ミッションやビジョンはもう古い。次世代型組織に必要なのは『パーパス・マネジメント』

「よし、うちも働き方改革をするぞ」とさまざまな施策に取り組んだものの、現場の雰囲気は今ひとつ変わらない。プレミアムフライデーには誰も帰らないし、それどころか「これってジタハラ(時短ハラスメント)じゃない?」というヒソヒソ声も……。今、日本中あちこちで見られるこうした光景。現状の働き方を改善しようとして取り組んだことなのに、いったい何が足りないというのか。そのヒントとして「幸せ」というキーワードを掲げるのが『パーパス・マネジメント』(丹羽真理/クロスメディアパブリッシング/2018年9月1日発売)です。

丹羽氏は経営コンサルティングを行うIdeal Leaders株式会社においてCHOという経営職に就いています。CHOとはChief Happiness Officerの略。社員のハピネス向上をミッションとするリーダーのことで、この「幸せ」というキーワードが今後の日本には不可欠である、と説いたのが本書なのです。

「ミッション」や「ビジョン」はもう古い!?

多くの企業が「ミッション」や「ビジョン」といった、会社としての方針を掲げています。従業員はまずこれらを共有し、それに沿った行動をとって成果を上げていくことが求められるのですが、今ひとつ成果が上がらないと嘆く経営者は少なくありません。丹羽氏は本書において、いくら立派なミッションやステキなビジョンを描いても、従業員が自分ごとにできていない限り、ミッションは「他人事」、ビジョンは「絵空事」でしかないと指摘します。

今、なぜこうした問題が表面化しているのでしょうか。それは働く人を取り巻く環境が大きく変化しているからにほかなりません。ミッションやビジョンは、ともすれば「上意下達」になりがちです。それでよかった時代も確かにありましたが、現代は人生100年時代、働き方改革による複業(副業)解禁、家族やライフワークといったものを見据えた変則的な労働形態など、働き方は多様化しました。こうしたなか、世代を超えて通用する指標は「幸せ」であり、それを主導するのがCHOという立場である、というのが本書の主張です。

会社の、そして自分の存在意義は? という根源的な問い

CHOの取り組みを進めるにあたって重要なのが、タイトルにもなっているPurpose。直訳すれば「目的」ですが、本書では「存在意義」と定義してパーパス・マネジメントを説いています。この会社が存在することで、周囲にどんなメリットがあるのか。ミッションやビジョンと比べると、Purposeがより根源的なものであることがわかります。

もちろん、Purposeは会社だけのものではありません。会社のPurposeと従業員のPurposeが一致してこそ幸福度の向上につながるのであり、一人ひとりが「私がこの会社で働く意義は何か?」という問いに答えられなければなりません。もっといえば「何のために生きているのか?」と、さらに深い問いにたどり着くこともあるでしょう。ただ、そこから目を背ければ自分自身を知ることはできません。自分らしいキャリアプランもダイバーシティも、コミュニケーションすらも求めにくくなるでしょう。だからこそCHOという存在が重要であり、究極的には誰もがCHOとしての視点を持つことが理想と言えるのです。

幸せは「楽」ではない、しかし追求すれば「楽」が生まれる

皆が楽しく、やりがいを持って働けることは誰にとっても幸せなことです。そのためにも、Purposeは自分のなかで明文化できていて、さらに会社のPurposeと一致している必要があります。たとえば丹羽氏が所属するIdeal Leaders株式会社のPurposeは「人と社会を大切にする会社を増やします」、丹羽氏のPurposeは「幸せに働く人で溢れる世の中をつくる」ことだと言います。組織と個人、それぞれのPurposeがしっかりと関係しているからこそ、仕事をするときに存在義意義を見出すことができるというわけです。

ただ、会社と従業員のPurposeが必ずしも一致するとは限りません。そんなときはどうすればいいのでしょうか。丹羽氏は「もし、意義を見いだせないのであれば、そこを去るべきだ、という厳しい判断を下さざるを得ないこともあります」と断言します。幸せは、決して「楽」ではないのです。それでも、その人がより存在意義を感じる場所を見つけることができたなら、それは当人にとってもその会社にとっても幸せなことと言えるでしょう。

幸せにイキイキと働けることは、何も「楽しい気分」だけの話ではありません。本書に掲載された調査データによれば、下記のようなことが実証されているのだとか。

・幸福度の高い社員の生産性は31%高く、創造性は3倍高い
・幸せな気持ちで物事に取り組んだ人は、生産性が約12%向上する
・幸福度の高い人は、視野の広い考え方やアイディアを思いつきやすくなる
・ポジティブ感情を持った人は、視野が広く、情報処理能力が高くなる

つまり、幸福度が高くなれば生産性や創造力もアップするということ。業績向上につながることも、容易に想像できるでしょう。

幸せは一朝一夕で作れるものではありませんし、自分の存在意義を問うという根源的な試みはタフな洞察が必要です。決して楽に手に入るものではありませんが、突き詰めることで巡り巡って、楽になるのでしょう。本書で詳述されているパーパス・マネジメントの実践法が、その一助となるはずです。

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