ヘッドハンティング研究

サッカー界もビジネス界も同じ?スカウトされる人材論

サッカー界もビジネス界も同じ?スカウトされる人材論

サッカーワールドカップ・ブラジル大会の幕が開けた。世界トップクラスの選手が集い、躍動するボールの行方に一喜一憂する日々が始まる。サッカーファンとして4年に一度の楽しい時間。ところが、私の場合、フィールドを走り回る有名な選手たちを見ていると職業柄か別のことも考えてしまう。

「今所属するクラブチームに移籍する際に幾らの金額が動いたのか?」とか、「その選手が移籍したことでどのような効果が生まれたか?」などである。どうしてもヘッドハンター目線になってしまうのだ。サッカー選手が移籍する際には大金が動く。そこには獲得するクラブチームの心理、移籍する選手の価値や価値観などが存在し、ビジネス界で起こるヘッドハンティング現場に似ていると感じる。

昨年の、最も多額だったとされるギャレス・ベイルの移籍金は1億ユーロ(約120億円)と推定されていて、移籍先のレアル・マドリードがその大金を払った。120億円ともなるとちょっとした上場企業の売上高並であるが、たった一人の選手の獲得にそんな大金を払って割に合うのか?と思ってしまう(実際は割に合うから払うのだが)。

プロスポーツ選手の価値というものは、チームを勝利に導くだけではない。観客動員数のアップはもとより、テレビ放映権、そして潤沢な資金を提供してくれる有力なスポンサーも一緒に連れて来てくれることも大きい。それらの色々な効果を考慮すると利益を生み出せる訳で、各国のクラブチームが躍起になってトップ選手の獲得に乗り出すこととなる。90年代にアジア発のセリエAのプレイヤーとなったカズ(三浦知良)も、日本企業のスポンサーが一緒にやって来ることが主目的だったと囁かれたこともあった。真相は不明だが選手獲得の副次的効果の重要性が良くわかる逸話である。

大金を用意してでも欲しいビジネスマン

業界変わって、ビジネス界の話。特にヘッドハンティングで人材を獲得しようという企業の心理はサッカーのクラブチームに似ている。ヘッドハンティングという採用手法は仕事を求めている求職者ではなく、求職者以外の人材がターゲットである。その為にターゲット人材を探し出して移籍してもらうまでに多くの時間と費用がかかる。採用に至るまでの費用は、場合によっては1千万円以上を要することもある。そんな大金の見返りとして必要な人材なので、欠員補充などの通常の採用目的ではなく、ターゲットの入社によって様々な効果がその企業に現れることを期待している。採用に成功した企業に起こった効果の事例をあげると、

「今までにない新商品開発が可能になった。また開発期間も短縮された」
「同業他社の営業のスーパーエース移籍により売上が30%アップした」
「海外サプライヤーのネットワークを持っている人材獲得で原価が10%下がった」

というような業績に直結する効果はもとより、

「業務の進め方、意思決定の思考法が変わり、全社のスピード感が速まった」
「仕事に対するマインドが既存社員に浸透して風土が変わった」

などの効率やマインドへも影響を及ぼすことがある。

優秀な選手を獲得する為に大金を用意して迎えるのと同じように、優秀なビジネスマンを獲得する為に資金を投じてヘッドハンティングを活用する理由がここなのだ。

一方、獲得される側の人材についてはどうだろうか?こちらもサッカー界とビジネス界で通ずる点がいくつかある。まずは、”世間から注目される”人材が獲得の対象になりやすいこと。前回のW杯南アフリカ大会とその後のアジアカップで活躍した長友がビッククラブのインテルミラノへ移籍した。岡崎や吉田麻也もアジアカップ、ロンドンオリンピックなどでの活躍で即座に欧州リーグへ移籍。世界が注目する場で活躍することがステップアップの起点となっている。これはビジネス界でも似ている。

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世間が注目する人材がヘッドハントされる

例えば、○○EXPOとか○○展示会などに出展した企業の新しい商品やIT系技術で「これは画期的だ!」とか「考え抜かれて隙がない!」というようなものの開発者にヘッドハンターは注目する。テレビや新聞で報道されるプレスリリースも同様。サッカー界と違い、その商品を創り出したビジネスマンが表舞台に現れることはあまりないが、その商品やサービスの開発の裏には必ず人がいるわけで、その人への関心が高まる。その人を探し出してコンタクトを取るのが私の仕事。だから、サッカー界でもビジネス界でも”世間から注目される”ことは次のキャリアへの足掛かりとなるのだ。

もうひとつ共通点を上げるとサッカー界でもビジネス界でも活躍する人は、その仕事が好きなことだ。本田だって長友だってサッカーが大好きだ。「サッカーボールを枕にして、一緒に寝ていた」とまで本田は言っていた。そしてサッカーを極めたいと思い、その為の努力を惜しんでいない。ヘッドハンティングされるビジネスマンも同じように感じる。パソコンを枕にして寝たことのある人は知らないが、今の仕事が好きであり、その分野を極めたいと思って努力している人がほとんどである。

いかがだろうか?サッカー界もビジネス界も人が作り出した世界ゆえ、人を獲得する動機も獲得する側の存在も良く似ていることを感じてもらえたと思う。強豪クラブチームからオファーを受けて興味を持たないサッカー選手はいない。どんな役割でどれほどの報酬で自分を受け入れるのか話を聞くだろう。ビジネス界も同じこと。ヘッドハンティングを受けた時に自分を欲しがる企業はどんな会社なのか?ポジションや役割は何か?年収はいかほどか?まずは興味本位だとしても、話を聞いてみると世界が広がるはずだ。

(※この記事はアイティメディア社の「誠ブログ」に寄稿したものです)

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