ヘッドハンティング研究

ヘッドハンティングされる若手人材とは?求める企業の裏事情

ヘッドハンティングされる若手人材とは?求める企業の裏事情

若手人材にうまく利用されるヘッドハンター

ヘッドハンティングをしていると候補者にうまく利用される…ということもある。IT系企業のクライアントを多く持つ私は、当然のようにIT系エンジニアとお会いする機会が多い。最近お会いした、ネイティブアプリの開発エンジニア(iOSやAndroid向けアプリケーションの開発)という今、旬なエンジニア職の彼もそんな一人であった。

彼は未上場ではあるが、急成長中のアプリ開発会社に勤務する20代後半の新卒入社組。現職の環境や待遇、人間関係にもそれなりに満足しているようなのだが、このまま現職にとどまっていて良いのか?という30歳前後のビジネスマンがよく抱える葛藤を彼もまた抱いていた。

彼が私に会ってくれた理由は、ヘッドハンティングの依頼主がどこの企業なのか?ということよりも、「現職に残るべきか?他の道を歩むべきか?それはいつなのか?」という客観的な意見をヘッドハンターから直接聞ける良い機会だと思っていたらしい。彼は屈託ない表情でそう言うと私の話に真剣に耳を傾けていた。

クライアントの候補者となる人材を探し出してスカウトをする、私たちのようなヘッドハンターがお会いする方々は、転職希望者だけではない。中にはアプリ開発エンジニアの彼のように転職意欲はないが、将来に漠然とした不安を抱えている方ともお会いする。優秀な若手エンジニアほど自身の市場価値や将来像を真剣に考えているように思う。私たちとしては当然、ヘッドハンティングできることを期待して候補者達にお会いするのだが、このようにキャリア相談にとどまるような機会も大いに結構だと思っている。

20代、30代前半でヘッドハンティングされる人材とは?

ヘッドハンティングの候補者は、即戦力として経営や事業へインパクトを与えられる30代後半から40代にかけてのミドル~エグゼクティブ人材が多い傾向にある。しかしながら、若手人材も一定数は候補者としてあがって来て、その傾向は他の世代と大きくは変わらない。

希少人材の候補

ヘッドハンティングのニーズが高い代表的な領域は2つで、ひとつ目が「希少人材」である。ニッチ分野や専門性高いポジションは、そもそも就労人口が少ないことから求人企業も少なく、転職市場に対象がいないため採用が困難なケースであり、「希少人材」となる。例えば、電気・電子分野での最先端技術のエンジニア、ニッチな化学製品の研究職など。プロ経営者や優秀なマネジメント層もここに該当する。

そもそも就労人口が少なく転職市場ではなかなか出会えないこの領域は、ヘッドハンティングでの採用ニーズが高くなる。ただ、経験の浅い段階でこの希少人材に該当するのは稀なため、相対的には他の年代より若手人材が候補になるケースは少ない。

競争過多人材の候補

もうひとつ、ヘッドハンティングのニーズが高いのが「競争過多人材」である。例えばITエンジニアや建設の施工管理者などが該当する。業界内での就労人口はある程度いるが、転職市場にいる人材だけでは、求人ニーズに対応しきれないポジションである。

業界内での人脈による移籍が多い、企業の囲い込みが強い、多忙な職種のため転職市場(求人媒体や人材紹介サービス)に自ら出ていかないなどの背景もあって、たとえ転職市場に現れても、該当人材は引く手あまたで競合が激しく、自社には振り向いてくれないケース(競争過多)となり、ヘッドハンティングによって採用したいというニーズが高くなる。特にITエンジニアとして活躍する人材は20代~30代前半が多い為、若手人材のニーズが多い。

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ヘッドハンティングされるには?

上記が代表的なヘッドハンティングのニーズが高い2つの領域だが、いずれにしても、ヘッドハンティング会社の目に留まるには、それなりに「①活躍していて」、「②メディアや文献での露出があり」、「③評判が高い」必要があり、またそれらの人材が候補になり易い。

①活躍していれば、②各分野から注目され、③評価も高い人材となるので、①~③の関係性は高いと言える。単純な話だが、ヘッドハンティングされる人材は現職で活躍していることが大前提となるのだ。

ちなみに②メディアや文献の露出がなくとも、ヘッドハンティングのリサーチャーは、他の手段で該当人材を探しだすことが出来るが、最終的には③の他者評価が高くないと企業との引き合わせは難しくなる。ヘッドハンティング会社にとっては、他者からの評判が非常に重要なファクターなのだ。

ヘッドハンティングは機会提供のひとつである

冒頭のアプリ開発エンジニアの話に戻るが、ヘッドハンティングしてコンタクトをとっても、彼のようにキャリア相談にとどまるような機会も頻繁にある。ただ、私たちもすべての候補者が転職に前向きとは思っておらず、お会いして直ぐに企業や案件をご案内する訳でもない。むしろ本人に、今後のキャリアのことを考える機会にしてもらえればと思っている。

医者・弁護士・ヘッドハンター

というのも、アメリカでは「医者と弁護士とヘッドハンターはかかりつけを持っておけ!」と言われるように、ヘッドハンターは一生のうちに何度か訪れるキャリアチェンジの機会に欠かせない存在となっている。最初のコンタクトで転職意欲が無かったとしても、長期的なつながりの始まりなのだ。その為、他社の評価、考え方、現職の良さ、今後のキャリア、様々なことを考えていただく好機ととらえていただければ、我々としてはそれも大歓迎である。

クチコミに敏感な若手人材

そんな中、優秀な若手人材が次のキャリアに挑もうとする際に躊躇する理由として、最近多いのが口コミだ。先ほど、ヘッドハンティング会社が候補人材をスカウトする際に重要視しているは、「評判」と申し上げた。仕事を選ぶ候補者側もまた、企業の「評判」を非常に重視しているということだ。

各SNSをはじめ、企業の評判を現・元社員が書き込むサイトの存在は増しているように思う。これらの登場と普及により、気になる企業の職場環境なども一層リアルにイメージすることが出来るようになったのである。

不平や不満が書かれている口コミを見てしまうと、そちらに引っ張られてネガティブになってしまう人材は非常に多い。逆に企業側からするとあまり良くない評判がたってしまうと、その後のリカバリーはとても困難なものになってしまう。実は、このような事態は知名度の低いベンチャー企業の採用をさらに難しくするという“袋小路に陥る”理由のひとつなのだ。

火のないところ煙は立たず、企業の心構え

IT業界を例にとると、同業界は慢性的な人材不足が続いている。中でも「若手エンジニアを採用したいが、なかなか出来ない」というものが多い。ここでいう若手とは第二新卒から30代前半にかけての実務経験3年以上で一から教育を施さなくてもある程度即戦力として計算できる人材層のことである。さらに話を聞いていくと、「社歴は1社、多くても2社以内」「常に最新の技術をキャッチアップすべく勉強していて」「個人的にスマホアプリの開発なども…」といった具合である。

こういったニーズがある背景には、「若手なら給与水準を低く抑えられる」、多少でも実務経験はあるから「教育コストを抑えられる」といったコスト最優先の本音が垣間見えるケースも少なくない。

では、「そんな貴社における若手の離職事情はいかがですか?」とお聞きするとその点も大きな悩みの一つであるという。離職者もやはり多いということなのだ。給与水準や教育コストという金銭的な理由だけで若手を採用する企業は、離職率が高いことが多い。入社した社員達はその点を実感し、使い捨て的な扱いを受けていると感じれば口コミに悪評を書く。

こうなってくると悪循環の始まりとなる。離職率高く、常に人材を求めているが、自社の評判が悪い為に採用が困難となる。求人広告やダイレクトリクルーティングでは立ち行かないので、ヘッドハンティング会社に依頼をかける…。我々もご依頼をいただくのはありがたいが、候補人材が移籍した後に定着するまでがヘッドハンティング会社の役目である限り、依頼企業の人材への向き合い方を改善していくところからスタートせざるを得なくなってくる。

このような背景でヘッドハンティング依頼をされるのは、一部の企業ではあるが、多かれ少なかれ自社のクチコミに泣かされてきた人事担当者は多いのではないだろうか?悪評を書かれたくないから人に優しくするというのは間違っているが、少なくとも離職、採用という悪循環から逃れる為には、人を大切にする経営を行わないと長期的には立ち行かないだろう。

我々のようなヘッドハンターは、数多くの企業と接触して人に対してどのようなスタンスで経営を行っているかもしっかり把握しているもの。今、あなたが働く会社が人に優しいかどうか位は客観的にお伝えすることはできるだろう。私たちに会うかどうかは、お声掛けさせていただいた候補者次第ではあるが、まずはそんな観点でお会いされても面白いのではないだろうか?

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