メディア掲載事例

人活のウマい会社を買ってみる。

経営の根幹は「人」。しかし経営を壊すのも「人」だ。人材を活用する場では、悩みも工夫もさまざま。パソナ時代、代表取締役社長として日本の人材ビジネスを創り出した上田宗央が、急成長企業の経営者に「人活」の秘訣を聞き出す。

  • 上田 宗央 プロフェッショナルバンク社長(現会長)
  • 坂本 幸雄 エルピーダメモリ社長
上田 宗央 坂本 幸雄

最先端企業は人情味にあふれていた

半導体メーカーであるエルピーダメモリの坂本幸雄社長は、営業赤字を出し続けた経営を立て直し、今では生産シェアで世界一の座を狙う。その人活術のポイントは「長所を伸ばす」ことだという。働く人をほめ、チャレンジを奨励する。最先端技術で電子部品を作る企業のマネジメントは、人情味にあふれていた。

赤字企業がなぜ変身できたのか?

上田 3年連続で200億円以上の営業赤字を出していたエルピーダメモリを、就任からわずか1年で150億円の黒字企業にした。そんな敏腕経営者が坂本幸雄社長です。どのような「人活術」を行うのか。ぜひ知りたいと思って、うかがいました。

坂本 その理由は、社員みんなが頑張ったからですよ。これは簡単すぎるかな(笑)。

上田 そうですね(笑)。ただ、そうした頑張れる会社を作ることは難しい。人材活用で一番配慮していることは何ですか。

坂本 「長所を伸ばす」ことでしょうか。それが、働く人の幸せにも、会社の成長にもつながる。その環境を整えることが、社長の役割の中で大きなものです。

上田 ほう。社内教育によって、一定の型に社員をはめ込むことを試みる会社が多い中で、珍しい発想ですね。

坂本 偶然に人が集まって、会社はできます。たまたま集まった人を、型にはめることはむずかしい。共通の目標を設定した上で、それに向かってそれぞれが自らの能力を使って貢献する組織のほうが、成果を上げると思う。私は自分自身、または部下や同僚の「長所を伸ばした人」を素晴らしいと思うし、評価してきました。

上田 もちろん、成し遂げた「結果」でも、評価するのですよね。

坂本 そうですね。けれどもそういう人は、たいてい仕事で「結果」を出しますよ。

上田 なるほど。会社の人事評価でも、「長所を伸ばす」という考えを貫いているのですか。

坂本 評価ではマイナス点をつけず、プラス点のみをつけます。それぞれの人が自分の強みを自己申告して、どの程度伸びたかを上司が評価します。社員が失敗をおそれずに、チャレンジできるような雰囲気づくりを心がけています。

上田 しかし、合わない仕事に突き当たる社員もいるのでは。

坂本 確かにふさわしい仕事にめぐり合うことは難しい。ただ、会社が社員の能力を伸ばせる部署を探す努力は続けています。人事制度では、技術や特定の能力を持つ人にはその強みを評価して、管理職と同等の待遇にしています。

上田 それは働きやすいですね。それでは「この人はできる」と坂本社長が評価する人は、どんなタイプでしょうか。

坂本 物事に対する幅広い興味を持つ人です。半導体を「作る」「売る」ことしか考えない視野の狭い人は、結果を出せないことが多いですね。たとえば「ある型の携帯電話が流行しそうだ」という情報があったとしましょう。「へぇ」と感心することは誰でもできますが、「それによってエルピーダがどんな影響を受け、ビジネスにどのような形で結び付けられるか」を、広く深く考えられる人は結果を出します。

上田 ほかに評価をする点はありますか。

坂本 明るい人です。どんな仕事も厳しいし、特に半導体業界は毎日のように激しく変化する。その中で二コニコしながら、苦しいことに耐えられる。そういう人はいいなぁ。苦虫をかみつぶしたような顔をしたって、問題は解決しませんからね。

上田 坂本社長がまさにそうではないですか。同世代ですが、その元気さを私も見習わなければ。

坂本 そう見えるかな(笑)。くよくよ後ろを見るより、前を見ようと常に意識していますよ。

私は「バッサリ」と人事ができない

上田 実際にお会いすると表情は若く、動作の威勢がよい。刺激になります。常に現場を歩き、話しながら、会社を動かす姿も拝見しました。自ら現場に飛び込むマネジメントをしているのですか。

坂本 問題がある場合には、解決のために社内の話し合いに参加します。毎日質問しながら社内を歩いていますよ。今は約100種類の製品を作って売っていますし、新製品も次々と投入される。これだけあると、何かしらの問題が毎日のように起こりますね。

上田 それは、たいへんな量だ。問題を見つけるポイントは何でしょう。

坂本 まず仕事を担当している人の顔色を見ることから始めます。困ったことがあったり、他人に訴えたいことがあったりするときは、どんな人も顔に出ます。直接本人に聞く場合もあるし、間接的にその人の上司に「どうなっているのか」と聞くこともある。公私を問わず、問題があって私で役立つことがあれば、手伝おうと思う。

上田 なるほど。社員は何も隠せないな(笑)。

坂本 問題を一番知っているのは現場です。ただ、いろんなことを毎日尋ね歩くから、私は会社のだいだいのことは知っています。

上田 ほかに問題発見のコツはあるのですか。

坂本 数字を重視します。すべてのことは数字につながる。コミュニケーションや勘だけで問題を把握することは不可能ですね。営業でも生産でも、できる限り数字に落として「見える化」を進める。利益に影響する問題を把握し、一番問題となるものから、解決していくわけです。

上田 坂本社長は人材活用も上手そうですね。

坂本 いやぁ、失敗だらけですよ。そして、そのたびに落ち込む。社員を不幸にしたのではないかと思ってね。昇進すると、次のポストで伸びない人がいます。一方で、別の若い人が伸びてくる。こうした場合に、いろいろと問題が起きてしまう。

上田 会社の再建で坂本社長は、本部長クラスに40歳台の人を次々に抜擢して成果を出したと聞いています。その裏では、ポストを退いてもらった人もいたはずです。こうした問題の解決は難しいですね。どうしたのですか。

坂本 どんな場合でも、力を発揮できていない人と話し合います。解決法はさまざまですが、ポジションを変わってもらう場合には「別の仕事で良い実績を残せるのではないか」と説得します。

上田 欧米企業は、人事を「バッサリ」実行し、時には解雇する場合もあるようです。

坂本 私はそんなことできません。どんな人にも必ず成果を出せる場があると思っていますから。

特化戦略と人事一新で会社を再建

上田 社員が頑張ったからエルピーダを再建できたと強調していますね。けれども社長就任直後の会社の雰囲気は、今とはだいぶ違ったのではないですか。

坂本 まとまりがありませんでしたね。親会社であるNEC、日立製作所からの寄せ集めで、指示待ちばかり。言葉は悪いが「烏合の衆」だった。ただ、技術力が素晴らしかったのです。その強みを活かし、働く人の夢を明らかにして、それを実現するにはどうすればいいのかを考えたわけです。

上田 どんな目標を設定したのでしょうか。

坂本 まず親会社から人事権をもらいました。人事の一新のためです。さらに就任のときに「1年で黒字にする」「2年で株式上場」「4年で世界のマーケットでシェア15%を獲得する」という目標を立てました。

上田 目標はすべて達成してしまいましたね。

坂本 ええ、ほぼできましたね。その目標を達成するために、前向きの行動をしました。技術カという強みを活かそうと、付加価値の高い一部のDRAMに製造を特化する戦略を打ち立てたのです。そのために投資を考えました。まず資金を集めなければならない。半導体メーカーのインテルなど、製品ユーザーを中心に1800億円を集めました。それが夢を具体化するスタートラインだったのです。リストラだけでは、何も進みませんからね。

上田 それは巨額な投資でしたね。先は見通せたのですか。

坂本 潜在的な力を発揮できれば、この会社は伸びると予想していました。そして、業績が上がればボーナスを出すと約束しました。こうした競争の激しい業界では従業員の士気で会社の業績は変わります。昨年度も業績に応じた臨時ボーナスを出しました。また次の頑張りを期待してね。夢は大切ですが、それだけでは人は働きません。

スポーツから学んだ合理性と実力主義

上田 坂本社長はもともと甲子園を目指した高校球児で、日本体育大学でも野球選手でした。メーカーの社長としては珍しい経歴です。それなのに、「頑張り」や「気合い」など、過度な精神論がまったくありませんね。

坂本 経営で精神論に逃げ込んだら、もうオシマイですよ(笑)。スポーツは勝つために合理的な行動をするもので、精神論だけではできません。また、熱意はビジネスの大前提。ない人は論外ですが、どの会社もオフィサー(管理職)は誰もが熱心ですし、当社もそうですよ。結果を出さなければね。思い起こすと、野球に打ち込んだことで、いろいろなプラスの影響があります。

上田 どんなところで影響を受けたのでしょうか。

坂本 勝つために相手を見極め、自分の強みを活かし、練習を重ねる。上級生、下級生に関係なく実力でレギュラーが決まる。そして自分たちの行動は、自分たちに跳ね返ってくる。会社は内部で見ると派閥や学歴など、実力とは関係ないもので動く面がある。しかし、実際のビジネスの現場はスポーツと同じ実力の世界です。

上田 チームワークを重視する坂本社長のマネジメントにも影響しているのではないですか。

坂本 「IQ(知能指数)」よりも「EQ(精神的な能力)」が大切だと、かつてビジネス界で話題になりましたね。他者を思いやり、人間関係をスムーズにするEQが、単なる知性よりも、日常では必要であるということです。その考えは正しいと思うし、スポーツでも、会社でも同じでした。チームのメンバー、また社外の関係者の心を考えることが大切です。

上田 「EQ」の高い人は、どんな場にいても成果を出しますよ。

坂本 そうです。知識は後から頭に入れられます。私は英語、半導体、財務の知識は学校では学びませんでした。仕事の中で学んだのです。また、立ち止まって物事を考えない。走りながら考えます。止まると遅れ、多くの場合にそれが失敗の一因になりますからね。それもスポーツの影響かな。

アメリカ企業で「人情」を学ぶ

上田 坂本社長はアメリカ企業のテキサス・インスツルメンツ(TI)で、日本法人の副社長まで務められた。合理性はその影響があるのでしょうか。

坂本 TIはとても人情味がある企業でした。働く人の心を考えながら仕事をすることを、そこで学びました。

上田 私もアメリカでビジネスをして、企業の持つ素晴らしい「社員のやる気を引き出す力」に感銘を受けたことが何度もあります。坂本社長も、そうした力を感じられたのですね。

坂本 ドライな面を持つ企業もありますけれど、多くの企業は人間の心をよく考え、いろいろな制度を作っています。物質的な面ではストックオプションや、業績連動型の報酬制度とかインセンティブがありますね。ただ、「人はパンのみに生きるにあらず」。やりがいも大切にします。

上田 そう感じましたか。

坂本 たとえば、基本的に部下をけなして育てない。ほめながら育てるんです。これは日本との大きな違いですね。うちの会社でも、オフィサーで部下をどなる人もいる。それは間違いだと言っています。俗に言うでしょう。「豚もおだてりゃ木に登る」とね。

上田 確かにそうだ(笑)。

坂本 私は40歳のときから2年間、アメりカのTIで勧いたのですが、そこでの上司はとてもほめ上手でした。彼は個人としての能力も高い上に、チーム全体の成果を最大限にすることも常に考えていました。ほめると誰もが頑張る。私もその上司の期待以上のことをしようと思うわけです。そうすると、実績が出るのです。

上田 部下を怒ることを「教育」と言う人が多いけれど。

坂本 本当にそうでしょうか。話を聞くと、本人の満足や感情をコントロールできないなどの問題で、怒ることがある。そりゃ仕事の上で腹の立つことはたくさんあるでしょうが、そこで怒ったら組織が萎縮して誰も何も言わなくなりますよ。部下をほめられない上司は、だめだと思っています。

上田 人から望まれる、頼られる。これが人を動かすために一番重要なことなんですね。

全員参加型の経営をアメリカで学ぶ

上田 TIのような世界企業は、会社全体のマネジメントも素晴らしさを持つのではないですか。

坂本 TIは倒産間際の状況に陥ったことがありました。1995年に世界中の幹部が集まり、ホテルに1週間、缶詰め状態になって戦略を作りました。そこでの経験がとても印象に残っています。

上田 どんな戦略になったのでしょうか。

坂本 「TIはデジタルソサエティにDSP(画像処理などに使われる半導体の一種)を提供して、革新的な社会を作る」。こういうシンプルな戦略を決めました。それに基づいて経営を行って復活したのです。内容は簡単でも、その結論が出るまで社内、ユーザー、大学の研究者など、多くの人の意見を聞き、世界中の幹部が中身の濃い議論をしました。その戦略に対して、決定に参加した人すべてが従いました。自ら作ったものだから当然でしょうね。

上田 全員参加で戦略を作る。こうした日本企業は少ないですよ。

坂本 企画部門で勝手に計画を作って押し付けることがよくあります。それで心から社員が賛同できるかなと思う。TIではその後、戦略に基づいた会社のさまざまな動き、つまり生産、販売、教育の体制が決まったのです。
市場の動きに合わせて柔軟に変化はするけれど、根本の戦略は変えない。方針がぐらつく日本企業とは、そこが違います。これを参考にして、エルピーダでは常に戦略を示し、情報を共有しています。

上田 日本では、戦略が単なる「スローガン」に終わる場合が多いですからね。

坂本 戦略の作り方も興味深かった。「新しさ」が戦略の中で強調されることになったときも、面白い経験をしました。

上田 どんなことでしょうか。

坂本 ある上司が言ったんです。「買い物するとき『サムシング・ニュー(何か新しいもの)』がないと、その店に行かないよな」とね。その人の主張で「革新的な社会を作る」という考えが、戦略に盛り込まれたのです。

上田 なるほど。最先端企業の戦略は、そうした人間の感情を参考にしながら決まっていく。

坂本 ええ。シンプルな戦略だけど、いろいろな考えが詰まっているんです。

エルピーダが世界一を達成した後には?

上田 そういった経歴の中で「情」と「論理」を学び、今の坂本社長の人活術があるわけだ。エルピーダを訪れて驚いたのは、受付にも会社の中にも余分なものが何一つない。社長の専用の部屋もない。しかも、坂本社長は電車通勤でしょう。

坂本 余分なものに決してお金は使いません。世界一になってもそうでしょう。会社の成長に、まったく関係のないことですから。

上田 間もなくDRAMの製造では世界1位になるそうですね。

坂本 昨年12月に設立した台湾のパワーーチップ社との合弁会社「レックスチップ」をあわせると、1位の「ハイニックス半導体」、2位の「サムスン電子」(いずれも韓国、それぞれシェア2割前後と推定)に迫っています。今年中に世界一になるでしょう。また、単独世界一も3年以内に達成したいです。

上田 そのあとはどうなるんですか。エルピーダと坂本社長が「燃え尽き症候群」になることはないと思いますが(笑)。

坂本 次の社長が考えるでしょう。社長は長くやるべきではないというのが私の持論。1人の社長が変化を続けることはできないと思うのです。新しい目標を設定すれば、新社長が求心力を持てる。ただ、まだやることが残っているので、しばらくは社長を続けます。

上田 社長を続ける条件をどのように考えていますか。

坂本 働く人の支持でしょうね。私は従業員の8割が支持してくれたら続けます。支持する人が8割に達しなければ、すぐに辞めます。

上田 それは政治家に聞かせたい(笑)。今はどの選挙でも投票率が低下して、有権者のたいした信任もなくて当選していますから。

坂本 多くの政治家は改革に本気で取り組んでいないんでしょうね。8割の人が賛同しなければ、改革なんて何もできませんし、こんな社長業なんてキツイ仕事をやっていられませんよ。

個性を活かし社員が頑張る会社に

上田 ではどうやって次の社長を選ぶのですか。

坂本 継承者は私が決めることではありません。指名した人が「院政」をしく状況はよくない。役員会には「実績であなたがたが決めてほしい」と言っています。私は口を出しません。

上田 やり残したこととは、どんな点でしょうか。

坂本 間接部門の弱さです。これまでは目を配れませんでした。観察すると、日本の製造業はそうした部門が総じて弱いと思う。

上田 「日本の製造業は素晴らしい」という評価ばかり聞こえますが、そういう危機感は興味深い。どんな点が弱いのですか。

坂本 製造と販売は、日本のメーカーは一生懸命やります。けれどもそれ以外の部門は弱く、強みが活かせていない。財務ではバランスシートを崩さずに、多様な形で外から資金をいかに集めるか。事務手続き上での会議など煩雑なものを減らし、時間と費用をいかに削るか。そういう点で工夫が足りないのです。

上田 私は人材にかかわるビジネスをしてきました。その分野でも、日本企業の弱さを感じますか。

坂本 潜在的能力のある学生や転職者をどうやって発掘するか、そういう力が足りないと思います。日本の企業は今でも出身校採用を決めている面があります。そうだとしたら、私みたいな経歴の人間は育たないわけですよ。本当の「金の卵」を見つけ、育てていく能力が必要でしょう。

上田 なるほど。野球選手、外資系企業での勤務、そして難しい半導体ビジネスでのさまざまな経験が、坂本社長の独特のマネジメント術を作っているのでしょう。

坂本 僕はやるべきことを淡々とやっただけ。ただ、それを積み重ねてエルピーダはユニークな会社になりました。たとえば、今年の1~3月期にはDRAMの市場価格が急落したので、世界の多くの半導体メーカーは経営がかなり厳しくなっていたようです。けれども当社はこのとき営業利益がプラスとなり、収益の安定した状況になっています。こうした半導体メーカーは、日本にも世界にもありませんね。

上田 なぜ、そうしたユ二ークな姿になったのでしょうか。

坂本 最初に言ったとおり、社員が頑張ったためです。もちろん、経営判断が当たった面もある。さらに、日本のお客さまの要求レベルが高いので、鍛えてもらった面もある。けれども社員が変わり、自分たちの個性を最大限に発揮できたことが、会社のユニークさにつながったのでしょう。

上田 シンプルだけど奥深い「長所を伸ばす」という坂本社長の人活の哲学が、社員の頑張りを生んだのでしょう。世界で戦う最先端技術を駆使する半導体メーカーで、人情味と合理性を兼ね備えたマネジメントがあったのはとても興味深い話でした。
日本の製造業は、力はあるのに元気がない。「人活」次第で会社の姿が変わる。エルピーダと坂本社長の姿は、多くの意義深いメッセージを製造業で働く皆さんに与えるでしょうね。

エルピーダメモリ ~激しさ際立つ半導体ビジネス~

半導体とは情報の記憶、読み出し、演算などを行う装置で、あらゆる電気製品に使われる。さまざまな種類の半 導体が作られる中で、エルピーダメモリは「DRAM」と呼はれる種類の半導体を製造する。これは情報の記憶・読み出しを行うもので、携帯電話やパソコンなど多様な用途がある。そして、写真製版のように電子回路を「シリコンウエハー」と呼ばれる基板上に焼き付けることで作られる製品だ。

半導体ビジネスの特徴は、変化の激しさだ。「ムーアの法則」という経験則がある。「半導体の集積密度(チップ上に書き込まれた回路の密度)は18~24ヵ月で倍増する」というもの。つまり2年以内に製品の性能が2倍以上に向上する。90年代に日本の半導体産業は苦境に陥る。後発メーカーが技術力をつけた上に、低コストを武器に市場に参入。製品投人のサイクルが短くなる中で、経営が後手に回った。

エルピーダメモリはどんな会社?

エルピーダメモリは2000年に設立された。NECと日立製作所が1999年に設立した半導体合弁会社が母体となった日系資本で唯一のDRAM専業メーカーだ。社名はギリシャ語の「希望」にちなんで付けられたという。

設立のきっかけは、NECと日立の両社がDRAM事業の収益低迷に苦しんだことにあった。同社は2002年3月期には252億円、03年同期238億円、04年同期264億円の営業赤字を出した。ところが05年同期に一転して151億円の営業利益を稼ぎ出した。02年11月に就任した坂本幸雄杜長の改革によるものだ。

坂本社長は、組織体制を見直して、意思決定を速めた。そして、デジタル家電や携帯電話向けなどの付加価値の高いDRAM製造に注力。激しく価格が変動するパソコン向けDRAMは生産を外部委託して、市況で収益が左右されない体制を作り上げた。

今年1~3月期は半導体価格が低迷したために、各国のメーカーの経営は軒並み苦しくなったが、同社は黒宇を確保した。海外での販売は全体の6割強。「目先は収益が大きく下ブレする可能性は少ないでしょう」(坂本社長)と予想する。設備投資も積極的で、07年3月期の1550億円から、今期は合弁会社への出資を含めて2000億円を超える予定だ。

当面の戦略は高付加価値製品を次々に市場に投入することだ。携帯電話や液晶テレビなど家電製品の高性能化が追求されている。その中でユーザーから、情報の処埋速度や記憶容量増加というDRAM性能の向上の要求が強まっている。坂本社長は「私たちの会社はそれに応じる技術カがある」と自信を示している。同社製品の最大の強みは、省エネで小型である点だという。

財務面では、事業の成長と収益基盤の強化に注力する。時期や規模は未定だが、安定した利益とキャッシュフローが見込める段階で、これまで実施しなかった株式配当を検討するという。そして3年以内に単独でDRAMの生産量で世界一になるという目標に対しては、「おそらく達成できる」と坂本社長は強気の見通しを示している。

エルピーダメモリ社長 坂本 幸雄
エルピーダメモリ社長 坂本 幸雄

1947年群馬県生まれ。70年日本体育大学卒業後、日本テキサス・インスツルメンツ入社。91年取締役、93年副社長就任。その後2社を経て2002年エルピーダメモリ社長に就任。半導体ビジネスで次々と成功を収める名経営者として知られる。

MOS BURGERロゴ
社名 エルピーダメモリ株式会社
本社所在地 東京都中央区
売上高 約4900億円(2007年3月期)
事業概要 DRAMの製造・販売
株式銘柄コード 6665
URL http://jp.micron.com/
上田宗央の視点 ~経営に活かされる「情」と「論理」~

「情」と「論理」を、経営でどのように活かすか。坂本幸雄社長との対談ではこれがテーマになりました。私はアメリカでビジネスをしたことがあります。「エクセレント・カンパニー」と呼ばれ、社会の尊敬を集める大企業は、情と論理を兼ね備えた経営をしています。なかでも意思決定で「健全な衆議制」がとられることに感銘を受け、常に参考にしてきました。

「健全な衆議制」では、責任ある立場の人が、徹底的に意見を交換します。参加者はさまざまな角度から自由に意見を述べる一方で、決まった結論の実行に責任を持ちます。その前提として、議論ではすべての事実を表に出します。見えない「ブラックボックス」を抱えたまま議論を進めれば、疑心暗鬼となって混乱します。さらに、得られた結論が正しいものとはならないし、信頼も薄れるために実行に真剣さが伴いません。

一方で、日木の会社は「ムラの衆議制」に陥りがちです。顔見知り同士が話を進め、雰囲気で結論が出る。事実に基づいた議論がされずに、根回しや一部の人の意思が影響しがちです。そして「見える化」も遅れています。

坂本社長は「健全な衆議制」を、エルピーダで実行していました。数宇による検証と「見える化」で、甘えをなくす。そして「情」についても配慮がありました。社員が「個性を活かす」形で参加することを求めます。また、カリスマ的に組織を引っ張るよりも、現場を回ることで問題を発見し、社員の気持ちを熟慮しながら、問題を一緒に解決していました。坂本社長の下では、社員がとても働きやすいでしょう。

現場経験を持ち、「情」と「論理」を兼ね備えた経営者は、かつての日本にもいたように思います。石川島播磨重工業や東芝を再建した故土光敏夫さんのような方です。けれども「失われた10年」という長期不況では、「合理性」を追求する経営者が重視される傾向があったようです。

しかし今、好景気により国内の各企業が落ち着きを取り戻し、再び「情」の部分が、経営で注目され始めました。坂本社長は「情」に加えて、合理的な「論理」を兼ね備えた新しいタイプの日本型経営者です。今後も活躍して、製造業の社長の模範になっていく人に違いありません。

プロフェッショナルバンク代表取締役会長 上田宗央

プロフェッショナルバンク代表取締役会長 上田宗央

1948年富山県生まれ。大学卒業後、外資系製薬会社などを経て83年テンポラリーセンター(現パソナ)入社。日本の様々な人材ビジネスを創出する。米国現地法人代表取締役社長を経て03年東証一部上場を果たし04年までパソナ代表取締役社長、同年退任。 その後、”プロフェッショナル人材に特化した人材エージェント”株式会社 プロフェッショナルバンクを創業。代表取締役社長を得て2007年4月より代表取締役会長 現任。その他現在、上場会社社外取締役・顧問・監査役など計8社の経営に携わる。主な著書は「マイクロ・アウトソーシング~機能細分化による企業再生術~ 」(日刊工業新聞社)

※この記事は、2007年7月フィナンシャルジャパンより掲載しています。

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