ヘッドハンティング研究

得られた人材を逃がさないためには

得られた人材を逃がさないためには

必要な人材をヘッドハンティングで獲得し、さらに事業を加速させていこうとしたら、肝心の人材に退職されてしまった…。笑えない話ですが、こうした例は実際に起こっています。また、退職とは別に、せっかくの人材をつぶしてしまうこともあります。このような失敗はなぜ起こるのでしょうか?そしてどうすれば防げるのでしょうか?

獲得した人材が離職してしまうという現実

私たちヘッドハンターは、依頼を受けると、まずクライアントの人材ニーズを引き出します。どのような事業課題があり、その解決のためにどのような人材をほしいと考えているのか。業務範囲はどの程度で、どれほどの裁量権を持たせるのか。できるだけ詳しく聞き取りをします。その上で、「こんな人材がほしい」という企業にとっての理想の人材像を描いておくのです。このような準備をしっかりと行った上でハンティングをしますので、人材のミスマッチが起こることはほとんどありません。
しかし、問題は転職したあとです。社内の環境や人間関係など、新たな環境にうまくなじめず、そのため離職につながってしまうケースがあるのです。
長い時間とコストをかけ、ヘッドハンティングによって獲得した人材です。入社後の社内環境づくりに失敗し、離職してしまったら、非常に大きな損失です。そんなことにならないためにも、転職後のケアは欠かせません。
次にお話しするのは、私たちのヘッドハンティングによって転職した方が、入社後に離職の危険に陥った例です。失敗しないための参考としてご覧ください。

転職者の受け入れには、環境の整備が不可欠

私たちは専門商社であるA社からヘッドハンティングの依頼を受け、30代のX氏をセールスマネージャーとして紹介しました。両者ともにお互いの印象は良く、待遇面でも両者が納得のいくレベルにまとまり、無事に転職が決まりました。
ところが、数ヵ月ほどあとに、X氏の上司であるY部長から、「X氏が部署になじみきれていないようだ」と私たちに相談が持ち込まれたのです。X氏は、何か問題を起こしたわけではなく、期待どおりの働きを見せてくれていますし、実績も上げています。ですが、X氏自身は周囲との連携が今一つ十分でないと感じていたようです。それが「なじめない」という言葉になって、Y部長に相談していたのでした。
これはヘッドハンティングに限りませんが、外部から人を迎え入れる場合、その人材が存分に力を発揮できるように環境を整えることは、とても重要なことなのです。そうでないと、期待した効果を十分に上げることができませんし、最悪の場合は意欲を失って退職ということにもなりかねません。
また、環境が整わない状態のまま、会社が実績ばかりを要求すると、優秀な人材をつぶしてしまうことにもつながります。そうした悲劇的な結果を避けるためにも、転職者の受け入れの際は、できるだけ早期に環境の整備をしておく必要があるのです。

受け入れる企業側が注意するべきポイントとは

Y部長から相談を受けた私たちは、現在の状況を詳しく聞き取った上で、いくつかのアドバイスを行いました。それによってX氏をとりまく環境は改善され、X氏が抱えていた悩みも解決したということです。
程度の差こそあれ、こうしたことは時折起こります。その理由はさまざまですが、最悪の結果を避けるためには、企業側が次の3つの点について、注意しておくことです。

1. 環境づくりは重要事項だと認識すること
転職者を受け入れる際、業務や裁量の範囲、待遇などはもちろん重要ですが、周囲の環境を整えることも大切になります。この認識が薄いと、今回のように「なかなか周囲となじめない」という意識を、転職者本人が感じてしまうことになります。ことに人間関係のストレスは、こじれると解決が厄介なものです。受け入れる会社側は、十分に認識しておきましょう。

2. 「任せて安心」と思わないこと
優秀な人材であれば、確かに任せっぱなしでも業務は回っていきます。ですが、悪い言い方をすれば、これは「放置」です。転職者にしてみれば、今までとは異なる環境や異なる文化の中で仕事をし、しかも期待されている結果を出さねばなりません。不安や迷いを感じることも多々あるはずです。そうしたマイナス要素を定期的にくみ取ることは必要です。

3. 入社後1年ほどは、様子を見るようにすること
人間はマシーンではありません。環境の変化に対応するには、それなりの時間がかかります。また、表面化しない軋轢(あつれき)を抱えている場合もあります。ですから入社してから半年、できれば1年ほどは、業務中・あるいは仕事を離れた部分についても、定期的なチェックとフォローが必要なのです。

人材の能力を活かすなら、細やかなケアとフォローを

紹介した例では、幸いなことに転職者自身が直属の上司である部長に相談していました。つまり、早期にアラートが出ていたため、素早い対応ができ、最悪の結果を回避することができたのです。
ただ、これは転職者の年齢も大きく関係しています。この事例の転職者は30代であり、上司に相談することにも抵抗がなかったようです。ですが、もう少し上の40代以上の年齢層になると、必ずしも自分から相談してくれるとは限りません。
40代以上になると、ビジネスパーソンとしても一人の人間としても、自分自身に対する強いプライドを持っていることが多いものです。そのため何か問題や懸念が生じたとしても、それを「人に相談する」という方向に意識が向きません。自分自身で解決しよう、解決できるはずだ、解決せねばならない…という閉じられた思考ループにはまってしまい、散々迷い苦しんだ挙げ句、ある日突然辞表を提出する、ということにもなりかねないのです。
ヘッドハンティングは、企業のニーズに合致する人材を得るための、極めて有効な手段です。しかしその人材を獲得したあとに、どのように活かすのかは企業に委ねられた課題です。貴重な人材、貴重な戦力を無駄にせず、その力を最大限に発揮させるためには、そのための環境を整え、フォローアップすることは不可欠なのです。

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