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少子化だから危ないのか?学習塾業界の現状と生き残り戦略

少子化だから危ないのか?学習塾業界の現状と生き残り戦略

学習塾業界は以前からよく「少子化の流れを受けて厳しくなるのでは」という見方がなされることが多い業界です。子どもの数が限られている以上、右肩上がりの拡大は難しいというのは想像しやすいことですが、話はそう単純なものではありません。今回は学習塾業界の動向について追ってみましょう。

「少子化だから厳しい」は本当か

学習塾業界で最もインパクトのあった出来事は2014年、代々木ゼミナールが全国の校舎のうち7割を閉鎖すると発表したことでしょう。人気講師陣をカギに業績を伸ばし、最大手にまで上り詰めた代ゼミ。しかし大学全入時代に入り、AO入試や推薦入試など現役生に有利な受験手段も増えました。また、世帯年収が伸び悩む中で現役合格への意識が強くなり、浪人生はどんどん減少しています。こうした傾向を見る限り、浪人生向けの従来のビジネスモデルには逆風が吹いていることは確かでしょう。

ただ、これをもとに学習塾業界全体が厳しいと見るのはいささか早計です。教育に熱心な家庭は一定数存在し、塾通いをする子どもは増加傾向にあります。中高一貫校の人気が上がっていることから中学受験を目指す子どもも増えました。それを受けて小学校低学年層の獲得に拍車がかかっています。また、小学校での外国語活動必修化といった教育ニーズの変化も学習塾業界にとっては生徒獲得の追い風となるかもしれません。こうした流れは今後も続き、少子化の影響を受けて緩やかに市場の縮小が予測されるものの、急激な落ち込みということは考えにくいのです。

現在、学習塾業界にとって脅威となっているのはスマートフォンやタブレットで手軽に動画授業が受けられる月額課金サービスと言われています。学習習慣をつける、モチベーションを切らさずに仲間と切磋琢磨する、個別指導を受けるといった学習塾ならではのメリットはあるとはいえ、すでに取り組まれている映像授業に魅力的なコンテンツを拡充し、IT化に対応するといったことも意識していく必要はあるでしょう。

業界再編、その目論見は

学習塾業界では2000年代後半から生き残りをかけた再編、および通信教育・出版大手による買収が活発化しています。2006年には東進ハイスクールを運営するナガセが四谷大塚を買収したほか、ベネッセホールディングスがお茶の水ハイスクールを買収、翌年に東京個別指導学院を連結子会社化。学研ホールディングスはあすなろ学院を運営する東北ベストスタディを買収しました。2008年には市進が増進会出版社およびZ会グループと業務資本提携。2017年、第一ゼミナールや第一学院を運営するウィザスが京大ゼミナール久保塾を買収しています。

こうした再編の動きは、カバーできるエリアを広げて売上拡大を目指す目論見が背景にあるでしょう。さらに重要なのが、各社がより早い段階で生徒を取り込む意欲。学習塾は一度入塾すれば一定期間は通います。大学や高校など単発の受験対策で生徒を獲得するのではなく、予備校が中学受験対策の塾を傘下に収めることで、より長い期間自社サービスを使ってもらうことができます。

集団指導か、個別指導か。伸びている企業のカギは

昨今の学習塾業界で堅調な動きは2つで、両者はきれいに正反対に分かれます。高い合格実績と質の高い講師により難関校への受験を目指す生徒や保護者は集団指導の塾を支持します。一方で学力に不安があり、補習塾として学習塾に通う生徒と保護者は、丁寧に指導してくれる個別指導塾を支持しています。前者はブランド力や教える力、講師が集客のポイントとなります。そして昨今、特に拡大が顕著なのが後者の個別指導塾です。教える力はもとより、教室長や講師の対応力や地域に合わせた戦略的なマーケティング展開、営業スキルが問われることになるでしょう。

少子化は統計で明らかにされている予測であり、それを覆すことはできません。ただ、少子化の影響は学習塾業界だけが受けるものではありません。他の業界と比較して固定費がかかりにくいことは強みですし、メーカーやITほど最新の技術革新に左右されることもありません。決して「少子化だから危ない」と安易にとらえず、強みを踏まえつつ的確にニーズをつかみ、変化に対応していくことが求められています。したがって、従来型の中途半端な戦略では難しいと言わざるを得ないでしょう。

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