スペシャルインタビュー

高橋 俊介氏 – 今後の日本企業に必要なのは、個人の「キャリア自律」と組織の支援

高橋 俊介氏 – 今後の日本企業に必要なのは、個人の「キャリア自律」と組織の支援

経営コンサルタントとして活躍したのち、人と組織の問題に深く斬り込み、慶應義塾大学大学院で特任教授を務めた高橋俊介氏。これからの時代は「想定外変化を踏まえ、自分のキャリアに自律的に関わるべき」と語ります。高橋氏が考えるキャリア論について伺いました。
聞き手:編集部

キャリア形成には常に想定外の変化がある

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――著書「21世紀のキャリア論 」を拝見すると、高橋さんはキャリア形成の上で「想定外変化」は避けて通れないとしています。これはどういうことでしょうか?

高橋俊介(以下、高橋):キャリアというのは、計画どおりには作れないものだからです。想定外の変化が必ずあって、当初の思いどおりにはいかない。ある学者は、「10年後に存在する仕事のうち今あるのは半分くらい」と言っています。
消える仕事がある一方で、今は存在しない仕事がこの先10年のあいだに生まれてくる。だから今の時点で「将来、何になろうか」と考えることは意味がない、というわけです。

――ご自身の経歴を見ると、東京大学で航空学を専攻し、その後は国鉄、プリンストン大学工学部とエンジニアリング一筋だったのが、マッキンゼーで経営コンサルタントをされています。これも想定外の変化だったのでしょうか?

高橋:そのとおりです。プリンストン大学で職を探しているときに、「外国人可」だったのがマッキンゼーで、当時はどんな会社なのかもよくわからずに応募しました。マッキンゼーには3年間いましたが、とにかくおもしろかった。私に向いた仕事だったんでしょうね。
私はよく「好きを仕事にするな、向いてることを仕事にしろ」と言っています。好きなことは、趣味にしておくのが一番いい。しかし、自分にどんな仕事が向いているのかというと、やってみないとわかりませんからね。

自分のキャリアに自律的に関わり、道を切り拓く

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――キャリアパスを考えるときに、多くの人はまず目標を定めて、いかに効率良くそこに到達するかを考えます。

高橋:将来が予測可能で管理可能ならば、それでいいんです。しかし、激しい変化が起こり続けている現代、効率ばかりを考えてキャリアパスを考えていると、想定外のすばらしいチャンスを見逃してしまうこともありえます。これからの時代に必要なのは、効率的なルートを選定することではなく、キャリアコンピタンシー…いわゆる「キャリア自律」を身に付けることです。
これは、自分のキャリアに主体的継続的に関わっていき、満足度の高いキャリアを作れる能力のことです。時代や世間がどう変わっても、自分で自分の居場所を切り拓き、仕事をつかみ、生き抜いていける能力です。

――キャリアを語るときに、一般的に言われるスキルや資格などとは異質のものですね。

高橋:キャリアコンピタンシーの基本は、キャリアデザインではなくジョブデザインです。自分の今の仕事を、いかに自分らしくやるか。普段はそこに打ち込むことです。
「キャリア自律」に加えて、スキルに投資する「スキル開発行動」と、人間関係に対する投資である「ネットワーキング行動」の3つを、習慣として日頃から実践している人には、想定外のチャンスが巡って来やすくなります。
そのとき、どう動くか。人生の節目をどのようにデザインするか。そこで役立つのがキャリア自律なんです。

あなたならではのユニークネスを活かせ

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――キャリア自律の考え方は、高橋さんがコンサルタントに転身されたころには、すでにお持ちだったのでしょうか。

高橋:いや、全然(笑)。そうした考えを持つようになったのは、30歳を過ぎてからでしょうか。よく言うことなのですが、私は人事コンサルタントになるために国鉄に入って、マッキンゼーに行ったわけではありません。結果的にそのキャリアを活かしたんです。

――キャリアに想定外変化が付き物なら、それを避けるよりも「どうやって次に活かすか」を考える、ということでしょうか?

高橋:そうです。例えば、ワーキングマザーを経験したなら、「働く母親」という自分の特性を、どこで活かせるかを考えればいい。人生に無駄な経験などありません。すべて役に立つ。むしろ、回り道があったほうが、その人ならではのユニークネスが出ますから、それを活かすことが重要です。
ただし、どんな経験でも表面的なもので終わらせていては駄目ですよ。その経験から、深く学ぶ姿勢を崩さないことです。そうした習慣を身に付けておけば、これまでとまったく違う分野に行っても、経験を活かせる可能性が高まります。

日本企業が抱える問題を解決する、経営人事を手掛ける

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――高橋さんご自身、過去の経験における学びが、その後の仕事に活かされている実感があるのではありませんか?

高橋:それはありますよ。私なんか、いきなりコンサルティング業界に行ってたら、ロクなもんになってなかったでしょう(笑)。
ただ、経営コンサルタントをやって気付いたのは、「人と組織」の問題です。ドラスティックなことをやろうとしても、人事の問題で何もできない。これは、日本企業が抱える根源的な問題で、解決しない限り経営コンサルタントがどんな戦略を描いても効果は上がりません。そこで、組織人事専門のコンサルティング会社に移って、そこで経営人事を始めました。

――当時としては新しい概念だったのではないでしょうか?

高橋:そのころの日本には、まだ「経営人事」という概念すらありませんでした。ですが、日本の企業にはこの考え方が必要になると確信していましたし、結果として実績を上げることもできました。
この選択ができたのは、それまでの私のキャリアをすべて活用できたからです。大学時代の航空学科で身に付けた科学的思考。国鉄時代に肌で感じた現場感。経営コンサルタントとして間近で接してきた経営者の論理。これらをすべて活かせたからこそ、新しい人事論のもとで経営人事に携わることができたんだと思います。

個人のキャリア自律に、企業はどう関わるのか

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――キャリア自律は、個人にとっては大きな武器になりますが、組織にとってはどうなのでしょうか?

高橋:個人のキャリア自律は、組織にとっても有益です。例えば、会社が組織を挙げて何らかの方針を推し進め、それが結果として失敗に終わったとしても、自律した社員が別方向を耕していたら、そちらの芽を伸ばすことができる。ですから、企業は社員のキャリア自律の力、キャリアコンピタンシーを向上させて、自分で自分のキャリアを作っていくことを支援するべきだと思います。

――具体的にはどのような?

高橋:まずは、個人の節目…フェーズごとのジョブデザインをサポートすることです。もうひとつは、キャリアや仕事上の悩みを抱えている人に支援の手を差し伸べること。それから、みずから手を挙げた者に対して、スキルアップのための勉強ができるしくみがあるといいですね。
まず、前提として社員のキャリア自律がある。それをベースにした社員の成長支援機能を用意し、節目ごとにサポートする体制を構築する。ほかにもいろいろ考えられますが、まずはそこからでしょう。

<高橋 俊介氏 プロフィール>
1954年 東京都生まれ。
1978年 東京大学工学部航空学科を卒業し日本国有鉄道に入社。
1984年 米国プリンストン大学工学部修士課程を終了し、マッキンゼーアンドカンパニ-東京事務所に入社。
1989年 世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国のワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現ウイリス・タワーズワトソン)に入社。
1993年 同社代表取締役社長に就任。
1997年7月 ワイアット株式会社の社長を退任、個人事務所ピープル ファクター コンサルティングを通じて、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援などを行う。
2000年5月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。個人事務所による活動に加えて、藤沢キャンパスのキャリアリソースラボラトリーを拠点とした個人主導のキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事。
2011年11月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授を務める。

主な著書は以下のとおり。
『21世紀のキャリア論』変化の時代を生き残るためのキャリア論
ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略(PHP新書)
自分らしいキャリアの作り方(PHP新書)
プロフェッショナルの働き方(PHPビジネス新書)
キャリアショック(東洋経済新報社)
組織改革(東洋経済新報社)
組織マネジメントのプロフェッショナル(ダイヤモンド社)

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キャリア自律とは?組織が今すぐ促進すべき3つの方法

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