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長時間労働の抱える問題とその対策

長時間労働の抱える問題とその対策

2016年末、厚生労働省は長時間労働の撲滅を目指した緊急対策を取りまとめました。「過労死ゼロ」を掲げ、違法な長時間労働や過重労働に対してきびしくあたる方針を打ち出しています。一方の企業側には、長時間労働にならざるを得ない事情も残ります。この現状の中、長時間労働の問題にどのように向き合えば良いでしょうか?

労働時間が減っているのは本当か

内閣府の「国民経済計算」によると、1980年代、バブル景気の時代には年間2,100時間を超えていた一人あたりの労働時間。当時は朝から晩まで働き、さらに夜中まで働くことが美徳でもあり、働けばそれだけ稼げた、という時代でもあったのでしょう。
ですが、この数値はその後急速に落ち込み、90年代後半には1,900時間を割り込みます。そして現在では、1,800時間足らずのところを、わずかな減少傾向を保ちつつ推移しています。

これだけ見ると、確かに日本人の労働時間は減少しています。ですがこれは、非正規雇用の労働者も含めた数字だということに注意しなくてはなりません。
リーマンショック後に急速に増えた非正規雇用労働者は、正社員と比べて労働時間が短く、統計上では全体の平均値を押し下げる効果を表します。つまり、正社員と非正規雇用労働者とのあいだには労働時間の格差があり、正社員に限っていえば、むしろ増加傾向にあるという見方ができます。
それを裏付けるかのように、所定外労働時間はリーマンショック直後に大きく落ち込んだあと、急速に増加に転じています。

長時間労働にどう向き合い、改善していくか

2016年の12月26日には、厚生労働省から「『過労死等ゼロ』緊急対策」がまとめられました。厚労省はこの中で「違法な長時間労働を許さない取組の強化」を第一の課題として挙げています。そして、各企業がサービス残業や違法な長時間労働を排除し、実質的な労働時間を適正に管理することを求めるとともに、メンタルヘルス管理やパワハラ対策に関わる指導強化も行うことを提言しています。
こうした状況下で、企業はどのように長時間労働という問題に向き合えば良いのでしょうか?
これにはいろいろな対策が考えられます。

1. 経営者みずから手本を示す
「過剰な長時間労働をなくし、適正なワーク・ライフ・バランスを保とう」というメッセージを繰り返し発信し、経営者みずからが手本を示すことで、組織全体に会社の方針を浸透させていきます。

2. 生産性を高めて作業時間を減らす
マネジメントのあり方や業務フローの見直しなど、業務上の無駄や一極集中を解消すれば、全体としての作業時間を減らすことができます。さまざまな社内業務を効率化するクラウドサービスも提供されていますから、そうしたサービスを活用するのも有効でしょう。

3. コミュニケーションで意識付けを図る
介護や子育てなどで残業ができない、あるいは休まざるを得ないというケースは多いものです。そんなとき「自分だけ休めない…」という感情にとらわれないよう、日頃から周囲とのコミュニケーションを図っておくことは重要です。
また、長時間労働の抑制には一人ひとりの当事者意識が必要で、そうした意識付けを行うためにも「風通しの良い環境」を作っておくことは有効でしょう。

4. 制度によって長時間労働を減らす
ノー残業デーを作る、有給休暇取得を促進する、変形労働時間制やフレックスタイム制を導入するなど、制度によって長時間労働を抑制する方法もあります。ただし、こうした制度は「設定しただけ」ではいけません。積極的に告知して、有効活用してもらうようにしましょう。
また、今話題の「プレミアムフライデー」と組み合わせれば、社員はまとまった余暇の時間を取りやすく、リフレッシュ効果はより高まります。働き方を見つめ直す良い機会にもなりますから、まずは導入を検討してみてはいかがでしょうか。

5. 各部署に担当者を置く
専門要員を置くというのは難しいかもしれませんが、現場での相談役となれる担当者がいれば、より現実的に対策を進めていくこともできるでしょう。彼らは、現場の声の代弁者でもありますから、その意見や提言を吸い上げ、より効果的な施策に反映していくこともできます。

6. 取組みの進捗を可視化する
どのような取組みであっても、その進捗が見えなければモチベーションを維持できません。どれほどの効果が上がっているかを把握できるようにすることは、とても大切です。
好ましい事例については社内で表彰するなどすれば、現場にとって励みとなり、社内周知にもつながるでしょう。

施策によって長時間労働を抑制できた例

今回の記事で紹介した対策の中から、自社に合ったものを自社に合った形で導入することで、勤務時間を抑えるとともに、業績のアップにもつながったという例は多々あります。
例えば従業員数35名のある小売業の企業は、定時退社と年次有給の消化を促進するため、年休を100%消化した社員に対して、追加で休暇を10%上乗せし、さらに金一封を出す制度を設けました。この結果、年休消化率は98%になり、従業員満足度が向上して、6年間のうちに40%もの業績アップを果たしています。
また、社員99名の金融業の企業では「19時前退社」を掲げ、それを徹底するために社長をはじめ経営陣みずからメールなどで呼びかけてきました。さらに、自社のホームページ上でこの取組みを紹介し、お客様や取引先にも理解を求めるという徹底ぶりです。地道に続けたこの19時前退社はすっかり浸透し、業務を前倒しで集中的に処理していくという、好循環が生まれています。

ここで挙げた以外にも、長時間労働を抑制する方法はあるでしょう。いずれにせよ、まずはこうした対策を推進していく人事部自身が、過重労働状態にならないようにすることが必要です。

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