到達しても、そしてDeNAがより成長しても、人活の基本は変わらないですか。

南場 ええ、そのつもりです。私はみんなと作ってきた「いいもの」は残し続けながら、変化を続けたいと思います。

上田 話をまとめると、DeNAの人活で「面白さ」がキーワードになっていますね。

南場 「面白さ」。そうですね。面白さが、仕事に取り組む熱意を生み、それが、良い結果、そして誇りにもつながっています。DeNAでは、そうした循環が生まれています。私はこの組織を気にいっています。素晴らしい力を持つ社員だらけですから。
システムの分野で「こんな技術持っているの」とか、起業や営業で「こんなこと考えるの」とか、感動を与えてくれる社員がたくさんいる、「人」が自慢の会社です。「地球を動かせる」人材が集まっているのです。

上田 南場さんと仲間たちが「地球を動かす」姿をぜひ見たい。

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