ヘッドハンティング研究

30~40代に『転職モテ期』が到来!?

30~40代に『転職モテ期』が到来!?

ある日、IT業界のエンジニア(38)のオフィスに突然電話がかかって来る。

「●●会社の社長が、新プロジェクトの責任者としてあなたをご指名で必要とされています。私は、その代理人としてご連絡をしておりまして……」

「え? 何々? 何かの冗談でしょう?」

そう思いながらよくよく話を聞いてみると、電話の主はヘッドハンターで、どうやら本物のスカウトのようである。こんな機会はめったに無いと、彼は後日、ヘッドハンターとの面談を了承したのだった。

実はこのような話、最近の日本の30~40代のビジネスマンに急増中である。

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今の30~40代と言えば、新卒の就活時代は『就職氷河期』に真っ向から挑まなくてはいけなかった不遇の世代。そもそも、30歳時点の求人数を100とすると、35歳では80、40歳では40、45歳では20と加齢につれ求人数は激減するのが一般的。なのに、なぜか昨今の求人企業は、この30代半ばくらいから40代の人材獲得に躍起になっている。

転職マーケットの現状を見てみると、人材紹介会社大手3社(リクルートキャリア、インテリジェンス、JACリクルートメント)の転職支援の成功実績では、2012年度は2011年度に比べ、35歳以下の伸びが107%であるのに対し、36歳以上は128%と20%以上も伸び率が大きい。

 

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また、転職希望の有無にかかわらずスカウトを行う、いわゆるヘッドハンティング会社の当社(プロフェッショナルバンク)でも、30~40代をヘッドハンティングしてほしいという依頼は、リーマンショック以降、前年比130%ほどの伸びで毎年増加しており、2008年度に比べて2012年度の依頼数は約3倍にもなっている。

就職氷河期で思うような就職が出来なかった世代に、ここにきて明らかに求人ニーズが増加しているのだ。私たちはこの現状を、今の30~40代に訪れた『転職モテ期』だと呼んでいる。

30~40代に転職モテ期が到来している理由

ではなぜ、今の30~40代に『転職モテ期』が到来しているのか? これまでは20代までの中途採用を積極的に行ってきた、上場IT企業の人事部長はこう言う。

「以前は、未経験でもいいから第2新卒で若い人材を……という方針で、中途採用の計画を立てていましたが、リーマンショックの後、戦力化できていない若手社員があぶれて経営が圧迫されるという苦い経験をしました。これではいけないということで、翌年からは戦力として計算できる30代以上を積極採用しています」

また、同じく30~40代のミドル層の採用に積極的な化学メーカーの人事マネージャーは、「当社は、プロパー主義で社員を育てることに重きをおいてきました。しかし、リーマンショック以降は、特にアジアの競合が台頭して、経営スピードも商品開発スピードも高速化しないと勝てなくなった。グローバル化も押し進めないと日本市場は飽和状態ですし。だから、即戦力となる30~40代が必要なのです」と言い、「どれくらいの人数を募集するのか?」と尋ねると、「即戦力として見合う人材であれば、募集人数は制限しない」とまで言った。

30~40代に『転職モテ期』が到来している理由。それは、「国内外の競合他社に勝つために即戦力が必要」で「若手を育てている時間はない」という、リーマンショックで一変した採用事情に起因するのである。

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このような企業ニーズに応えようと、人材ビジネス会社も新サービスを打ち出している。インテリジェンスやパソナグループは、経済産業省から委託を受けて、大企業出身で35歳以上の専門職経験者を成長企業へ出向させる事業を開始した。また、前述の人材紹介大手3社の転職支援実績が示すように、この機を逃がすまいと他人材紹介会社も、30~40代の転職希望者の獲得強化へと動いている。まさにこの世代の『転職モテ期』と言わんばかりに、今日もあちらこちらでラブコールが送られているのだ。

また、冒頭で紹介した「私は、その代理人としてご連絡をしておりまして……」というような、ヘッドハンターから電話が突然かかって来るという事例のように、「転職活動はしていないのに企業からのスカウトが突然やって来る」という現象が増えているのも、実は転職希望者の取り合いが激化している延長なのである。なぜなら、30~40代で転職をしようという人材は元々少なく、特に優秀な人材などは他求人企業との競争が激しいため、「ただ応募を待っているだけでは、そんな人材には巡り合えない」状況なのである。そこで、求職者以外からも可能性があるならば……と、ヘッドハンティングで採用を試みる企業が増えおり、我々のようなヘッドハンティング会社を通したスカウト活動が増加しているというわけだ。

そもそも転職活動中の人材なんて労働人口の5~10%に過ぎず、60~70%は「転職活動をしていないが良い話があれば移籍は有り得る」という、いわば白馬の王子をひそかに待っている人材である。ヘッドハンティングではこの60~70%%の人材を狙うのだが、昨今の30~40代においては『転職モテ期』の恩恵で、

「まさか、新卒のころ憧れていたあの企業から20年の時を経てオファーが来るとは!」といった、”まさに白馬の王子がやって来た”ような経験をする人が思いのほか多いのである。

スカウトされる人が持つ5つのパターン

では、どういった人にヘッドハンターのスカウトが来るのだろうか?われわれの経験から、以下の5つの人材像にまとめることができる。しかも、この人材像は、経営者やエグゼクティブでない「フツーに頑張っているミドルクラスのビジネスマン」がほとんどだと思って見ていただきたい。

1.業界や職種における専門性高いスキルを持つ
2.上記において実績が豊富
3.各種媒体において何らかの形で自分が露出されている
4.アンテナが広くセミナーや交流会などに良く出向く
5.周りからの評判が高い人物

以上である。

1、2は、ある分野の仕事に打ち込み、実績があるか? ということで、これがないと転職しても即戦力には成り得ない。3、4は、自分がどれだけ他者に知られているかという発信力についてである。そして、何よりも大事なのは、5の「周りからの評判が高い人物」である。企業の経営者や人事担当者、そしてヘッドハンターは、その人の同僚や取引先などから評判を聞きつけてスカウト対象者を絞り込む。人間的にも仕事においても嫌いな人のことを良くは言わないから、周囲からの評判が悪いと、おのずと候補者にはなりにくい。言い換えれば、転職市場でモテる人材は、やはり周囲からもモテるということである。

いかがだろうか? 1~5すべての項目に当てはまるようなら、あなたにスカウトの電話が来る日が近いかもしれない。人生において『モテ期』は永遠に続かないように、今の30~40代に訪れている『転職モテ期』もいつまで続くか分からない。周りからの評判が未来の仕事につながる可能性があるということを肝に銘じながら日々を勤しみ、もしあなたのもとにもチャンスが来たなら、思い切ってそのチャンスを掴みにいくことをお勧めしたい。
(※この記事はアイティメディア社の「誠ブログ」に寄稿したものです)

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