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建設業界に押し寄せるICT化の波

建設業界に押し寄せるICT化の波

21世紀初頭に登場した「IT(情報技術)」と「ICT(情報通信技術)」は、その後も急速な発展を遂げ、今や私たちの生活や仕事に、欠かせないものになりました。ITとはほど遠いイメージを持つ建設業界の建設現場においても必要性が説かれ、官民挙げての導入が進められています。

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建設現場の生産性を高める「i-Construction」

2015年に国土交通省が提唱した「i-Construction」。これは、各種建設現場にICT(情報通信技術)を積極的に導入し、現場の生産性を高めようとする施策です。
これまでの建設現場では、多くの工程が人の目と手に頼って進められてきました。例えば、現地の測量も、設計と施工計画の策定も、機械任せというわけにはいきません。また、重機による整地や盛り土も、作業と測量を繰り返していくことになります。さらに施工中は、必要に応じて写真を撮って検査をし、それをプリントアウトして何冊ものファイルを作り、最終検査を行います。このように、すべての段階で人間の手間と時間がかかり、生産性を向上させる大きな障害となっていました。
ですが、工事のあらゆるプロセスにICTを導入することで、作業効率は大幅にアップします。効率がアップすることで、作業員一人ひとりの生産性が高まり、納期の短縮や労働環境の改善など、数々のメリットを生み出すことも可能になります
「2025年までに生産性を20%向上する」という国土交通省の目標設定を見ても、政府がこの事業に力を入れていることは明らかです。

ICTで現場がどのように変わるのか

ICTの導入は、建設現場の作業を大きく変革します。土木工事を例にそのプロセスを見てみましょう。
まず、測量はドローンによって空中から行います。ドローンで現場の高精度の画像を撮影し、施工範囲全体にわたる高密度な三次元測量を行います。
測量によって精密な地形データが得られたなら、それをベースに設計・施工計画を立てます。すでに現況地形のデータはあるのですから、あとは施工する3Dモデルと比較すれば、「どこを削り、どこに盛るか」を算出するのは簡単です。こうして、施工計画が出来上がります。
現場では、ICTによって制御される建設機械で、設計どおりの形状になるよう施工します。最後に、再びドローンを飛ばし、設計どおりに仕上がっているかを検査すれば完了です。
これらのプロセスで得られたデータは、取得と同時にクラウドにアップされ、工事に関わる全員が利用することができます。現場で撮った画像にコメントをつけて報告書に仕上げるという作業も、事務所に戻ることなく作業できるのです。

ICTを導入するために必要なもの

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ICTを導入することで、生産性という点では大きく前進しますが、実現するにはいくつかのハードルがあります。
ICT導入に伴う最初の課題はコストでしょう。各現場で使用する携帯端末(タブレット)や、建設ICTに対応する各種ソフトが必要です。すべての現場に携帯端末を導入するためには、かなりの数量が必要となります。特に、大手ともなれば数千台のタブレットが必要です。
「ハードウェアの導入」というハードルを越えられたとしても、その次に「ICTに対応する人材」というハードルが待っています。携帯端末を適確に扱い、メリットを享受するには、ICTを理解し運用管理する人材が必須なのです。
また、建設現場はさまざまな企業のスタッフが集まりますから、各企業にICT導入に関する理解や協力を求め、スムーズに業務が進行するような配慮をしなくてはなりません。まとめると、以下の要素が必要になります。

【建設ICTを実現するために必要な要素】
・ハードウェアとソフトウェアの充実
・運用管理する人材
・提携企業の理解と協力

この要素をすべてクリアするのは簡単ではありません。もしクリアできなければ、建設現場のICT導入は難しいでしょう。

人材不足がさらに深刻化していく

人材という部分では、建設業界ならではの問題が存在しています。元々建設業界では、現場の管理を担当できる30代から40代の人材が不足しています。これは、バブル崩壊後に新規採用を大きく絞った結果です。そのため、現場監督クラスの層は売り手市場となっており、建設業界では人材不足が深刻化しています。
こうした状況に加え、建設現場のICT化がさらに加速すればどうなるのでしょうか?現場の工程管理だけでなく、ハードウェアの操作はもちろん、ICTシステム全体を理解し、管理するスキルも求められることになります。こうなると、企業の人材獲得競争は、さらに熾烈になっていくでしょう。
企業でも、ICT建設に対応できる人材をどのように育てるのか、そのしくみを早急に作り上げる必要があるのです。

人材の確保・育成でICTの波を乗り切れ!

大手ゼネコンの中には、「i-Construction」提唱以前から、建設現場へのICT導入に積極的に取り組んできた企業もあります。しかし、設備投資や人材の教育など、導入にあたっては多くの課題が並んでおり、多くの企業が手をこまねいていることでしょう。また、導入を決めた企業にしても「とりあえず、タブレットを買いそろえてはみたけれど」と、途中で頓挫してしまう企業も少なくないのではないでしょうか。
しかし、すでに政府が推進を決定し、普及に向けて動いている現状では、流れに乗り遅れるわけにはいきません。現に、国土交通省が直轄する大規模工事では、ICT土工を原則化しています。また、2019年を目処に、「橋梁やトンネル、ダムなどの工事に加え、維持管理を含むすべてのプロセスに、ICT活用を拡大する」と宣言しています。
ICTという大波を乗り切るには、人材の確保と育成が、ますます重要な課題となるでしょう。

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