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株式会社モスフードサービス 櫻田厚

雑誌

創業当時は皮革を扱っていた

上田 モスフードが誕生した経緯を教えてください。

櫻田 1972年に私の叔父が飲食業を始めたのがきっかけです。その叔父は、証券会社、ファッション関係、皮革問屋を経て、飲食業界に来た。ただ、全部駄目だった。

上田 失敗の連続だった?

櫻田 叔父が証券会社にいたときは、東京大学や一橋大学出身の社員が主流で、卒業生がそのままステップアップしていくという世界だった。叔父は、「実力が関係ないなんておかしい」ということをいつも言っていました。

上田 出世は学閥で決まっていたわけですね。

櫻田 叔父が大きな成果を上げたとき、上司に呼ばれて、「君はどこの出身なんだい?」と聞かれて、日本大学の経済学部だと答えたら、「本当か!ウチの会社も日大出身が活躍するようになっちゃ終わりだなぁ」と言われたというんです。その上司は。「われわれの大先輩は国立大学。私学でも慶応や早稲田大学ならともかく、日大だろう」と言ったらしい。叔父は、意味がよくわからなかった。ただ、海外派遣の試験でトップ合格したときにも同じことを言われた。

上田 日大出身が活躍するようになったら終わりだと(笑)。

櫻田 それで海外駐在員になったわけですが、証券不況に突入したら、一番最後に行ったのに一番最初に帰された。そんなこんなで、出る杭を打つ組織が嫌になっちゃった。証券会社がというより、そういう大組織に向いていないと思って辞めちゃった。それで、ファッション関係の会社に、営業部長としてスカウトされた。でも、そこも同じだった。

上田 それで転職して、皮革問屋に行ったわけですね。

櫻田 海外進出という名目でスカウトされたのですが、行ってみたら、空想みたいな話で現実味がなかった。そういう苦労をしてきて、結果的に「自分で会社をつくるしかない」と思い至ったんですね。

上田 起業を決意したと。

櫻田 創業者である叔父は、証券会社で理想とかけ離れた現実を見てきたから、「たとえ利益を追求する企業という立場であっても、人と人が心から信頼し合うことができる理想の集団をつくりたい」と常々言っていました。批判することは誰でもできるけれど、本当に説得したいなら、自らつくり上げるしかない。

上田 「モス」という名前にもその想いが込められている。

櫻田 叔父は、大学時代にワンダーフォーゲル部にいた。八ヶ岳などの高い山へ登ると、人間というのは本当にちっぽけな存在だということを感じる。下界を見ると、ちっぽけな人間があのへんで毎日何か悩んでいるんですね。

上田 自然はものすごく大きいけれど、人間社会は小さい。

櫻田 そう。だから、人間社会の都合で自然を壊してはいけないんです。人間は自然に生かされているということを叔父は感じていた。それで、「Mountain(山)とOcean(海)とSun(太陽)」という、自然の三要素の頭文字を取って「MOS」という名前をつくったと言っていました。

上田 それで、「モスフードサービス」の前身である「株式会社モス」という会社をつくった。

櫻田 直前が皮革問屋だったので、しばらく革の外商をしていました。店を構えるだけの資金がないので、皮革問屋から仕入れた商品を団地に持っていって売りながら、生計を担っていましたね。

上田 モスのスタートは、飲食業ではなかったんですね。

櫻田 叔父は、証券会社のアメリカ駐在員だった当時、「トミーズ」というハンバーガーショップに通っていて、「こんなに美味いものは食べたことがない」と心底思ったようです。日本にもアメリカの食文化が到来すると予感したのでしょう。71年にマクドナルドが銀座に1号店をオープンして大盛況なのを見て、ハンバーガーを研究するために2ヵ月間、アメリカに渡って修行しました。単身で乗り込んで「とにかく教えてくれ」とお願いした。それで技術を学んで日本に帰ってきた。

長時間働けば、その分毎日多くのことが学べる

上田 モスの創業時は、櫻田さんはどういう立場だったんですか。

櫻田 私はアルバイト。月に540~550時間は働いていましたね。当時は1日18時間働くのは、なんてことなかったですね。

上田 私も同じだからわかります(笑)。ただ、1日18時間といったら、労働法制の厳しいいまだったらエラいことですよ。

櫻田 当時は、就業規則なんてなかった。個人会社みたいなものですからね。「店長にはどれぐらいでなれるんでしょうか」と聞いたら、「普通は3年ぐらい」と言われたので、1年で店長になろうと決めました(笑)。

上田 さすがですね。

櫻田 ほかの人が12時間働いているときに、18時間働いたら、6時間分だけ毎日多く学べる。そうすれば、3年間というスパンが短くなるのは当たり前。おかげさまで、8ヵ月で店長になれました。

上田 いまも長時間労働ですか。

櫻田 朝6時40分からだいたい夜の11時までですね。

上田 約17時間ですか。

櫻田 仕事柄、朝はすべて外食なんです。昼もだいだい外食ですし、夜はお付き合いがある。お店を回るときもありますし。

上田 朝がすべて外食というのは、気合が入っていますね。

櫻田 好奇心強いんですよ。ハンバーガー業界に限らず、牛丼チェーンでも、コーヒーショップもでもそうなんですが、お店にどういう変化があったのかとか、そのお店でお客さまがどういう方で、どういう表情で何を召し上がっているのか、というのを見ていると本当に楽しいんです。そういうことを習慣付けていると、いろんなことが発見できます。

上田 ご自身で現地調査しながら、人間観察しているんですね。

櫻田 人間というのは、非常に興味深い。お客さまだけじゃなくて、社員やフランチャイジー(権利・ノウハウの提供を受ける側)の方々も同じです。「どうしてこういう表情をするんだ」とか「なんでこんなに荒っぽい言葉を使うんだ」とか「この人はどうしてこんなに優しい目をするんだ」とかね。そういうことに私は好奇心がわくんです。

上田 人間の行動や心埋を考えることがお好きなんですね。

櫻田 大好きです。考えていると、楽しくてしょうがないですね。

いろいろなことを学びながらお金がもらえる

上田 仕事において、一番大事なことは何ですか。

櫻田 どんな仕事にもミッションがあります。つまり、「何のために仕事をやるのか」ということ。その答をどうやって見つけるかが一番大事。それを見つけられない人は、仕事を「ここが問題だ」とか「自分には合わない」という次元でしか捉えられない。

上田 他人のせいにしてしまう。

櫻田 最初から楽しい仕事なんてない。その仕事を楽しくしていくものをどこに見つけるかが大事なんです。発見力みたいなものが一番大事なんじゃないですかね。

上田 世の中では、「適材適所」などと簡単に言っていますが、「合っているか、合ってないか」というのは末端の話。べースになるのは「自分が何のために仕事をするのか」ということなんですよ。

櫻田 サラリーマンというのは、何時から何時までという取り決めの中で義務感で仕事をしている。そんなんじゃ、楽しいことや良いことはできない。自分でどんどん仕事を見つけていくべきです。

上田 自分で仕事を楽しくしなけりゃ、楽しくなりませんよ。

櫻田 創業者は、「この仕事はすごい。メーカーじゃないんだ。とにかくすべてを自分でやるんだ」と何度も話していました。その言葉は、いまでも私の財産です。

上田 どういう意味ですか。

櫻田 飲食業は、自分で仕入れをして、調理加工して、出来上がった商品を、自分の気持ちを込めて、その場でお客さまに提供します。すると、お客さまの反応が全部その場で見られる。メーカーだと小売りのところへ行かないと見られない。「こんなにすぐお客さまの反応が感じられる仕事というのはめったにない」と教わりました。

上田 確かにそうですね。

櫻田 しかも、「中には、それを喜んでくれる人がいる。『おいしい』とか『なかなかいい感じだね』とか言ってくれる。これもすごい。学校だったら、教えてもらうときはお金を払う。ところが、学びながらお金までもらえる。悪いことは何一つない。だからこれはすごい仕事なんだ」と教わりました。

信頼関係を大事にする

上田 モスのミッションは何だとお考えですか。

櫻田 「食を通じて人を幸せにする」ということですね。

上田 そのミッションを実践するためには、フランチャイジーとの信頼関係が非常に大切ですね。

櫻田 そのときに大事なことを、一言で表すとすれば「愛」です。すべてに対しての「愛」というものを自分が持ち得て、さらに自分に関わる人、家族や友人や仕事の仲間やあるいはご近所、地域社会も含めてすべて、そういう人たちに対してどれぐらい発揮できるかということが大事なんです。

上田 その中で、たまたま商売というものがある。

櫻田 お店に来られるお客さまだけが大事なのではなくて、地域社会の中にお店があるという認識を持っていないと、商売というのは永続性が保証されません。

上田 「フランチャイジーをやりたい」という人が来たら、どうされるんですか。

櫻田 「なぜこの仕事を選んだのですか」とか「モスバーガーのどこが良いと思ったのですか」と聞きますし、「1~2年立ちっぱなしの仕事で休みが取れないかもしれません」などとデメリットをたくさん指摘します。フランチャイジーの経営者になるというのは、就業規則とはかけ離れた、自分の一つの生きがいを見つけるということなんですから。

上田 経営者になるということが大変だということに気付いて、辞める方もいるでしょうね。

櫻田 ええ。一方で、「そんなことはわかっています」という方もいる。残った方には、「フランチャイジーのお店に行って、私が言っていることが、実態としてどうなのか聞いてみてください」と申し上げます。それで確認した後で来られたら、本当に本気かどうかを判断します。

上田 信頼関係を大事にしているんですね。「コミュニティに対する愛を、食を通じて提供しましょう」ということを仕事の理念にしている。そういうことを一緒に実践できるかどうかということなんでしょうね。

櫻田 そうなんですが、経済的に成功してしまうと、人間が変わってしまうケースがあります。初心を忘れないで、やり続けることができるかどうかが大事。地方では、モスバーガーを3~5店舗経営しているオーナーは、実業家として評価される。周囲から持ち上げられて、天狗になってしまい、よい家に住んだり、高級車を買ったりする。チヤホヤされたときに自分を律しないと、ハッと気がついたら、社員が育っていなかったり、経営が不安定になったりします。気がついたときには、資金繰りが厳しくなって終わってしまう。

学歴も職歴も、関係ない

上田 お店に行くと、働いていらっしゃる方の年齢が高めかなという感じを受けるのですが。

櫻田 最近、外食産業に就く若い方は極端に減っています。私がモスに入って10年ぐらいは、「苦学生」という言葉があった。今では死語です。当時は、アルバイトの種類なんて選べなかったので、自分のアパートに一番近い飲食店で働いたものです。

上田 いまは職業選択の幅が広いですからね。

櫻田 お店に入って何かを学ぶというのではなく、時給が50円でも高いほうがいいというだけになっている。どんどん賃金が上昇していくだけで、キリがありません。バイト同士の会話の中でも、「お前の時給いくら?」という内容が多い。雇う側の私たちからすると、「お金も大事だけど、もっと大事なことがある」ということを教えることができていない。

上田 期待する人材というのはどういう人ですか。

櫻田 「一生人から学ぶ」という姿勢を持ち得ている人ですね。それさえあれば、歳は無関係です。逆にその姿勢がなかったら、学歴や職歴は意味がない。人から学びながら自分を成長させることによって、世の中や周りの人たちにどんなことを施せるのかという発想が生まれます。

上田 歳は関係ない?

櫻田 70歳で起業される方は、パッと見ただけでエネルギッシュですし、夢に燃えて目が輝いています。逆に、若くても「大丈夫かな?」という感じの人もいますし。

上田 年齢や過去は関係ない。学ぶ姿勢を持ち続けることができて、学んだものをどれくらい世の中に還元できるかを真剣に考えているかということなんですね。

櫻田 そのとおりです。

人とのコミュニケーションを
大切にすることが秘訣

上田 人事評価はどうしていらっしゃいますか。

櫻田 目標数値に対する達成度を数値化して評価しますが、会社やフランチャイズチェーンに対して貢献したかについては、なかなか数値化できません。ただ、その人の行動については、いろんな人が見ている。本部はフランチャイジーを幸せにしなければいけないわけですから、その覚悟を持って仕事をしているかどうかについては、フランチャイジーの人たちに評価を聞いてみればいい。

上田 直接聞くわけですか。

櫻田 全国を歩き回っていると、そういう評価を断片的に聞きます。そういう情報を私と所管の役員と直属の上司が持ち寄ると、「モスフードに対しての忠誠心は強いが、フランチャイジーの評判はよくない」という人が炙り出されてくる。その場合は、「あなたの仕事は上司の顔色を見ることじゃない。フランチャイジーの増収増益とか、モスの仕事が生きがいになっているということを、あなたの仕事の中で実践しなければいけない」ということを指導します。

上田 それが人事考課に反映されるわけですね。

櫻田 数値化できる面と、フランチャイズ本部で働く者のミッションがどのくらい実現されているかという面から評価しています。

上田 重きが置かれるのは?

櫻田 役員に近くなると、業績にかなり重きを置くようになりますね。7割ぐらいでしょうか。

上田 結果責任なのですね。

櫻田 一般社員の場合は、会社に対する貢献度よりも、周りにおける支持率が大事。「あなたがいると仕事がスムーズに運ぶ一」かが重要ですね。

上田 若い人に関しては、結果も大事だけれど、ミッションを大事にしなさいということですね。

櫻田 若いときに窮屈に縛ってしまうと、挑戦意欲が萎えます。失敗を怖がって何もできないような環境になることはよくない。

上田 モスには、挑戦意欲の高い人たちがたくさんいらっしゃいますよね。「1000円バーガー」とか、新しいものが出てきますから。エネルギッシュな会社にする秘訣はあるのですか。

櫻田 フランチャイジーを含めて対話をする数が大事です。人の気持ちとか人のことがわからないと、人を動かすことはできない。だから、まずは自分が積極的に出向いていく。社内もあれば直営店もフランチャイズもあるわけですが、自分が体を動かしてそこへ行って、多いときには数百名規模、少ないときには数人規模で、最終的には1対1という関係で、対話するということです。

アジアが伸びています

上田 モスの将来を、どういうふうに想像していますか。

櫻田 創業当時は皮革を扱っていたのが、いまは結果的に、ハンバーガーという外食ビジネスを営むようになりました。ただ将来は、ハンバーガーを売っているかどうかはわかりませんね。

上田 食品であるとか、ファストフードであるとかにはこだわっていないのですか。

櫻田 ドーナツを売っているかもしれないし、パスタを売っているかもしれません。ただ、食というビジネスからは離れずに大事にしていきたいと思っています。一つのことができると、なんとなくいろんなこともできると驕りがちですが、あれもこれもやって、結局何もできなくなるケースが多い。一つのことを追究するだけでも、じつは奥が深いんです。

上田 中食にも力を入れていると聞いていますが。

櫻田 お総莱やお弁当の持ち帰りが、全体で7兆円を超える市場になりました。あっという間の成長です。逆に外食市場は24兆円で、5兆円ぐらい減ってしまった。

上田 暮らし方が変わってきた。

櫻田 だから、中食ビジネスを伸ばしていきます。じつは、今年の3月にデパ地下に中食の店を出店しました。それに加えて、モスの海外ブランド化ということで、アジアに力を入れています。

上田 台湾では、すごい勢いで拡大していますね。

櫻田 おかげさまで120店舗を超えました。シンガボールにも22店舗あります。香港にもタイにも進出しました。もっと加速させようと思っています。その次は、ヨーロッパがターゲットですね。

上田 人を大切にして経営してこられたわけですが、そうはいっても、失敗もあったと思います。その後の経営に大きな影響を与えた失敗はありますか。

櫻田 台湾に進出した当初は、ノウハウを台湾の人たちに教えてあげるという姿勢でした。その姿勢が変わらない間は、全部打ち負かされました。「言葉もわからない人が、こちらへ来てビジネスをやろうなんて何を考えているんだ。あなたには愛を感じない」とはっきりと言われましたよ。

上田 頭から冷や水をかけられたわけですね。

櫻田 一番大きな分岐占でした。私は、それから「愛」ということに重きを置くようになりました。

上田 愛情はありますか(笑)。

櫻田 いっぱいありますよ(笑)。

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