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大きく動き始めた「建設コンサル」業界

大きく動き始めた「建設コンサル」業界

大規模インフラ事業のサポートを行う建設コンサルタント。2019年に期末を迎えた決算においては7割以上の建設コンサルタント企業が増収であったが、同業界においても「コロナショック」の影響で海外、民間の発注業務が延期・中止となり先行きの不透明感が危惧されていました。
しかしながら、2020年決算おいても、主力の国内官公庁業務が売り上げを牽引し、2019年同様、7割以上の建設コンサルタント企業が増収となりました。ただ海外、民間の冷え込みは当面続く見込みで依然として楽観視できない中、各社はどの様な取り組み、それに伴いどの様な人材が求められているのでしょうか。

全体動向_脱官公庁偏重の動き

建設コンサルタント。文字どおり建設案件に関するコンサルティングを行う会社です。計画から調査、設計までが守備範囲で、多くは大規模なインフラを扱うため、官公庁がおもなクライアントとなります。

民主党政権のころ、公共事業は大々的にメスを入れられ、「縮小・削減」を方向付けられました。それまでにも何度か批判を浴びてきた「ハコモノ行政」に対する国民の目が、厳しさを増したことも一因です。

しかしながら、東日本大震災や昨今日本各地でみられる甚大な自然災害により業界を取り巻く状況は一変し、政府が20年12月に『防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策』を決定するなど公共市場は堅調な推移が予想されております(加速化対策の事業規模は25年度までの5年間で総額15兆円に上る)。

中期的に見れば安定的に業績がのびるという予測の一方で、新型コロナ対策で悪化する国や自治体の財政状況を踏まえると、国内好況市場がこのまま拡大を続ける傾向は長くは続かないとみて、事業基盤を強化する動きがすでに業界内部では出始めております。この業界では今、これまでとは違う新規事業を摸索する動きが活発化しています。その背景にあるのは、長期的な生き残りをかけた危機感です。

垣根を越えて業務範囲を拡大

建設コンサルタントは、これまでおもに大規模インフラを扱ってきました。鉄道、道路、河川、港湾、上下水道…。さらには都市・地域の開発などについて、それぞれの得意分野で自社の特徴を活かしつつ、あらゆるマネジメントとコンサルティングを行ってきたのです。ですが、これまでどおりの得意分野だけでの仕事をしていたのでは、国内公共市場の頼みの綱が切れたとき、縮小したとき生き残ることはできません。

そこで、異なる分野に強みを持つ複数の企業による合併や買収によって、新たな分野を開拓しようという動きが既に広がっています。こうした動きがもっと広がっていけば、業界再編という大きな動きにつながっていくことになります。

また、分野の境界をまたぐだけではなく、「建設コンサル」という業務を中心として、その川上から川下までを視野に入れた事業展開を摸索する企業もあります。そうした例として「日経コンストラクション」の記事では、エネルギー事業に参入した企業を紹介しています。

これまで発電事業の計画や設計、コンサルティングを行ってきた企業が、設備会社との合弁企業を立ち上げ、発電事業そのものにも参画していく。あるいは新会社を設立して、新電力事業を手掛ける。これまで扱ったことのない領域にまで、守備範囲を広げようという動きです。

さらには、個々の建築物単体ではなく、より広いマネジメントを行おうとする動きもあります。地域の観光名所やスポットに発信機を設置し、観光情報をクーポンなどと共にスマホに配信する。つまり、地域全体のマネジメントやコンサルティングを図り、活性化につなげようという狙いです。このような多様な変化の中では、当然ながら「必要な人材」の質も変化していきます。

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従来とは異なる、「求められる人材像」

コンサルティング会社に限らず、建設業界では30~40代までの人材が欠落したように不足しています。これはバブル崩壊直後に急速に採用を絞った結果であり、その後遺症は今も残っています。

そのため、10年後以降の自社を支える人材を、多くの企業が求めているのが現状です。そうした全体的な傾向に加え、建設コンサルティング業界は、別の要素が関係してきます。それは、現在静かに広がりつつある、別分野への事業拡大や新規事業への参入に関連する、これまでにないスキルを持つ人材の確保です。

これまでは、先にお話しした「欠落したレイヤー」と、業務を手掛けるための有資格者が必要とされてきました。ですが、新規事業への流れが強まっていく中においては、必要な人材像も従来のタイプとは異なってきます。自社が手掛けようとする分野や、業務に関するノウハウを持つ人材が求められてくるのです。

具体的には、デジタル改革とグリーン社会の実現に向けた取り組みが業界内においては必要とされており、そこに活路を見出すコンサルタント会社も多々あります。いずれにしても競争は激しく、時間の猶予はありません。即戦力となる人材の確保は、引き続きこの業界の重要課題であるようです。

獲得した人材を定着させ、活かすために

建設コンサルティング業界では人材の定着率向上という課題も浮上しています。長期的な視点から、せっかく確保した人材です。自社に定着してくれないのでは意味がありません。ですが、それにはまず、自社内の就労環境を見直すところから始めなくてはならないでしょう。

それは単に、社内環境の向上というだけではなく、就業スタイルや制度上の整備、さらには会社の体質に至るまで、非常に広い範囲にわたります。そもそも、この業界の求人ターゲットである30代以上という年代は、男女ともにライフイベントが多い時期です。結婚、出産、子育て、さらには親の介護など、大きな変化が訪れます。それに伴って退職、あるいはより良い環境を求めて転職という選択肢も現実味を帯びてくるでしょう。

そうした個々の事情をくみ取ってケアし、人材の流出を防ぐためにはどうするか。この問題について企業は「女性の定着率向上のための施策」や「柔軟なワーキングスタイル」を摸索しています。

こうした動きは、非常に有意義なものでしょう。ですが、それらは制度として設定しただけでは、その機能を十分に発揮できません。現場はもちろん、経営陣も積極的に関わり推進するくらいの、企業としての強い意志が必要となるのです。5年、10年先の自社の姿をどう見るのか。そこに至るために今、何をすべきなのか。業界全体が、正念場に立っているように思えます。

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