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ピーターの法則とは?明快に解説!無能組織を作らない対策とおすすめ本

ピーターの法則とは?明快に解説!無能組織を作らない対策とおすすめ本

会社のような組織においては、一体感を持って業務に取り組んでいく必要があります。ですが、会社組織のような階層的な枠組みの場合、上下のあつれきが生まれてしまうことがあります。このような事態は階層社会学の視点から提唱された、ローレンス・J・ピーター氏が提唱する「ピーターの法則」を知ることで回避できます。

本記事ではピーターの法則とはどのような法則なのか、無能な組織を作らないための対策についても解説します。

ピーターの法則とは?

ピーターの法則とは、企業を始めとした「組織」を形成する構成員は、属している全員それぞれが能力を進展させ続けなければ、いずれ組織が無能化し機能しなくなるといった法則です。

この法則は、ローレンス・J・ピーター氏とレイモンド・ハル氏の共著『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』の中で提唱された階層社会学の倫理で、下記のように説明されています。

1 能力主義の階層社会では、人間は能力の極限まで出世する。したがって、有能な平(ひら)構成員は、無能な中間管理職になる。

2 時が経つにつれて、人間はみな出世していく。無能な平構成員は、そのまま平構成員の地位に落ち着く。また、有能な平構成員は無能な中間管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は、無能な人間で埋め尽くされる。

3 その組織の仕事は、まだ出世の余地のある人間によって遂行される。

上記3つをわかりやすく解説すると、人は能力の限界まで出世をしても、限界を迎えた状態で出世をしているため、その後の成長は見込めず無能な社員となってしまうということです。さらに会社を遂行しているのは、実は限界まで出世した社員ではなく、まだ能力の限界に来ていない出世までの余地のある社員であるということが解説されています。

ローレンス・J・ピーター氏は、のちに「ためになる階層社会学をうっかり創設してしまった」とも語っており、人々を笑わせ考えさせられた研究に対して贈られるイグノーベル賞を受賞しています。

林 修先生が解説したわかりやすいピーターの法則

塾講師で有名な林 修先生が2018年10月14日に放送された「林先生が驚く初耳学!」で、ピーターの法則についてわかりやすく解説しています。

セールスマンを例えに『セールスマンで頑張っている人がいるとする。やがてそのセールスマンはトップの売り上げが評価され主任に出世する。ところが、セールスマンとして売り上げを上げる能力と、セールスマンを管理する主任では要求される能力が違う。仮にその人が地区長など次の立場に出世すると、さらに広い範囲を管理する立場になり、人によってはそれに対応できずお手上げ状態になってしまう。

つまり、そのポジションでの能力がない人がそこにいるということになり、世の中の管理職というものはそこから上に行くことができない、能力がない事が露呈した人の集まりということになる」と解説しています。

さらに野球選手に例え『現役では名プレイヤーだった選手が監督になったら成績を出すことができず、辞めざるを得なくなるというのはよくあること』と解説し、出演者を納得させました。

創造的無能とは?

『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』と、著書のタイトルにも使われている創造的無能とはいったい何でしょうか。

創造的無能とは、あえて限界まで能力を出さず無能かのように振る舞うことです。何故ピーターの法則ではこの創造的無能をすすめているかというと大きく2つにまとめることができます。

① あえて出世を避けて現在の職位に留まり無能を取り繕うことで、常に創造的に業務に取り組むことができる点

出世したことにより、それまで行っていた業務内容が変わり自分の能力を発揮できなくなるよりも、現在の職位に留まり最大限の能力を発揮したほうが組織や自身の成長に大きく貢献できるという点で、創造的無能をすすめています。

② 能力の限界まで出世をしても、「管理職」としてのスキルがそれまで本人が有能とされてきたスキルと一致しないことがある点

現場で能力を最大限に発揮できたとしても、必ずしもマネジメントで同じように力を発揮できるとは限りません。望まれているスキルと、本人が持っているスキルがマッチしていない場合、無能な管理職が生まれてしまうため創造的無能をすすめています。

ピーターの法則が生じる原因や背景

どのような条件が揃えばピーターの法則が成立するのでしょうか。原因や背景についても解説します。

原因① 会社の階級的制度と職務内容が密接に結びついている

【背景】
階級制度と職務内容が密接に結びついている場合、職位が上がれば今までの業務内容が変化したり、マネジメントをしたりしなければならないことが出てきます。「創造的無能とは?」でも解説しましたが、職務内容に必要なスキルと本人が持っているスキルがマッチしていない場合、ピーターの法則が生じやすくなります。また職位を変えずに職務内容を変えることも難しく、結果として役職を守ることが最優先されるため無能化していく側面もあります。

原因② 能力の限界まで出世した社員が同じ職位に留まり続ける

【背景】
企業によっては、昇進、昇格する要件はしっかりと決まっているが、降格については実例が少ないことなどから要件がしっかりと定義されていない場合があります。そのため自身の限界まで出世し、これ以上の成長が見込めない社員がいても無能のままその職位に留まることになり、結果として企業の生産性を低下させる可能性があり、ピーターの法則が生じやすくなります。

原因③ 適切な人事評価ができていない

【背景】
能力の限界まで出世した社員が無能な管理職となり人事評価を行う場合、適切な人事評価が必ずしも行われるわけではありません。特にマネジメントが得意でない管理職が評価する場合、成果を数値化できないものに関しては無能な管理職の基準で評価される可能性があります。また、「ハロー効果」により評価がゆがめられた結果、有能な社員よりも無能な社員が評価を得て、さらに無能な社員が増える可能性があり、ピーターの法則が生じやすくなります。

※ハロー効果とは、評価対象者の目立つ特徴に意識が向き、他の特徴に対する評価がゆがめられる現象のこと。

ピーターの法則を回避するための対策と予防策

ピーターの法則を回避するための対策と防止策

ピーターの法則を回避するために、どのような対策を講ずる必要があるでしょうか。企業側が意識すべきこと、個人に対して働きかけるべきことを中心に対策をご紹介します。

ピーターの法則を回避するため企業側がとるべき対策

対策① 昇進人事を「管理業務」という業務能力の評価で行う

従業員をこれまでのプロジェクトや業務の業績で評価するのではなく、「管理業務を遂行するのに適した能力を持っているかどうか」を評価するようにしましょう。目に見える「成果」を上げた時点で昇進とするのではなく、次の段階の仕事に必要な「能力」について理解し身につけるまで昇進させないことが重要です。

対策② 有能な人を「能力を発揮している地位」に固定させ、実績を適切に評価する

名プレイヤーが名監督になるとは限らないように、管理職には向き不向きがあるのは事実です。実務が得意な人材に対しては、実務に専念できる役職に固定する方が優れた業績を上げられます。

ただし役職を固定することによって本人のやる気意欲が低下しないように取り計らう必要があります。自身の業績が正しく評価され、賞与や昇給によって、実績を評価する仕組みを作ることが重要です。

対策③ 昇進後「無能」となった場合に、一度降格させる

降格させることで本人の自尊心が傷つき、部下からの評価が落ちるという悪影響は考えられますが、従業員を「無能な位置」に留めておく方がデメリットは大きいものです。

そもそも、従業員本人にとって「無能である位置」は自分の能力を発揮できないポジションです。仕事自体が大きなストレスとなり、周囲と適切なコミュニケーションを取ることが難しくなることもあります。そして、周囲の人が「無能な管理職」の影響を受け続けることを考えれば、降格させることの方がリスクを抑えられると考えられます。

ピーターの法則を回避するための個人への防止策

ピーターの法則では、有能な従業員がピーターの法則に陥らないための4つの防止策を提唱しています。
ピーターの法則を防ぐための4つの防止策

ピーターの予防薬:マイナス思考を持たせる

ピーターの予防薬は、出世することのデメリットについても目を向けさせマイナス思考を持たせる方法です。出世するデメリットについて考えることは、現状の地位に対する満足度を高めることに繋がります。さらに、デメリットを想定することは、管理職という役職にステップアップする準備にも繋がります。

例えば、「今の役職だから自己の業務に専念することができるが、昇進したら自己の業務に割けるリソースが減るだろう」と考えれば、現在の地位に満足する気持ちが芽生えることがあります。あるいは、上位の役職についた時に適応するために、どのような努力が必要かについても考えるようになるでしょう。

ピーターの痛み止め:無能化しても研修の受講や再び課題に取り組むことで無能状態から脱出できるようサポートする

ピーターの痛み止めは、能力の限界まで出世した従業員が無能化してしまっても、研修の受講や再び同じ課題に取り組むことで無能状態から脱出し幸せを維持する方法です。無能になった従業員を放置するのではなく、どうすれば無能状態から脱出できるのかしっかりと考える必要があります。無能状態からの脱出は本人の努力はもちろん、会社や上司といった周囲のサポートも肝心です。

ピーターの気休め薬:昇進だけにとらわれず、自身の仕事の尊さについて考えを持つように意識を改めさせる

ピーターの気休め薬は、昇進だけに注力するのではなく、自分の仕事が「社会貢献になっている」「誰かのためになっている」という考え方を持つことで終点到達症候群を緩和する方法です。

ローレンス・J・ピーター氏によると終点到達症候群とは、「自分がまったく有益な仕事ができていないことに気づくことにより滅入ってしまい、最終的に体調を壊してしまう状態」のことです。

自分の仕事の価値について認識を変化させる「ジョブ・クラフティング」ができるようになると、終点到達症候群に陥りにくくなり、むしろ仕事にやりがいを見つけられるようになる可能性があります。

ピーターの処方薬:昇進が従業員にとって本当に幸せなのか考えてもらう

ピーターの処方薬は、従業員にとって本当に昇進が幸せなのか改めて考えてもらう方法です。ピーターの予防薬、痛み止め、気休め薬を実行に移し、さらに自分の幸せとは何かに気が付けると、昇進へのこだわりが薄くなり日々の生活に幸せを感じることが増える可能性があります。

これはまさに無能な従業員が増えることを食い止められるだけでなく、従業員のパフォーマンスも向上し会社への貢献度が上がることを示しています。

ピーターの法則に関連する2つの法則

ピーターの法則には関連する2つの法則、「ディルバートの法則」と「パーキンソンの法則」があります。ピーターの法則とどのように違うのか、それぞれの内容について解説します。

ディルバートの法則

ディルバートの法則とは、「組織の損害を最小限にするため、あえて無能な人材を昇進させる」という法則です。

この法則はアメリカの人気漫画家スコット・アダムズ氏の「ディルバートの法則」で提唱されており、ディルバードとはスコット・アダムズ氏の漫画キャラクター「ディルバード」から名づけられました。

なぜあえて無能な従業員を昇進されるのかというと、結果として組織の運営を担っているのは組織の下層部の従業員であり、上層部の従業員は生産性に関わらないからというのがディルバートの法則の中で説明されています。

よりわかりやすく解説すると、生産性に関わらない無能な従業員をあえて管理職に昇進させることで、本来生産性を上げている従業員の邪魔になることを避け、サービスや品質、顧客満足度の低下と言った損害が少なくなるということです。

ピーターの法則との違い

ピーターの法則では、限界まで昇進した従業員が無能になるということに対し、ディルバートの法則では最初から無能だと判断し損害を考慮したうえであえて昇進させます。結果としてどちらも無能化していることに変わりはありませんが、最初から無能と判断されるかどうかと言った違いがあります。

パーキンソンの法則

パーキンソンの法則とは、時間もお金も余裕があったにもかかわらず、気が付けばそれらを使い果たすように行動を拡大させており、結果すべてを使い切ってしまうという法則です。

この法則はシリル・ノースコート・パーキンソン氏の著作「パーキンソンの法則:進歩の追求」の中で提唱されており、2つの法則について説明されています。

第1の法則:仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する
第2の法則:支出の額は、収入の額に達するまで膨張する

第1の法則をわかりやすく例を用いて解説すると、会議資料を作るため余裕をもって10時間工数を確保し、実際はその半分の5時間で完成するようにスケジュールを組んでいたとします。しかし資料を作っていく中で、気になる点やさらに盛り込みたい内容が出てきた結果、10時間丸々かけて資料が完成した場合、これはパーキンソンの法則に当てはまります。つまり人は決められた時間を与えられると、与えられた時間すべてを使い切ってしまうということです。

次に第2の法則も時間がお金に変わっただけで、内容は変わりません。人はお金が入ってくるとついつい無意識のうちにある分だけ使おうと行動を起こしてしまい、使い切ってしまうということです。まさに貯金ができない人はパーキンソンの法則に当てはまっているかもしれません。

ピーターの法則と共通点

ピーターの法則とパーキンソンの法則を比較すると共通点がないように感じるかもしれませんが、なぜ関連する法則にパーキンソンの法則が出てくるのか。それは、人が持つ共通の性質を示しているからです。

余裕があったにもかかわらず気が付けば使い果たしているという点を考えると、無能だから使い果たしたともとらえることができます。

ピーターの法則を学ぶ際におすすめの本

ここではさらにピーターの法則を学ぶにあたり、ローレンス・J・ピーター氏、レイモンド・ハル氏らが著した代表的な本をご紹介します。

■ピーターの法則 創造的無能のすすめ
【著者】ローレンス・J・ピーター , レイモンド・ハル
【出版社】ダイヤモンド社 【出版年】2003年
ピーターの法則 創造的無能のすすめ
組織に属す限り、昇進・昇格を目指すのは当たり前なのか、本当にそれが自分の幸せなのかを考えさせられる1冊です。本書ではピーターの法則がどういった法則なのか、何故創造的無能をすすめるのか詳しく記載されています。

■ピーターの法則「階層社会学」が暴く会社に無能が溢れる理由
【著者】ローレンス・J・ピーター , レイモンド・ハル
【出版社】ダイヤモンド社 【出版年】2018年
ピーターの法則「階層社会学」が暴く会社に無能が溢れる理由」
ピーターの法則の解説はもちろん、階層社会における様々な事象も紹介されています。どういったケースがこの法則に当てはまるのか、チェックするのに向いている一冊です。

まとめ

ピーターの法則について、どのような法則なのか、無能な組織にならないための対策や予防策について解説しました。昇進・昇格がけっして悪いことというわけではありません。しかし企業側から求められるスキルと、自身が持ち合わせているスキルが必ずしもマッチしているわけではないため、昇進・昇格が自分自身を不幸にする可能性があるというのも事実です。自身の今後のキャリアを考える際、改めて昇進・昇格したらどのようなメリット・デメリットがあるのか今一度考えるきっかけになればと思います。

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