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ニューノーマル後にエンゲージメントを高め続ける組織とは?(ヒト・コト ゼミ)

ニューノーマル後にエンゲージメントを高め続ける組織とは?(ヒト・コト ゼミ)

エンゲージメントの重要性は理解しているが、まだ具体的な取り組みは出来ていない…、コロナ禍以降は思うようにエンゲージメントが高まらない…などの課題をお持ちの方は多いのではないでしょうか?

2022年6月に実施した【ヒト・コト ゼミ】のセミナーでは、超大手企業からベンチャー企業まで多くの組織コンサルティングを実践されてきたクレイア・コンサルティング株式会社 執行役員COOの桐ヶ谷 優 氏をお招きし、コロナ禍以降のニューノーマルでも“高いエンゲージメント”を実現する企業の一例を実名で紹介しながら、それらの組織に共通する特徴やリーダーの行動特性などを解説していきました。

貴社の組織生産性や採用力向上、離職率低下に向けた参考情報としてお役立て下さい。

ヒトコトゼミ エンゲージメントを高め続ける組織とは?

ゲストスピーカー
桐ヶ谷 優 氏
クレイア・コンサルティング株式会社 執行役員COO
モデレーター
高本 尊通
株式会社プロフェッショナルバンク 取締役常務執行役員

何故“今エンゲージメント”なのか?

高本 尊通(モデレーター、以下高本)
そもそもエンゲージメントとは何なのか?今回のセミナーは、ここがずれると色々な解釈が散らばる可能性があるので、「何故“今エンゲージメント”なのか?」の前に「エンゲージメントとは何なのか?」を簡単にご説明していただけませんか?

桐ヶ谷 優(ゲスト、以下桐ケ谷)
エンゲージメントは、日本語に訳すると「婚約」「誓約」「約束」「契約」といくつかの意味を持っていますが、端的に言うと「何かと何かがつながっている状態」になります。これを企業組織に置き換えると“企業と従業員”、“組織と個人”の間の信頼関係の意味合いで使われるようになりました。

これまでも「企業は人なり」と言われるように、人の価値に関して日本企業においても重視されてきたのですが、特に最近になると人がお金・資本・設備以上に企業の競争力における重要なファクターであると着目されてきて、エンゲージメントもそれに伴い着目されていると感じます。これをオランダにあるユトレヒト大学のシャウフェリ教授が2002年に、「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素がエンゲージメントを構成しているのだと学術的に定義しています。

シャウフェリ教授の定義に基づく“エンゲージメント”の3要素

シャウフェリ教授の定義に基づく“エンゲージメント”の3要素

桐ケ谷:皆さん、考えてみていただけませんか?活力のないとはどんな状態でしょうか?例えば、惰性ややらされ感。熱意の反対って何でしょうか?冷めている状態、淡々と仕事をこなす状態。それから没頭の反対って何でしょうか?退屈であったり、集中できないとか、仕事以外のことに気持ちが向いている状態。このようなことはあると思うのですが、この「活力」「熱意」「没頭」がそろった状態を「ワークエンゲージメントが高い状態だ」とシャウフェリ教授が定義をして、ぜひこの3つの状態を高めていこうという取り組みを現在の企業はおこなっているのです。

高本:エンゲージメントの言葉を聞くようになって久しいですが、従業員満足度やロイヤリティとか、コミットメントとは何かが違うのでしょうか?

桐ケ谷:従業員の気持ちを表す言葉は他にも色々と出てきていますが、ここではエンゲージメントサーベイと従来からよく聞く、従業員満足度調査との違いを対比してみます。

一言でいうと、エンゲージメントサーベイはどちらかと言えば、未来に対する希望を持ってワクワクした状態を調べるものと位置づけられます。一方で従来型の従業員満足度調査は、現状に対して不満はないか?を主に確認するものになりますね。不満はないけれども別に前向きでない状態が許されてしまうのが従業員満足度調査。

エンゲージメントサーベイは不満であるか満足であるか?のみならず、より前向きに未来に向かって関わっていこうと思えるか?これが特徴だと思います。企業が従業員の満足よりも前向きでポジティブな、そしてアグレッシブな気持ちを重視したい、という意向で従業員満足度調査以上に着目されているのです。

“エンゲージメントサーベイ”と“従業員満足度調査”

“エンゲージメントサーベイ”と“従業員満足度調査”

桐ケ谷:また、ロイヤリティは忠誠心のようなことになりますが、エンゲージメントを高めていく組織では、単に忠誠できるだけでなく「仕事に燃えているか?」が重要になります。そいう点では、コミットメントはエンゲージメントに近しいかなと思います。

高本:そのようなエンゲージメントは、ニューノーマルの時代が到来したことで益々注目されているわけですが、その背景や要因などはどうお考えですか?

桐ケ谷:エンゲージメントが注目を浴びている要因には、企業側と働く側に大別できるのではないかと思います。企業側の要因は、人手不足であるとかデジタル化やDXが進む中で高度な人材を吸引しないといけない事情ですとか、昨今、注目を浴びて新聞紙上でも言葉が賑わっています「人的資本経営」、先ほど申し上げたように「人」という資本が競争優勢をもたらす、この無形資産が非常に重要だということへの着目、このようなことが関係しています。

桐ケ谷:あとはダイバーシティですね。性別だけでなく国籍、年齢、あらゆる要素の組織で構成されるようになると、実はその人たちに企業に留まってもらう、引き付けておく何かが必要になるわけです。そのダイバーシティ化した組織の中でもエンゲージメントが必要になると思います。

会社を選ぶではなく仕事を選ぶとは長らく言われていることですが、その仕事もSDGsの世界にもなって来た昨今では、自分が熱量をもって取り組めることは何なのか?社会にどう貢献できるのか?を求める方々が増えてきているということも影響しているのかなと思っています。

企業を取り巻く環境と働くヒトの意識の変化

企業を取り巻く環境と働くヒトの意識の変化

高本:働く人の意識の変化や会社重視から職重視という視点は、昨今、非常に進んでいるのを感じますし、私としても企業人として非常に感じています。

一方で、“職”よりは“会社や組織と個人”とのつながりを意識した施策に取り組む企業の方が多いのかなと思いますし、エンゲージメントと聞くと経営者や人事側が講じる施策が多いようですが、そうではなく“職”と捉えた場合は、結構いろいろな人、特に現場のマネジメント層の方々を巻き込みながら施策を講じていくことが重要なのではないかと思いました。

実名で考察する“高エンゲージメント組織”の特徴

高本:では次のテーマ「実名で考察する“高エンゲージメント組織”の特徴」に進めていきたいと思います。桐ケ谷さん自身も超大手企業から外資系企業を歩んでこられて、たくさんの組織を見てこられていると思いますので、高いエンゲージメントを実現している組織の特徴をうかがっていきたいと思います。
本題に入る前にこのデータを見て下さい。

日本企業のエンゲージメントのレベル

日本企業のエンゲージメントのレベル

高本:少し前のデータですがギャラップ社による調査結果になります。世界各国、あるいは地域で熱意溢れる社員比率の調査を実施したものです。一番下がJapanでして、グラフの青い部分がEngagedで熱意あるということですが、日本はなんと6%。一番上にありますWorldが世界の平均で15%なので、日本は半分以下となっていますし、調査対象の139か国中132位と非常に低水準に留まっています…。桐ケ谷さんこの要因はいかがなのでしょうか?

桐ケ谷:まずこの調査は、率直に残念だなと。まだまだ日本の働く企業の人たちは決してエンゲージメントは高くないのだなと、このような側面で社会に対してインパクトを与える立場としては力不足だなと反省するばかりです。

日本人は謙遜で「エンゲージメントは高いですか?」と聞かれて「高いです」と答える人は少なく、その謙遜さも影響しているのではないかと言われることもありますが、ご自身が活力もって熱意もって没頭できような仕事に取り組めていない方がやはり一定数いるわけですね。

この背景は、様々な要因があるので一言では言い切れないのですが、私の仮説としては、仕事がかなり細分されていて、自分の仕事のゴールイメージ、社会に対するインパクトだとか、この仕事が一体何につながるのだろうか?などが若干見えづらくなってきている。あとは、コンプライアンス重視で多くのことががんじがらめになってしまっていて、チャレンジグでダイナミックな仕事をする機会が減ってきている。あまり逸脱しないでくれ、ルールを超えないでくれ、というような風土がまだ日本の企業には残っていることも要因としてあるのかと思っています。

桐ケ谷:ちなみに先進国が高くて途上国が低いということではないようです。ラテンアメリカとか東南アジアも入っているので、必ずしも経済成長が著しい国だけが良いというわけではなく、先進国でも低い、残念ながら日本になりますが…、社会的要因とかマネジメントの上手い下手も影響していると思います。

高本:私のイメージですが、日本のエンゲージメント…まあ熱意があるかどうかは置いておいたとして、海外各国の方が“さばっ”としているような、企業にもたれかかっておらず、結構プライベートとの線引きも明確な人が多いのも背景にあるのかなとは思ったのですが、ここまで日本との差が出てくるとは驚きでしたね。日本特有の終身雇用とか年功序列などは熱意をそれで感じる人もいる一方で、熱意をそがれるような人も生まれる、日本の構造的な問題が根深くあるのかなという気がしてならないですね。

桐ケ谷:その点は大いにあると思います。終身雇用とか年功序列、実力主義を掲げる企業が増えてくるとは言え、まだまだその押さえつけられた環境は少なからずあるのではないかと思います。

高本:そのエンゲージメント、いくつかのファクターで成り立っていますが、その効用ですね。次はエンゲージメントの効用についていかがでしょうか?

桐ケ谷:エンゲージメントを高めて何がいいのか?については、3つインパクトがあるだろうと考えています。

エンゲージメントと様々なアウトカムの関係

エンゲージメントと様々なアウトカムの関係

桐ケ谷:当然、業績が良くなる、内部的な人材の流出が防げる、抑制できる。一方で社外の人材に対してはこのエンゲージメントが高い組織だということがより広く知られていけば、吸引力となる採用力となる。企業業績があがり、離職率が下がり、人材が獲得しやすくなると一般的には言われています。

業績との関係について統計的にどのような結果が出ているのかをご紹介しますと、ギャラップ社の調査で、エンゲージメントの高い企業と低い企業を比べた場合、業績や収益はどうなのか?顧客満足度はどうなのか?商品の品質は?事故は?欠勤は?という点での差をスコアリングしたものがあります。収益性では、高エンゲージメント企業の方が2割ほどプラスにはたらき、欠陥や事故や欠勤に関しても3~4割程度は抑えられますよと、エンゲージメントが低い企業よりもそれくらいスコアが良いですよという結果が出ています。

エンゲージメントと企業業績の関係

エンゲージメントと企業業績の関係
高本:これだけを見るとエンゲージメントの重要性が身に沁みますね。

桐ケ谷:解釈が難しくて、好業績だからエンゲージメントが高いのか?エンゲージメントが高いから好業績に結びついているのか?恐らくループするとは思うのですが、従業員がポジティブにチャレンジしているか否かという人の要素は大きいのではないかと思います。続いて離職率について別のデータで見ていきます。

エンゲージメントと離職率の関係

エンゲージメントと離職率の関係

桐ケ谷:コーポ―レートリーダーシップ会議でのデータですが、エンゲージメントの特に低い従業員の1年以内の離職率の可能性は9%、エンゲージメントが特に強い従業員は1.2%とあります。強弱比べると9割ほど差が出るのですね。エンゲージメントが高まればすぐに人が辞めなくなるのか?と必ずしも言えないかもしれませんが、継続的にエンゲージメントが高まっている状態であれば人が離散していく可能性は低くなるであろう、というデータであります。

桐ケ谷:3つ目の人材獲得に関してですが、企業の離職率や従業員の満足度、前向きな気持ち、働きやすさというのは、これまで可視化されたデータとしてなかなか公開されていませんでしたが、これからは先ほどの統合報告書や従業員のPR材料としてどんどん開示されていくのではないかと思っています。積極的に開示されればされるほど、応募者としては企業選択肢が潤沢にできることになり、開示が出来る企業ほど応募者を獲得できるようになると思います。

エンゲージメントと人材獲得の関係

エンゲージメントと人材獲得の関係

高本:これは私たち自身の仕事としても興味深くて、「エンゲージメントと人材獲得の関係」とありますが「エージェントと人材獲得の関係」にもおきかえられるなと思いまして、私たちは、人材エージェントとして人事面のヒアリング項目ですね、求人企業に関してのヒアリング項目は、福利厚生がどう?だとか、人事制度がどう?だとか、給与がどう?だとか、そういうことを求人企業に対してヒアリングしているのですよね。

ただ、これまでの一連の話を聞いていると、私たちが聞くべきことは離職率がどうだ?とか従業員満足度がどうだ?とか働きやすさってどうだ?とか、我々から仕事を案内する候補者の方々がしっかりと活躍してもらう、その為には聞く項目も変わってくるなと思って。私自身もこのようなことを聞いていくように会社のメンバーに話していきたいなって感じましたね。

桐ケ谷:プロフェッショナルバンクさんが取り組まれているビジネス、企業に必要な最適な人材を提供される。企業側も今、バックチェックのようなサービスで候補者のキャリアや経歴を前職の関係者に聞くというサービスが増えているようですが、逆に候補者から見てもその企業の内実、内情はどうなっているのか?というのをあたかもその会社に勤められている現役の従業員に聞くごとく、こういう情報を企業が積極的に開示することで、双方のミスマッチを解消してwin-winな状態にしていくことが出来るのではないかと思っています。

高本:では、そういったことを実際に実践していて高いエンゲージメントを誇る企業はどういった会社なのか、どのような実践しているのか?といったところはいかがでしょうか?

桐ケ谷:外資系6社、日系の会社を5社挙げさせていただきました。皆さんもよくご存じの会社ばかりと思います。

高エンゲージメント企業

高エンゲージメント企業

桐ケ谷:何がすごいのか?と言いますとGoogle、Apple、Netflixは良い商品、サービスを提供しているから良い人が集まるだけではないと思います。これも一部真なりではあるのですが、Googleの場合だと象徴的なのは「20%ルール」ですね、自分の取り組みたいことに勤務時間の20%を投入してよい。あなたがワクワクうきうきすることにチャレンジしてください。それが結果として自社のビジネスにもつながっていけば尚良いという考え方が根源にありますので、どちらかというと組織的というよりは個のクリエイティビティだとか想像力だとか発想力だとか、こういうコトを自由に開放してあげている。それをベースに自分の仕事に「活力」を持ち、「熱意」をもち「没頭」するという状況を作り出せている、それがこの上位のIT企業ですよね。

桐ケ谷:Nikeに関しては、スポーツに対してすごく愛着があり、スポーツを本当に楽しむ人たちに貢献したい、それに資するような製品を開発したい、その想いが強い方々がたくさん在籍していると聞いておりますし、DisneyとStarbucksは、ヒューマンファクターや対人能力がサービスそのものを形成するという意味で、従業員がそもそもエンゲージメントが高くないと成り立たない前提で活動されています。

日系企業もトヨタ、全日空は日本を代表する会社であり歴史の長い会社ですけれども、いずれの会社も新しい取り組みをしつつ、例えば自動車だとか、運輸というのは安全・安心が非常に重要で、そういった社会のインフラ基盤を支えながらも新しいことにチャレンジしている源泉には、従業員のエンゲージメントがあると私は思っています。実際にトヨタも全日空の社員の方ともお話したことがありますが、皆さん、自分の仕事にプライドとポリシーを持って取り組んでいるなという印象でした。

桐ケ谷:メルカリは先日、CHROの木下さんの話を聞く機会があったのですが、コロナ禍で子育てをしながらお勤めになるお母さま方は、保育園が休園になると仕事を休まざるを得なくなってしまう。これを解消するために、これまでにルールはなかったが、事情があれば事前申請に基づいて無制限に休みをとれる仕組みをさっと入れた。こういう機動的にエンゲージメントを高めていく姿勢が非常に重要になると思っています。

最後の未来工業は、岐阜にある電設の設備会社なのですが、連結で360億円、1200名ほどの会社でして、地方企業の中でも社員が辞めない会社だと認識しています。会社業績が良いというのもあるのですが、岐阜県の公務員の平均給与を上回る報酬を提供していることも、社員が非常にやりがいを持っている会社の代表ということでご紹介をさせていただいています。

桐ケ谷:これらエンゲージメントが高い組織の特徴を私なりにまとめさせていただきました。実はまとめるとシンプルです。ひとつは経営陣のコミットメントが高く、エンゲージメントに対して非常に敏感であること。次にこれも当たり前なのですが定点観測をしています。エンゲージメントが重要だと思っている会社ほど健康診断をされています。ここでは年に1回定点観測とありますが、2年に1回、3年に1回というケースもあります。

高エンゲージメント組織の特徴

高エンゲージメント組織の特徴

高本:やはり年1回というのが一番妥当なのですかね?

桐ケ谷:規模が大きい、数千人~数万人の大企業が毎年やるというと集計、分析、発表の間に翌年の時期が来てしまうということで2年に1回のケースもあるのですが、スピーディーに取り組むのであれば、年1回は定期的に見ようということだと思います。

桐ケ谷:それから3点目は実は経営陣だけではなくて管理職の中間管理職の皆さん、部長、課長の方々が1on1などきめ細かくやられています。トライ&エラーですとか、改善のサイクルを持っていて、やりっぱなしにしないということですかね。

高本:1on1は当社も実施しているのですが、1on1って直属の上司とおこなうケースが多いのかなと思いますが、一方で直属の上司だから言いにくいこともあるから、隣のボスとやるとか、上司部下がクロスしてやる1on1の取り組みをしている会社もあるのですか?

桐ケ谷:まだまだ日々の仕事を直接見ている上司、部下の近しい関係でやられている1on1が大半だと思います。

高本:やっぱりそこなのですね。

桐ケ谷:ただ高本さんおっしゃるように、言いやすい雰囲気を作ろうということで、敢えて他部署の役位の上の方や、同じ部内の評価者、管理職でない方に面談をしてもらうのはよくありますね。女性管理職の比率がまだまだ低い会社では、あまり女性管理職のロールモデルになる方がいないので、あえて他部門で活躍されている管理職の方と1on1を行うというのもあります。

桐ケ谷:4点目は、多面的に諸施策を実施している。皆さんにもご留意いただきたいのですが、少し前までは、働き方改革、時短、生産性向上、休みの取りやすさ、これらが着目されていましたよね。ただ、今はどちらかというと働きやすさのみならず働き甲斐をどう高めるか?となりますから、仕事のアサイメント、与え方、デイリーのマネジメントだとか結果のフィードバックだとか、この辺りが重要になってくるので、管理職を巻き込んだ、結局はパーソナルに一人ひとりしっかりと適切にケアしていくことが重要になっています。

高本:企業とか会社から職に個人のエンゲージメントの要素が移っていっている話からすると、やはり管理職や現場、一番身近なところにいる人たちのケアが非常に重要なのですね。

桐ケ谷:よく言われる○○世代というのもありますよね。ミレニアム世代、Z世代など、とくに若い方は入社した時からなかなか上司と近接して仕事が出来ていない。そういう個々人の違う環境を前提とすると結局は現場、現場のマネージャーたちにきめ細やかなフォローをしていただかざるを得なくて、人事部門が全社一律でこうするぞって言ってもなかなか響く施策というのがうまく当てはまらない。空振ってしまうということが多いですね。

自社で出来る“エンゲージメント”の具体的な測定方法

高本:それでは、3つ目のテーマですが「自社でできるエンゲージメントの具体的な測定方法」です。エンゲージメントが高まることって企業の収益性や生産性を上げることに非常に有効だということは、これまでの話で良く分かったのですが、そのエンゲージメントの高低とか、基準とか、どのようにして測定していくのかなというところの話をお伺いしていければと思います。

桐ケ谷:先ほどの「活力」、「熱意」、「没頭」という3項目でエンゲージメントを定義していましたが、Utrecht Work Engagement Scale(UWES)という9のつ設問で自社のエンゲージメントを診断しようというものです。

自社で出来る“エンゲージメント”の具体的な測定方法①

自社で出来る“エンゲージメント”の具体的な測定方法 Utrecht Work Engagement Scale(UWES)

桐ケ谷:上から3つが「活力」、真ん中4~6が「熱意」、7~9が「没頭」に関することでこれを従業員に当てはまるのか?当てはまらないのか?どちらでもないのか?を答えてもらうような設問です。これは最もシンプルで、直接その3項目に結び付ける設問で設計されているものです。
他にもいくつか手法がありますのでご紹介します。

自社で出来る“エンゲージメント”の測定方法➁

自社で出来る“エンゲージメント”の測定方法 eNPS (Employee Net Promotor Score)

桐ケ谷:最近注目されているのが、eNPS (Employee Net Promotor Score)です。設問はたったひとつでして、「あなたは現在の職場を家族や親しい友人に勧めたいと思いますか?」というシンプルな質問で、これを勧めたいと思うか?思わないか?をいくつかの段階で答えていただくのですが、当然、積極的に勧めたいと思うが方は、ご自分の仕事に対するエンゲージメントは高いだろうとなります。

それから、先ほどいくつかのデータでご紹介した従業員の調査を頻繁に実施しているギャラップ社では、12項目のキークエスチョンというのを用意しています。これは有名なクエスチョンですが、当てはまるか、当てはまらないか、どちらでもないかということを簡易的につけてもらうものとなっています。これらは、すべて今のエンゲージメントの状態がどうですか?ということをストレートに答えてもらうものなのですね。

桐ケ谷:それとは別にエンゲージメントの測定で大切なのは、会社側がどんな施策をとっているのか?の確認です。例えば評価のフィードバックは受けているとか、上司との目標のすり合わせは頻繁に行っているとか、こういうことを掛け算することでエンゲージメントが高い方は何に満足しているのだろうか?逆にエンゲージメントが低い人は何に不満を感じているのだろうか?が把握できます。

エンゲージメントの低い方がポジティブに答えていない取り組みに着目し、例えば目標設定に対してエンゲージメントの低い人が軒並み不満を感じているのであれば、まずはマネジメント層の目標設定を半期ごとにしっかりやりましょうという解決策につなげていきます。先のエンゲージメント自体をはかる設問が代表的な3種類あって、それとは別に施策を絡めていただくと対策もやりやすくなるという構造になっています。

高本:なるほど、今、3つ示していただいたエンゲージメントの測定方法ですけれども、このような測定をもとにデータが出ましたと、そこからそのデータをもとにどのようにして改善して、どうやってエンゲージメントをあげていくか?これらをさらに突っ込んで次のアジェンダでお聞きしていきたいと思います。4つ目のテーマです、“エンゲージメント高低のに与える要素を知る”。

エンゲージメントの高低に影響を与える要素とは?

高本:この要素とは何なのか?を詳しく教えていただけますでしょうか。

桐ケ谷:まずエンゲージメントは、「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」という2つの要素に厳密には分けられると言われています。先ほどまで話してきたワークエンゲージメントはまさにワークですので、仕事に対する活力、熱意、没頭。もうひとつの従業員エンゲージメントは仕事そのものというよりは、組織に対するコミットメントなので両方ありまして、仕事に対しても熱意をもって没頭して活力を感じているということと、今いる組織に、例えばの会社のミッションに共鳴できるとか、この会社で働く仲間が好きだとか、そういう組織に対するエンゲージメントと2つあります。

エンゲージメント”の高低に影響を与える要素

エンゲージメント”の高低に影響を与える要素

桐ケ谷:さらにワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントはどのようなものが影響するのか?というのが一番下の段にあります。ワークエンゲージメントはワークですので、仕事の性質とか仕事の裁量、これ非常に重要だと思います。どれくらい自分で意思決定できるのか?判断できるのか?これらが重要だと思います。それから、意外と上司のマネジメントが仕事のワークエンゲージメントにも影響を与えると言われていますので、上司のマネジメントそれから周囲のサポートを得られるかどうか、この辺りが要素かと思います。

桐ケ谷:一方、従業員エンゲージメントに関しては、昨今、パーパス経営などという言葉が良く聞かれますように、一体当社はどのような存在でありたいのか?世にどのようなことを成し遂げていくのか?ということを。似たようなものですがMVV=ミッション、ビジョン、バリューですね、新興企業では「自社のMVVは○○!」と言ったりします。

それから組織に対してエンゲージメント感じられるかどうかという点、給与に魅力があるか?とか人事制度も影響するかと思います。

あとは人間関係、組織風土ですね。チャレンジングな組織風土、新しいことをやっても失敗を許容される風土にあるだとか、これまでの旧式のルールに従うことを是としないとか、こういうこともエンゲージメントに影響を与えるであろうと思います。

ワークエンゲージメント、従業員エンゲージメントはあくまで結果。それに対する施策群が影響を及ぼすものですので、どちらかというと表のピンク色を直接高めようとしてもなかなか難しく、グリーンのところで何か欠落しているものや不足しているもの、従業員がどうもこれではな~と思っているものがないかどうか?を探りにいく、これも実は昨今のエンゲージメントサーベイの目的のひとつではありますので、このグリーンに手を打ってピンクを上げる。これが重要だと思います。

高本:さきほど似たような話をしましたが、私も人事を預かる身として特にコロナ禍、ニューノーマルの時代になって、一生懸命、人事を管掌する立場としてこの表にある従業員エンゲージメント、組織に対するコミットメントをどう上げていくかという取り組み、人間関係とか組織風土とかパーパス、MVV、人事制度、このあたりを一生懸命やっていたのですけれど、まあ、やはりエンゲージメントと言うものは、今のお話しを聞いていてワークエンゲージメントも重要と実感したので、現場をうまく巻き込みながら、よりその職とか仕事というキーワードでの取り組み、この要因をしっかりと認識して進めていくのはやはり大事ですね。

高本:ところでお金の話ですが、お金でエンゲージメントは高まるか?この点ついてはこれまで出てきてないのですがいかがですか?

桐ケ谷:我々も様々な企業でエンゲージメント調査をする時に施策のひとつとして「サラリー、報酬はあなたの仕事に対して適切だと思いますか?」という質問をします。これちょっと気をつけていただきたいのですが、「今の報酬水準に満足していますか?」と聞いたら大半の日本人は不満ですと答えますので‥。「今の報酬はあなたの今の仕事に見合ったものですか?」と聞いてもらう必要があるのですけども、例えば簡単な仕事なのでこの報酬で満足しています、という方がいるかもしれませんし、結構大変な責任を与えられているのに給与は今一つだなと思っている方もいるので、自分の仕事に合っているかどうかという点は非常に重要です。

この報酬について私がお伝えしたいのは、同業で競合になる会社と比較して、劣後していないかどうかという検証は常にしていただきたいと思います。ただ、その競合する会社の数倍も高い給与を払う必要があるのかどうか?というのは自社の収益体制を踏まえて検討する必要があると思います。それから、給与で来られる社員は残念ながら給与で去っていくというのが私の持論です。

高本:まあ、そうですね。我々も職業柄そういうのを目の当たりにすること多いです。結構、従業員は給料があがったとかボーナスいくらもらったというよりは、MVPいただいたとか、新人賞とったとか、結構そういうことを覚えているのですよね。

お金の与え方というか見せ方というかそういったのが大事なのかなと思いました。それでは、最後のテーマに移りたいと思います。

“高エンゲージメント組織”のリーダーの5つの行動特性

高本:これまでエンゲージメントとは?とかエンゲージメントの要素について、それからどうやってエンゲージメントを高めるのか?という話をしてきましたけども、今日、ご参加いただいている方にもリーダー、経営管理、メンバーの方多いと思いますから、最後のこのテーマついて、ぜひ教えていただけないでしょうか?

桐ケ谷:最後に高エンゲージメントの組織のリーダーに見られる5つの行動特性をあげさせていただきました。敢えて言うと、当たり前のことを当たり前にやられている会社が高エンゲージメントの組織であると言えますので、そんなことうちでもやっていると思わずに一旦お耳を貸していただければと思います。

“高エンゲージメント組織”のリーダーの5つの行動特性

“高エンゲージメント組織”のリーダーの5つの行動特性

桐ケ谷:一つ目は、パーパス経営、MVVで出てきましたけれども、リーダーがなぜ当社、このビジネス、この商品サービスを提供するのか?社会に対して自らの言葉で発信できることが重要かなと思います。従業員からなかなか目に見えづらい遠い存在の経営理念と日々の仕事と結び付けていく役割をぜひリーダーの方々にしていただきたいですし、そういうことをされている組織は高エンゲージメント、きっとリーダーも高エンゲージメントなので、メンバーにも熱意をもって重ねるといったことかもしれません。

桐ケ谷:次にメンバーに働きかけるといっても10人、20人、30人、50人以上の部下を抱えているという方もいるかもしれません。エンゲージメントは、パーソナルな要素をもっているので一人ひとりに働きかけられるかどうか、これがなかなか悩ましいところなので、ひとつのご提案はチーム全体のやりがいが高まる仕組み、仕掛けを意図的に組み込んで欲しいと思います。

これ実は先ほど高本さんがおっしゃった表彰制度ですとか、相互承認の仕組みであるだとか、メンバー間で目標を期初に発表し合ってお互いに協力できることはし合う、ということを実施している会社もありますね。こういった仕組み・仕掛けが重要かなと思います。

それから、矛盾するようですがパーソナルな働きかけをリーダーの方々は自分および自分の配下のサブリーダーの方々にも委ねながら、個々のメンバーをフォローしていただきたいと思うのです。その時のポイントは3つですね。「仕事上の業務の支援」、「精神的な支援」、「中長期のキャリアの支援」となります。

桐ケ谷:4つ目はメンバーのエンゲージメントの状況を定期的にモニタリングするということです。サイバーエージェントは、従業員のエンゲージメントの状況を天気予報のマークでチェックしているようです。“晴れ”だったのが“曇り”マークになった方に、どうしたのだろう?ということで直接聞くこともあれば、周りの上司にヒアリングするなどし、速やかに改善を図るという。全社の年1回でよいのではと申し上げましたが、定点観測はもっと細やかに簡易的なものでもやると良いかと思います。

最後ですが、変化を見逃さないことです。特にリモートワークのなかでコミュニケーションの量がどうしても少なくならざるを得ないので、リーダーの皆さまは自らアクションを仕掛けていく、「どうなってる?どう?」と向こうからの報告を待つだけでなく、こちらから働きかけていただく、そして必要なアクションをスピーディーに打っていく。

当たり前のようですが、この5つをリーダーの皆さまが行えば、より高エンゲージメントな組織になるだろうと考えています。

高本:この5つの要素を見ていますと、今日はエンゲージメントのテーマで進めていますが、本当は中期経営計画の実現とか、事業戦略をしっかりPDCAを高速回転でまわしていくような、経営や事業の話にも結構通じるなと思いました。

お話は以上になりますが、今回の内容が皆さまのお役に少しでも立てればと思います。今日は本当にありがとうございました。

出演者紹介

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桐ヶ谷 優 氏(ゲスト)

クレイア・コンサルティング株式会社 執行役員COO

1995年大学卒業後、人材ビジネス企業のパソナ、外資系コンピューターメーカーのデルにて計8年間現場人事の経験を積む。その後、国内系人事コンサルティングファームを経て、2002年クレイア・コンサル ティングに入社。総合商社、電機メーカー、エアライン、百貨店、ITベンチャーなど、幅広い業種・業界を対象に人事制度の設計・導入や人材育成体系の構築等を手がける。セミナーでの講演や雑誌の寄稿等も行う。*クレイア・コンサルティング(https://www.creia.jp)

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高本 尊通 (モデレーター)

株式会社プロフェッショナルバンク 取締役常務執行役員

1995年大学卒業後、株式会社パソナ入社。大手特別法人営業グループ責任者を経て、営業/事業/新規事業企画、アライアンス、社内業務改革等担当し、同社の経営ブレーンとして活躍。
2004年株式会社プロフェッショナルバンク設立に携わる。これまで約7,000人あまりのキャリアに携わり、2012年にビズリーチ 社の「日本ヘッドハンター大賞」、同年から2年連続で「リクナビNEXT AWARD MVA」を受賞するなどし、2017年にはビズリーチ社のヘッドハンターオブザイヤー(年間MVP) を受賞。現在、ヘッドハンターとして活動しながら、取締役常務執行役員として人事/経営企画/経理/財務などのバックヤードを管掌。

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